パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第26話 棟梁と論者~ルーラー・アンド・アドヴォケート~(その参)

 ユウナはまた、「セインツ・パラダイス」に入った。中はいつも通りで特に変わった様子はなく、モンスターたちが平穏に暮らしている。ユウナはそれを見ているだけで、なぜか心が和んだ。ユウナは湖をモンスターが泳いでいるのを眺めていると、隣でミカが言った。

 

「ユウナは、これからどうするの?」

「これから?」

「だってもう三回生じゃん? いつまでも、研究の手伝いしてるわけにもいかないでしょ」

「そうだね……、ミカは?」

「私は、まだ決まってない」

「でも、高校の時IT企業に入りたいって」

 

 ユウナが言うと、ミカはこう言うのだ。

 

「私、実はあれから考えたんだ。たしかに、何かを作るのは好きだけど、家のことも心配になってきたし」

「宝石屋のこと?」

「うん」

 

 すると、ミカの前にアワりんが来た。ミカが所持しているモンスターだ。ミカは、アワりんを抱きかかえ、立ち上がると湖を見つめた。そして、ミカがそっと呟く。

 

「時間が経てば……、考え方も変わるのか……」

 

 それをきいていたユウナも湖を見つめながら、

 

「そうだね。ずっと同じ気持ちではいられないのかも……」

 

 と、ミカに同調した。

 

「なんか悲しくなってきちゃう」

 

 ミカがそう言ってまた湖の前に座りこむと、遠くから二人を呼ぶ声がきこえた。

 

「お~い!」

 

 二人は声のする方をふり向くと、真司が手を振っている。

 そして、二人は真司のところへ向かった。

 

「どうしたんですか?」

 

 ユウナがきくと、

 

「ちょっと休憩しない? 向こうのガーデンテラスでさ。みんなでお茶でもしながら、お喋りしようってことになったんだ」

 

 と真司が言って、向こうを指した。そこには、木でできた一階建ての家があった。ユウナはそれを見て、

 

「あれも、教授が?」

 

 ときくと真司は、

 

「あぁ。よくできてるだろ」

 

 そう言うので、ミカも感動した。

 

「ゲーム世界で食事ができるなんて~」

 

 そして早速、そこに向けて駆け出した。

 

「早く早く~!」

 

 そう言って、二人を呼んでいる。

 

「元気な子だね」

 

 真司が呟くと、

 

「昔からなんです」

 

 と、ユウナも笑いながら答えていた。その家には正彦や美千子も来ていて、皆でケーキや紅茶を楽しんだ。雅也と真司は、青春時代の話をしていた。

 

「だ~か~ら~、あの時お前がドブ川に落とした百円見つけるの大変だったんだぞ!」

 

 雅也が言うと、

 

「お前こそ、人が貸したノートにいっつも勝手に書きこみしてただろ!」

 

 と、真司も似たようなことを話していた。ユウナやミカはそれをきいて笑い、美千子は呆れていた。すると、風がガーデンテラスに流れこんだ。それを受けて、ユウナは風の吹く方を向いた。ここは、本当に仮想世界なのか。空は青く、陽の光は温かい。この世界で生きているすべての生き物が、まるで現実世界から逸れて迷いこんでしまったかのように思えた。正彦があの時何も言わなかったのは、この世界を永遠に残しておきたかったからなのかもしれない。ユウナは、そう考えるのだった。

 

 

 一ヶ月後、正彦の旧研究室を教授たちが訪れた。

 

「お待ちしておりました。中は片付いておりますので、ご安心を」

 

 正彦はそう言い、教授たちを中に入れた。中には、大きなディスプレイとキーボードがあるだけだった。

 

「それで、何を研究されているのですか?」

 

 一人が質問した。そうすると、正彦はこう答えた。

 

「私は、コンピュータゲームの進化について研究を行ってきました。成果は今のところ出せておりませんが、進化の道順を辿ることによって新しいゲームを生み出せるのではないか、そう考えております」

 

 それをきいた教授たちが、

 

「おぉ……」

 

 と、驚きの声をあげた。正彦は続け、

 

「コンピュータは、常に進化していかないといけない。外国に後れを取らないためにも、私は研究を続けていきたいと思っております」

 

 そう説明した。

 

「わかりました。では、そう報告しておきます」

 

 先頭にいた教授がそう言うと、正彦も笑顔で言った。

 

「よろしくお願いいたします」

 

 世界の大学教授の中で、正彦以外は誰も存在を知らない仮想の世界。それを、頼もしい学生たちが必死に守ってくれようとしている。これは、何ものにも代えがたい事実だったのかもしれない。

 

 

 それから月日が流れ、その年の12月。ユウナは、新しい正彦の研究所を訪ねた。

 

「いやぁ、忙しいのに悪いね」

 

 正彦が言うとユウナは、

 

「いいんです」

 

 と、首を横に振った。

 

「アカネさんは?」

「今は、卒論に追われているよ」

「もうすぐ、なんですね……」

「でもあの子は、院生としてここに残ると言ってくれている。だから、あまり気にしてはいないさ」

 

 ユウナがアカネに最初に出会ったのは、一回生の頃。まだ大学におけるシステムがよくわかっておらず、正彦に質問しに行った時だった。アカネに案内してもらい、正彦の研究室まで辿り着けたのだ。ユウナは思い返すと、自分が今ここにいられるのはアカネのおかげのような気がするのだった。

 

「ところで、息子さんは今はどうされてるんですか?」

 

 不意に、ヒロインが正彦に尋ねた。

 

「あぁ。あいつは今、ここの講師として学生たちに立体物理学を教えているよ」

「そう言えば、友達も受けていました」

「あいつはもともと、論理的に考えすぎる癖があってな。すぐに法則を持ち出して話そうとする。自分の思考を一切持たないんだ。子供の時から、いろいろと調べるのが好きだったからなぁ。論者として、この大学に君臨することになるかもしれんな」

 

 正彦がそう言って笑っていると、ヒロインは言った。

 

「でも教授は、どちらかと言うと、この研究所の支配者って感じですよね」

 

 それをきいた正彦は、

 

「支配者か……」

 

 と呟くと、

 

「そうかもしれないな」

 

 そう言い、また笑うのだった。ユウナは、それを見ながら考えていた。真司を矛に例えるとするならば、正彦はまるで盾のようだと。いくらデータで裏付けされた論理で相手を攻めようとしても、正彦は否定されたことを実現してくる。それは互いに、終わらない戦いをしているかのようだ。

 

 やがて日は暮れ、ユウナは帰ることにした。

 

 

 その年も暮れに差しかかり、ユウナは初子に頼まれて宿の大掃除を手伝っていた。ユウナが窓を拭いていると、

 

「こら、サボってるんじゃないよ!」

 

 という、初子の声がきこえてきた。ユウナが行ってみると、真宏が縁側に胡坐をかき、ボーッと空を眺めている。

 

「どうしたんですか?」

「さっきから、ずっとこの調子さ。まったく、今年限りで出ていってもらいたいのに、いつまで居座るつもりなのかねぇ」

 

 初子はまたブツブツ言いながら、部屋を出ていった。ユウナも心配そうに、真宏に声をかける。

 

「先輩? あまり初さんを怒らせると、怖いですよ。この時期になると、忙しくてイライラしてることが多いから……」

 

 ユウナが苦笑しながらそう話しかけても、真宏はただ黙っていた。ユウナはそれを見て、少し不安になった。

 

「先輩、どうしたんですか?」

 

 すると、ようやく真宏から返事が返ってきた。

 

「なぁ、俺、これからどうすればいい?」

「えっ?」

 

 ユウナは、真宏の隣に座った。

 

「俺、今年で卒業なのに、就職先全然決まってなくてさ。やっぱり、今まで考えなさすぎだったのかな。目の前のことばかりに集中して、未来のこと、何も考えてなかった。自業自得ってやつだな。こうなりゃ、お前が卒業するのを待って、食べさせてもらうしかねえかな」

「何の冗談ですか?」

「アハハ、やっぱそう来るよな。そうだよな、普通」

「先輩……、私、先輩と付き合い始めて、学んだことがあるんです」

「何だよ」

「助け合いながら生きていくって、とても素敵なことなんだなあと思ったんです。今までだったら、頼るだけで精一杯だったけど、改めてわかりました。お互いに足りないところを補い合うと、一人ではできなかったこともできるようになるんだって。だから私、先輩に出会えて、本当によかったと思います」

 

 それをきき、真宏は少し顔を赤くした。そして、

 

「あ、あのなぁ……、ユウナ」

 

 そう言うのでユウナが、

 

「はい」

 

 と答えると、真宏は言った。

 

「せっかく俺ら、付き合ってるんだし、もっと柔らかい表現で喋ってくんねぇ?」

 

 それをきいたユウナは、気がついて笑みがこぼれた。

 

「すみません。でも、なんで一年以上も指摘してくれなかったんですか?」

「いや、そのくらい気づけや!」

 

 そしてまた、二人は笑い合った。すると不意をつくかのように、真宏はユウナを抱きしめた。しかしユウナは驚かず、黙って目を閉じていた。冬の冷たい空気が二人を包みこみ、やがて空からは雪が降っていた。

 

 

 一方、東京の月見里家でも新年に向けての準備が行われていた。ミカの妹である千花が、宝石の入ったガラスケースを磨いていると、

 

「私、お店継いだらチームでも立ち上げようかな」

 

 と、急に呟いた。

 

「チームって何の?」

 

 隣できいていたミカが尋ねると、千花はこう言った。

 

「そう、珍しい鉱物とか探しに行ったりしてさ。だからお姉ちゃんは、自分のやりたいことやって」

「でも、あんたまだ一回生でしょ?」

「大丈夫だって。お父さんも認めてくれてるから。それに、お姉ちゃん頭いいからきっといい就職先見つかるよ。家のことは、この出来損ないの私に任せて! ね?」

「千花……」

 

 すると千花は、

 

「あ~、楽しみだなぁ。早く三年経たないかなぁ~」

 

 と言いながら、掃除に戻っていた。ミカも、それを嬉しそうに見ていた。

 

 

 そして年が明け、春が近づいてきた、2016年3月。民宿には、リンとリカが遊びに来ていた。リカはノートを広げながら、

 

「もうすぐ面接だけど、正直自信ないんだよね」

 

 と言った。するとリンが、

 

「あ、あの人の口癖! ってか、キャリアメイトとか参加してんの?」

 

 そうきくと、リカが答えた。

 

「うん。でも話きくよりは、実際に行って見た方がいいのかもって。リンちゃんは?」

「私はビミョー。いろいろと忙しくてさ。なんでこんなに時間経つの早いの? って感じだし。そうだ、ユウナはどう?」

 

 リンがユウナにもきくと、

 

「私も、まだ迷ってる。どこの業界に行けばいいかも、悩んでて……」

 

 と、ユウナは答えた。

 

「それヤバいって。早く決めちゃわないと。もう募集始まってるよ? でも、焦って適当に決めたらダメだけどね」

 

 リカがそう言うので、ユウナは頷いた。あと一年後には、果たして自分の進むべき道が定まっているのだろうか。焦りや不安の中、ユウナはこれからのことを考えていた。

 

 

第二十六回「棟梁と論者(ルーラー・アンド・アドヴォケート)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「もっとほかに方法があると思います」

正彦「君の安全は、私が保証しよう」

真宏「あのゲーム世界、セインツ・パラダイスを乗っ取ろうとしている奴らがいる」

ミカ「ここって……、モンスターたちのお墓?」

  「これってひょっとしてダンジョンじゃない?」

正彦「あれはダンジョンではない」

ヒロイン「私は……、生まれてこなかった方がよかったんですか?」

真司「普通の人とは違うといっても、みんな同じ人間だ」

アカリ「ついて来んで!」

ユウナ「アカリ……?」

ヒロイン「これからも、皆さんと一緒に頑張っていくので!」

アカリ「みんな頑張っとるけん、うちも頑張らなあかん!」

正彦「仲間の子たちと協力をして、クリアを目指してほしい」

ユウナ「私は最後まであの世界を守りたいです」

 

 

 

次回(第二十七回)

 

聖者の墓(セインツ・トゥーム)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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