2016年3月、ユウナはリンと一緒に就職セミナーに参加した。
会場から出てくると、リンが尋ねた。
「ねぇ、これからどうする?」
「どうって?」
「私正直、何したいか自分でもわかってないんだよねー」
「私も……」
すると、ユウナにはふと思い出すことがあった。
「でも私、アニ研だからアニメ関係の仕事がいいかなって思ってて」
「ふ~ん、そうなんだ」
「リンは、ほんとにやりたいことないの?」
「あるにはあるんだけど……」
リンがそう言うので、ユウナはきいた。
「何?」
「私、デザイナー目指してたって言ってたじゃん。その夢、まだ捨てきれなくてさ。卒業したら、どっか外国にでも修業に行こうかなって、親とも相談してて……」
「いいと思う。実は私の弟も、昔から絵が得意で、デザイナーを目指してるの」
「そうなの?」
「だから私も、応援してる。リンも諦めずに、やればいいと思うよ」
「でも私……」
「大丈夫。きっと、ご両親だって応援してくれてるから」
ユウナが励ますと、リンの表情が少し明るくなった。
「そだね。ありがとう、ユウナ」
それをきいてユウナも首を振り、
「私も、もっと頑張らないと」
と、言った。そして二人は、それぞれの目標に向け、歩き出そうとしていた。
第二十七回
大学四回生となったユウナは、卒業論文や就職活動に向けて少しずつ動き出していた。といっても、まだ何から始めてよいかわからず、正彦に相談に行ったりしていた。正彦の息子、真司の話もきいて、ユウナは真剣に将来のことを考えた。
そんなある日、ユウナは単位がまだ足りておらず、授業を受けていた。隣には、リンも座っている。二人が講義をきき、ノートをとっていた。その時、バンッと音がし、教室内の電気が一斉に消えた。すると学生たちは、ザワザワとし始め、仲の良い人と互いに囁き合っている。ユウナも何が起きたのかわからずにいると、授業をしていた教諭が、
「皆さん、静かにしてください」
と呼びかけた。しかし、講義室は静まりそうにない。ユウナも、リンと顔を見合わせた。そして、外からも話声がきこえてくる。どうやら授業をしていた教員同士で、話し合っているのだろう。停電になったのは、ほかの教室も同じだったらしい。
「どうしたんだろう……」
「停電かな?」
皆の声は、少しずつ不安そうになっている。すると戸が開き、教諭が戻って来た。
「皆さん、落ち着いてきいてください」
教諭が言うので、中の学生たちは話すのをやめ、それに耳を傾けた。
「大学から半径約五キロ圏内で、停電が起きているそうです。原因はまだわかっていませんが、点検のため、今日はこれで全講休講となりました。ですので皆さんは、速やかに帰宅してください」
それをきいて、学生たちは帰る用意を始めた。中には喜んでいる者もいるが、不安さを隠しきれていない者もいる。ユウナは、どちらかと言えば後者だった。原因がわかっているならまだしも、それすらもわからないと帰るに帰れないのが現状だ。
「どうしたの?」
不意に、リンが声をかけた。
「あ、うん。リン、ちょっとこれから、付き合ってもらってもいいかな」
「いいけど……、どこ行くの?」
「ちょっと、知りたいことがあって……」
原因は、多分あれだろうと思った。これ以上は、他人に迷惑をかけられない。それでも今起こった事実を究明しなければ、何かが起こってしまった後では、悔やむに悔やみきれないだろう。
二人はその後、横大路研究所に行った。研究所も停電の影響により、中は薄暗かった。ユウナが部屋をノックし、戸を開ける。そして中を覗くと、ユウナは驚いた。
「先輩?」
「よう」
そこにいたのは、なんと真宏だったのだ。
「どうしたんですか?」
「お前の方こそ、どうしたんだよ」
「ちょっと教授にききたいことがあって……、教授は?」
「今はちょっと外してる。もうすぐ帰ってくると思うから、それまでここにいろよ」
真宏がそう言うと、茶を入れる用意をした。リンも入ってきて、
「ここが、あの人の新しい研究室?」
と言い、部屋を見渡している。
「そう言えば、リンはまだ来たことなかったよね」
「引越したとはきいたけど、なんでこんな遠くにしたの?」
リンに尋ねられ、ユウナは少し困った表情を見せた。すると真宏は机に茶を並べながら、こう言った。
「バラしたくなかったからだよ、研究のこと」
それをきいてリンが、
「私、まだわかってないの。何が目的で、あんな世界を創ったか。だって、もったいないじゃん。せっかく画期的な発明なのに、誰にも知ってもらえないとさ」
と言うので、真宏は答えるのだった。
「あいつも、今まではそうだった。いつかは世間に発表して、世の中に貢献したいって。子供や、ゲーム好きな人を喜ばすだけでも、十分国の発展に貢献できるって、乗り気だった。けど最近、あのゲーム世界、セインツ・パラダイスを乗っ取ろうとしている奴らがいる。最悪の場合、現実世界にも悪い影響が出るんじゃないかって、ずっと悩んでるんだ」
「でも……、どうやったらそんなことが起きんの?」
リンがきくと、真宏は「セインツ・パラダイス」への出入り口となる扉、「セイントドア」を見つめながら、こう話し始めた。
「例えばの話だけど、中のモンスターたちは、この現実世界にも出てこられる。今まで、あまり出てこなかったのは、中で制御プログラムが作動してたからだ。それはモンスターたちの行動を、コントロールすることができる。だけど、もしそれが壊されたなら、数多のモンスターたちが外に出てこられるようになる」
「でも、入り口にシールドを張っていれば、大丈夫なんですよね」
ユウナがきいた。
「まぁな。ただ、そいつらは現実世界への入り口に近づくと、衝撃波を発することがあるらしい。それによって、多くの電子機器の類を狂わせるんだと」
「教授は……、ほかに何て言ってたんですか?」
ユウナがまた質問すると、真宏は答えた。
「お前には言うなって言われてたけど、ここまで話しちまったからな。あの世界を誰かに奪われるくらいなら、なかったことにしたいってさ」
「なかったことに?」
「あぁ。あの世界、いや、あの世界の土台となる、すべてのプログラムを消去する。そうすれば、あの世界は誰のものにもならない。そして、現実世界にも影響を出さなくて済む」
真宏が最後まで言い終わらないうちに、
「駄目です!」
と、ユウナは叫んだ。
「あ、いえ。ごめんなさい……。でも、あの世界がなかったことになるなんて、悲しすぎます。だって教授は、ずっと毎日、難しいプログラム言語を使って、あの世界を美しく創り上げてきたんです。その世界がなくなってしまうのは、やっぱり嫌です。もしも教授がそう仰ってるなら、私は説得したいです。もっと、もっとほかに方法があると思います。だから……」
ユウナがそう言っていると、真宏が手をユウナの肩に置いた。
「安心しろ。まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたら、今言ったことすべて間違いだったなんて可能性もあり得る。前向きに考えろ」
それをきくと、ユウナは少しだけ元気になれた。するとドアが開き、中に正彦が入ってきた。
「おぉ、来ていたのか」
アカネやヒロインも一緒だった。ユウナは早速正彦の前に行き、
「あ、あの!」
と、言った。
「何だい?」
「今日、大学で停電があったんです。しかもそれは、学内だけじゃないらしいんです。教授なら、原因を調べることができるんじゃないかと思いまして……」
ユウナの話をきくと、正彦は椅子に腰を下ろした。そして向きを変え、こう言うのだ。
「実はさっき、この子たちと調べてきたんだ」
「え?」
すると、アカネは言った。
「今、停電してる範囲内の電線に異常はなかった。でも、どう考えても電気はストップしてるねんやんか。恐らくやけど、誰かが故意的にそうしたんやと思う」
続いてヒロインも、
「さっき見たら、ネットも使えないようになっていましたし……」
と、付け加えた。それをきいたユウナは、セイントドアの前に行き、機械のスイッチを押した。でも、反応はない。それを見ていた真宏が、
「無理だ。ネットに繋げていないと、システムにログインできないようになってる」
と言うのだった。しかしユウナは、
「でも、これが原因かもしれません」
そう言い、セイントドアを見つめていた。すると、正彦もこう言ってきた。
「君もそう思うか」
「教授も?」
ユウナがふり返ると、
「あぁ。きっと中からまた、誰かが悪い電波を発信しているのかもしれない」
と、正彦は言うのだ。ということは、やはり誰かがセインツ・パラダイスに潜んでいることは明らかであった。最初は真宏の言う通り、何かの間違いだということを信じたかったが、正彦の言い方を思うと、それしか考えられなかった。その時、部屋の電気がつき、明るくなった。停電が治ったのだ。それとほぼ同時に、セイントドアも作動し始めた。そして、さらに真司が部屋に駆けこんできた。
「父さん、大変です! ニュースで、複数の企業の機密情報が流失したと!」
「何?」
皆は、急いでリビングルームに向かった。そこにはすでに美千子が来ていて、テレビがついている。ニュースでは、停電している時間とほぼ同じ時刻に、ある企業の機密情報が盗まれたのだという。
「いったい、何があったんだ……」
真司はわからず、そう呟いている。
「恐らく、奴らの仕業だろう」
「でも、何のためにですか?」
正彦が言うと、ヒロインがきいた。
「恐らく、楽しんでやっているだけだろう。だから、これから何が起きるのか私にも想像もつかん」
「愉快犯、ってやつか……」
「何それ、迷惑にも程があるよ!」
真宏とリンも、そう言っている。ユウナは正彦に、
「私、やっぱり見てきます。あの世界で何が起こっているのか、気になりますから」
と言うので、正彦は心配そうな顔をした。
「君一人で大丈夫か?」
「はい」
すると、それをきいていた真宏がこう言った。
「おい、本気なのか!? お前、自分が何言ってるかわかってんのか? もしも、またさっきみたいにシャットされたら、帰ってこれなくなるぞ?」
「大丈夫です、行かせてください」
ユウナはそう言って、正彦に懇願した。正彦は重苦しいような表情で、
「わかった。君の安全は、私が保証しよう」
そう答えた。
「おい!」
真宏はまだ納得いかないのか、正彦に責めるような眼差しを向ける。すると、ユウナがふり返り、真宏にこう言った。
「先輩、私は大丈夫ですから。先輩の気持ちは、すごく嬉しいです。でも私は、行かなければならないんです。あの世界は、私にしか守れないような気がして……」
ユウナはそう言うと、その部屋を出ていった。真宏も呼び止めることなく、それを無言で見送っていた。正彦は真宏を見ると、
「本当にいいのか」
と尋ねた。
「あんたが言ったんだろ。あいつの安全は、自分が保証するって」
そう真宏は言うのだった。それは正彦にとっても、苦渋の決断であった。もしもユウナに何かあれば、教授をやめてもいい、そう思ったが、断ったところでユウナには無意味だということは、わかりきっていたからだ。
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中谷優奈
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀