翌日、ユウナたちは正彦に集められた。
「知っていると思うが、私の創ったセインツ・パラダイスには四十二のダンジョンが存在している。それをクリアするごとに、人とゲームが一体化していく。そう考えていた」
正彦は、皆の前で話した。ユウナも、それをきいて頷く。
「しかし、私は考えたんだ。もしも誰かに悪用されるくらいなら、ない方がいい。私は、このゲームを、セインツ・パラダイスを終わらせることにした」
その言葉に、きいていた者は動揺した。ユウナが真っ先に前に出て、
「待ってください」
と言うと、
「もう決めたことだ」
そう、正彦は言うのだった。
「でも……」
ユウナは、どうにかならないものかと必死に考えを巡らせた。三年間、ずっとあの世界で正彦を手伝ってきたのだ。「セインツ・パラダイス」は、ユウナにとってそれくらい価値のある世界だった。すると、正彦がこう言った。
「しかし、すぐにというわけではない」
「えっ?」
「あの世界には、膨大な量のデータが蓄積されている。消すとなると、最低でも数年はかかるだろう」
ユウナは、そう言う正彦をずっと見つめていた。そして正彦は、こう続けた。
「ユウナ君。君に、頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと……?」
「すべてのダンジョンを、クリアしてほしい」
「どうしてですか?」
「実は、何かの間違いでダンジョンを一度クリアしてしまうと、そこのデータが消えてしまうらしいんだ。前に、君にやらせたことがあったね。そのダンジョンも、君がクリアしたと同時に消去されたんだ。だから、全部をクリアすれば自動的にセインツ・パラダイスは崩れてなくなるだろう。だから、仲間の子たちと協力をして、クリアを目指してほしい」
ユウナは考えると、ふと後ろをふり返った。真宏が立っている。真宏はじっとユウナを見つめ、やがて頷いた。それを見たユウナは心を決め、再び正彦の方を向くと答えた。
「わかりました」
「そうか、やってくれるか」
「はい。たしかに、あの世界がなくなるのは惜しいと思います。でも、それが悪い人たちの手に入るのなら、私は最後まであの世界を守りたいです」
「すまんね、ありがとう」
ユウナは正彦と同じく、大きな決断をした。あの世界を守れるのは、自分しかいないとも思えた。それを、後ろの方でヒロインも見つめていた。隣に立っていた真司は、そっとヒロインの肩に手を添えた。ヒロインは真司を見ると、真司は目で「大丈夫」と言った。そしてヒロインもまた、皆に言う決意をした。
「あの」
ヒロインはそう言って手を挙げると、前に進み出た。
「皆さんに、きいてほしい話があります」
ユウナも、不思議そうにヒロインを見ていた。ヒロインがまた、真司の方を向くと真司も頷いた。そしてヒロインは大きく息を吸うと、
「私……、実は、アスペルガーなんです。でも、皆さんに迷惑はかけません。これからも、皆さんと一緒に頑張っていくので、よろしくお願いします!」
と言った。皆はそれをきいて、最初は驚いていたが、徐々に表情を柔らかくした。無論、ユウナもそれを受け入れた。こうして、人は人と繋がっていくのだろう。どんな時でも、最初の一歩が肝心なのだ。自分の殻を破ることで、人と初めて接することができる。それを、互いに思い知らされるような出来事でもあった。
その後、ユウナはミカと一緒にセインツ・パラダイスを探索していた。ダンジョンを見つけ、それを攻略していかなければならない。ミカが歩きながら、
「あ~あ、これからが大変だってのに、変な仕事任されちゃったよね~」
と溜息をつくと、ユウナは言った。
「でも、私やっぱりこの世界が好きだから、ほっとけなくて。向こうの世界でもいろいろ大変だけど、なんとかなると思う」
「うわ、相変わらずマイペース」
二人はそんな会話をしながら、足を進めていた。その時、目の前を炎が横切った。二人は思わず後退し、周りを警戒した。
「何、今の」
「しっ」
耳を澄ませば、段々と足音が近づいてくる。それは、大きな生物のようだった。そして、その足音の主がついに姿を現す。それは、ティラノサウルスをモチーフにした火属性のモンスター、「ティラノス」だった。
「でかっ」
ミカが思わず、そう声を発した。すると、ティラノスは再び二人に向かって炎を吐いた。二人は逃げ、
「なんで!? プレイヤーには攻撃しないはずなのに!」
と、ミカが走りながら言っていると、ユウナは予想した。
「きっと、プレイヤーがどこかにいるんだと思う」
「えっ?」
「モンスターがプレイヤーに攻撃してこないのは、ダンジョンだけ。だから、多分誰かが操ってるんだと思う」
そうしていると、またティラノスが二人に炎を吐いてくる。二人は、近くの森に逃げこんだ。ティラノスは、二人を探している。それを、二人は木の陰から見ていた。
「どうしよう……」
「ちょっと待って、調べる」
ミカはそう言って、パソコンを取り出した。そして、セインツ・パラダイスのマップを表示させ、様々な角度から映し出した。するとある画面に、人影のようなものが映った。
「いたよ! 多分こいつじゃない?」
ミカは、その人影を指差した。それは、向かい側の森にいた。ユウナが前を向き、目を凝らして確かめると、やはり人の姿が見える。
「どうする? 戦う?」
「それしかないと思う」
ユウナは言うと、前に出て戦闘モードに切り替えた。そして、自分のモンスター、「プレシィール」を召喚し、手元のパズルを消すと、水属性の攻撃が見事ティラノスに命中した。ティラノスはそのまま倒れこみ、消えてしまった。
「やった!」
ミカも喜びの声を上げながら、森から出た。すると、ずっとその様子を見ていた先程の人影が、森の奥へと逃げ出したのだ。ユウナとミカはそれを見て、追うことにした。森に入り、視界が段々と暗くなってくる。森を抜け、広場に出た。前には、ユウナよりも少し小柄な女が走っている。
「待って!」
ユウナが声をかけるとその女は、
「ついて来んで!」
と、言い放った。ユウナは、その声に反応した。どこかできいたことがある声だったのだ。そしてやがて、ユウナはその女に追いつき、腕をつかんだ。その衝撃で女は倒れこみ、尻餅をつくと、女は二人の方を向いた。目にはアイマスクのような眼鏡をかけ、顔はよくわからない。ユウナは少し警戒しつつも、その女に尋ねた。
「あの……、なんで私たちに攻撃してきたんですか?」
その女は、まじまじとユウナの顔を見ている。そしてしばらく黙ったあと、声を発した。
「ユウナちゃん?」
ユウナもそれをきいた直後、何かを確信したようだ。
「じゃあ、やっぱり……」
「どうしたの?」
後ろから、ミカが顔を覗かせる。ユウナはその女を見つめながら、
「アカリ……?」
と、尋ねた。そして、その女は眼鏡を外し、顔を見せた。それは紛れもなく、高校時代をともに過ごした、アカリだったのだ。
「えっ、アカリ!?」
ミカも、そう言って驚いている。するとアカリは、
「ごめんね、よく見えんかったから……」
そう、しょんぼりしながら言うのだった。
「うち、誰かおったら攻撃するよう言われとったんよ」
「誰に?」
「たしか……、フギンって人。その人、この世界がある研究者に狙われてるから、創った人の命令で守っとるらしいんよ」
「それ……、多分騙されてるんだと思う。この世界を創ったのは、龍山大学の横大路先生だよ」
「そうなん?」
アカリは、きょとんとしながらユウナを見上げている。
「ごめんね。うち、何も知らんかったから……。父ちゃんが亡くなって、大学辞めたんよ。うちが代わりに働かなあかん思って」
「そうなんだ……」
ミカが呟くと、アカリは頷いた。
「だからうちも、もう少し強うならなあかん思ったんよ。みんな頑張っとるけん、うちも頑張らなあかん! そう思ってたら、妙なとこに迷いこんだみたいで……」
事情をきいて、ユウナはアカリにこう言った。
「大丈夫。これから、まだまだ時間はあるよ。みんなで、ちょっとずつ頑張っていこう」
ユウナが手を差し延べると、アカリはその手を握った。そして立ち上がり、
「ありがとう!」
と、笑顔になった。ユウナも、それを見て笑い返した。そうするとミカが来て、
「アカリ、久しぶり~!」
と言い、喜んだ。その瞬間、三人はあのころへタイムスリップしたように、互いを見て笑い合った。あの愛おしかった時間が、再び訪れるかのような、そんな瞬間であった。それを、遠くから見ている一人の男。その存在を、間もなくユウナは知ることになる。
第二十七回「
次回予告
正彦「皆で協力し合って、ゲームをクリアしていってくれ」
「セインツ・パラダイスはどの道なくなるということだ」
ユウナ「ほかに、いい方法は?」
真司「方法ならありますよ」
レイカ「そんなもの、誰も本気にするわけないでしょ」
フギン「こいつで、オーディンを呼ぶことができる」
「こいつは、オーディンの心自身。こいつをどうコントロールできるかが、この世界の命運を揺るがす」
サタール「どうだった、小娘は」
フギン「オーディンは、お前さんを選んだんだ。この世界を救える、唯一の勇者として」
ユウナ「勇者……?」
真宏「実は俺、今度どっか受けようと思ってさ」
ユウナ「今、付き合ってる人がいて……」
「これで終わらせてください」
次回(第二十八回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀