パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

89 / 172
第28話 五人の勇士達~ファイブ・ブレイブ・ウーメン~(その参)

 わけもわからぬまま、ユウナはある場所へ連れて来られた。地上に降りると、長く地面から離れていたせいか、足が震えてしまっている。フギンは構わず、

 

「こっちだ」

 

 と言い、ユウナを案内した。そこには、石でできた扉があった。フギンが扉横のパネルに手を当てると、ゴゴゴゴと扉がゆっくり開いた。ユウナは呆気にとられながら、それを見ていた。いったい、中には何があるのか。フギンが、

 

「ついて来い」

 

 と言うので、ユウナは言われるがまま、フギンに続いてその中に入った。中は薄暗く、まるで洞窟を改造して部屋にしたような作りになっている。しかし中には、それ以上に目に留まるものがあった。部屋の真ん中に、水晶のようなものが置かれていた。ユウナは、それを見てハッと息を呑んだ。それはあの時、フギンが湖で天にかざした水晶だったのだ。ユウナは、あの光を鮮明に覚えていた。フギンがそれを手に取り、ユウナの方を向いた。そして、こう言うのだ。

 

「こいつで、オーディンを呼ぶことができる」

「オーディンを?」

「あぁ。もしかしたら、オーディンがこの世界を守るカギになるかもしれねえ」

「オーディンが、カギに? どういうことですか?」

 

 ユウナは、フギンが何を言っているのか理解不能だった。しかしフギンは、

 

「それは、おいらにもよくわからない」

 

 と言い、水晶をユウナの目の前に持ってくると、こう続けるのだった。

 

「こいつは、オーディンの心自身。こいつをどうコントロールできるかが、この世界の命運を揺るがす。これは忠告だ。おいらたちの目的は、この世界を滅ぼすこと。本気で守りてえって思ってんなら、命がけで来いよ」

 

 ユウナは、何も言わずに水晶だけを見つめていた。今にも光を放ちそうで、時にそれが恐ろしくもあった。フギンはそれをもとの場所に戻すと、

 

「よし、それじゃ帰るか。そろそろ森の火も消えてるころだろ」

 

 と言って、その部屋を出ていこうとした。

 

「あの、待ってください。すみません、まだよく理解できていなくて……。なぜ、私にだけそのことを言うんですか?」

 

 ユウナが呼び止め、質問すると、少し間をおいてフギンは言った。

 

「もう気づいてんだろ」

「えっ……?」

「あいつは、人間が嫌いなんだ。それでも、お前さんの前に姿を現した」

 

 それをきくと、ユウナはあの時の光景を思い出した。トラックに撥ねられそうになった時、オーディンが現れてユウナを守ってくれた。

 

「オーディンは、お前さんを選んだんだ。この世界を救える、唯一の勇者として」

「勇者……?」

「あと、これも一緒に伝えておく。各属性を司る五人の勇者、その一人にオーディンを扱える人間がいる。闇の魔王、サタールの言葉だ」

「闇の、魔王……?」

 

 ユウナはそれをきいて、なぜ自分なのかという気持ちよりも、この世界を何としてでも守りたいという気持ちの方が強くなった。各属性を司る五人の勇者、これはきっと自分のほかにレイカ、ミカ、アカリ、アカネのことだろう。フギンは敵であり、そしてサタールという人物が後ろで様々な糸を引いている。ユウナはそう理解した。どのような目的で、セインツ・パラダイスを滅ぼそうとしているのか、その時はまだわからなかった。

 

 ユウナは戻ると、森はすでに消火され、三人のほかにアカネも来ていた。

 

「アカネさん……」

 

 すると後ろで、羽ばたく音がきこえた。フギンがまた、プテラドスに乗ってその場から去っていくのが見えた。黙ってそれを見送っているユウナに、ミカとアカリが駆けよって来た。ユウナを見て、ミカが心配そうに尋ねた。

 

「ユウナ、大丈夫だった?」

「う、うん。大丈夫」

 

 するとアカリも、こう呟いた。

 

「でも、何じゃったんやろ、あの人」

「あの様子じゃ、また現れるかもね」

 

 ミカも言った。そしてユウナは、アカネのところへ行った。

 

「アカネさん、どうして……」

「教授が呼んでる。大事な話があるって」

 

 アカネは、真剣な顔をしている。ユウナは、黙って頷いた。正彦が何を言うのか、大体は想像がついた。きっと、今回の件は正彦にも届いているに違いない。

 

 部屋には、ほかにヒロインや真司もいた。ユウナたちは、セイントドアから再び正彦の研究室に戻った。五人が戻ると、正彦は立ち上がった。

 

「教授、お連れしました」

 

 アカネが言うと正彦は、

 

「そうか」

 

 と言い、前に立つと話し始めた。

 

「君たちはすでに知っているだろうが、セインツ・パラダイスは狙われている。放っておけば、大変なことになるだろう」

「大変なこと……?」

 

 ヒロインが呟くと、正彦は続けた。

 

「奴らの目的は、詳しくはわからない。ただ、ひとつだけ言えることは、セインツ・パラダイスはどの道なくなるということだ」

「そんな……」

 

 ユウナは、思わず前に進み出た。

 

「嫌です。あの世界は、教授が夢を叶えるために、魂を込めて創ったものなんですよね? そんなに簡単に諦めるなんて、納得できません」

 

 ユウナが、必死に説得しようとした。

 

「ユウナ……」

 

 ミカも、ユウナの気持ちを察したように呟いた。しかし正彦の口から出たのは、ユウナをどん底に突き落とすような言葉だった。

 

「もう、私の力ではどうすることもできないんだ。わかってくれ」

 

 ユウナは、拳を握りしめた。

 

「今日は、これまでだ」

 

 正彦はそう言うと、部屋を出ていってしまった。ユウナはしばらく一歩も動かず、その場で何かできることはないかと必死に模索していた。

 

 一方、部屋を出た正彦を、追う者がいた。

 

「お父さん!」

 

 声をかけたのは、真司だった。正彦がふり返ると真司は、こう言った。

 

「本当に、いいのですか。彼女らは、今の今までお父さんの創ったあの世界のために、研究を手伝ってきたのですよ。あんな言い方、彼女たちが可愛そうだ」

「……私もわかっている」

 

 正彦も、悔しそうに言った。

 

「データを破壊され、好き勝手されるのは時間の問題だ。それを食い止める方法など、私には思いつかないんだ」

「方法ならありますよ」

 

 真司が言うので、正彦はふと顔を上げた。

 

「真司……、まさか……」

 

 何か秘策があるといった、真司はそんな顔をしていたのだ。

 

 その頃、ユウナは部屋に残っていると、ミカが声をかける。

 

「ユウナ、私たちそろそろ帰るけど大丈夫?」

「あ、うん。ごめん、心配かけて」

「いいって。そうだ、それより大輝君心配してたよ。帰って電話でもしてあげたら?」

 

 これは、ミカなりの配慮だったのだろう。それだけでも、十分すぎるほど有り難かった。大輝は今ごろどうしているのだろうか、そう考えているとふと頭に浮かんだことがあった。自分は、今は真宏と付き合っているのだ。そのことを、ミカは勿論、大輝もまだ知らない。

 

「あのね、ミカ……」

「ん、何?」

「私、今、付き合ってる人がいて……」

「えっ?」

 

 アカリも、その話をきいて唖然としていた。しかし、ユウナは続けた。

 

「今暮らしている民宿で知り合って、大学の先輩なの。部活も一緒で、良くしてくれる、頼れる先輩。自分でも、気づかないうちに好きになってて……。でも、そのことは大ちゃんには言わないでほしい。自分勝手だって思われるかもしれないけど、傷つけちゃう気もして……、だから……」

 

 すると、ミカが言った。

 

「そんなことないよ。だって、ユウナが選んだんでしょ?」

「うん……」

「だったら、きっとわかってもらえるって。ちょっとショック大きいかもだけど」

 

 そう言いながら、ミカは笑っていた。しかしユウナには、ほかに不安なことがあった。

 

「でも、これから大変なことになるかもしれないのに、巻きこんじゃうんじゃないかとも思ってて……」

「そっか……」

 

 ミカも、ユウナの気持ちを受け止めていた。そこに、ある声がした。

 

「余計な心配は、お互いを苦しめるだけよ」

 

 声の主は、レイカだった。

 

「鶴ケ崎さん……」

 

 ユウナがレイカを見ると、レイカは続けた。

 

「巻きこむも巻きこまないも、あなた次第じゃない?」

 

 そして、レイカは研究室から姿を消した。レイカの言葉をきき、ユウナは決心をした。真宏を、これ以上巻きこむわけにはいかない。真宏は今、就職活動に専念している。それを邪魔することは、やってはいけないとユウナは思ったのだ。

 

 

 セインツ・パラダイスの「未知の領域」には、城が建っていた。そこは王のサタールによって「ダークネス・キャッスル」と名付けられ、その城下はすべてサタールの支配下にあった。闇属性の凶悪なモンスターたちが蔓延り、それを城からサタールが眺めている。部屋では、怪しげな機械音だけが鳴っていた。

 

「どうだった、小娘は」

 

 サタールは、フギンに尋ねた。

 

「あぁ、思ったより普通のやつだったぜ。まぁ、あの分だとそんなに警戒しなくても大丈夫じゃね?」

「そうか……」

 

 サタールはフギンの話をきき、外を見下ろしながら呟いていた。ダークネス・キャッスルの周りは紫色の雲に覆われ、決して晴れることはない。不穏な雰囲気だけが漂い、誰も寄りつけないような空気が漲っていた。

 

 

 一方で、東京にあるユウナの実家には大輝が訪ねてきていた。

 

「忙しいのに、いつもありがとう。学校、大変なんでしょ?」

 

 百合子は、大輝からの土産物を見つめながら言った。すると大輝は、

 

「いえ、遠征で東北行ってきたんで、帰りに寄っただけっすから」

 

 と、笑った。

 

「それより、ユウナから何か連絡来たりしてるの?」

「いえ、来てないっすけど……」

「そう……、うちにも全然連絡来なくて……、電話しても出ないことが多いの。何してるのかしらね」

 

 百合子が不安そうに言っていると、大輝がこう言うのだった。

 

「大丈夫っすよ、あいつなら。今まででも、どんなに辛いことがあっても、何とかなってきたっすから。それにあいつは、ちょっとやそっとじゃ折れませんから」

 

 百合子はその言葉をきいて安心したのか、

 

「それもそうね。きっと、就活や論文で忙しいのね」

 

 と言った。大輝もユウナのことが心配だったが、きっと大丈夫だろうと自分に言いきかせた。今までの経験からも、そう思えたのであろう。

 

 そしてユウナは、民宿に戻っていた。庭に入ると、ペロが遊んでいる。そして縁側には、真宏がいるのが見えた。ユウナは足を進め、真宏に近づいた。真宏も、ユウナに気づいた。

 

「ユウナ、帰ってたのか。どうしたんだよ」

 

 真宏は、そう言ってユウナを見てくる。ユウナは、言うべきことをすでに決めていた。

 

「先輩、お話があります」

「……何だよ、改まって」

 

 そうきかれ、ユウナは少し間を置いたあとに話し始めた。

 

「私と……、別れてくれませんか」

「あぁ……、はぁ!?」

 

 真宏は、驚いた声を上げた。当然の反応だろう。しかしユウナは、冷静に話し続けた。

 

「私、決めたんです。これ以上、先輩に邪魔になるようなことはしたくないんです」

「邪魔って……、そんなこと思ってねえよ」

「でも私、どうしても我慢出来なくて……」

「もしかして、またあのオヤジに何か言われたのか?」

「……違います。私の、意見なんです。勝手だというのはわかっています。でも、先輩をこれ以上、苦しめるわけにはいかないんです。お互い、いろいろ大変な時期に、私の勝手な事情で先輩を煩わせるのは嫌なんです。だから、これで終わらせてください。最後に、わがまま言ってすみません」

 

 ユウナは言い終えると頭を下げ、走って民宿を出ていった。

 

「おい!」

 

 真宏も立ち上がってユウナを呼んだが、ユウナはふり返らずに走り続けるのだった。敵との戦いに、関係のない真宏を巻きこむわけにはいかない。その気持ちだけが、ユウナをその行動に結びつけたのかもしれない。

 

 

第二十八回「五人の勇士達(ファイブ・ブレイブ・ウーメン)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「内定、頂きました!」

   「また私のせいで二人の関係が悪くなるのは、嫌ですから……」

真宏「もしもあいつが何かで悩んでんなら、俺は最後に力になってやりたい」

美千子「素直に謝れば、きっと許してもらえるわよ」

真宏「俺、お前にはすげー感謝してるよ……」

アカネ「このままではあんたを酷使しすぎてしまう」

正彦「これから、どんなに辛く、悲しい出来事があったとしても、この日のことを忘れないでいてほしい」

リン「私、やっぱりデザイナー目指そうかと思って」

  「また会おうね!」

美千子「初さん、今年いっぱいで宿を閉めるんですって」

リカ「また……、会えるといいね」

ユウナ「今まで、本当にありがとうございました」

 

 

 

次回(第二十九回)

 

諸刃の夢(ダブルエッジド・ドリーム)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。