年が明け、さらに二ヶ月半ほど経った2017年3月下旬。龍山大学では、卒業証書授与式が執り行われた。式が済んだ後、皆は家族や友達と写真を撮ったりしている。ユウナの所属している「パラダイス開発研究科」、通称「パラ研」の学生たちは式の後、学内にある研究室に集められた。教壇には正彦が立ち、学生たちを見渡した。女子は皆、晴れ着を着ている。男子も、卒業証書を手に正彦を見つめている。正彦はそれらを見ながら、
「諸君、これまでよくやってくれた。入学したばかりのころは、大層不安もあっただろう。それでも君たちは、諦めずに頑張ってくれた。本当に、嬉しく思うよ」
と言うので、それをきいていた学生の中には涙を流している者も何人かいる。ユウナも、泣きそうになりながら、正彦の顔をしっかりと見つめた。子供時代に商店街の福引のコーナーで偶然出会い、そして高校の時にはまた偶然再会した。それからずっと憧れてきた、念願の正彦の授業を受けることができた。それは簡単のように思えて、とてつもなく希有なことだったのかもしれない。
ユウナは、この道を選んで正解だったとまた改めて思った。それは、四年間を共にしたほかの学生たちも一緒であってほしいとも思うのだった。最後に、正彦が言った。
「これから、どんなに辛く、悲しい出来事があったとしても、この日のことを忘れないでいてほしい。私は、君たちが未来で輝ける日が来るのを願っている」
そうすると、学生たちは一斉に正彦に言った。
「今まで、ありがとうございましたー!!」
正彦もそれをきき、笑顔で頷いた。ユウナもまた、正彦に一番感謝すべき相手だったのかもしれない。式が終わった後、リンに誘われた。
「ねぇ、これからどっか食べに行かない?」
「え、でも……」
「勿論、着替えてからさ」
「うん。じゃあ、リカも誘っていい? あと、ほかにも誘いたい人がいて……」
「え、誰?」
リンが不思議そうに尋ねたが、ユウナは答えなかった。
そして一旦民宿に戻り、着替え終わるとユウナは、京都駅に向かった。そしてまた、近くのレストランに入った。中にいたのはリカとリン、そして雅也とレイカだった。そこで、皆は楽しく談笑した。
「みんな、卒業おめでとう」
雅也が改めて、四人を祝福した。するとリカが、
「こうしていると、入学前のこと思い出すね!」
と言うので、ユウナは何のことだろうとリカに尋ねた。
「入学前?」
「うん。ユウナちゃんの新生活が始まるからって、いろいろ買いに来た時」
そこで、ユウナはようやく思い出した。あの日、雅也と偶然会い、買った荷物を運んでもらった後、近くの喫茶店でレイカも一緒に茶を飲んだ。
『そういえば君も、レイカと同じ高校行ってたんだって?』
『はい、三年の二学期が始まってすぐ引っ越しましたけど』
あの時が、リカと雅也の最初の出会いだった。今思えば、あれからいろいろな出来事があった。それを思うと、ユウナは感慨深かった。
「そう言えば、みんなはこれから何するの?」
雅也がきいてくるので、ユウナ、リカ、リンは順に答えた。
「私は、アニメ関係の仕事です」
「私は、一旦東京に帰ろうと思います」
「私はイタリアに!」
「イタリア?」
雅也がリンにきくと、
「私、デザイナーになりたいんです。だから、そのために留学しようと思っていて。出発は明日なんですけど」
と、リンは言った。それをきいて何もきいていなかったユウナは、
「明日!?」
そう声を上げるとリンが、ユウナの方を見て言った。
「ごめん、ちょっと言いそびれててさ。でも、来なくていいよ。そっちも忙しいんでしょ?」
「うん……」
「寂しくなるね……」
リカも、悲しそうな表情をした。そうすると、リンは二人の気を取り直すために、正面に座っていたレイカに話を振った。
「ねぇ、鶴ケ崎さんは?」
すると、レイカの代わりに雅也が答えた。
「こいつは院に進むんだ。将来は教師になるらしい」
「それって、お母さんの影響で?」
ユウナが尋ねると、レイカは答えた。
「べつにいいでしょ。それより、早く頼まない? お腹空いちゃった」
それをきいて、三人は顔を見合わせて笑った。それを見たレイカが、
「何よ!」
と、顔を赤くしながら言うと三人は、
「ううん、べつに……」
そう言って、はぐらかした。そしてまた、雅也の奢りで皆はメニューを注文した。ユウナは、この楽しい時間がいつまでも終わらなければいいのにと、心の中で秘かに願っていたのだった。
その翌日、ユウナは港へ向かった。リンは、見送りはいいと言っていた。だが、それで来ないユウナではなかった。せっかくの、友達の門出を心から祝ってあげたかったのだ。港に着くと、ユウナはリンを探した。そして、ようやくそれらしき後姿を発見した。ピンクの上着を着、デニムのズボンを履き、キャリーバッグを握っている。
「リン!」
ユウナが呼ぶと、リンはふり返った。そしてユウナを確認すると、一目散に駆けよってきた。リンはユウナの手を握り、
「来てくれたんだ」
と言うので、ユウナも笑顔で答えた。
「当たり前だよ」
その笑顔はリンにも届いたのか、さっきとは違う、穏やかな雰囲気になっていた。そうしていると、汽笛がきこえた。
「じゃあ、私もう行くから!」
リンは言い、船の方に向かった。やがて、その船は出港していった。ユウナは最後まで見送ろうと、リンを探していた。すると今度は、リンの方からユウナを見つけたようだ。リンは船から身を乗り出さんばかりに、大きく手を振った。
「ユウナ、また会おうね!」
それに応えるべく、ユウナも全力で両手を振った。
「うん、また!」
そして、船は水平線へと小さくなっていく。その時、ユウナの頬を涙が伝った。
『ユウナはさ、なんでここ受けようと思ったの?』
『バッカじゃない?』
『いろいろと忙しくてさ。なんでこんなに時間経つの早いの? って感じだし』
リンとは、知り合ってすぐに親友になれた。今思うと、運がよかっただけなのかもしれない。それでも、リンと過ごしたこの四年間は、何年経とうと変わらない。ユウナはそう思いながら、船を見送っていたのであった。
本当に時が経つのは早いもので、ついにユウナも初子の民宿を出ていく日が来た。ユウナは、初子に最後の挨拶をしに行った。
「初さん。本当にこれまで、お世話になりました」
ユウナはそう言い、頭を下げた。それを横で見ていた美千子が、
「また、これで寂しくなるわね。ねぇ、初さん」
と言うと、初子はまたいつもの調子で言った。
「まあ、ちゃんとやるんだよ。あたしが教えたこと、忘れてないだろうね?」
「はい。いろいろと、勉強になりました。ありがとうございます」
「何言ってんだい。感謝される謂れなんてないよ」
初子が言うのをきき、ユウナは笑っていた。すると、美千子がこう言うのだった。
「もう、最後くらい素直になればいいじゃない。最後のお客さんなんだから」
「え、どういうことですか?」
ユウナが尋ねると、美千子は言った。
「やっぱりきいてなかったのね。初さん、今年いっぱいで宿を閉めるんですって」
すると初子も、こう話した。
「歳が歳だからね。これからは年金暮らしになるよ。まあ、余生くらいは誰にも邪魔されずに楽しみたいじゃないか」
いかにも、初子らしい理由だった。続いて、美千子も言った。
「しばらくは、私が様子を見に来るわ。うちの人じゃ、話し相手にならないから」
ユウナはそれをきいて、少し安心した。また病気で倒れても、来てくれる人がいる。初子も、それを自覚していたのだろう。
ユウナはカバンを引いて、民宿を後にした。ふり返ると、初めて来た時と変わらない、初子の民宿が建っている。ユウナは、再び歩き出した。駅に着くと、そこでリカが待っていた。
「ユウナちゃん!」
「リカ?」
リカは、ユウナを見つけると駆けよってきた。
「よかった、間に合った!」
「……どうしたの?」
「これ、よかったら中で食べて。京都で買ったんだ」
リカに、土産袋を渡された。
「ありがとう」
「私も、もう少ししたら帰るから。また……、会えるといいね」
「……うん」
リカに言われ、ユウナも頷いた。リカと別れ、ユウナは改札を通った。そして、電車が来ると乗車した。外を見ると、自分が通っていたキャンパスが見える。ユウナは心の中でそれに別れを告げ、東京を目指した。
一方、ダークネス・キャッスルのサタールは、巨大なスクリーンを見ていた。そこには、電車に乗っているユウナの姿が映されている。すると、サタールの背後から声がした。
「で、結局これからどーすんだ?」
「何がだ」
「ここまで来たら、もう十分じゃないですかね」
フギンが、そう言いながらサタールに近づいた。
「諦める気はないの、復讐」
「いや、まだまだだ。あいつのしてきたことは、この世界を終わらせることよりも残酷だ」
そう言うとサタールは、ギシギシと歯を噛みしめていた。
東京に戻ったユウナは、実家の扉を開けた。
「ただいま!」
すると、
「ユウナ~!」
と言いながら、ミカが抱きついてきた。
「ミカ? どうしたの?」
ユウナが状況を把握できずにいると、中から大輝も出てきた。
「おう、ユウナ。早かったな」
「大ちゃん!?」
ユウナは驚いた。すると母の百合子が来て、こう言うのだった。
「ユウナが今日帰ってくるって言ったら、みんなで迎えようってことになったんですって」
「そうだったんだ……」
「さ、こっちこっち!」
ユウナはミカに促されるまま、リビングに入った。中には、ほかに相場や義輝もいた。そして、接客用のテーブルには菓子などが並べられていた。
「お帰り」
相場も、立ち上がって言った。
「た、ただいま……。来てくれてたんだね」
ユウナは戸惑いながらも、相場を見た。久しぶりに見る相場の顔は、表情豊かに見えた。ミカや大輝は、菓子を切ったり用意したりしてくれている。
「あ、これ美味しそ~」
「おい、それユウナの分だろ。義輝、お前も食うか?」
「あぁ」
その様子を見ていると、ユウナは帰ってきたんだと実感が湧いた。その後、皆はテーブルを囲み、いろいろと話しこんだ。大学での出来事、これから何を始めたいかなど、話題が尽きることはなかった。
第二十九回「
次回予告
ユウナ「今日から、お世話になります」
喜多村悠二郎「俺はそんなに、冒険はしてないんだ」
中田美奈「ああ見えて独身だから」
「ストレス溜まってるみたい」
横峯薫「もっとキャラを意識せな」
「ただ見てその通りに描くだけなら、猿にもできます」
ユウナ「初めての仕事で、慣れないことも多くあって、新鮮で楽しいけど、それなりに不安も多くて……」
「ほかの人に、これ以上迷惑かけたくないなって思って、何でも一人で背負いこんじゃうんです」
悠二郎「君と話していると、なぜか自分を偽ることなく話せるっていうか、そんな気になれるんだよ」
相場「やっぱり、心配してんだな……」
ユウナ「なぜ、私だけ誘うんですか?」
悠二郎「好きだ、僕と……、結婚してください!」
次回(第三十回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀