パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第30話 新鋭の会遇~ニュー・エンカウント~(その弐)

 夜九時を回り、ようやく仕事が片付いた。

 

「よ~し、終わった~」

 

 悠二郎は、やりきったと伸びをしている。それを見たユウナは、

 

「あの、今日はすみませんでした」

 

 と言って謝ると、悠二郎がきいてきた。

 

「え、なんで謝るの?」

「こんなに遅くまで残らせてしまって。本来ならもっと早く帰れるはずだったのに、申し訳ないなって思いまして……」

「あぁ、そんなに硬くならないで。俺は全然気にしてないから!」

 

 悠二郎はぎこちなく、笑顔でそう言った。

 

「そうだ。じゃあさ、その代わりにこれから付き合ってくれる?」

「えっ?」

 

 不意に誘われ、ユウナは戸惑っていた。

 

 その後、二人は会社を出ると、ある居酒屋に入った。

 

「おじさん、一本つけてくれる?」

 

 入ってすぐ、悠二郎が店主に注文した。悠二郎は、この店の常連らしい。

 

「中谷さんは、何飲む?」

「あ、私はお酒はちょっと……」

 

 ユウナは、酒には極端に弱かった。

 

「そっか……。じゃあ、好きなもの頼んでいいよ」

「でも私、今日はちょっとしか持ってなくて……」

「そっか。じゃあ、俺が払うよ」

「でも、手伝ってもらってそれは……」

「大丈夫。また今度、返してくれればさ」

 

 悠二郎が言うので、ユウナはそうすることにした。それにしても、男性とどこかに行くと毎回のように、相手に払ってもらっている気がしてならない。ユウナは、次こそは自分から相手の分まで払おうと、心の中で誓った。すると、悠二郎がこう尋ねてきた。

 

「そう言えば、君はどこの大学出身だっけ」

「あ、はい。龍山大学の理工学部で、パラダイス開発研究科というところです」

「あぁ、そこ知ってる。それを立ち上げたのって、兄貴の恩師なんだって」

「そうなんですか?」

 

 ユウナは、驚きの声を上げた。となると、正彦は悠二郎の兄と知り合いだということになる。これは、思わぬ繋がりだと思った。

 

「そういえば、喜多村先輩はあそこに勤めて長いんですか?」

「ううん。去年入ったんだ。一年浪人してるから、二十三歳の時」

「そうですか。社内のこととかいろいろ知ってるから、てっきりもう少し長いのかと……」

「そりゃあ、一年もいたらね。俺の実家、引越屋なんだけど、俺次男だから父親の跡は兄貴が継いでるんだ。俺も一応、理系の大学出てるけど、兄貴の方が優秀だから、店は俺が継ぐように言われてたんだ。でも兄貴のやつ、そんな俺を庇うように、店は長男が継ぐんだって言い張って……。馬鹿だよなぁ、まったく。学歴無視してさ。因みに、母親の方は花道教室をやってるんだけどさ、そこは姉貴が継ぐことになってる」

 

 悠二郎が話すのを、ユウナは黙ってきいていた。すると悠二郎は気がついたように、

 

「あ、ごめんね? 今日初めて会った君にこんな内輪の話して。どうも俺、酒飲むと愚痴っぽくなるっていうか……」

 

 と弁明するが、ユウナは考え事をしていたのか、上の空だった。

 

「どうしたの?」

「あ、いえ。苦労、されたんだなぁと思いまして……」

「苦労ねえ……。実際にはそんなにしてないよ」

「えっ、でも……」

「俺はそんなに、冒険はしてないんだ。少なくとも、兄貴よりはね。いつも安全圏ばかり通って、今まで生きてきたから。今日は、付き合ってくれてありがとう。よかったらさ、家まで送ってくけど?」

 

 悠二郎は、また笑って言った。

 

 店を出ると、ユウナは帰路に着いた。悠二郎が、

 

「ほんとに、送っていかなくて大丈夫?」

 

 と、心配そうにきいてくる。すると、ユウナはふり返って言った。

 

「大丈夫です。今日は、ありがとうございます。私も、楽しかったです」

 

 ユウナは、そう挨拶して帰ろうとすると、

 

「あ、中谷さん!」

 

 と、悠二郎に呼び止められ、またユウナはふり向いた。すると、悠二郎は言った。

 

「よかったら、今度の週末にでも二人でどこか行かない?」

「ありがとうございます、考えておきます」

 

 ユウナはそう返事をして、歩いて帰った。

 

 部屋の灯りを点けると、ユウナは床に腰を下ろした。時計を見ると、針は零時に迫ろうとしていた。明日も、朝から出勤しなければならない。ユウナはしばらく、立ち上がる気になれずに放心状態だった。ユウナはスマホをカバンから取り出すと、連絡帳を開いた。中には、高校時代や大学時代の友人の名前が並んでいた。彼らは今ごろ、どうしているのだろうか。一人ずつ電話で話したいという気持ちもあったが、時間も考えてまた今度かけることにした。そしてその日は風呂から上がり、ゆっくりする暇もなく明日に備えて眠ることにした。しかしなかなか寝つけず、結局意識を手放したのは三時過ぎであった。

 

 

 次の日。ユウナはなんとか、遅れることなく出社できた。そして絵コンテを完成させ、横峯のところに持っていった。横峯はそれを受け取ると、パラパラとページをめくった。ユウナは緊張しながらも、横峯の表情を窺った。すると、横峯はそれをユウナに返すと、こう言った。

 

「全然アカン。もっとキャラを意識せな。やり直し!」

 

 横峯が席を外そうとするので、ユウナは呼び止めた。

 

「でも、私なりに読みこんで書いたんです! お願いします、もう一度よく見てください!」

 

 ユウナが再び、横峯に自分が書いた絵コンテを渡そうとすると、それは横峯によって払われた。ユウナはその衝撃で尻餅をつき、周りに紙が散らばった。

 

「いい? いい作品を作るっていうのは、それを書いた人がどう思ってそうしたかを考えることが肝心なんよ。その技術を問われるのが、下書きの仕事。ただ見てその通りに描くだけなら、猿にもできます」

 

 横峯は冷たく言うと、部屋から出ていった。ユウナはそれを一人で拾い集め、自分の席に戻った。いったい、どうすればよいのだろうと頭を悩ませた。それを、隣で美奈も同情したような目で見ていた。

 

 昼休みになっても、ユウナは解決策が思い浮かばず、時だけが過ぎていった。そこに、また悠二郎が姿を現した。

 

「また、大変みたいだね」

 

 そう言うと、またユウナの隣の席に腰を下ろした。それを見てユウナは思い出し、

 

「あ、これ、昨夜の……」

 

 と言いながら、カバンから封筒を取り出した。ユウナが今朝、銀行から下ろしたものだ。それを受け取ると悠二郎は、

 

「あぁ、今度でもよかったのに」

 

 と言った。

 

「早くしないと、忘れてしまいそうだったので……」

「ところで、これ見せてもらっていい?」

「あ、はい」

 

 悠二郎は、ユウナが書いた絵コンテを見た。一通り読み終わると、

 

「本当に、これ君が描いたの?」

 

 と、きいてきた。

 

「はい。でも、ダメだって……」

 

 ユウナは、すっかり自信を失くしていた。しかし、悠二郎はこう言うのだ。

 

「俺はべつに、このままでいいと思うけどなぁ……」

「でも、横峯さんはダメだって言うんです。私、やっぱりこの仕事、向いてなかったんでしょうか……」

「あの人のことは気にしないでいいって。そうだな、強いて言うならもっとインパクトが欲しいかも」

「インパクト?」

「そうそう、アニメを観る人をアッと驚かせるみたいな。ちょっと書きこんでもいい?」

「あ、はい」

 

 ユウナが言うと、悠二郎は何かを書きこみ始めた。そしてそれをユウナに渡すと、

 

「はい。俺が思いつく重要点を幾つか書いておいたから、それを参考にして」

 

 と言い、立ち上がってどこかへ行ってしまった。そして、昼休みが終了した。悠二郎に渡されたそれを開くと、コマの近くに要点らしき書きこみがあった。ユウナは、それをもとに再修正していった。

 

 書き終え、再び横峯に見せにいった。ユウナは先程の対応から、恐る恐る横峯の顔色を窺っていた。すると横峯はそれをユウナに渡し、

 

「じゃあ、これを担当さんのところに持っていって」

 

 と言うのでユウナは思わず、

 

「え、いいんですか?」

 

 そうきいてしまった。すると横峯が、

 

「何かあんの?」

 

 ときき返してくるので、

 

「い、いえ」

 

 ユウナはそう言って、嬉しさを噛みしめながら、言われた通り下書き担当者のところに持っていった。ユウナはその後、嬉しさのあまり少々にやけ顔だった。その様子を、遠くの席からは悠二郎も安心したように見ていたのだった。

 

 夕方、早めに退社したユウナは、前を歩いている悠二郎に声をかけた。

 

「あの、先輩!」

 

 悠二郎に追いつくと、ユウナは礼を言った。

 

「今日も、ありがとうございました」

「よかったね」

「その……。私、助けられてばっかりで。自分でも、情けなくなってくるんです。ほかの人に、これ以上迷惑かけたくないなって思って、何でも一人で背負いこんじゃうんです」

「俺も一緒だよ」

 

 悠二郎が、空を見上げながら呟いた。

 

「俺も一年目の時は、人に頼りっぱなしで、それで迷惑とかかけてた。だから、君を見てると去年までの俺を見てるみたいで、放っとけないんだ」

 

 この二人は、もしかしたら似た者同士なのかもしれない。すると、気が重く感じたのか悠二郎は話を変えた。

 

「ところで、君、明日空いてる?」

「え、はい……」

「せっかくの休日だからさ、どっか行かない? というか、寄りたいところがあるんだ。君もよかったらって、厚かましいよな……」

 

 悠二郎は、少し顔を赤く染めた。そんな悠二郎の気持ちを察したのか、

 

「あ、私、大丈夫です」

 

 と、ユウナは言った。

 

「ほんと? じゃあ、帰ったら連絡するから」

「わかりました」

 

 そしてその日は、少し行った先で二人は別れたのだった。

 

 ユウナがアパートに帰ると、携帯が鳴った。百合子からだった。

 

『もしもし、ユウナ?』

「お母さん、どうしたの?」

『仕事はどう? ちょっと気になって……』

 

 またしても、母のお節介であった。それでもユウナは、笑顔で返事をした。

 

「大丈夫。怒られる時もあるけど、毎日が楽しいよ。私、この仕事選んで正解だった。優しくしてくれる人も多くて、何より、あの仕事が好きなの。だから、今の生活だけで十分なんだ」

『そう……、ほかはちゃんとやれてる? 困ったことがあったら、いつでも言ってきなさいね』

「うん。ありがとう、心配してくれて。じゃあね」

 

 ユウナは、そう言って電話を切った。心配性の母に、これ以上心配をかけないようにしようと、ユウナは窓から見える景色を見ながら思った。

 

 

 翌日、ユウナは電車で新大阪まで行き、そこで悠二郎と待ち合わせをした。ユウナは早めにそこに行き、悠二郎を待っていた。すると時間ちょうどに、前方から声がかかる。

 

「中谷さん」

 

 スマホを触っていたユウナは前を向くと、悠二郎が走ってくる。仕事中はスーツ姿しか見ないため、ユウナはその時、初めて私服姿の悠二郎を見た。

 

「待った?」

「いえ、私も今来たところで……」

「じゃあ、行こっか」

 

 そして、二人は歩き出した。すると、悠二郎が何気に質問してきた。

 

「君は、男と二人きりで出かけたことはある?」

「あ、はい。何度か……」

「実は俺、女の子と出かけるの初めてでさ。数人でなら何度かあるけど、二人きりっていうのは初めてなんだよ」

「そうなんですね……」

 

 ユウナは、返答に困ってしまった。どう返せばよいのだろう。そうしていると、悠二郎がまた話し出した。

 

「でも、君が乗ってくれてよかった。嫌なら、今度から誘わないけど……」

「そ、そんなことないです。私も、嬉しかったです。初めての仕事で、慣れないことも多くあって、新鮮で楽しいけど、それなりに不安も多くて……。そんな時、お誘いを受けてすごく嬉しかったんです。気を遣ってくれる人がいるんだって、実感できましたから」

「それならよかった。実は、もしかしたら今日、来てくれないんじゃないかって思ってた」

 

 悠二郎は、そう言うと笑った。ユウナも、ついそれにつられて笑っていた。その日は、二人で映画を見たあと、悠二郎の頼みであるところへ寄った。そこは、一般的に言うゲームセンターだった。ここで、ユウナは悠二郎の意外な一面を知ることになる。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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