パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第30話 新鋭の会遇~ニュー・エンカウント~(その参)

「君は、よくこんなところ来るの?」

「いえ、私は……」

 

 ユウナは引きこもっていたころ、一日中ゲームをして遊んでいたが、ゲームセンターに来るのは初めてだった。どうしても人前でするよりも、家で一人ですることを望んでしまう。人に見られていたら集中してできず、あまり楽しめないということだ。

 

「俺、一人でよくこういうところ行くんだ。ストレスが溜まった日とかさ、こうしてよく発散させるんだよ」

 

 悠二郎はそう言いながら、UFOキャッチャーを動かしていた。もうすぐ二十半ばになろうかという大人が、ゲームセンターで遊ぶのは滑稽かもしれないが、ユウナは悠二郎の姿を見ていると、これはこれでありなのではないかと思うのだった。

 

「君、何か欲しいものない?」

「え、私ですか?」

「あったら、これで獲ってあげるけど」

「じゃあ……」

 

 ユウナは、何かないかと中の商品を見ていた。そうすると、あるものが目に留まった。それは、「ホノりん」のキーホルダーだった。ユウナは少し恥ずかしそうに、

 

「じゃ、じゃあ、あれを……」

 

 と言い、「ホノりん」のキーホルダーを指さした。すると悠二郎は、

 

「よし、わかった」

 

 そう言うと、正確に狙いを定める。そして焦点が合うと、ゆっくりとクレーンを操作し始めた。そして、見事一発で狙った商品を落としたのだ。中から商品が出てくると、ユウナはそれを手に取った。

 

「ありがとうございます」

「こちらこそ、喜んでもらえて嬉しいよ。それって、ちょっと前に大流行してたオンラインゲームのやつでしょ? 君、今でもやってるの?」

「はい」

「俺もやってたけど、機種変えてからやってないんだよな~」

「先輩も、やられてたんですか?」

「あ、うん。ちょっとね……」

 

 それをきいて、ユウナは少しだけ嬉しくなった。なぜだかわからないが、悠二郎が自分と少し似ている気がしたのだ。それから二人は、近くのレストランで夕食を食べたあと、外を歩いていた。日はすでに落ちていて、街燈の灯りだけが煌々と道を照らしている。悠二郎は、ユウナの隣を歩きながら言った。

 

「今日はありがとう、付き合ってくれて」

「いえ。こちらこそ、楽しかったです」

 

 ユウナもそう返すと、悠二郎は赤くなりながらこう言うのだ。

 

「君は、本当にいい人だなぁ。本当に彼氏とかいないの?」

「い、いないです。いないというか、いたというか……」

「じゃあ、別れたってこと?」

「はい、大学の時に……」

「でも、結構モテてたんじゃない?」

「そ、そんなことないです。私なんか、ほとんど目立ったことないですから……」

 

 ユウナは顔を赤く染める。

 

「へぇ、意外だなぁ。でも俺、君と話していると、なぜか自分を偽ることなく話せるっていうか、そんな気になれるんだよ」

「えっ、それはどういう意味ですか?」

「なんか俺、昔っから人と話すのとか得意じゃなくてさ。誰かと話す時も無理に大人っぽく振る舞うっていうか、強がりなんだよ。やっぱり、次男だからかな……」

 

 そして悠二郎は、ユウナの方を見て続けた。

 

「でも君といると、妙にそんな緊張から放たれるっていうか、自分でいられる気がするんだ。あ、べつに変な意味じゃないから。あまり深く考えないで」

 

 ユウナは、不意に足を止めた。「深く考えるな」と言われても、考えてしまうのが心情というものである。悠二郎は、なぜ自分といる時は素の自分でいられるのだろうか、ユウナはただ考えていた。すると、悠二郎はふり向いて声をかけた。

 

「どうしたの?」

「あ、いえ……」

 

 ユウナは再び歩き出すと、悠二郎は言った。

 

「近くまで送っていくよ。もう遅いから」

「でも、明日また会社ですし……」

「いいって。終電までまだ余裕あるからさ」

 

 悠二郎がそう言うので、ユウナはアパートの近くまで送ってもらうことにした。大阪の夜は危険だということを、悠二郎は教えたかったのかもしれない。

 

 帰ってくると、ユウナは椅子に腰かけ、あの時のことを思い出してみた。

 

『でも俺、君と話していると、なぜか自分を偽ることなく話せるっていうか、そんな気になれるんだよ』

 

 あれはたしかに、悠二郎からきいた言葉だ。酒が入っていたとはいえ、他人のユウナに対してあのようなことを言うだろうか。考えれば考えるほど、想像がおかしな方向へ行ってしまう。言われた通り、これ以上考えない方が得策だ。その夜、ユウナはいつも通り、目覚ましをセットして眠った。

 

 

 翌日、ユウナは出社すると美奈が声をかけてきた。

 

「ユウナおはよう。横峯さん、また婚活失敗したらしいよ。だから今日、すごく機嫌悪いんだって。話しかけない方がいいかも」

「そうなの?」

 

 ユウナがふり向くと、横峯が眉間に皺を寄せながらデスクで作業をしている。ユウナは横峯のことも気になったが、それよりも気になったことがあった。悠二郎が、出社時間を過ぎても来ないのだ。

 

「喜多村先輩は?」

「あぁ、そう言えば来てないかも。あの人、滅多に欠勤しないのにね」

 

 美奈もそれをきき、心配そうに呟いた。やはり、昨日の疲れがまだ残っているのだろうか。心配しながらも、ユウナは作業に取りかかった。

 

 数時間が過ぎたころ、ユウナのところに横峯が絵コンテを持ってきた。そして、

 

「中谷、なんでアンタはこんなにアホなん? ホッチキス止めするとこ、逆や! やり直し!」

 

 と言い、絵コンテをユウナに渡した。

 

「すみません、すぐに直します」

 

 ユウナはそれを受け取ると、ホッチキスの芯を外し始めた。横峯のその対応は、ユウナへの八つ当たりのようにも思えた。それでも、予め事情を知っていたこともあり、あまり考えないことにした。

 

 昼休みに入っても、ユウナはまだ作業の途中だった。区切りがつくまで、作業を続けていた。すると、後ろからこんな声がした。

 

「やあ、みんな昼食とってるのに、君は一人で仕事か?」

 

 ふり向くと、そこには悠二郎が立っている。

 

「先輩、どうしたんですか?」

「俺の親父が倒れて、実家に行ってたんだ。それより、また横峯さんに怒られたんだって?」

「え、どうして知ってるんですか?」

「いや、ちょっとそこで……」

 

 悠二郎は、顎でドアの向こうを指した。それを見て、ユウナは安易に見当がついた。

 

「もしかして、美奈ちゃん……?」

「あ、そうそう。まあ、気にしない方がいいよ。軽く受け流す程度にさ。それより、今日の仕事が終わったら、また時間いいかな」

「え、大丈夫ですけど……」

「ありがとう、じゃ」

 

 悠二郎が言うと、また部屋を出ていった。また、食事に行こうという意味なのだろうか。なぜこんなにも自分に構うのか、ユウナはまだ理解できずにいた。そして昨日のことが、また脳裏に浮かぶのだった。

 

『君といると、妙にそんな緊張から放たれるっていうか、自分でいられる気がするんだ』

 

 彼は、いったい何を伝えたかったのだろう。いつの間にか、作業の手が止まっていた。恋煩いというのか、今までの経験からも、その疑いは晴れない。いや、どちらかと言うとユウナの方が、初めから気づいていたのかもしれない。

 

 夕方になり、その日の作業が終わると、ユウナは帰宅する用意をした。すると、悠二郎が来て言った。

 

「あ、中谷さん。先に、外に出ててくれる? ちょっと、部長から仕事頼まれてさ」

「あ、はい」

 

 悠二郎が向こうに行くと、ユウナはカバンを持って立ち上がった。外に出ると、眩いばかりの夕陽がユウナを照らした。ユウナは手首で目を覆いながら、その夕陽を見ていた。就職から一週間が過ぎ、「働き過ぎていないか」とユウナに対して問うているようだった。

 

 

 場面は変わるが横大路研究所では、正彦が部屋に閉じこもってコンピュータの前でただ手を動かしていた。例の、セインツ・パラダイスの中で働いている悪の正体を暴くためだ。正彦は、中にウイルス監査ソフトを送りこみ、状況を調べていた。その様子を、部屋の外からこっそり美千子も見ていた。正彦はここ数日、食事もろくにとっておらず、美千子は正彦の身体だけが気がかりでならなかった。美千子は溜息をつくと、その部屋から離れていった。

 

 美千子がリビングに戻ってくると、真司がきいた。

 

「どうでしたか、お父さんは」

「夢中で、何を言っても駄目だと思うわ。身体壊さないといいけど……」

「お父さんは昔から、ひとつのことに集中すると、ほかのことをお座成りにする癖がありますからね」

「でも、どうしたものかしらね」

 

 美千子はテーブルに腰かけながら、また深く溜息をつく。

 

『たまには、休むことも必要かもしれんな』

 

 そう言った正彦の姿を思い出しながら、再び不安はピークに届こうとする。それが真司にも伝播したのか、真司もまた、心配になって正彦の様子を見にいった。しかし声をかけたところで、反応しそうにないのは変わらなかった。

 

 

 また場面は変わり、ユウナの幼馴染である大輝は、本格的な救命士になるための実習を受けていた。その中には相場もいて、遠征に参加した。大阪にある訓練所で研修を受けるのだ。そのために、二人は同じバスに乗った。

 

「やっと本格的な研修に参加できるな」

 

 相場は、大輝に向かって嬉しそうに言った。しかし大輝は、無言で外を眺めている。それを見た相場は、

 

「そう言えば、中谷の就職先って、大阪だったっけ」

 

 ときくと、大輝は答えた。

 

「あぁ」

「やっぱり、心配してんだな……」

「そんなことねえよ」

「言わなくても、顔に書いてあるぞ」

「は?」

 

 大輝は少し顔を赤くしながら、相場を見た。すると、相場が続けるのだった。

 

「心配しなくたって、あいつはちゃんとやれてるよ。お前が、一番よく知ってるだろ」

「そうだけど……」

「だったら、温かく見守ってやれよ。それが友情ってやつだろ」

「勝手にデート誘ったやつがよく言うぜ」

「ハハッ、たしかにな」

 

 二人がそんな会話をしている間にも、バスは大阪に向けて走り続けていた。

 

 

 二人がこちらに向かっていることなど全く知らないユウナは、外で悠二郎が出てくるのを待っていた。しばらくすると、

 

「ごめん、待った?」

 

 という声がするので、見ると悠二郎が来た。

 

「いえ」

「じゃあ、行こうか」

「あ、あの」

「どうした?」

 

 悠二郎がふり返ると、ユウナは言った。

 

「なぜ、私だけ誘うんですか? ほかにも、どなたか誘ったら来てくれたかもしれないのに……」

 

 その言葉をきくと、悠二郎は少し考えてからこう言った。

 

「そうだな……。まあ、強いて言うなら、君だからかな」

「えっ?」

 

 また意味深な発言に、ユウナは困惑した。そして、悠二郎は続けた。

 

「今日は、君に見せたいところがあるんだ」

 

 ユウナは何もわからないまま、悠二郎についていった。陽は、ほとんど落ちていた。彼は、何を見せたいのだろうかと考えているうちに、悠二郎が立ち止まった。

 

「着いたよ」

「えっ?」

 

 ユウナは、咄嗟に顔を上げた。

 

「綺麗だろ?」

 

 そこには、夜景が広がっていた。正面には、ライトアップされた通天閣が見える。それを見てユウナは、

 

「綺麗ですね……」

 

 と呟き、見とれていた。その時、初めて気がついた。彼はこの景色を見せたくて、遅く登場したのだろうか。日が暮れないと、この景色は見られない。東京とは少し違う、大阪の夜景だった。ユウナが手摺りに手をかけ、それを眺めていると、隣に悠二郎が来た。

 

「気に入ってもらえた?」

「はい。すごく、綺麗です」

「よかった……。実は、もうひとつ伝えたいことがあるんだ」

「え、何ですか?」

 

 ユウナは、気になったような目で悠二郎を見つめた。悠二郎は、ユウナの方に自分の身体を向けた。それを見て、ユウナも同じように悠二郎に正面を向ける。

 

「昨日から、ずっと迷ってたんだ。でも、今決めた。言わなきゃいけないって……」

「先輩……?」

「これで、君を困らせてしまうのはわかってる。でも、どうしても伝えたいんだ」

「あの、何をですか?」

「好きだ、俺と……。いや、僕と……、け、結婚してください!」

 

 その瞬間、ユウナから「感覚」というものが消え、まるで無重力の世界に来たように、身体が軽くなった気がした。そして、直立している悠二郎をただただ驚きの目で見ていたのであった。

 

 

第三十回「新鋭の会遇(ニュー・エンカウント)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「喜多村先輩のことなんですが……」

瀧田「クビにするしかないわな」

ユウナ「私、ずっと後悔してたんです」

悠二郎「女性として見てるんだ!」

   「君は、彼のこと好きなんだろ?」

大輝「守る覚悟があるなら、なんでもっと本気で戦わなかったんだよ」

ユウナ「大、ちゃん……?」

大輝「今のあんたに……、ユウナを守る資格はねえ!」

相場「お前と話したくないんだとさ」

美千子「ユウナちゃんの人生における門出だもの」

真宏「幸せになれよ」

ユウナ「以前、こんな言葉をきいたことがあります。自然を愛する人がいるならば、その人は、人を愛することもできる」

悠二郎「俺と……、結婚してください」

 

 

 

次回(第三十一回)

 

無垢なる天使(イノセント・エンジェル)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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