数週間後、結納が行われ、その一月後には結婚式が執り行われた。部屋では、ユウナが白いドレスを身に纏い、待機しているとノックがきこえた。ユウナはふり返ると、百合子が顔を出した。
「おめでとう。とっても綺麗よ」
「ありがとう。お父さんは?」
「えぇ。義輝と一緒にもう会場に来てると思うわ。夢じゃないのね……。今日は、本当におめでとう」
「泣かないでよ。こっちまで泣けてきちゃう」
百合子が涙を流すので、ユウナは笑顔で言った。すると、百合子は涙を拭いた。
「そうね。じゃあ、会場で待ってるわ」
そう言うと、百合子は部屋を出ていった。それを見たユウナも、緊張が解けたように、穏やかな心持ちになっていた。
数時間後、教会でユウナは、悠二郎とともに絨毯の上を歩いた。花道を行く時、高校や大学時代の仲間たちが祝福の言葉を送った。それをききながら、ユウナは悠二郎を見ると目が合った。そして式の最後は、互いにキスを交わした。そこでさらに、会場から二人に祝福の拍手が沸き起こる。また秋風が吹き、冬の訪れを伝えてくる。しかし、それはどこか温かく、花々が風に揺れているのが伝わってくるようだった。
その後、庭園でパーティをすることになり、式に呼ばれた者たちは談笑しながら料理を食べたりしている。ユウナの周りには、かつてからの親友が集まっていた。ミカやアカリ、リカもユウナの結婚を祝っていた。
「まさかユウナが、あたしたちの中で一番先に結婚するとはね~。もっと遅いと思ってたけど」
「もう、ミカちゃん。そんなこと、ユウナちゃんの前で言ったら失礼じゃろ」
「あはは、ごめん」
ミカとアカリが言っていると、ユウナも笑顔を見せた。それは、幸せそうな笑顔だった。
「いいよ。逆に気を遣われる方が落ちこむから」
「それよりユウナちゃん、仕事はこれからどうするの?」
リカがきいてくるので、ユウナは答えた。
「今の仕事、辞めようと思って」
「どうして?」
ミカがきくと、
「これから先は、ちょっとバタバタするかもって、悠二郎さんと相談して、辞めることにしたの。中途半端な気持ちで、仕事してたらほかの人に申し訳ないなって思って」
と、ユウナは答えるのだった。
「でもさ、どうせ次の仕事は探さないといけないんでしょ? 家事との両立も、しなきゃだし……」
「それは、これから考えるよ。悠二郎さんにも、ずっと迷惑はかけられないから」
「じゃあ、応援するね!」
「ありがとう」
ミカの言葉をきいて、ユウナも感謝を述べた。また背中を押されたようで、ユウナは嬉しく思った。三人とも、穏やかな表情でユウナを見つめてくる。それだけで、今は十分だと思うのだった。そこへ、
「あ、いたいた!」
と言いながら、美千子が歩いてくる。ユウナは、それを見て驚いた。
「美千子さん、来てくださったんですね」
「当たり前よ、ユウナちゃんの人生における門出だもの。本当に、おめでとう」
「ありがとうございます。じゃあ、教授も……?」
「えぇ、来てるわよ」
美千子が言うので、ユウナは顔をますます明るくした。教え子の結婚式だから、来てもおかしくはないが、それでも嬉しかったのだ。ユウナが、美千子と立ち話をしていると、ようやく正彦が歩いてきた。正彦が前に来ると、
「教授、今日はありがとうございます」
と、ユウナは正彦にも挨拶をした。正彦も笑い、
「いいんだ。君が幸せになってくれたのなら、私はそれでいい」
そう言った。
「あの、息子さんは……?」
「残念だが、今日は学会に出席しているからね。代わりに、行ってきてほしかったそうだ」
「そうですか……。でも、こんなに多くの方に来てもらえるなんて思ってなかったです。皆さん、忙しくしているみたいだったので、招待しても来てくれないんじゃないかって思って……」
「何を言っている。みんな、君のことを祝ってくれているんだ。それは、誰がどう思おうと変えられない事実というものだ。だから、もっと素直に喜ぶべきじゃないか」
正彦に言われ、ユウナは今まで自分の考えていたことを恥ずかしく思った。正彦の言う通りだ、来てくれた人々に感謝を表さなければならない。
「ありがとうございます、今日は来てくださって」
「あぁ。心から、おめでとう」
その様子を、近くから美千子も微笑ましそうに見ていた。パーティが終わりに近づいても、会場の活気はなかなか治まらず、帰る人も少なかった。ユウナもまた、大学時代の先輩や後輩に囲まれていた。
「部長! おめでとうございます~!」
「なんであんたが泣くの」
おし美が感動で涙しているのを、ミコも呆れて見ていた。そして星見、夏姫、三宮、侑李も同じようにユウナを祝福した。
「おめでとうな、ユウナちゃん」
「ほんま、よかったな~」
「なぁなぁ、新婚旅行どこ行くの? よかったら誘ってや」
「なんでよ、あんた関係ないじゃん」
ユウナも、それをきいて笑っていた。その中には恵もいて、幸せそうなユウナを笑って祝福した。そうしていると、ユウナはあることに気づく。
「あの、吉田先輩は?」
「あぁ。アイツ、来てへんねん。今日、休日やし、予定とかもなかったと思うけど」
星見が言うのをきいて、ユウナは心配になった。それならば、なぜ来ていないのだろう。考えていると、侑李が言った。
「そんなこと、決まってんじゃん。まだ諦めてなかっただけ、ユウナちゃんのこと」
その時、ユウナは真宏のことを思い出した。
『俺だって可能性はゼロじゃないからな。起業でもして金持ちになって帰ってくるなんてことも考えられるし』
『もしもお前がまだ一人だったら、俺んとこ来いよ』
真宏のことを思うと、胸が苦しくなるのを覚えた。別れたとはいえ、まだユウナに想いを寄せていたのだから。
パーティも終わり、庭園の人々はほとんど帰っていた。ユウナはそこに残り、人がいなくなった庭園を眺めていた。まだ先程までの活気が残っており、それを料理やデザートが乗っていた皿が物語っている。ユウナは微笑みながらそれらを見つめていると、後ろから誰かの気配を感じた。ユウナはふとふり返ると、そこには相場が立っていた。相場もまた、結婚式に招待されていたのだ。ユウナは相場を見ると、さらに嬉しくなった。
「相場君……、来てくれたんだ……」
「あ……、うん。パーティの間、声かけられる雰囲気じゃなかったからさ」
「遠慮しなくてもよかったのに」
「ごめん。でもなんか、楽しそうだったからさ。今ごろになって悪いけど、おめでとう」
「……ありがとう。あ、大ちゃん知ってる? さっきも、探したんだけど見つけられなくて。来てるん、だよね……?」
ユウナが心配そうに尋ねると、相場は答えた。
「あぁ、来てる。でもあいつ、お前と話したくないんだとさ」
「……どうして?」
「俺たちが大阪に研修に来てる間、会ったんだろ? その時に、厳しいこと言ってお前を傷つけたんじゃないかって、自分を責めてた」
「でも、大ちゃんは私のために言ってくれたんだと思う。だから、悠二郎さんも私のために頑張ってくれた。大ちゃんには、感謝してる。それを伝えたいの」
ユウナは、真剣に相場を見つめた。大輝に感謝の気持ちを伝えたい、そのことがユウナの表情にあふれてくる。それを察したのか、相場は大輝の居場所を伝えた。
大輝は、会場の近くのバス停に立ち、そこで帰りのバスを待っていた。そこには、大輝しかおらず、車も人もあまり通らなかった。大輝がスマホを弄っていると、声がかかる。
「大ちゃん!」
見ると、そこにドレス姿のユウナがいた。着替える時間も惜しんで、そのまま会場から走ってきたのだ。それを見た大輝は驚いた。
「ユウナ……?」
「私、どうしてもお礼が言いたくて」
「何だよ、改まって」
「あの時、大ちゃんが来てくれなかったら、どうなったか自分で考えるととても怖くて。だから、ずっとお礼を言いたくて……」
ユウナが言うのをきいて、大輝は手を差し出した。それを見て、ユウナは戸惑った。すると、大輝はこう言った。
「おめでとう」
それをきいたユウナの視界が、涙に覆われた。そして、ユウナはその手を握った。
「……ありがとう」
花嫁が、別の男の手を握っている。それは傍から見たら異様な光景だが、二人の友情を思い返せば当然のことだったのかもしれない。次に会う日まで、この日のことを忘れずにいよう、ユウナは心の中でそう誓った。
部屋に帰ると、ユウナは電話をかけた。
「もしもし、先輩?」
「あぁ、何だ?」
電話に出たのは、真宏だった。
「先輩、ごめんなさい。私、これでほんとによかったかわからなくなって……」
「バカ、お前がそんなんでどうするんだよ!」
真宏は、思いのほか元気だった。そして、こう続ける。
「おめでとうな、ユウナ。幸せになれよ」
「ありがとうございます。先輩も、お仕事頑張ってくださいね」
「おうよ」
真宏はそう答えると、電話を切った。そして、家の窓を開けて縁側に腰かける。すると、次第に涙があふれ出てくる。それは悔しさと、ユウナの幸せを願う気持ちが入り混じったような、不思議な感覚だった。真宏はしばらくの間、夜空を見上げながら、そのまま啜り泣いていたのだった。
それからさらに時間が経ち、2017年11月末。ユウナは、約半年間務めた会社に、辞表を提出した。それを受け取った横峯は、
「ほんまに、ええんやな?」
と念を押すと、ユウナは答えた。
「もう、決めましたから」
すると、瀧田もこう言うのだった。
「その代わりに、ここで身につけたもんを無駄にせんと約束してくれるか?」
「はい。短い間でしたが、ここではたくさんのことを学ばせていただきました。今まで、ありがとうございました」
ユウナはそう言うと、頭を下げた。これはユウナにとっての終わりであり、始まりでもあった。ここから、また新たな道を歩いていこう。そう決めたのは、その日の夜だった。
ユウナは悠二郎に呼ばれていた。まだ、仕事の関係で一緒に住めないとのことだった。ユウナはそれがわかっていたのか、あっさり了承した。
「ごめん。仕事がまだ、順調っていえるほど順調じゃなくてさ……。だからもうしばらく、待っていてほしいんだ。本当にごめん」
「わかっています。私も、早く次の仕事見つけて、家庭のことと両立させられるようになりますから」
そう言ったユウナを、悠二郎は抱き寄せる。
「ありがとう……」
ユウナは目を閉じ、悠二郎の体温をひしひしと感じていた。これから、ユウナの第二の人生が幕を開ける。
第三十一回「
次回予告
ユウナ「セインツ・パラダイスを攻撃している人にも、きっと何かしらの理由があるんだと思います」
「教授!?」
美千子「もっと、自分を大切にしてくださいな」
ユウナ「その人のことが、私は許せない」
フギン「そろそろ、教えた方がいいんじゃないのか? おじさんが犯した罪を」
ユウナ「私、どうしても気になるんです」
サタール「昔、やつは私を殺そうとした」
正彦「私は、あいつに謝りたいだけだ」
「もう私の世界に手を加えるのはやめてくれ」
サタール「私は、この世界を完全に潰し、そしてお前の人生を終わらせる」
ユウナ「罪を、償ってください」
次回(第三十二回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀