決闘から数日後、タバサは任務に行ってしまった。任務からは三日で帰って来たがまた、新たな任務がタバサへ届いた。
「龍燕、帰ったばかりだけどまた行ってくる」
「タバサ」
「何?」
任務に行こうとするタバサを龍燕は呼び止めた。
「何か悪い予感がするんだ。一緒に行かせてはもらえないか?」
「でも…」
「『使い魔は主を護る』と言ってたな?でも離れていたら護れない」
タバサは少し思案の顔をしたが頷いた。
「わかった」
龍燕はタバサの了承を得て、任務に同行することになった。
宮殿に着くとタバサにシルフィードと待機しているように言われ、十分程中庭にいた。
タバサが戻ると任務先へ向かった。その途中龍燕は任務の内容をタバサに聞いた。
「タバサ、任務の内容は何なんだ?」
「吸血鬼の討伐」
「吸血鬼?」
龍燕は眉が動いた。
「タバサ…討伐って、吸血鬼を殺すのか?」
タバサは無言で頷いた。
「村からの依頼。断る事は出来ない」
頁をめくりながらタバサは言った。
龍燕は氷李を思い出した。
氷李は羅暁国にいる吸血鬼だ。氷李は初代目、龍鶴様に助けられ、護られた吸血鬼だ。
氷李の話しだと、『吸血鬼は本来人間と関わる事のない生き物で人を襲い、血を吸う事から人とは共にいる事さえ出来ない』と言った。また吸血鬼は『常に孤独の中に住み、光りの無い闇の中で生きる』と言っていた。
龍燕は初めて聞いた時とても辛く感じた。
氷李は他にも言っていた。『闇から、孤独から出て来れれば、人と共に暮らす事が出来る』と。
「吸血鬼は常に闇の、孤独の中に住む」
「龍燕?」
龍燕の呟きにタバサは本から視線が龍燕に移した。
「タバサ」
「何?」
いつもと違う龍燕の雰囲気にタバサは思案の顔に変わった。
「タバサ」
タバサは本を綴じて龍燕を見た。
「俺は…見ればすぐに気配で吸血鬼だとわかる」
「どうして?」
不思議そうにタバサは聞く。
「国にいた時、俺の仲間の一人に氷李という吸血鬼がいたんだ。俺の家系でもその吸血鬼と仲のいいのは沢山いた」
「吸血鬼は人と一緒に暮らせないはず」
「いや、共存する事は出来るはずだ。俺がいた世界とその吸血鬼が同じかは、正直分からない。もしもの時は俺がやる」
龍燕は言い切った。
「…わかった。龍燕を信じる」
するとタバサはシルフィードに降りる様に言った。
着地してすぐに龍燕はタバサに声を掛けた。
「タバサ、村はもっと先じゃないのか?」
周りには森と川があり、今いるのはその間、短い丈の草の生えているところにいる。
「化けて」
タバサはシルフィードに言う。シルフィードはそれに反発した。
「やなの!」
「やじゃない。化けて」
「ヴぅぅ…」
タバサは無表情でシルフィを見て言い放つ。
「人間の身体は動き難いから嫌なのね!」
「肉抜き」
「ひっ酷いのね!?もう!後でいっぱいお肉頂戴よ!!」
タバサはコクリと頷いた。
「我を纏いし風よ、我の姿を変えよ」
シルフィは人の女性へ姿を変えた。龍燕はシルフィが裸なのに気づき、背を向けた。
「きゅい?何で背を向けるのね?」
「それは言えん。タバサ、姿を変えさせたと言うことは服を用意してるんだろう?」
タバサに問い掛けると頷きながら言った。
「ある」
タバサは鞄から服を取り出した。
「いや!服はいや!!益々動きづらい!!ぜーったい着ない!!」
そういうとタバサはプイッとそっぽを向いた。
「じゃ、肉は『無し』で」
『無し』を強調させて言うタバサ。
「ヴっ…!ずるいのね~~~っ!!!」
シルフィは仕方なく服を着た。
「服まで用意して~、最初からそのつもりだったのね!」
タバサはシルフィの言葉を無視して、追加で自分のマントと杖を身につけさせた。
「タバサ、まさかシルフィを人の姿に変えさせたのは…」
「騎士役」
タバサは呟く様に言った。
タバサの作戦で
タバサ 騎士 →従者役Ⅰ
龍燕 使い魔Ⅰ→従者役Ⅱ
シルフィ 使い魔Ⅱ→騎士役
となった。
─サビエダ村
「おおーっ!よくぞいらっしゃいました!」
村に入ると一人の男が手を振って迎えた。
「私は村長のアイザックと申します。このような所まで来て頂き、誠に感謝いたします」
村長はにこやかに迎えた。
「私はガリア花壇騎士シルフィード。風の使い手なの!よろしくね」
シルフィはニコッと笑って言った。
「はぁ……。シルフィード…?」
場の空気が静まり返った。次第にシルフィは慌てた表情に変わり始める。
「ああ、そうか。世を忍ぶ仮のあだ名ですね!」
村長は何か当てたように笑い始めた。
「へ?」
「花壇騎士ともなれば平民に名乗れるはずもない!いやあシルフィード、“風の妖精”とは趣味がいい!!」
「え?あ、まぁ……」
シルフィは冷や汗を垂らしながら微笑む。タバサに助けを求めているようにも見えた。
「ここでは何ですし、我が家へ起こし下さい。従者の方、よろしければ荷物をお持ちします」
「結構です」
タバサは即答した。
案内をされる途中、龍燕は周りを妙に感じた。
「人が見えないのね。いないのかな」
シルフィは周りを見ながら言った。
「いや、気配を感じる。シルフィ。窓からこちらを伺っている」
シルフィはチラッと窓を見ると人影がササッと隠れた。
「いた、のね?」
「この気配…一人二人どころじゃない」
龍燕の言葉にシルフィは震えた。
「…何か怖いのね」
警戒しながら村長の後を追って歩いた。 微かにいる人の声。
「今度の騎士様は若い女だとさ」
「しかも子供を連れているのよ」
「こないだの騎士様は三日でお葬式…」
そんな声が家の中から聞こえてきた。