女子供を集めた夜、龍燕は自分の国の料理を振る舞った。
調理の最中『手伝いたい』というのを聞き、皆で龍燕が教えながら作った。
皆美味しいと食べていた。
「これはなんていう料理なんですか?」
村長は二つの鍋を使った汁物を見て言った。
「この白く伸びた粉物はうどんといい、肉の具の多いのを掛けたのを肉うどん。野菜の多いのを掛けると野菜うどんだ。まぁ名前自体は単純だけどな」
「ほぉ、この料理はうどんというのですか」
皆が美味しそうに食べていると、ふとエルザが龍燕に話しかけた。
「このお肉は…元々は生きていたんだよね?」
「ああ」
「この野菜も…みんな」
龍燕は頷いた。
「みんな殺して食べてるんだよね?」
「ああ。人が生き繋ぐため、この食べられた物が皆自分の身体になる」
「…吸血鬼と同じだよ」
エルザの言葉に龍燕は箸を止めた。
「そうかもしれないな。だが俺の国では生き物を食べる時、最低限行う事がある」
「行う事?」
エルザは首を傾げた。村長も興味深そうに見ていた。
「単純だが大切な儀式、ともいうかな。エルザは俺が食べる直前にやっていたのを見たか?」
「えっと…手を合わせてた」
「そう。俺の国では最低限行う事として、『生き物にお礼』というのがある。食べる直前に『頂きます』。食べた後に『ご馳走様』。その二つが『生き物への感謝』だ」
村長は龍燕の言葉にうんうん、と頷いた。
その夜、事件が起きた。
始まりは悲鳴と窓硝子が割れる音から。
「何があった?」
駆けつけた龍燕が女の子に聞く。
「いきなり窓から入って来て襲って来たの!」
「あの子の首の怪我は硝子の破片で、まだ噛まれてないわ!!」
「わかった。君等は騎士シルフィードのところへ行け!」
龍燕は少女達を避難させる。
「眞炎流、『閃』!」
屍人鬼の腕を小太刀で切断し、落とした少女を床に当たる前に龍燕が受け止め、距離を取った。屍人鬼も窓から飛び降り、逃げはじめた。
龍燕は能力を使わずに少女の傷を止血する。
「よし」
少女を抱えて下に降りた龍燕は、一階にいた村長にお願いする。
「止血はしといた。この子は命に別状はない。皆を一階の部屋に集めてくれ」
「わかりました。有り難うございます!」
「シエン!来るのね!火事なのね!!」
慌てて入って来たシルフィードに龍燕は振り返る。
「火事だと?何処で火事だ!」
「こっちなのね!」
龍燕はシルフィードの後を追い、目の前の光景に龍燕の顔が歪んだ。
「なんだこの光景は……」
火が立ち上がる家を見て満遍ない笑みを浮かべる者達が、村人全員でなくともいた。
その光景に龍燕の握る手に自然と力が入り、身体を震わせた。気配を探れば、あの火の家からは人間のお婆さんの気配が感じ取れた。
「おい……何のつもりだ」
龍燕は嘲笑う村人に向け、言い放った。
「あんたらが来ても、他の騎士と同じだから俺達が奴を始末したんだよ!」
「貴様ら……ふざけるなよ」
瞬動で燃え上がる建物へ駆け、玄関の扉を腰から引き抜いた小太刀で細切れにして入った。
「何処だ!何処だ!何処だ!」
徐々に弱まっていくお婆さんの微かな気配を感じつつ、燃え崩れていく家の中を駆け続けた。
「いた!大丈夫か?」
龍燕は駆け寄ってすぐに生死の確認を取る。お婆さんは意識がないがまだ辛うじて生きていた。
「煙りがすごい…。早くでないと」
このままではお婆さんの喉が焼けて危ない。すぐに武己から羽織りを取りだし、お婆さんに被せた。
「くっ……」
小太刀を仕舞い、お婆さんを抱えた龍燕は目の前の壁を体当たりでぶち破り、飛び降りた。
「龍燕」
「お兄様!」
「従者様」
タバサとシルフィ、村長が駆け寄ってきた。
「……お婆さんはまだ生きてる。村長、家まで運ぶの手伝ってくれ」
「わかりました!」
龍燕はお婆さんを担架に乗せ、村長の家まで運んだ。
「シエン」
「どうかしたか?」
エルザは龍燕に声を掛けた。
「どうして助けたの?吸血鬼だったかも知れないんだよ?」
龍燕は無表情のエルザの頭を撫でた。
「あのお婆さんは吸血鬼じゃないし、俺は…吸血鬼だったとしても殺したくはないと思っている」
エルザは顔に?を浮かべ、首を傾げたがくすくすと笑い始めた。
「シエンって変わってるね」
「エルザ」
「なあに?」
「後で静かなところで話しがしたい」
「静かなところ?お兄ちゃんはムラサキヨモギが好きなんだよね」
ムラサキヨモギは食事の時にサラダで出た、この村の特産物だ。
「ああ」
「私、いっぱい生えてる所を知ってるの。そこでムラサキヨモギを摘みながら話しをしよう!」
エルザは笑みを浮かばせ龍燕に言った。
「ああ、行こう」
龍燕は村長とシルフィードにお婆さんをお願いし、タバサには皆を護るようにお願いした。タバサは前に龍燕が言った事を思い出し、気をつけてと一言だけ言ってきた。
「ほら!ここだよ」
エルザは野原を駆け回るように走り出し、その少し丘になったところで両手を広げて振り返った。
「ね?すごいでしょ?」
空には大小の月が光りを放ち、地はムラサキヨモギで広がっていた。
「ここが一番、ムラサキヨモギが生えてるの!!好きなだけ摘んでね!」
龍燕はムラサキヨモギを摘み、気づいた。
「この色…サラダで出たのと違うな?」
「そっか。お兄ちゃん知らないんだね」
「ああ、俺のいた国には無かった植物だ」
エルザはムラサキヨモギを少し摘み、月に翳した。
「ムラサキヨモギはね、摘まれる前は淡い桃色をしているの。土から離れて時が経つと濃い紫色になるんだよ。摘む前の草を見ない人はみんな…知らないんだよね。この草が、本当はどんな色で…どんな風に生きているのか」
エルザの声が段々暗くなっていく。
「摘み終わった」
摘み終えたムラサキヨモギをエリザに見せる。
「わあ…いっぱい摘んだね!」
エルザは笑みを浮かべ寄ってきた。
「ねぇお兄ちゃん…」
龍燕の隣まで近づいたエルザの口から『尖った歯』が月に照らされ、光り輝いていた。
「ムラサキヨモギの悲鳴が聞こえるよ?いたい、いたい─ってね」
エリザの尖った歯は首元に近づき、気づいた龍燕は立ち上がろうとした。するとエリザは龍燕の腹に手を翳してきた。
「枝よ、伸びし森の枝よ。彼者の自由を奪いたまえ」
龍燕の腹部に枝が絡まり、後ろに立っていた木に引き寄せられ、さらに肢体が枝に縛られた。続いて龍燕の首に枝が伸び、絞めはじめた。
「くっ…」
「お兄ちゃんの国の言葉で…頂きます、だっけ?私が吸血鬼だったのよ」
月の光りに照らされたエルザが笑みを浮かべながら自ら正体を明かす。それを聞いた龍燕は笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、何が可笑しいの?」
エルザは龍燕の笑みに首を傾げる。
「気づいてた。エルザが吸血鬼だってことは『最初から』気づいてた」
「やっぱり気づいてたんだ。薄々気づいてたよ。私を初めて見た時目を変えてたからね。でもどうして私だって気づいたの?」
「俺の近くにも吸血鬼がいたんだ。その吸血鬼は皆と、仲が良くて…共に暮らしていたんだ」
龍燕は語るように言った。
「…吸血鬼は人と仲良く暮らしてなんかいけない。この村みたいに争うよ」
「この村や国はそれが普通なのかも知れない。だが、俺のいたところじゃそんな争いはなかった。皆、共に生きる者として長く、長く助け合って生きていた」
「嘘だ!人と仲良く暮らせたら、パパもママも死ななかった!」
エルザの目から涙が零れた。同時に龍燕を絞めた枝が強くなる。
「……ずっと、寂しかったんだな?怖かったんだな?いつも一人ぼっちで…吸血鬼が自分とばれてしまい、殺されるか。不安なんだろう?いつも震えてるんだろう?」
龍燕は瞬間移動で肢体に絡み付いている枝から抜け出し、エルザに近づく。
「いつまでも貴族から逃げるのか?」
「私は…死にたくない!死にたくないの!」
龍燕はエルザの前に屈み込み、頭にポンと手を置いた。
「助けてほしいか?」
「え…」
エルザは目を開き、龍燕を見た。
「メイジが嫌いなら嫌いでもいい。でも、逃げてばかりだといつまでも一人ぼっちで怖いだけで……いつか捕まって殺される。エリザ、俺と来ないか?」
「え……?」
「もし、エリザを殺そうとする者が出て来ても、たとえ何処かの国が相手になったとしても、いつまでもお前を守ってやる。だから…一緒に来ないか?」
「ほんとに……私を、私を護ってくれるの?でも、私は…吸血鬼だから…血を吸わないと生きていけないんだよ?」
「俺の家系は吸血鬼には耐性がある。実際に氷李という吸血鬼に血を吸わせていたが問題はなかった」
「そう、なんだ……で、でも騎士様とかもう一人の従者にはなんていうの?」
龍燕はその言葉でタバサにどう説明しようか、といまさらになって考えてしまったが後回しにすることに決めた。
「主たちには……まぁ何とかするさ」
笑顔で言う龍燕に、エルザは泣きながら抱き着いた。
「お兄ちゃんみたいな人……初めてだよ。………お兄ちゃん…私を、私を助けて!」
「ああ。助けてやる」
龍燕はエルザが泣き止むまで抱きしめた。
「(敵を取ってと言って来たあの子には悪いが、やっぱり俺には出来なかったよ)」
そう思いながらエルザを肩に乗せ、龍燕は村長の家へと歩いた。
村長の家に戻り、エルザの口から村長に話した。村長は信じられなそうに聞いていたがエルザの吸血鬼形態…『尖った吸血鬼の歯』を見て村長は涙を流していた。
「何も…言葉がでないわい」
「許してはもらえないけど…今まで、騙していてごめんなさい」
その後、村長と話し合い、夕方に村長の家でアレキサンドル……お婆さんの息子が吸血鬼だったとして話しを進める事にした。また、龍燕の知る限りの吸血鬼の事を村人に強く教え、信じてもらえた。
吸血鬼と疑われたお婆さんは龍燕が『癒し火』を掛けて傷と病気を癒し、お婆さんを疑う者もいなくなった。しかし、息子を失ったお婆さんは村長の家で世話になることとなり、お婆さんは息子の死に涙を流したが納得してくれた。
次の朝、シルフィードとタバサ、龍燕、エリザは村の人に見送られた。村人達はエリザが吸血鬼だったことを知らない。エリザが一緒に行く理由として『王都に彼女の親戚がいて、彼女を探していたので共に連れていくことになった』という事にした。これは龍燕が村人達への説明に困った時タバサが考えてくれた理由だ。
昨晩、龍燕はタバサに色々と言われてしまった。学院長にどう説明したらいいかと困らせてしまった。そこで龍燕は自分から学院長にお願いすると言ったが、それでもタバサは心配そうだった。
「龍燕」
龍燕の手を握って横を歩くエルザが言った。
「なんだ?エルザ」
「龍燕の国ってどういう所なの?」
「一言で言えば平等な国だ」
村が見えなくなるとタバサはシルフィに跨がった。
「風龍に乗るの?」
「エルザは俺だ」
龍燕はエルザを抱えると地面を蹴って宙を駆けた。
「お兄ちゃん?空飛んでるの?魔法使ってるの?」
龍燕は小さく首を振った。
「これは魔法じゃない。宙を蹴ってるんだ」
「魔法じゃないんだ!すごい!!風が気持ちいい!」
エルザは微笑んだ。
龍燕達は王宮に報告へ向かった。
この話はもう少し改変を入れ、改二編集を予定しています。