今日、ブラスカ殿たちから話があった。
「私たちは、今日の深夜に旅に出ようと思う。見送りには来なくて良いよ」
「……そうですか」
「ユウナとは、これから話す。……ユウナのこと、頼むよ」
「……はい」
「シーモア。俺からも頼む」
「ったく、辛気臭ぇ奴らだなぁ。アーロン、オレたちがブラスカを守る。ブラスカは無事に旅を終えて、『シン』をぶっ倒す。楽勝だろ」
そうか。ジェクト殿はまだ、召喚士の運命を知らないのか……。
「旅のご無事を祈っております」
「……ありがとう」
「任せてくれ」
「へっ、安心しな。オレにも、ザナルカンドにユウナちゃんと同じくれえのガキがいるんでな。ユウナちゃんのためにも、ブラスカを守りきってやらぁ」
このとき私は、これがブラスカ殿との最後の会話になるだろうと思っていた。
しかし、私の存在はやはり物語を捻じ曲げてしまっていたらしい。
ベベルに泊まる予定だった私を、夕方にユウナちゃんが訪ねてきた。
「シーモアさん。今日の夜中にお父さんが、召喚士として旅に出るって……」
「ああ。私もブラスカ殿から聞いたよ。ブラスカ殿と一緒にいなくていいのかい?」
「……すぐに戻るよ。でも、どうしてもシーモアさんにお願いしたいことがあって……」
「なんだい?」
「わたし、お父さんのお見送りがしたい! お父さんは、しなくていいって言ってたけど……わたし、どうしても……」
……原作でブラスカ殿は誰も見送りがいないことを、決意が鈍らなくて良いとしていた。もしかしたら、ユウナちゃんに見送りをしなくて良いと言ったのも同じ理由かもしれない。だが、私は見送ってはいけないとまでは言われていない。その程度で鈍る決意でもないだろう。
「分かったよ、ユウナちゃん。じゃあ、夜に迎えに行くよ」
「うん! ありがとう! 約束だよ?」
「約束だ。それじゃ、今はブラスカ殿のところに戻るんだ」
「分かった! また後でね!」
夜も更けてきた。そろそろだろう。ユウナちゃんを起こして、ベベルにあるマカラーニャ湖へ向かうための橋、グレート=ブリッジに行く。
「ユウナちゃん。起きてくれ。さあ、ブラスカ殿を見送り行こう」
「……んぅ? ……うん」
ユウナちゃんはまだ寝ぼけているみたいだが、途中で目も覚めるだろう。
グレート=ブリッジに着くと、丁度ブラスカ殿が出発しようとしているところだった。
「しっかし、ブラスカよう。『シン』と戦うショーカンシ様の出発だってのに……。侘しいなあ、おい」
「これで良いさ。見送りが多いと、かえって決意が鈍りかねない」
……なんだか私が空気の読めない奴のようだ。そんな私とは関係なくユウナちゃんは、ブラスカ殿の元へ走っていく。
「お父さん!」
「ユウナ!?」
「なに?」
「おぉう。こうでなくっちゃな」
アーロン殿が私を睨み、ジェクト殿は笑っている。
「シーモア! お前、どういうつもりだ!?」
「ユウナちゃんに頼まれただけですよ。見送りに来るなとまでは言われてませんから」
「屁理屈を! ブラスカ様はなあ!」
「これぐらいで揺らぐ覚悟ならば、旅になど出なければいい」
「貴様!」
「落ち着けよ、アーロン。あっち見てみな」
ジェクト殿が示した方では、ブラスカ殿とユウナちゃんが話している。
「ユウナ、どうしてここに?」
「シーモアさんに頼んだの。今日いっぱいお話したけど、やっぱりいってらっしゃいって言いたくて……」
「ありがとう。安心しなさい。怒ってなどいないよ」
「……お父さん。行っちゃっうの?」
「ああ。私は行かなくはならない」
「……そっか。 いってらっしゃい、お父さん」
ユウナちゃんは、精一杯の笑顔を浮かべていた。
「ははっ! 最高の見送りだな」
「……すまん、シーモア。お前が正しかったようだ。ブラスカ様も、より一層決意を固められたようだ」
「結果論に過ぎないでしょう。私は、本当にブラスカ殿が揺らいでも構わなかった」
……実際に揺らいでしまったら取り返しがつかないが。その場合には色々諦めてしまうが、全く違うハッピーエンドではなくても小さな幸せがある世界になったかもしれない。
ここまでは、想定内だった。ユウナちゃんが、爆弾を投下するまでは。
「いってきます。ユウナ、元気でな」
「うん! シーモアさんとグアドサラムで待ってるね!」
「うん?」
「は?」
「なんだぁ?」
「はい?」
空気が、凍った。
そしてアーロン殿が、再び私を睨む。ブラスカ殿も睨んではいないがこちらを見ている。ジェクト殿はよく分かっていないらしい。
「オイ。シーモア、ドウイウコトダ?」
「いえ、私にも何がなんだか……」
「シーモア君。流石に説明してもらいたいのだが?」
「?おめえらが、何を気にしてんのかは知らねえけどよ、ユウナちゃんに聞いてみたらどうだ?」
「そうですね。ユウナちゃん、私とグアドサラムで待つというのは?」
ユウナちゃんは、しっかりと答えてくれた。
「うん! シーモアさんは、もうすぐグアドサラムに帰るんでしょ?」
「ああ。そうだね」
「その時にわたしも一緒に連れていって欲しいの」
「どうしてかな? ベベルからグアドサラムまではそれなりに遠いし、危ないんだよ」
「だって、お父さんが旅の途中でグアドサラムを通るって、でもシーモアさんの方が早く着くだろうって。だから、シーモアさんと一緒にグアドサラムに行けば、そこでお父さんに会えると思って」
間違ってはいない。確かに私はもうすぐグアドサラムに帰るし、海路を通れば勿論、『シン』を警戒して陸路で行っても、マカラーニャ寺院によらなければならないブラスカ殿たちよりは早く着く。
「ブラスカ殿が原因じゃないですか」
「……」「……」「……」「?」
やはりジェクト殿はよく分かっていないようだが、今生の別れを娘に告げたつもりでこれではいたたまれないだろう。というか、旅の途中でユウナちゃんと会うことになったら、流石にブラスカ殿の決意も揺らぐんじゃないだろうか?
「あの、シーモアさん……ダメ?」
上目遣いでユウナちゃんに見られ、断れなくなった私はブラスカ殿に丸投げする。スピラではどこに行くにしても危険が付きまとうしな。
「ブラスカ殿が許可してくれたら構わないよ」
「……お父さん……」
「……」
「ブラスカ様! グアドサラムには寺院があるわけでもなく、通過するだけです! 移動中の危険を考えれば、ベベルで待っていて貰った方がいい! ビサイド島に行った後、ガガゼト山に向かう前にベベルにも寄れます!」
「お父さんが話してくれた……今日が最後かもしれないって……。わたし、そんなのやだ……」
「アーロン。おめぇ、何をそうカッカッしてやがるんだ? シーモアと一緒なら護衛もいんだろ」
「あんたは黙っていろ!」
ブラスカ殿の答えが出たようだ。
「分かったよ。ユウナ、グアドサラムで待っていてくれ。そこでまた話をしよう」
「! うん!」
「ブラスカ様!?」
「大丈夫だよ、アーロン。私の決意は変わらない」
「けっ、心配しすぎなんだよ」
「ははは。そういうな、ジェクト。シーモア君、よろしく頼む」
「分かりました」
「では今度こそ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「お気をつけて」
「はあ、先が思いやられる……」
「なにブツブツ言ってやがる」
締まらない旅立ちになってしまったな。少し申し訳なく思う。
十数日後、私はユウナちゃんを連れてグアドサラムに帰って来ていた。一応ジスカルもいる。海路を通った際、ユウナちゃんは初めて船に乗ったらしく、はしゃいでいた。
さて、グアドサラムを一通り案内した後家に来たんだが……
「あなたがユウナちゃんね? シーモアから色々聞いているわ。安心して生活してね」
「はい。よろしくお願いします、シーモアさんのお母さん」
「まあ、礼儀正しい子ね! それでは呼び難いでしょうから、お姉さんでいいわよ」
「はい! お姉さん!」
「ああ、本当にいい子だわ。家のシーモアは、年々可愛げがなくなって……」
……母上も歳を気にするようになったか。っ!! 物凄い睨まれている。「ペイン」を放ちそうな勢いだ。
「……ユウナちゃん。後で、シーモアに何でも言うことを聞かせられるような弱みを教えてあげるわ」
「本当ですか!?」
喜ばないでくれ、ユウナちゃん。私になにをさせるつもりだ?
ああ。なんだろう、この2人が出会っただけで嫌な予感がする。
「ペイン」は即死効果のある睨み付けです。
明日と明後日の更新はありません。