東方霊術伝   作:モン太

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大和

長旅の末、漸く大和の斑鳩宮に到着した。ここまでの道中は特に何かあった訳でも無く、実に平和だった。まあ、妖怪が襲って来てもレン君とサクラ君が倒してしまうしね。

 

2人の才能は本当に凄まじい。僕の力は600年の時間をかけて今の力を手に入れたものだけど、彼らはたった5年で三十番代の鬼道を詠唱破棄で使えてしまっている。僕は当時では白雷しか撃てなかった。もし、霊力が僕並みに有れば僕以上の実力者になっていただろうね。

 

そんなわけで、斑鳩宮に入る事ができた。警備の人はいたが、旅人だと言えば簡単に入れた。

 

「案外簡単に通してくれましたね。」

 

「大国なだけあって、そうそう簡単には国が傾く事も無いのかもしれないね。」

 

「そんな難しい話より〜、ご飯食べようよ!」

 

「そうだね。せっかく大和に来たことだし、ご飯を食べてから、何処か住める所を探そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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私は生まれてからずっと、聖人、聖人と言われてきた。産まれる前、産みの親である母・間人皇女は西方の救世観音菩薩様から私を授かったと言われ、かなりの期待をされた様だ。

 

そして私が産まれ、数年が立ち厩戸皇子と呼ばれる様になった頃、私は人々の請願を聞く事になった。余程焦っていたのでしょう、我先にと口を開いて話し始めたのですが流石に聞く事は不可能……だと思ってた。しかし聞き取れたのです、あの能力が突然開花したお陰で。

 

その能力が開花すると今まで雑音に聞こえていた様々な声が1つ1つしっかりと聞き取れる様になり、私はとても驚いた。何だこの力は、と。しかし驚いている場合ではない、目の前には助けを請う人々がいるのだから。私はきちんと1つ1つの請願に合わせ、答えた。すると皆が唖然として私を見ていた。そしてすぐに全員から尊敬された。

 

今思えばあれが"聖徳太子"としての私の始まりであり、"人間"としての私の終わりだったのかもしれない。

 

あの仙人によると能力は"普通の人間には"発現されないらしい。それを考えれば布都も屠自古も普通の人間では……いや、今は考えるのをやめましょう。それより今は仙人、不老不死になる修行を続けなければ。人間の死に不満を持った私が不老不死というものを知ったのはつい最近。とはいえ私自身が見つけたものではなく、霍青娥と名乗る大陸から来た仙人によって。なんでも私の評判を聞きつけてやってきたらしいのですが先程も言った通りあの時人間の死に不満を持っていた私に丁度やって来た不老不死になれる道教なる宗教は正に絶好の餌だった。

 

「ふぅ〜…取り敢えずひと段落、だな。」

 

私は豊聡耳神子。太子とも呼ばれている摂政だ。今私は朝から書いていた書類を捌き終わり、椅子の背もたれに寄りかかって休憩をしていた。

その様子を見てか、隣に居た屠自古が声をかけてくれた。

 

「お疲れ様です太子様。今お湯を持ってきました。少し一服なさってください。」

 

「ああ、ありがとう屠自古。」

 

ふう〜、落ち着く。仕事の合間の休憩が私の癒しだ。

 

「私はこれから、民の様子を観ようかと思う。留守を頼んだぞ。」

 

「いえ、私もお伴します。」

 

「心配しなくてもいい。ただ町を歩くだけだ。」

 

「何言ってんですか太子様!もっと立場をわきまえてください!あなたはこの都を取り仕切る大切なお方なのですから、命でも狙われたらどうすんですか!?」

 

声を荒げる屠自古。

 

「どうしたのじゃ。うるさいぞ、屠自古。」

 

「布都か。太子様が1人で町に出歩くと申される。お前も説得してくれ。」

 

「なんですと!そんな危険な事はできませぬ!我々もお伴します!」

 

さらに布都まで加勢して、状況が悪化。だんだんと身動きがとれなくなってきたな。

 

「あら〜。では私が留守をしておきましょう。」

 

壁に丸い空間が開き、そこから青娥が現れる。

 

この邪仙が私の新たな家来兼師匠でもある。

 

「な!青娥!お主、さては太子様が居ない間に何か良からぬ事を企んでおるのだな!」

 

「そんな事はありませんわ〜。私はただ豊聡耳様の留守をするだけですわ。」

 

「うぬぬ〜。信用できんな。」

 

「仕方ない。我も留守番をしよう。屠自古、太子様を頼んだぞ。」

 

「もちろんだ。」

 

「はあ〜、全く。........言っても聞かないだろうから、もうそれで良い。.......では、屠自古行くぞ。」

 

青娥の事が余程信用ならないのだろう。布都が留守番をする事になった。と言うより、青娥の監視にあたると言った所か。

 

だが、実際に青娥は蘇我と物部の宗教戦争を引っ掻き回した前科がある。

 

まあ、その争いで物部家は滅んだのだが。その為、布都を町に出歩かせる訳にもいかないから、この判断が妥当だろう。

 

私は護身用の宝剣を片手に外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふむ、民は変わらず平和に暮らしているようですね。」

 

「そうですね。数度の内乱はあれど、我が国は平和でございます。これも偏に太子様の治世の賜物。」

 

「屠自古。褒めるにしても限度というものがあります。これ以上はくどいですよ。」

 

「これは失礼しました。」

 

恭しく頭を下げる屠自古。それを見た私の胸中は様々な感情がうねりを上げていた。だが、表情には決して出さない。それが聖人として求められる私だ。

 

布都と屠自古は、宗教問題を発端に家を巡って争い合った間柄。それも私の都合による所が大きい。つまり、私の身勝手な政治的判断で布都と屠自古には、不幸な想いをさせている。それでもこの2人は私について来てくれる。本当なら恨み殺されてもおかしく無い所業だ。一生を、命をかけても償い切れない罪を抱えているのにもかかわらず。

 

それはとても幸せな事で、私は2人に感謝の念が尽きない。だからこそ、2人からの必要以上の尊敬の眼差しや、感謝、持ち上げが辛い。それは敬愛はあれど、何処までも距離を感じるから。

 

だけど、私の望んでいる事が叶わないのも理解している。私は産まれながらに聖人と呼ばれ、能力が開花してからは、民衆からも崇められる様になった。

 

私達がどれだけお互いを大切に思っていても、私と2人はやはり根本的に違う存在だ。能力のお陰で彼女達が、どういう気持ちで私に接してくれているのかもわかっているつもりだ。でも、それも一方通行。

 

結局、民衆や信頼する部下に囲まれながらも私は孤独だ。寂しい。誰か私の渇きを癒して欲しい。

 

しかし、私と対等な存在など未来永劫存在し得ないだろう。私の孤独は癒される事は無い。また、自身の性別を偽り続けている事も孤独感に拍車をかける。

 

だからだろう。私が聖人として民衆に尽くすのは。民衆が私を必要としてくれる。それだけが唯一の救い。私は孤独で、愛されたいが故に、民衆に尽くす。

 

「太子様はよく街を観て回られますが、やはり民の生活を気にしておられるのですか?」

 

「民の幸福こそ、聖人として産ませた私の務めであり、私個人としての願いでもありますね。」

 

「太子様は民を愛されておるのですね。」

 

「...................」

 

私がよく街を観てくると言って、出歩くのもそういう意図がある。

 

「む?」

 

「どうなされたのですか?」

 

「いえ........少し気なるものを見つけました。」

 

私が見つけた。というよりも能力によって感知したもの。それが余りにも異常だったから、思わず立ち止まってしまった。

 

私の能力。十人の話を同時に聞く事が出来る程度の能力。能力の開花した当時は、文字通りの能力だったが、今は人の『欲』が聞こえる様になっていた。

 

その『欲』が聞こえないものがいる。さらに知覚したと同時に感じる膨大な霊力。

 

「屠自古。少し寄る所ができました。」

 

「太子様?」

 

「付いて来てください。」

 

「はあ。.....わかりました。」

 

こんな霊力を持った存在を放置するわけにもいかない。国を守る役目を果たす為にもその霊力の元を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇ〜、レン。鬼道で一気にぶっ飛ばさない?」

 

「お前はいつも横着しようとするな!そんな目立つ事して見ろ!また藍染さんの迷惑になるだろう。」

 

あれから食事を摂って、住む場所を探したが、なかなかいい場所が見つからず、結局斑鳩宮の端に竪穴式住居を造る事にした。藍染さんは木材調達で此処には居ないが、そろそろ帰って来るだろう。

 

「木の棒だけで穴掘りシンドイー!」

 

「いいから手を動かせ。」

 

「そこの者。」

 

振り返ると、そこには周りの人よりも少し豪華な装飾の施された紫の着物を着た男性と付き人であろう緑の着物を着た男性が訝しそうな目でこちらを見ていた。誰だろうか?

 

「はい。私達に何か御用でしょうか?」

 

すると、紫の着物を着た人が前に出て来た。

 

「単刀直入に聞きます。あなた方は何者ですか?人間ですか?」

 

ん?人間?

 

何を言っているんだこの人は?

 

「........質問の意味がわからないのですが。私達はただの旅人で、先程この都に到着したばかりです。」

 

「嘘を吐かないでください。あなた方の霊力はただの人間が持つには大きい。それにその服装。ただの旅人の服装ではありませんね。それに帯刀までしているではありませんか。」

 

確かに俺達の服装、死覇装はそこらを歩いている人達よりも遥かに良い生地で出来ている。サクラが何か言いたそうにしているが、こいつに話させると場がよりかき乱されるかもしれない。俺は目線でサクラを抑える。

 

そこを突っ込まれると何も返せないな。

 

「まさか、他国の密偵ですか?」

 

俺が返答できずにいると、とうとう腰に提げている剣を抜こうとする。

 

「おや?これは何の騒ぎかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

霊力を辿ると、そこには黒衣の男女2人の子供が穴を掘っていた。

 

家を建てようとしているのだろうか?

 

私が感知した存在とはどうやら違うようだ。『欲』が聞こえる。さっきのは勘違い?

 

「そこの者。」

 

声をかけると2人が振り向く。

 

「はい。私達に何か御用でしょうか?」

 

おや。思ったより丁寧な返しだな。傲慢な妖怪の類いでは無さそうだ。だが、これ程の力を持つ二人組がただの旅人な訳が無い。

 

「嘘を吐かないでください。あなた方の霊力はただの人間が持つには大きい。それにその服装。ただの旅人の服装ではありませんね。それに帯刀までしているではありませんか。」

 

私がそう言えば、2人は顔をしかめた。

 

どうやら、ただの旅人と言うわけでは無さそうだな。だが人間であるのは確か。なら、この服装は何だ?他国の者か?いや、旅人を名乗っているのだ。当たり前か......なら、

 

「まさか、他国の密偵ですか?」

 

私は腰に提げている宝剣に手をかけて、語気を強めて問いかける。

 

2人の内の男性に焦りの気配を感じた瞬間。

 

 

「おや?これは何の騒ぎかな?」

 

 

軽やかな声質が私の背後から聞こえた。振り返ると、目元によくわからない物を着けていて、白い着物に人当たりの良さそうな雰囲気の男が立っていた。背はかなり大きいな。それに運んでいるのは丸太か。

 

「藍染さん、すいません。要らぬ騒ぎを起こしてしまって。」

 

「いや、構わないよ。僕が対応しよう。」

 

背の高い男がこちらに近づいて来る。

 

「すいません。彼らが粗相してしまったようですね。僕が彼らの保護者です。僕の名前は藍染惣右介です。西からやって参りました旅人です。失礼ですが、御二人のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

ふむ。かなり丁寧だな。と言うより、着ている着物の質からしてもかなりの教養を身につけている人物だな。しかも、私や屠自古の冠を確認して話してきている。

 

だが、まだ妖怪の可能性は否定できない。目の前の男は霊力を感じないが、『欲』が聞こえないのだ。

 

私にとってはその事の方がよっぽど問題だ。どうやら『欲』の聞こえない霊力元はこいつだったか。

 

「いいでしょう。私は豊聡耳神子。こちらは蘇我屠自古。我々はこの国の政に携わっている人間です。」

 

私が自己紹介すると藍染と言う男の目の色が変わった。

 

「おお。貴方が大和国の聖徳太子様でしたか!」

 

「おい!太子様の名前を軽々しく口にするな!」

 

そう、この国では、皇族に対しては名前を呼ぶ事は無礼で、天皇は陛下と呼ばなければならなかった。

 

「屠自古。他所の人間がこの国の仕来りを知っている筈がないでしょう。」

 

「しかし、太子様。この者は、太子様の御名前を...。」

 

「いいのです、屠自古。」

 

「これは、失礼しました。自分の無知を恥じるばかりです。」

 

無知を恥じるか.....。本当かどうか怪しいな。実際、最初の時に私達の冠を確認している。

 

「貴方もこれ以上、謝る必要はありません。話が逸れましたね。あなた方がこの国に来た理由を教えてください。」

 

「僕達は、村を妖怪に襲われたり、国が滅んで行き場を失った3人が集まって安住の地を探して、旅をして来ました。旅の途中でこの大和国は政治が安定しており、そこの太子様が民の為の政治をなさっていると言う噂を聞きつけてやって来ました。」

 

なるほど。それが本当であるならば、私としても受け入れに反対するはずもない。だが、懸念事項が無くなった訳ではない。

 

「そうですか。では、もう1つ質問します。後ろの2人から強力な霊力を感じます。妖怪が化けている、あるいは他国の密偵の可能性があります。それはどう説明しますか?」

 

「僕が彼らに手解きしました。その影響かと思います。」

 

即答か。だが、こいつからは霊力を感じない筈だが。

 

「貴方からは霊力を感じませんが、それで彼らに教鞭を取れるのですか?」

 

「それは僕が霊力を抑えているからですよ。彼らにはまだ教えていない技術ですね。」

 

................。

 

「いいでしょう。我々はこれで引き上げます。そちらがひと段落したら、一番高い塔に来てください。もちろん3人でお願いします。」

 

「わかりました。今日中にお伺いします。」

 

「いいのですか、太子様?」

 

「ええ。屠自古、行きますよ。」

 

終始、和かな表情を崩さなかったな。

 

「あんなに簡単に見逃して大丈夫なのですか?」

 

屠自古が少し驚いた表情でこちらを見てきた。

 

正直、私もなぜあれ程簡単に見逃してしまったのかと自分の行動に内心驚いていた。

 

私は自分の行動を分析する。

 

私は普段から、能力で『欲』を聞いている。聞き慣れている『欲』だが人間、妖怪問わず『欲』が聞こえない相手など初めての事だ。私にとっては、大妖怪や神よりもその事の方が脅威なのだ。物欲、性欲、飲食欲、名誉欲、睡眠欲、自尊心、闘争本能、保身欲、生への執着、死への羨望。何も聞こえない。この男は何を思って今を生きているのだ?この男を見ていると、深い深淵を覗いている様な、底知れなさを感じていた。

 

だが不思議と私は別段取り乱す事なく対応できた。そして、私は藍染惣右介という男を観察していた。私が注目したのは瞳だ。

 

笑っていないのだ。表情は笑っているが、眼が笑っていない。それは私達を見る目だけでなく、彼が保護している2人に対して向ける眼差しにもだ。まるで全てを平等に無価値であると言っているかのような眼だ。生への執着も死への羨望も無いのだから、当たり前なのかもしれないが.........。

 

なら、彼はどうして2人を保護する?なぜ、私達に笑顔を見せる?全てが無価値ならそんなことを行うのに意味など無いのに。

 

その考えに行き着いた時に、同時に私自身の行動にも納得がいった。

 

 

ーーああ、そうか。ようやく、見つけた。対等の存在。彼と私は同類なのだ。ーー

 

 

おそらく、彼も産まれた時から突出した力を持っていて、それを理解してくれる対等の存在を探していたんだ。でも、それを諦めたが故に今の生きているのか、死んでいるのかわからない心に成り果てたのだ。

 

彼の姿は未来の私が行き着く可能性。だからこそ、私は彼に興味を持ち、呼び出す様な真似をしたのだ。『欲』が聞こえ無くても、恐怖を抱かなかったのは、本能で彼が同類だと思ったからなのかもしれない。

 

「どうかしましたか、屠自古?」

 

「いえ、太子様はいつも凛々しい顔なのに、笑っておられるのが、珍しいなと思いまして。」

 

「...........そうですか。」

 

「何かいい政策を考えていらっしゃるのですか?」

 

「まあ、その様なものです。」

 

なるほど、どうやら私は彼との出会いに期待を抱いている様だ。

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