「ねぇー、藍染さん〜。さっきの人達誰だったの〜?」
「彼らはこの国の政治家だよ。緑の着物を着た女性は蘇我屠自古。この国の根幹を成す、豪族蘇我氏だ。紫の着物を纏っていた男性は、豊聡耳神子。政に携わる時の名は、聖徳太子だ。摂政と言う地位に就いていて、天皇陛下の補佐をしている。いわば、この国の2番目の権力者だ。そんな権力者が自ら剣を抜くなんて、普通は無い。だから、あれはハッタリで動揺してはいけないよ。」
「そうだったのですか.........。すいません、まだまだ、甘い様ですね。」
「ハハー!レンが怒られてる〜。」
「サクラ、このやろう!」
「まあまあ、2人共落ち着いて。次に活かせればいいじゃないか。」
「.......ありがとうございます。.........話が逸れましたが、そのような人物がなぜ俺達の元に来たのでしょう?」
「さあ、僕にもわからないよ。だけど、その様な人に呼び出されたんだ。行かない訳にもいかかないだろう。」
まあ、おそらくはレン君とサクラ君の霊圧を辿って来たんだろうけど。
為政者と侮っていたが、あの霊圧。2人共かなりの実力者だ。あの抜刀も本当にされていれば、一大事になったに違いない。本来、上に立ち、政治を行う者に戦闘力の高い者は殆どいない。彼女は例外という訳か。
それにあの耳当て。前世の記憶など600年の月日で殆ど磨耗したが、微かに残った記憶に符合するものがある。確かヘッドフォンという音楽を聞く道具だったが、なぜこの時代に存在するのか?まあ、僕の眼鏡も時代に合わない物だけどね。
僕達は斑鳩宮の一番高い塔、五重の塔にやって来た。
「ほえー、滅茶苦茶大きい〜。」
「何を馬鹿な顔をしている。これからこの国の統治者に会うのだぞ。しっかりしろ。」
「はーい。」
ふと、強大な3つの霊圧を感じた。
「来たよ。2人共も粗相のない様にね。」
「はい!」
「はーい。」
遠くから3人が近付いて来るのがわかる。
先程の2人と更に銀髪で白い着物を着た女性がいる。
「........ほう。」
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ。」
確か、あれは物部布都。蘇我氏と仏教を巡って政争し、死んだはずの人間だが。
「お待たせしました。ようこそ、大和へ。」
「手厚いお出迎え、ありがとうございます。」
「改めて、私は豊聡耳神子。この国の政争に関わる者です。」
聖徳太子が再び名乗りをあげると、後ろに控えていた銀髪の女性が前に出て来る。
「我は物部布都!太子様の一番の僕であるぞ!ひれ伏すがいい!」
無駄に胸を張る物部布都。
どことなく、サクラ君に似ている感じだね。
すると、蘇我屠自古が物部布都に近づき、
「ふぎゃっ」
頭をど突いた。
「てめー!布都!一番の僕は私だぞ!何勝手な事を抜かしている!」
「何をするのじゃ屠自古!我の頭がお主の様な馬鹿になったらどうする!」
「お前は元々、馬鹿だろう!」
「我は馬鹿では無いわ!......まさかお主、我が羨ましいのじゃろ?太子様の一番の僕の座にいる我が羨ましいのじゃろ?」
「2人共、客人の前です。慎みなさい。」
豊聡耳神子の声に我に返った2人は気まずそうに顔を背ける。
「........私は蘇我屠自古だ。」
「部下が失礼しました。」
「いえ、お気になさらず。」
「あなた方が何を望んでいるかは、わかっているつもりです。ですから、これからその事について話しましょう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なるほど、ある程度予想はついていました。.....いいでしょう。そこの2人をこの国に定住する事を認めます。」
「いいのですか。そんなにあっさり認めてしまって。」
「ええ、彼らは大丈夫ですよ。私が保証します。」
今、僕たちは斑鳩宮の寝殿に来ている。そこで僕達がこの国に住みたい旨を話せば、あっさりと認められた。
いくら国のトップでもなぜそこまで確信を持てるのだろうか?
側近の2人も特に口を出さないから、思わず問いかけてしまったが、簡単に返された。
「ただし、この国に住むからにはこの国の方針に従ってもらいます。主に税を納めてもらいます。それと必要あらば、徴兵にも参加していただきます。それと、藍染惣右介。貴方には我々の政治の手伝いをしてもらいます。」
......................?
ん?
今、なんて言った?僕が政治に参加?2人が税を納めるのは、まだわかるけど、なぜ僕が政治の手伝いをする事が条件になる?
「.......なぜ、僕が政治を手伝うのですか?」
「従えないのなら、別に構いません。あくまで条件です。この意味がわかりますよね?」
.........................
「はあ、わかりました。」
「布都、屠自古。私はこれから彼と話の続きをします。あなた達は2人の案内をお願いします。」
「「はい。」」
「いいのですか、藍染さん?」
「ああ、構わないよ。僕も太子様とお話しておくから、君達は布都様と屠自古様の付いていくといい。」
「わかりました〜。」
「ではサクラ殿。我について来るのじゃ。」
「レン殿は私について来てください。」
そのまま、サクラ君は布都様。レン君は屠自古様に連れてもらって行った。
結果、この場には僕と太子様だけが残った。
「.........では、太子様。お話とは一体何の事でしょう?」
「...............」
僕が問いかけても、太子様は目を細めてこちらを見つめるばかり。
それに、雰囲気も変わったか。
「あの「敬語は必要ありませんよ。」....。」
「しかし「何故なら」...。」
「お前が私に敬意など微塵も持ち合わせてなど無いからだ。」
「.................」
「.................」
「.......なるほど。」
「お前は最初から全て平等だった。街の人間、布都、屠自古、そして私。誰に対しても平等に無価値だとそういう眼をしていた。」
「.......面白いね。それで、どうする?不敬罪で僕を処断するのかい?」
僕の問いかけに豊聡耳神子は、不敵な笑みを浮かべる。
「まさか。だからこそ、お前には私の元で働いて貰いたい。」
「.............」
「.............」
「........ふっ。」
「.............」
「いいだろう。僕も君に興味が湧いたよ、豊聡耳神子。だから、僕も君に1つ言及しておこう。」
「............」
「性別を偽るのは疲れるだろう、豊聡耳神子?」
「なっ!」
「だから、君も僕の前では楽にするといい。」
「.......いつから気が付いていたんだ?」
「最初からだよ。初めて目にした時から、君が女性である事はわかった。しかし、素晴らしい演技だったよ。容姿や振る舞い、声色まで完璧に演技だった。」
「.............クックック。今まで布都と屠自古には明かしているが、気が付かれたのは初めてだ。ましてや最初からなど...............ふふふ。」
「実に嬉しそうだね。」
「....ああ。私はお前を気に入った。やはり、私の目に狂いはなかった。」
「そうかい。だが残念だな。君に僕を理解する事など不可能だよ。」
「なぜそう思う?」
「当たり前の話だよ。同じ人間でない者がその人間を理解などできやしない。たとえ心を読む事が出来たとしてもだ。価値観や感性は人それぞれだ。理解できたと思ってもそれはお互いが理解できたと錯覚しているに過ぎない。」
「ククク、それはどうかな?」
「...........」
「それはただの人間での話だろう。我々は違うかもしれないぞ。」
突然、豊聡耳神子は懐から透明の玉を取り出した。
「それは?」
「これは大陸の大国、『隋』から私の部下が持ち帰ってきた物だ。名前は水晶という。」
「なるほど、大陸の物か。この国では見かけない物か。」
「あまり驚かないのだな。まあ、予想通りの反応だな。.......まあいい。お前も察しているだろうが、私は特異な力を扱う事ができる。まだまだ修行中の身ではあるがな。」
彼女は水晶に手をかざす。すると、水晶は白い光を放ち出す。
「これは仙力と言って、霊力や妖力のようなものだ。」
「なるほど、面白いね。仙力は僕も初めて見る力だ。」
「この話は後で話そうか。それより、この水晶をよく見てみろ。」
僕は豊聡耳神子の言葉に従って光り輝く水晶を見た。
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「凄いですね。俺は今まで旅の中で様々な村や国を見てきたが、ここまで発展し整備されている国は初めてだ。」
「お褒めの言葉ありがとうございます。この国の歴史は長い。今まで積み上げてきた先人の業績、民の献身、そして太子様の治政がこの国を作り上げているのです。」
実際、ここまで完成された国もないだろう。俺が暮らしていた村も村長と大人達が集まって話し合いをするぐらいだった。この国の様な政治家という人達は俺は初めて見た。
藍染さんはかなり丁寧に接していたが、俺にとっては、なぜそこまで畏るのかわからない。だけど、藍染さんの迷惑をかける訳にもいかないから、同じ様に会話している。
「太子様のお話は、街の人間も話していました。この国の歴史上、類を見ない聖人君子だと。」
「ええ、この国の誇りです。あの方の補佐をできる私は実に恵まれている。」
「本当に尊敬なされているのですね。」
「それは、貴方も同じでしょう。見た所、あの藍染惣右介という男に心酔している様に見えます。」
当然だ。俺の命を救い、村の皆を供ってもらい、仇をとってもらい、俺の進む道を示してくださったお方だ。
藍染さんは、俺達が自立するまでは側にいるとおっしゃられた。もう、その条件を満たしている。そして、住む場所も提供してくださった。おそらく、ここでお別れになるだろう。俺としては、藍染さんに恩を返してから別れたいが、藍染さんの重荷になるのも勘弁したい。藍染さんはこの国の政治の手伝いをするそうだが、あの方にとっては道草を食う様なものだろう。
「おっしゃる通りです。俺にとっても藍染さんは俺の全てに等しき重みがあります。」
「.............そうですか。」
突如、屠自古さんの霊圧が跳ね上がるのを感じた。
「.......ですが、私は貴方達の事はほとんど知りません。貴方も藍染惣右介も信用はしていない。」
屠自古さんの周りを黄色い閃光が迸る。
「さあ、剣を抜いてください。........そして、貴方の全てを私に見せてください。私も全力で私の全てを見せましょう。」
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「お主なかなか面白い体験をしておるのう。」
「えへへ〜。それほどでもないですよ〜。あ!そうそう。面白い話と言えば、この前熊を狩っている時に、レンが剣を振るう顔がドヤ顔でムカつくから、落とし穴を掘って落としてやったんです。ドヤ顔で落とし穴に落ちるレンはとても面白かったですね!」
「ハッハハハハ!今度屠自古にやってやろう!..........それにしてもお主らは仲が良いのだな。」
「そう言う布都様には面白い話はないのですか〜?」
「我か?そうじゃのう〜............お!いい話があったわ!」
「.....どんな話ですか?」
私は待ちきれないと言わんばかりに、布都様の話を聞く。
「ある時、我は暇じゃったから屠自古に悪戯をしたんじゃ。彼女が腰掛ける茣蓙に我の術で熱した釈を仕掛けたんじゃ。何も知らない屠自古は思いっきり座ってな。絶叫をあげて走り回っとたわ!」
「布都様も屠自古様と仲が良ろしいのですね!」
「ハッハハハハ!我々は太子様を共に支える臣下じゃからのう。」
隣で布都様が笑う。とても優しい表情だ。きっと、心では信頼し合っているのだろう。
ただ、
目は笑っていなかったが。
「..................」
「どうしたのじゃ?」
「いえ、なんでもありませんよ〜。........あ、そう言えば、あの塔の....」
私は話題を変えようと、適当に高い塔を指差そうと背中を向けた瞬間殺気を感じ、咄嗟に屈む。
直後、私の頭上を灼熱の何かが通り過ぎる。
「おっとっと、すまんのう。手が滑ってもうたわ。」
振り返ると、炎を纏った右手の手刀をヒラヒラと揺らす布都様がいた。顔は底抜けの笑顔だが。
「そうですか〜。手が滑ったのなら仕方ないですよねっ!」
私は布都様に近付き、話しながら刀を抜き放った。
だが、布都様も屈んで躱す。
「あれ〜?手が滑ってしまいました。申し訳ありませーん。」
「そうか、そうか。手が滑ったのなら仕方ないのう〜。」
「......フフフフフ。」
「......えへへへへ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レンは走る。全力で。
飛来してくる雷の矢を躱し、肉薄する。
走って来た速力を活かして、刀を横薙ぎに振るうが屠自古も後ろに後退する事で躱す。
「はあ、はあ、はあ、」
「おい、おい。どうしたー?もう限界か?」
少し小高い丘に膝に肘を乗せ、頬杖をつく屠自古。
(クソ!性格変わり過ぎだろ!こっちが本性か?)
はじめの丁寧な物腰柔らかな態度はなりを潜め、荒々しい奇声と鬼の形相を浮かべながら、雷の矢の弾幕を放つ。
レンは、その圧倒的な弾幕の物量に翻弄されていた。
(不味いな。俺たちの力試しが目的ならサクラも攻撃されているだろうな。早く駆けつけないと!)
「ふん!所詮、あんたの藍染に対する忠誠心もあんたの自身の理想もその程度って事なんだな。」
プチン
その言葉を聞いた瞬間、レンは己の中の決定的な何かがキレたような気がした。
レンはジグザグに走る。急に動きを変えたレンに屠自古の反応が遅れる。
「なっ!」
レンの駆け抜けて地面に雷の矢が刺さっていく。
(俺は藍染さんに救われて、憧れて。あの人の様に誰かを助けられる人になりたいと思い修行して来た。いざ何人かを助ける事ができたとき、俺は少し浮かれていた。そんな俺に藍染さんは「いずれ救えない経験もするだろう」と言っていた。そんな俺が初めて、間に合わなかったのがサクラだ。俺が助けに駆けつけた時には既にボロボロだった。.............悔しかった。だから、彼女は絶対に護ると誓ったんだ!)
レンは更に加速していき、弾丸の如く鋭さをもって、突きを放つ。
しかし、
「食らうかよ!」
「ぐっ!」
弾丸と化したレンの突きを屠自古は上半身をそらす事で避ける。そのまま勢い良く、レンの腹部を蹴り上げる。
上空の打ち上げられたレンはすぐに悟る。
(不味い!上空だと身動きが取れない。すぐに蜂の巣だ。)
危機を察知したレンはすぐに行動する。
「破道の十一 綴雷電!」
鬼道で電気を帯びた刀を屠自古に向けて投げる。
それを見た屠自古は、落胆の表情を浮かべる。
「っち。単なる悪足掻きかよ。」
屠自古は首を傾ける。そのまま刀は通過する。
「空中だと逃げれないだろ。」
すでに刀は眼中にないらしく、雷の弾丸の準備にかかっている。
「終わりだ!」
屠自古の背後に波紋が広がり、雷の矢が顔を覗かせる。
しかし、
「ぐわぁ!」
屠自古の体に突如、激痛が走る。集中が乱れたことにより雷の矢は発射されることは無かった。
(なんだこの痛みは.........。まさか....)
屠自古はこの体の自由を奪うような痛みを知っていた。なぜなら普段良く使い、今も使用している電撃の痛みだからである。彼女の視線の先には、先程レンが投げた刀。
綴雷電。物資を媒介に敵に電撃を浴びせる鬼道。綴雷電を纏った刀は地面を媒介に屠自古に電撃を浴びせた。
痺れて動けない屠自古を確認したレンは、更に畳み掛ける。
「縛道の四 這縄!」
霊圧でできた黄色の縄が屠自古を縛る。
「クソ!」
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」
もがく屠自古に掌を向ける。
「破道の三十三 蒼火墜!」
掌から、青白い炎が噴き出す。そのまま青白い火の玉は屠自古に直撃する。
「グワァ!」
レンは爆発を視界に捉えつつ、着地する。
(ふう。なんとかなったか。相手の油断に助けられたな。)
レンは爆発の煙の中心に歩を進める。
レンは、自身の放てる最強の鬼道が蒼火墜だ。しかも、完全詠唱で放った蒼火墜。これを受けて、倒れなかった者は居なかった。
そして、自身のピンチを切り抜けての逆転に安堵していた。
だから油断していた。煙の隙間から、屠自古が極大の雷の矢を構えていた事に気が付かない。
「!?」
レンは、急激に上昇する霊圧に驚き、体を硬直させる。
だが、それは下策。
屠自古はそんな隙を見逃してくれる程甘くは無い。
「怨霊『入鹿の雷』」
屠自古の奥義が放たれる。
「くっ! 縛道の三十九 円閘扇!」
咄嗟に霊圧の真円の黄色い盾を作る。
パリィン
しかし、極大の雷の矢は円閘扇を呆気なく貫いた。それを見たレンは意識を手放した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鮮血が舞う。
地面が砕ける。
舞い上がった礫を火球が砕く。
立ち込める土煙は斬撃に払われる。
吹き荒れる熱風が全てを焦がす。
そんな地獄の中心で激しい攻防を繰り広げる布都とサクラ。
光の矢と火球が、サクラに襲いかかる。それを自分に当たるものだけを刀で弾いて斬りかかっていた。
「ハッハハハッハハハハッハ!」
「アハハッハハハハハハハハハ!」
刀が掠る度に鮮血が舞い、火球が掠る度に焼け焦げ、変色する肌を露わにしていた。
「はあ!」
布都が火球を放つ。サクラはそれを簡単に避けるが、
「うわっ!」
急に背中に痛みを感じて振り返ると、いつの間にか皿があった。
(いつの間に.........。多分あれに反射したのかな?)
背中は想像を絶する痛みを訴えかけるが、そんな事は関係ないかのようにサクラは狂気的な笑顔を浮かべる。
「にししし...。布都様って、屠自古様が言う程馬鹿じゃないんですね。寧ろ馬鹿なフリをした策士ですかね〜。」
「そういうお主は、猪突猛進だのう。」
「いやあ、こんなに楽しいのは久しぶりだったから。」
サクラの顔は紅潮し、熱を帯びたようにうっとりとした表情を浮かべた。
「ふふふ、我とお主は相性が良いかも知れんのう。」
「そうかもしれませんね〜。縛道の二十一 赤煙遁」
赤い煙幕が辺りを覆う。
急に視界が奪われて動きが止まるが、すぐに火球を爆発させて煙幕を払おうとする。
「破道の三十二 黄火閃」
突如、黄色い閃光が飛来し、布都に直撃する。
「グッ!」
「破道の三十二 黄火閃」
2発目は皿を盾にして、受け止める。そのまま小規模の竜巻を起こして、煙幕を払う。
「どう?私も突っ込む以外の戦いもできるんですよ!」
「今のは良く効いたぞ。」
黄火閃をもろに受けて、よろめく布都。
「それにしても面白い術を使うのうお主。」
「えへへへへへ、これ鬼道って言うんです。藍染さんに教えてもらいました〜。」
「ほう、藍染殿が。我も興味が湧いたぞ。」
「それで屠自古様に復讐するんですか?」
その一言。それだけで、灼熱の戦場の空気が一気に氷点下にまで下げられたかのように凍り付いた。
布都は先程まで浮かべてた狂気的な笑顔も消え失せ、能面のような無表情になっていた。
「ふふふふふふふふ。あれ〜?気が付いていないとでも思っていたんですか〜?屠自古様の話をしている時は、目が一切笑ってないんですよ〜。」
「......................」
「お二人の間に〜。何があるのか知らないけど、太子様を取り合って仲が悪いって訳じゃ無いよね〜♪」
「..........ふふふふふふふふふふふふふふ。」
「知りたいな〜♪ どうしたらそんな目ができるようになるんだろう〜♪ねー「.............コロス」....!?」
サクラの言葉は、布都が放った光の矢に遮られる。
頬を掠め、血が噴き出す。それを手で押さえながら嗤う。
「えへへ。いいねぇ〜。楽しいよ!.....私はね〜。敵の尊厳を踏み躙って、血肉の一片も残さず惨たらしく、粉々に蹂躙するのが大好きなの!..........だってね、」
怪しく嗤っていたサクラの表情が真剣な色を帯びる。
「敵は殺す。そんなの当たり前だよね。なんでみんな敵に情けをかけたりするのかな?意味がわからないよ。.........私は藍染さんに、レンに助けられた。私は藍染さんが大好き。レンを愛してる。だから、私達を脅かすものは何であろうと敵。絶対に許さない。」
「我は太子様に救われた身。太子様の為に奉仕することこそ我の使命。屠自古は我の一族を、父上と母上を殺した一族、蘇我家じゃ。太子様の為とわかっているのじゃが、それでも我は屠自古が憎い。今すぐこの手で八つ裂きにしてやりたい程。」
今度は布都が嗤いだす。
「ふふふふふふふふふ。馬鹿な屠自古じゃ。彼奴は我を太子様の共をする同士と思っておる。他人の両親を殺しておいて、良くそんな呑気な事を思えるものじゃ。」
(そして、あの邪仙も必ず殺してやる。)
「ふーん。そんな事、どうでもいいよ。布都様はここで殺すんだからね♪」
2人は向かいあい笑う。だが、その瞳は鉄を溶かしたようなドロドロで灼熱の漆黒の炎が揺らめいている。
「エヘヘヘヘへへへへ」
「フフフフフフフフフ」
サクラが駆ける。それを見た布都も仕掛ける。
「炎符『廃仏の炎風』」
「破道の四 白雷」
自身に降りかかる炎の壁を無視して、サクラは白雷を放つ。白雷は布都の左太腿を貫通し、布都はよろめく。
それを見たサクラは体を焦がす炎を気にもせずに、布都に向かって走る。
炎の壁を抜けたサクラは全身に火傷を負い。赤く爛れた皮膚を晒しながら、更に加速した。
布都もサクラに向かって光の矢と火球を放つが、猫の様な体捌きで躱し、勢いのまま刀を左下から右上へ斬り上げる。
刀は布都の身体を斬り裂き、血の雨を降らせる。布都は倒れかけるが右脚で踏ん張り、サクラの襟元を掴み背負い投げをする。
「ガァッ!」
そのまま、倒れたサクラの左腕に向かって右足で力の限り踏みつける。
ボキッ
耳に響く嫌な音を立てて、サクラの左腕はあらぬ方向へ折れる。
間髪入れずに掌をサクラの顔に向けて火球を放つ。
「ガアアアアア!」
サクラは首を右に曲げて躱す。爆発で粉塵が舞うが気にせず、今度はサクラが布都の顔に向かって人差し指を向ける。
「アアアアアアアアアアアア!破道の四 白雷!」
布都も首を右に曲げて、白い閃光を避けるが掠り、頬から血が流れる。そのまま白雷を乱れ打ちする。
「アアアアア!白雷!白雷!白雷!白雷!」
速度と貫通力に優れている白雷を反射神経で避けるのは限界がある。布都は堪らず、サクラから距離を取る。
解放されたサクラは刀を手に取り、立ち上がる。
「エヘヘヘヘ......」
「ふふふふふ......」
右頰の裂傷、全身火傷に左腕骨折。
左太腿に風穴、胴体を真っ二つにせんばかりの大きな刀傷。
「ハハッハハハハハハハハッハハハ!」
「ハハハハハハハハハッハハハハハ!」
どちらも死んでおかしくない傷を負いながら、しかし嗤っていた。
「ガアアアアア!」
「ハアアアアア!」
まるで獣の咆哮を思わせる叫び声をあげて、2人は飛びかかる。必殺の意思を込めて。
振り上げた刀が、握りしめた炎の拳が炸裂する瞬間。
「やめんか!布都!目的を忘れたのか!」
屠自古の怒鳴り声で2人の動きが止まる。
その隙にレンが2人の間に入り込み、2人の顔に掌をかざす。
その瞬間、2人は意識を失い、布都は屠自古にサクラはレンに受け止められた。
「今のは?」
「白伏と言って、相手を一時的に昏睡状態にする術です。」
「なるほど、素晴らしい手並みですね。」
「ありがとうございます。ですが、早く2人を連れ帰りましょう。どちらも重傷です。」
「ええ、わかったわ。」
こうして2人の力試しは終わった。