東方霊術伝   作:モン太

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コトノハ

「面白いね。その水晶は遠くを見る事が出来るのか。」

 

「そうだ。これが私の治世の手助けになっている。」

 

今僕の目の前には、レン君とサクラ君の戦いの様子が映し出されていた水晶がある。

 

「これで一応の力量は測れたな。やはり布都と屠自古が勝ったな。」

 

豊聡耳神子はニヤリと笑い僕を見てくる。

 

「ああ。2人の実力はまだ、布都様にも屠自古様にも及ばないからね。今回は、相手の油断を突いた機転を利かせた戦い方と相手を揺さぶる事で対等な戦いができていただけだからね。」

 

特にサクラ君は、あの精神性からしても相手と真っ向からぶつかる戦いで脅威の攻撃性と耐久性を発揮する。格上の相手でも喰らい付く事ができる。

 

サクラ君は非常にわかりやすいが、レン君の精神性もかなり異常だ。誰かを護る為ならば、どこまでも冷徹な判断を下せる。どんな状況でも理性的に行動できる。絶対に理性を失わないなんて、普通ではありえない。だが、レン君にはそれができてしまう。それはある意味僕が彼に植え付けてしまった強迫観念だ。今回は力試しだったから良かったが、本当にサクラ君の命が狙われている状況だと更に力を発揮していただろう。

 

「クックック。もう少し、自分の弟子を持ち上げてあげたらどうだ?随分と冷たい師匠だな。」

 

「ただの事実を言ったまでだよ。僕が彼らを慰めて、それで力をより発揮できるのであればその様に声をかけるだけだよ。」

 

「どこまで冷めた奴だな。」

 

「そう言う君も酷い上司じゃないか。」

 

「まあな。布都と屠自古の問題は私が蒔いた種でありながら、彼女達の気持ちを知らぬふりをして、体良く利用しているからな。特に布都には、辛い想いをさせている自覚はある。まあ、碌な死に方はせんだろうな。」

 

「不安なのかい?」

 

「さあ?どうだろうな。」

 

憂いを浮かべた目を細める豊聡耳神子。僕はなんとなくそんな表情は彼女には似合わないと思った。

 

「そういえば、まだこの部屋に誰かいる様だね。」

 

「ああ、そうだな。まだ紹介していない者が居たな。出てこい。」

 

豊聡耳神子が呼ぶと、壁に丸い穴が開く。そこから、青い髪の女性が現れた。

 

「うふふふ、初めまして。霍青娥と申しますわ。豊聡耳様の僕の一人です。」

 

「彼女が私に道を教えている師匠兼配下の仙人だ。」

 

「僕は藍染惣右介。よろしくね。」

 

一目見てわかる。この仙人の強大な力に戦慄する。

 

素晴らしい霊圧だ。間違いなく、今の僕や豊聡耳神子よりも力が上だね。

 

軽く挨拶をすると、霍青娥が目を細めて詰め寄ってくる。

 

「ねえ、貴方は不老不死に興味はないかしら?」

 

「いきなりどうしたんだい?」

 

「私は不老不死になる方法を持っているの。貴方を一目見た時から気に入ったわ。豊聡耳様にも劣らない力。是非貴方にも道教を信仰してみないかしら?」

 

彼女はまるで新しい玩具を与えられた子供の様にはしゃいでいた。

 

「ふむ。」

 

なるほど。彼女はただ僕を気に入って取り入ろうとしているだけか。仙人と言ったが随分と子供っぽい理屈で動く人物らしい。

 

隣を見ると豊聡耳神子も期待の眼差しで僕を見ていた。ただ彼女は霍青娥とは違った、まるで縋り付くかのような視線だ。

 

「君は僕が不老不死に興味を抱く様な人間に見えるかい?」

 

「ふふふ。見えないわね。......残念だわぁ。」

 

そう言う彼女の雰囲気は全然残念がっている様には見えなかった。

 

逆に隣の豊聡耳神子の方が残念そうな空気を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何とかこの国で暮らしていく地盤は整ったね。これからは会う事も減るだろう。だから二人でしっかり協力し合うんだよ。」

 

「はい。今までありがとうございました。」

 

「もう君達は、己の力で生きていける。僕の教えを糧にしっかりと生きていける。」

 

「うわあああん。藍染さん、嫌だよー!」

 

「ふふふ、サクラ君。大丈夫だよ。僕は暫くはこの国の政治のお手伝いがあるからね。全く会わなくなる訳じゃないよ。」

 

僕はレン君とサクラ君の家に来ている。あれから数日。2人の力試しが落ち着いて、家まで送る事にした。そこで当初の予定通りに2人と別れる事にした。

 

レン君は目に涙を溜めながら、気丈に振る舞って居た。サクラ君は普段の明るい笑顔を泣き顔でぐしゃぐしゃにしていた。

 

これだけ慕われていたんだ。僕は本当に幸せ者だろう。

 

2人と旅をした数年は実に楽しかった。僕の600年の孤独と虚無感に空いた心の穴を暖かく包み込んでくれた。

 

「こちらこそありがとう。僕は君達を弟子に持てて本当に良かったよ。」

 

僕は2人を抱きしめる。

 

「!?」

 

「わわっ!」

 

レン君は驚きで体を硬直させる。サクラ君は顔を赤くしてオロオロと身悶える。

 

2人の反応に思わず笑みがこぼれる。

 

「じゃあ、僕は行くよ。」

 

「「はい。さようなら。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「別れは済んだようだな。」

 

「ああ。僕はいい弟子を持ったものだよ。」

 

レン君とサクラ君に別れを告げて、現在は豊聡耳神子の住んでいる屋敷の客間で白湯を飲みながら、雑談していた。

 

「っふ。白々しいな。あれだけ涙を流している弟子達に対して、涙一つ流さないお前が本気でそんな事を思っているのか?」

 

「僕は彼等を信頼しているからね。何せ僕が育てた自慢の弟子だからね。」

 

「違うな。お前はただ自分が必要とされる、頼られる事に快感を得ようとしているだけだ。ただの子供の遊びだ。」

 

「.............そう言えば、君は欲が聞こえるんだったね。それで僕の心を読んだわけかい?」

 

「別に能力は使ってなどいない。お前からは欲は聞こえないからな。それに、そんなものを遣わなくてもお前が考えている事などわかるわ。」

 

「っふ。どうやら君は僕をどうしても悪人にしたいようだね。」

 

「私にそんな意図はないさ。お前がそんな綺麗な人間で無いと言っているだけだ。」

 

「そう言う君はどうなんだい?」

 

「布都と屠自古は私の最も信頼する部下だ。もちろん青娥の仙術は素晴らしいものだ。」

 

「君も大概だな。あの2人の確執を知っていながら、放置して愉悦に浸ってる。霍青娥の存在もあの2人を煽る要因になっているのを知りながら、その様を愉しんでいる。」

 

「ついでに仙術の修行をつけてもらってるのだが。」

 

「仙術の修行がついでかい?全く、酷い聖人がいたもんだね。」

 

「ククク。」

 

「ふふふ。」

 

白湯をゆっくりと呷る。

 

ふう〜。

 

どうも彼女と話すと本音がポロポロと溢れてしまうな。

 

弟子の2人との温かな会話は、凍てついた心を溶かしてくれるような心地良さがあった。

 

それに対して、豊聡耳神子との会話は自分の知らない一面を次々と掘り出してくれるような感覚を覚えて、実に楽しい。

 

600年で冷え切った自分が何かに気付かせてくれるとは、思いもしなかったね。

 

「お互い、碌な死に方をしないだろうね。」

 

彼女との会話を楽しんでいた為だろう。いつもならよく口の中で咀嚼し、吟味してから言葉を発するのだが、今回はふと心に浮かんだ事をすぐに口に出していた。

 

「...................」

 

「..............どうしたんだい?」

 

「......いや、なんでもない。」

 

それまで饒舌だった、豊聡耳神子が口を噤んだ。

 

どうしたのかと、聞いても歯切れが悪い回答しか返ってこない。

 

「失礼致します。」

 

僕が疑問を感じていると、簾を開けて召使が入ってくる。手には二つのお皿を持っている。それを僕と豊聡耳神子の前に置く。

 

「失礼しました。」

 

お皿には白い四角い物体が乗っていた。

 

「これは?」

 

「これは、隋から私の部下の小野妹子が持ち帰った食べ物だ。豆腐という名前だ。中々の美味だぞ。お前も食べてみろ。」

 

そう言えば、遥か前世の記憶にそんな食べ物があったような。

 

僕は添えてある箸を手に取って、豆腐に箸を入れる。

 

豆腐は何の抵抗も無く、スッと箸が入る。

 

「随分と柔らかいんだね。」

 

箸で切り分けて、口に運ぶ。

 

その瞬間、思わず目を見開いてしまった。

 

口に入れた瞬間に香る芳醇な香り。あっさりとしていて、でもコクがあって、それでいて全然しつこくない、まろやかな味わい。口に入れただけで溶けてしまいそうな柔らかさ。

 

そのどれもが新鮮だった。

 

いや、思い出したと言うべきか。まさか、600年を経て、前世の食べ物に触れる事ができるとは思わなかった。

 

柄でも無く、僕は興奮していた。たかが豆腐ぐらいで大袈裟に感動していた。

 

「.......とても美味しいね。」

 

「ククク。そんな無邪気な笑顔もできるじゃないか。その顔を見るに気に入ってくれたようだな。」

 

豊聡耳神子も僕の反応に喜んでいるようだ。渾身のドヤ顔をしていた。

 

「ああ、とても気に入ったよ。これは何で出来ているんだい?」

 

「これは、元は大豆で出来ているんだ。だから、こっちでも普通に作る事ができるぞ。」

 

「なるほど、この国でも作れる訳か。」

 

「クク。そんな顔しなくても、また用意してやろうではないか。」

 

おや。顔に出てたかな。

 

でも、ここでの生活での精進料理は味気が無さそうで気が引けてたけど、案外悪くないかもしれない。

 

「失礼致します。」

 

再び召使が入ってきた。そのまま僕達のお皿を回収した。

 

「太子様。間も無くお時間です。準備をお願いします。本日は陛下もお越しになられます。」

 

「わかった。すぐに支度をしよう。」

 

「失礼しました。」

 

召使は出て行く。

 

「聞いての通りだ。私はこれから執務だ。また時間が許せば、今度は茶と言うものを用意しよう。」

 

「そうかい。それは楽しみだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「秦河勝。私の補佐、大変良い働きでしたよ。ありがとうございます。」

 

「こちらこそ、太子様。わたくしは太子様の側近として当たり前の事をしたまでの事。」

 

「いえ、大陸の『隋』の政治の知識はある貴方の存在は私にとって大変大きなものです。」

 

「勿体無き、お言葉。」

 

今日の会議が終わり、廊下を側近と歩く。

 

彼は秦河勝。彼は大陸から渡ってきた渡来人だ。摂政である私の側近として仕えている。布都や屠自古には劣るが、私自身が信頼している人物の1人である。

 

「それで例の件は如何でしょうか?」

 

「六十六の内、六十五が完成しました。あと一つ。じきに渡せるでしょう。」

 

「そうですか。ありがとうございます。太子様のお手製ともあれば、さぞ光明な加護が着く事でしょう。」

 

彼は嬉しそうに頷く。

 

彼は私と同じく、民の為の政治こそが重要と考える政治家だ。考えを同じくする私と馬が合い、こうして側近になった。

 

そんな彼が私に頼み事をしてきたのは、2年前の事。

 

大陸にあった演舞『散楽』。それを民衆向けに披露したいと彼が言った事がきっかけだ。私も『散楽』と言うものを目にしたいと考え、協力する事にした。

 

『では、太子様には六十六の面の制作を御願いします。』

 

ようやく六十五が完成した。あと一つ。希望の面だけだ。

 

そうだ!藍染と一緒に考えてみるか!

 

あいつは色々と冷め切っているが、見識の広さは折り紙つきだ。

 

それにあの透かした顔を驚きの表情に変えてやるのが最近の楽しみになっているしな。

 

「そこまでは責任は持てませんが、気長に待ってください。」

 

「そうですか。近頃は太子様もよく笑われるようになった。きっといい面ができるでしょうな。」

 

よく笑うようになったか..............

 

そうかも知れないな。人と話してこんなに楽しいと感じたのはいつぶりだろうか。

 

最初は能力を使いながら、民の願いを叶えるために会話を大事にしていたし、楽しかった。だけど、私もあいつのようにいつしか冷めていたのかも知れないな。

 

あいつは私との会話を楽しんでくれているだろうか。

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