東方霊術伝   作:モン太

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営み

都の南西の端。そこは中心から遠いため、この都に比較的新しく住みだした者が多くいる場所。中心部から遠いため不便ではあるが、人が少ない故に、一人当たりの敷地の広さはある。

 

僕はその地に足を伸ばした。

 

暫く歩くと、一軒の竪穴住居が見えた。その奥には、田畑が見える。家の前には男女2人が薪割りをしている様子が窺える。

 

僕はその2人に声をかけた。

 

「精が出るね。レン君、サクラ君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「急な訪問申し訳無かったね。」

 

「いえ、俺達も藍染さんの顔を久し振りに見れて嬉しいです。」

 

「藍染さん、お久しぶり!」

 

「2人共元気そうで、僕も嬉しいよ。」

 

別れの挨拶をして、早半年。2人共、少し背が伸びたようだ。

 

レン君は礼儀正しく、サクラ君は元気いっぱいに挨拶してくれた。

 

「それで、今日はどういった御用件で?」

 

「特に用事は無かったんだけど、2人がどうしてるか気になってね。」

 

「見ての通り上手くやれてますよ。これも藍染さんのお陰です。」

 

「私達はいつも通りだよー。」

 

「ここに来るまでは一緒だったけど、今は自分達の力だけで生きているんだ。謙遜する事は無いよ。」

 

周りを見渡す。たった半年しか経っていないが、既に家も完成し、立派な田畑まである。2人しかいないのに随分と早く発展したものだ。

 

「無闇矢鱈に鬼道は使っていないよね?」

 

「................」

 

「えへへ。」

 

2人の反応に思わず、苦笑いしてしまう。

 

「普通の人は霊力を扱えないのだから、余り目立つ様な真似は控えるんだよ。」

 

「す、すいません。」

 

「あ、あははは。」

 

「まあ、少しでも君達の役に立つ様に教えた物だからね。全く使わないのも考えものかね。どうしても使う必要があるなら『曲光』を使って見えなくしてから使うんだよ。」

 

僕は気まずそうに謝る2人を横目に持参して来た物を出す。

 

「新しい死覇装だよ。少し背が伸びた様だからね。僕からの贈り物だよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

「ありがとう、藍染さん!」

 

2人が目を輝かせて、死覇装を手に取る。

 

こうして見ると、やはり弟子は可愛い。ついつい甘やかしてしまうのは仕方ないのではないか。子を持つ親はこんな気持ちなんだろうか。

 

「さて、作業の途中でだったね。僕も手伝うとしようか。」

 

「お願いします。」

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「田植えなんて初めての作業だけど、中々しんどいね。」

 

「ありがとうございます。藍染さんのお陰で早く終わりました。」

 

「いいよ。僕も初めての事で楽しかったからね。」

 

「やっぱり、藍染さんは薪割り上手だね!」

 

「薪割りに上手いも下手も無いだろう。」

 

すっかり日も沈み、夜になった。

 

僕の前には、野菜を鍋に入れて水で炊いた煮物がある。

 

「随分と懐かしい味だ。」

 

「一緒に旅をしていた時を思い出しますね。」

 

「猪を狩ったこともあったね〜。」

 

「そう言えば最近、面白い食べ物に触れたんだ。」

 

「どの様な食べ物なんですか?」

 

「うん。遥か遠い国の食べ物で豆腐と言う食べ物だよ。」

 

「......豆腐ですか。」

 

「白くて柔らかい、まろやかな味がする食べ物だよ。」

 

「それ食べてみたい!」

 

「コラ!お前はまた藍染さんを困らせる気か!」

 

「まあまあ、レン君。いいよ。次来る時は豆腐を持って来るとしよう。」

 

「やったー!ありがとう〜!」

 

「ありがとうございます。」

 

「また、猪狩りでもしようか。牡丹鍋が楽しみだね。」

 

「そうですね。まだご教授していない事もありますしね。」

 

「私、お肉食べたい!」

 

暫く2人と旅の思い出話等で歓談していた。

 

「ところで、藍染さんは今は何をしているのですか?」

 

「僕は只管、各地の国からやってくる木簡に目を通して、検査や貿易に関する仕事をしているよ。勿論、大陸からの木簡もやってくるね。......まあ、大陸からは木簡よりも紙の方が多いけどね。」

 

「凄いです。さすがです。」

 

「褒めすぎだよ。君達にも文字を教えた事があるだろう?ある程度慣れれば、君達でもやれる仕事だよ。」

 

「私、忘れちゃったな〜。」

 

そう。本当に僕じゃ無くてもできる仕事だ。文字を読み書きできる者は少ないが、全く居ない訳じゃ無い。

 

故に僕を無理矢理起用する必要は無いのだ。

 

だから、僕の本当の仕事は単に豊聡耳神子の相手の話相手になる事だろうと考えている。あの聖人はただ淋しさを紛らわせる為に僕に政治を手伝って欲しいと言ったに過ぎない。

 

勝手に抜け出して、弟子達の所に遊びに出ても、咎められる事も無いだろう。

 

そもそも、大和朝廷内で僕の存在を認識しているのが、豊聡耳神子とその周辺だけだ。

 

霍青娥のように道教を秘密裏に持ち込んでいる訳でも無い。僕を隠す意味は無い。

 

豊聡耳神子はどうしても自分の手元に僕を置いておきたいようだ。

 

「そうだ。2人共、刀を貸してごらん。手入れをしておくよ。」

 

その後、2人と他愛の無い話に華を咲かせ、夜に僕は帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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斑鳩宮の外に出てきた。空は三日月が顔を覗かせている。

 

2人と別れて向かった先は地下の研究室。この島国に無数に存在する僕の研究室の一つだ。北は北海道から南は鹿児島まで存在する。

 

研究室と研究室の移動は、最近開発に成功した黒膣で移動している。同時に虚圏も作った。虚夜城はできていない。とは言え、現在は移動のための黒膣しか使用していない為、必要では無い。

 

僕は研究室に入る。誰にも着けられては居ない。豊聡耳神子や側近の2人は、政務もあるため、無闇矢鱈に外に出る事は無い。昨日外出したばかりだしね。霍青娥も昨日、釘を刺したばかりで僕を煽るような事はしないだろう。実際霊圧を探っても何も引っかからない。

 

「さて、どこにあったかな。........あった。」

 

2人を弟子に取ってからは来ていなかったから、かなり久しぶりだ。

 

僕は棚の注射器を取り出す。それを昨日、豊聡耳神子に付けられた傷に刺す。

 

強引に霊圧で塞いだ傷だ。本来は回道で治せるのだが、あえて傷は残しておいた。

 

傷口から血を抜く。それを直ぐに試験管に入れて蓋をする。

 

傷口を回道で癒す。

 

緑色の光をあてると傷跡が綺麗に無くなった。

 

試験管を眺める。

 

この血液には、豊聡耳神子の仙力と七星剣の神力が含まれている。あとは、霍青娥からも仙力を採取している。今夜はこれらを培養しよう。

 

600年前に採取した洩矢諏訪子の神力は培養済みだ。八坂神奈子の神力は手に入れる事はできなかったのが悔やまれる。

 

あと砕けてしまった刀を治す。

 

大忙しだね。今夜は寝れそうに無いね。

 

「ああ、忘れるところだった。」

 

僕は研究室の入り口まで歩く。

 

「縛道の二十六 曲光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うーん。」

 

研究室の仮眠室で目を覚ます。

 

結局、一晩どころか二週間も研究室にこもりっぱなしだった。

 

「駄目だな。ここに居ると時間の感覚が曖昧になるね。」

 

太陽の見えないこの地下では、今が何時か時計を見なければわからない。

 

因みにこの時代に日本には時計は無い。あと数十年後に遣唐使によって水時計が持ち込まれる。

 

この話にもわかる通り、研究室は外の時代とはかけ離れた物で埋め尽くされている。

 

それもこれも、僕には前世の記憶というアドバンテージがあるからだ。

 

最近は記憶が殆ど残っていないが、前世の技術を全てノートにまとめている。また、電子情報としてもデータ化している。

 

流石に前世の思い出まで残してはいない。正直、前世の親の顔や友達、恋人の顔も思い出せなくなってしまった。

 

過去に囚われないために、今の僕はこの世界で生きている藍染惣右介だ。そう覚悟して、思い出は残さなかった。彼らには酷い事をしていると思う。僕の独り善がりのために彼らを蔑ろにしている。

 

.......いや。既にこの考えが、僕の独り善がりなのだ。

 

ここまで考えて、覚悟していた筈なのに、思い出が消えるのは寂しくて胸が張り裂けそうになる。

 

「ふう。」

 

駄目だね。1人だと思考がどんどん悪い方向へ傾いてしまうね。

 

幸いにして、当初やると決めた事は完了していた。

 

流石に帰るか。二週間も居なくなっていると、怪しまれるからね。もう遅いだろうけど。

 

僕は研究室の外に出る。

 

入り口に再び曲光をかけて見えなくする。

 

朝日が眩しい。

 

僕は瞬歩で移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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邸内の帰った僕は静かに歩いて、自室を目指す。

 

まだ朝早いという事だろう。邸内は静けさに包まれていた。

 

屋敷の中庭を眺めながら、ゆっくりと歩いていると、前方から早歩きで近付いて来る人影が見えた。

 

立ち止まって、近付いて来る人物を見る。

 

ここ半年でよく相手をする様になった人物だ。

 

こちらに考え事をしているのか、こちらに気が付いていない。普段の彼女なら考えられない姿だ。

 

思わず口角が上がってしまう。

 

そのまま彼女は僕にぶつかる。

 

「わふっ。」

 

反動で倒れかける彼女の手を掴んで支える。

 

「やあ、久しぶりだね。豊聡耳神子。」

 

彼女は目を大きく見開いて、僕を見て来る。

 

掴んでいる手に熱が込もった気がした。

 

だが、直ぐに手を離したため、よく分からなかった。

 

「久しいな。どこに行ってたんだ?」

 

「弟子の2人の所に顔を出していたんだよ。」

 

「...........なるほど。それにしても二週間は空けすぎだろう。」

 

「それはすまなかったね。仕事も溜まった事だろう。僕はもう行くよ。」

 

僕は会話もそこそこに歩き出す。

 

二週間も開けてしまった。木簡や書類が溜まってるだろう。

 

「まあ、待て。」

 

だが案の定、呼び止められる。

 

「まだ朝早いだろう。私の問答の時間にも余裕がある。少し付き合え。」

 

そんな気がしたよ。

 

「.......わかったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「傷は癒えたか?」

 

「ああ、術で治したよ。君も少しは傷を負っただろう。そっちは大丈夫かい?」

 

「私があの程度の傷でどうにかなる訳が無いだろ。無用な心配だ。」

 

「そうかい。それは良かった。」

 

コト。

 

湯呑を置く。

 

懐かしい味だ。鼻に抜ける香りに口の中で仄かに広がる苦味。

 

お茶だ。

 

「これも大陸からの輸入品かい?」

 

「そうだ。これも中々のものだろう?」

 

「そうだね。.........それで?本題はこれじゃ無いだろう?」

 

「ああ、本題はこっちだ。」

 

豊聡耳神子は一つの箱を取り出す。

 

それを開ける。中には狐面が入っていた。

 

「私は今、これを含めた65個の面を作った。」

 

「へえ。中々の完成度だね。しかも65個も作ったのか。......それで、この面がどうしたのかい?」

 

「そうだな。私の部下に秦河勝という者がいてな。その者が猿楽と言うものをしたいそうで、私は現在六十六の感情を司る面を製作しているのだ。」

 

「なら、あと一個だね。」

 

「そうだ。あとは希望の面だけだ。」

 

豊聡耳神子はもう一つ箱を出した。僕はそれを開く。

 

「.............へ?」

 

思わず変な声が出てしまった。

 

僕は2つの箱の中身を見比べる。

 

僕は呆然と惚けてしまう。

 

何故ならこの2つの面の質が違いすぎるからだ。

 

「ふっ.....ふっ............。」

 

思わず溢れそうになる笑いを堪える。

 

なんだこの力の抜ける表情は。

 

僧侶の顔の面。だが、表情が何とも言いがたい。素直に言えば、随分と間抜けな顔だ。

 

豊聡耳神子の方を見れば、顔を赤くして震えていた。

 

「な、なんだ?私でも上手くいかない事があるんだ。.......だから、笑うな!」

 

笑いそうになっていたのが、バレてしまったようだ。

 

彼女の顔は湯気が出そうな程に赤くなってしまっている。

 

「ふふ。すまない。でも、君も気に入ってる訳じゃ無いんだろう?」

 

「そ、そうだ。だから、こうしてお前に相談しているのだ。」

 

余り揶揄い過ぎると、また面倒な事になると判断して、話題を戻す。

 

「でも試作品があるのなら、君の中にある程度の構想はあるんだろう?」

 

「.........これからこの国に仏教を広める。だから、希望の面は仏教の僧侶を模した物が好ましいと思っている。」

 

「天竺が発祥の宗教だね。物部氏と蘇我氏が戦争する原因でもあるね。」

 

「本当に物知りだな。」

 

「年の功だね。」

 

「随分とジジ臭い台詞だな。」

 

「実際、否定できないからね。...........それで、そこまで構想できているのなら、僕から何か言う事は無いんじゃないのかい?」

 

「そうだが............」

 

また歯切れが悪くなってしまった。

 

うーん、時間がかかりそうだな。

 

「豊聡耳神子。君の様子を見るに、誰かの助言が必要と言うよりは、君自身に何か問題があるんじゃ無いんかい?それについての助言ならしてあげれそうだけど。でも、時間が無いね。一度、半日以上の時間を取れる日に持ち越さないかい?」

 

「.......そうだな。すまない。」

 

「じゃあ、三週間後にしよう。僕はそれまでは空けれそうに無いからね。」

 

「それで構わない。私も大丈夫だ。」

 

「それは良かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おや。これは布都様に屠自古様。どうされたのですか?」

 

「お!やっと来たか。」

 

「お邪魔しておるのじゃ〜。」

 

僕の自室に入ると布都様と屠自古様がいた。

 

「お主が帰って来ぬから、我等がお主の仕事を手伝っておったのじゃ。感謝せよ。」

 

「お前は何もしてないだろう!」

 

見ると布都様はゴロゴロし、屠自古様の周りは木簡と書類が山を作っていた。

 

「これは、ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます。」

 

「では、残りを頼むぞ。」

 

そう言うと僕は屠自古様と場所を代わる。

 

「ところで、今までどこに行っておったのだ?」

 

「僕の元弟子達に顔を出していました。」

 

「おお!サクラは元気であったか?」

 

「ええ、とても元気にしていました。レンも同様です。」

 

「そうか。レン殿も息災であったか。それにしても、藍染殿は弟子想いなのだな。」

 

「いえ、布都様や屠自古様に比べれば僕はまだまだですよ。」

 

「そうかのう。我から見れば、随分と優しく見えるのじゃが。」

 

「僕はあくまでも弟子2人だけですよ。布都様、屠自古様は留守中の僕の手伝いもしてくださる。なによりも貴方方はこの国の何千、何万の人間の幸福の為に邁進しておられる。僕にはそこまではできません。太子様も素晴らしいですが、僕は貴方達の心意気を尊敬します。」

 

ここまで話して、自分が饒舌になっていた事に気がついた。

 

「おっと、申し訳ありません。出過ぎた真似をしました。」

 

「いや、いい。太子様以外でそこまで真っ直ぐに褒められた事は無かったからな。素直を嬉しいよ。」

 

「はっはっは。我も許してつかわすぞ!」

 

「ありがとうございます、布都様、屠自古様。」

 

僕がお礼を言うと屠自古さんが目を逸らしながら、こちらを窺うように言ってきた。

 

「その......なんだ。屠自古様ってのは、よそよそし過ぎないか?私の事は屠自古でいいぞ。」

 

「お!我も布都で良いぞ!」

 

「そうですか...........では、布都さん、屠自古さん。」

 

「まあ、いいだろう。」

 

「よろしくじゃ。」

 

2人とも実に嬉しそうだった。

 

どうやら懐かれたようだね。

 

豊聡耳神子や霍青娥の様な斜に構えた態度が無い分、この2人は感情がわかりやすい。

 

「よろしくお願いします。」

 

「そうじゃ。藍染殿はここに来る前は旅をしておったのだろう。何か面白い話は無いかのう?」

 

僕を見つめてくる布都さんの目は興味津々な光があった。

 

「私も是非聞かせて貰おうかな。」

 

僕は彼女達が飽きるまでお喋るに興じる事になった。

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