東方霊術伝   作:モン太

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未来への眠り

神子に仙人になると聞かされてから半年がたった。本格的に修行を始め出した神子は、能力をみるみると開花させていった。しかし、その勢いも次第に衰えて行き、今では布団から起き上がる事も困難になりつつあった。都では"太子様が重い病にかかった"と噂が流れ、もはや民衆にも神子の容体を隠し通せるものでは無くっていた。

僕はいつも通り、神子の部屋に入る。

 

「…神子、起きているかい…?」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

中には、それぞれの布団に入って座っている神子と屠自古様、布都様、そして立っている霍青娥がいた。

霍青娥は僕の姿を確認すると話しかけてきた。

 

「予想通りですわ。御三方も送るのが私だけでは寂しいでしょうから、あなたを待っていました」

 

「なるほど。…霍青娥、本当に大丈夫なんだね?」

 

僕は霍青娥に確認する。霍青娥は調子を狂わせずに笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ♪寸分の狂いもなく完璧な術式を組ませて頂きましたわ!万が一にも失敗はしません!」

 

「そうか。それは何よりだよ。」

 

「すまぬ。あれだけ大口を叩いたが、肉体が限界を迎えた様だ。」

 

僕は三人に向き直って声をかけた。

 

「……やはり、お二人もご一緒なのですね。」

 

予想できていたとはいえ、死ぬつもりでいる人を見るのはやはり少し辛い。少し表情が暗くなったからか、二人はいつものように元気な声を出した。

 

「何を暗くなっておる藍染!!我らは仙人になるのだ!祝う所だぞここは!」

 

「祝うのはともかく…お前が思い詰める必要はないだろう。…安心しろ、太子様には私達がついてる。お前は願ってるだけでいいんだ」

 

「…なら、神子を頼む」

 

二人は力強く頷いた。これから自分達も一度死ぬ筈なのだが...........本当に優しい方達だ。

僕は神子の側に近寄って話しかけた。

 

「…気分は?」

 

「ああ、まだ少し怖いが…大分落ち着いている。惣右介のおかげかしら…?」

 

「ふふ、だといいけどね。」

 

神子の手を握る。まだ暖かい、柔らかな手だった。

僕は神子の目をまっすぐ見て言った。

 

「…神子、少しの間は会えなくなるけど………目覚めた先で、必ず会える。神子にも、布都様にも、屠自古様にも、…霍青娥にも、必ず会いに行く。みんなの繋がりを…忘れないでくれ。目覚めたら、皆で酒を酌み交わそう。」

 

「………ああ!」

 

神子は最後に微笑んで応えた。瞬間、三人の下に太極の模様が出現し、光が包み込んだ。光が止んだ後には、目を瞑って横たわっている三人の姿が。

……暖かかった神子の手は、既に氷のように冷たくなっていた。

 

「…………っ…く……」

 

僕は目と頰に熱を感じた。泣くのなんていつ以来だろう。この世に転生してから、誰かの死を悼んだ事はあっただろうか。

 

「術式、完全に成功致しましたわ。藍染さんは少し外に出ていてくれるかしら」

 

「……ああ」

 

霍青娥にそう言われ、神子の部屋を出る。向かった先は、神子と身体を重ねた部屋だ。そこに座ってボンヤリとする。

 

「……死に際を看取るのは、損な役回りだね…。こんな事今迄も沢山あった筈なのにね。」

 

空を見上げてそんな事を考えていた。僕は600年を生きてきた。いつも誰かを看取る側だったが、涙を流し、哀しみに暮れる事は初めてだ。僕がどれだけ、神子の事を大切に想っていたのか、失ってから気が付くとは、どうやら僕も相当愚かな人間なのだろう。

そうしてボンヤリしていると、やる事が終わったのか霍青娥が近寄ってきた。

 

「何をしてたんだい?」

 

「術の最後の仕上げですよ。媒体にする道具と一緒に埋めてきました。」

 

霍青娥は少し離れた位置まで近づきながらそう言った。

 

「ああ、そう言えば、蘇りの術式には媒体が必要だったな。

…………ありがとう。ちゃんと成功させてくれた様だね。」

 

僕は媒体の事を思い出し、最後までやってくれた霍青娥に礼を言った。霍青娥は少し複雑そうな表情をしていた。

 

「藍染惣右介、あなたは一体……何者?本当にあの藍染惣右介と同一人物なのかしら?」

 

「…………………そうだね、齢600を過ぎて漸く僕も少し人として成長したのかな。」

 

僕は半年前の、神子と手合わせした時の事を思い出した。僕を殺そうとした霍青娥に全力の霊圧をぶつけて、脅した時だ。

 

その時と今では僕も変わってしまっている。神子から学んだ事が沢山あるからね。

 

「………神子から教えて貰った事があるからね。」

 

「………それは?」

 

霍青娥は真剣な表情で聞いてきた。彼女にしてみれば、600年生きた様な存在が、聖人であるとはいえ、10年20年生きた程度の小娘から何を教わったのか知りたいのだろう。

 

僕は立ち上がって霍青娥に言った。

 

「どんな人間も絶対に孤独では無い事だよ。」

 

彼女はきっと支えられてばかりだと考えていそうだけど、僕も彼女の存在に救われてた数多くの人間の1人だったのだ。それだけの温もりを僕は受け取る事ができたのだ。

 

霍青娥はキョトンとした顔をしていた。予想していた答えでは無かったのだろう。こんな有り触れたものだと思わなかったのかもしれない。でも、僕は満足している。それで良いと思えた。

 

僕は神子の屋敷を後にした。

 

「さようなら。」

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