映るは満月
咲きたるは一輪の花
世界を知る
屋敷を後にした僕は、久しぶりに自分の弟子の家に行こうかと考えていた。
神子が居なくなった事で、僕が彼女の政治の手伝いをする名分も意味も無くなったからである。
飛鳥の都を去る。
弟子との別れの挨拶の為に歩を進めようとした時だ。
「!?.........」
突然、世界が変わった。
一面白の世界。
ふと前を見る。瞬間、全身から冷汗がどっと出た。
……なんだあれは。
霊圧は感じない。なのに、底知れない恐怖が僕の身体を支配していた。
それはとても大きな龍だった。
しかし此処で問題が起こった。
《う、動けない……!?》
そう、恐怖とは別に本当に身体が動かず、全身が悲鳴を上げたのだ。
『我は創造神。又の名を龍神と呼ばれるものだ。』
目の前の存在は創造神を名乗った。
創造神?まさかこの世界を創った存在なのか?..........もし、そうなら何故そんな存在が急に僕の目の前に?
『警告だ。貴様は何故か、儂の力が及びににくいのでな。何かしらの加護が有ると見える。』
創造神にできない事は無いだろう。そんな龍神が手出しできないものとしたら、僕を転生させた神様ぐらいしか心当たりが無い。
『つい最近の事だ。貴様は我が生み出した子供(神)を数千も殺した。神殺しは大罪である。それを数千も!本当ならば、直ぐに貴様の存在を消し、輪廻転生できぬよう消滅させるところだが。』
............数千の神を屠った記憶はある。諏訪大戦の時だ。龍神の感覚なら最近の出来事なんだろうけど。
『貴様には儂の力が何故か通じない。ならば、警告だ!貴様がこれ以上儂の箱庭を荒らさぬようにな!...........警告として、貴様の大切なものを奪い、消し去る。その痛みを持って傲慢さを思い知れ!』
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
次に頭に浮かんだのは、神子にレン君、サクラ君の顔だ。
消される!?僕の大切なものが?
精神的ショックと相手が龍神という絶望感から、目眩がし始める
と、気が付いたら景色が戻っていた。
僕は瞬歩で神子の屋敷に戻る。
直ぐに霊圧を探る。眠った(死んだ)ばかりだから、まだ霊圧の残滓はあるはずだ。
逸る気持ちを押さえつけて、霊圧を探る。と直ぐに神子の霊圧を
感じ取った。
「はあ........はあ.......はあ..........」
安堵から己の心臓が激しく脈動する。
一瞬の油断が命取りになったのだろう。次の瞬間に全身が凍りつく。
2人の霊圧を感じない。
長い間共に暮らしたい弟子の2人の霊圧を全く感じ無くなっていた。
まさか!?
僕は瞬歩でかけた。全力で都を走った。
「レン君!サクラ君!」
僕は大声で叫び、家に着いた。
そう
「そ、そんな........嘘だ。」
僕の身体が震える。そこには
家も2人が耕した田畑も、2人がいた痕跡が無かった。
視界に映った人影が見えた。
僕は駆け寄り声をかける。
「あの!ここにレンとサクラという2人の子供を見かけませんでしたか!?」
「お、おい。落ち着け。どうしたんだ?そんなやつ見たことも聞いたことも無いぞ。」
通行人のあまりな良いように思わず掴みかかってしまう。
「2人の子供だ。あんた、この辺の人なんだろ!?知らないのか!?」
「知らないって言ってるだろ!もうあっちに行ってくれ!」
そういうと通行人は僕を地面に投げ捨てた。
受け身も取れずに地面に倒れ臥して
しまう。
どれだけの時間そうしていただろうか、気が付くと土砂降りの雨に打たれていた。
僕はそのまま己の無力さに打ちのめされて意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気が付くと、再び世界が変わっていた。
景色は夜だ。あれから気を失っていた時間次第ではあり得る光景だ。だが、その他の要素がここは現実世界で無いことを教えてくれる。
夜空には大きな満月。そして地面には、夜空と満月を写す水面が地平線の彼方まで続いていた。
あの忌々しい龍神の空間とは違い、金縛りに会う訳でも無く、こんな精神状態で無ければ寧ろ僕の精神と肉体の波長が合う空間の様に感じられた。真っ直ぐ視線に先には、ピンク色の髪を短く切り揃え、青い眼に色白の肌。そして、ピンク色の着物を着た幼い幼女とも言える女の子がいた。
彼女は無表情でこちらを見つめている。僕は彼女の元へ歩を進める。
「........君は?」
彼女の前に立ち、名前を問う。
「........そうだな。今は花とでも名乗っておこうか。................藍染惣右介よ。お主にとって世界はどう映る?」
彼女は花と名乗った。どうやら偽名の様ではあるが。
僕は考える。この世界の事を。転生し、泥塗れになりながら必死で生き延び、弟子を取り、最愛の人と人並みの幸せを短時間だが、噛み締め、そして龍神に奪われた。
「お主は、この世界が偽りでしか無い事を知っている。」
「そうだね。そもそも、転生した時点で本来存在しないはずの人間だ。僕は?私は?誰だ?どこに行くのか?目的は!?......本当は何もわからない.......わからないんだよ。ただ、自分自身が偽りの存在である事は知っているよ。」
「.........そうか。これから、どうなろうとも妾はお主の味方じゃ。............妾の手を取れ、惣右介。」
彼女は僕に手を差し出す。急に現れた得体の知れない人物のはずなのに僕は、彼女の白い美しい手を簡単に取ることができた。
「妾の名は..................
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気が付くと元の世界に戻っていた。相変わらずの雨が僕を容赦無く濡らしてくる。
あれは夢だったのかと思ったが、僕の腰に刺さっている刀から霊圧を感じ取り、あれが夢では無かった事を実感する。
「これからよろしく、『鏡花水月』」
暖かな熱は無くなったが、代わりに凍てつく氷の意志を胸に刀を撫でる。
「私は、私を支配しようとするものを打ち砕く。」
そう、我々に運命などない
無知と恐怖にのまれ
足を踏み外したものたちだけが
運命と呼ばれる濁流の中へと
堕ちてゆくのだ