輝夜姫伝説から、約200年。平安末期になった。200年間崩玉に魂魄を与え続けた。
崩玉の性能向上を目的に虚化の実験を行おうと思う。未完成の崩玉でどこまで精度の良い虚化ができるかは未知数だが。
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そう言う思惑で山賊や浮浪者に崩玉の力で妖力を与えてみたが、予想通り魂魄と肉体が妖力に耐える事が出来ず、身体が蒸発してしまう。正に魂魄自殺の現象が起こっていた。
「やはり、霊力が強い者で無いと妖力に耐える事が出来ないか。」
だが、霊力の強い者などそうそうに居る訳では無い。
ならば、霊力の強い者が現れやすい下地を作れば良い。
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「今日は皆にお集まり頂きありがとう。昨今、妖怪は日に日に力強さを増し、僕達の生活を脅かしている。そこで、京の都で僕が才能ある者と感じた君達を集めて、霊術を学び、極め、切磋琢磨し妖怪を退ける為の塾を開く事を決めた。」
僕の目の前に5人の男女が並び、僕の話に耳を傾けている。
「ここに"真央霊術院"の設立を宣言する。僕は初代塾長の藍染惣右介だよ。よろしく。皆、一人一人は僕が直接勧誘したが、お互い始めての顔合わせとなる。これから共に同じ釜の飯を食う仲間だ。共に励もうじゃ無いか。」
平安の時代。霊術を用いて妖怪を退治する陰陽師は存在する。だが、それは貴族から排出される極一部の存在でしか無い。大多数の一般人から霊力の素養がある者を集め、育て上げれば、必然的に霊力の強い者が現れ易くなるだろう。
目の前の5人を育て上げて、魂魄を削る事も考えたが、今後数百年の間、安定した人材が放出される機関になる事を期待して、彼等には手を出さない事にする。
「先ずは入学祝いだ。入学者には『浅打』を渡そう。」
五本の刀を生徒に手渡す。この平安中期の時代には既に太刀が広まりつつあり、昔の様に僕の刀を見てもさほど奇妙に思う人は少なくなっていた。
武士の台頭により、太刀を見かける人が増えたからであろう。
しかし、こういう動乱の時期は人々の不安が大きくなり、妖怪が力をつける。それに伴って人間側も力をつけていく。
正統な陰陽師達にも、優れた者が現れ、家系を繋いでいる。
安倍晴明で有名な安部家。蘆屋道満でお馴染みの蘆屋家。
その他、
この真央霊術院もいずれは、陰陽師達を追い越す事を目標にするだろうが、400年前の仏教伝来と共にやって来た陰陽道の歴史には遠く及ばない。
「塾長!この太刀は少し短くは無いですか?」
生徒の1人から意見が出る。確かに刀ではあるが、長さがこの時代の物よりも短い。通称打刀と呼ばれるものだ。
「この塾では、この刀を使って貰う事になる。太刀より短いが、強度がある。実戦に向いていると思うよ。ただ、相手との間合いに気をつける事だ。それから、この『教本』も渡そう。」
"真央霊術院教書"
この塾で学ぶ霊術が記されている。鬼道や歩法、白打が書かれている。斬術に関しては、斬魄刀の説明と始解と卍解の解説が載っている。
「この教本を元に皆に授業を行おうと思う。妖怪だけでなく、対人戦にも役に立つだろう。」
「ありがとうございます。ですが、私達は文字が読めません。」
「大丈夫だよ。僕が最初に君達に教えるのは書道からだ。」
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真央霊術院を開塾してから10年。塾は大きく成長していた。生徒数は300人になり、僕が最初に教えた5人は、それぞれ斬拳走鬼を教える先生となっていた。僕は半分隠居状態で偶に書道の授業を教えるのみだ。2代目塾長にこの学び舎を譲る時が来たかもしれない。
「そろそろ、崩玉の実験を再開したい頃合いだ。」
コンコン
「どうぞ。」
「失礼します。」
ノックの音がする。直ぐに返事をすると、1人の男性が入ってくる。僕が最初に教えた生徒の1人、志波君だ。
「塾長。斬術の受講生が集まりました。準備は完了していますので、いつでも大丈夫です。」
「ありがとう。では今から行くよ。」
僕が教室に入ると、300人の視線を確認する。
「斬術の受講生だけだと聞いていたけど、全生徒がいる様な気がするけど、どうかな綱彌代君」
「最初はそのつもりでした。ですが、藍染塾長の始解を見れるとの事で結局この様な事態になりました。」
苦笑いを浮かべる青年が弁明する。彼も僕の最初の塾生の1人だ。
「気にしなくていいよ。それだけ皆熱心に励んでくれて、僕も嬉しいよ。..........では、僕の始解を見せるに当たって注意して欲しい事がある。僕が開放したら、皆は絶対に動かないでくれ。..............先に能力の説明をしておくと、僕の斬魄刀の能力は、流水系の斬魄刀で霧と水流の乱反射により敵を撹乱させ同士討ちにさせる能力だ。解放の瞬間に視界が霧で遮られるだろうが、慌てない事だよ。」
僕の説明に皆が真剣に耳を傾ける。
確認できた僕は刀を逆手に持ち構える。
「砕けろ"鏡花水月"」
すると部屋一面に霧が溢れだした。
「これは…」
「あまり使わないが言っておかないと仲間も攪乱させかねないからね、丁度よかった。」
「流石、藍染塾長。」
「塾長ならきっと卍解も凄いんだろうな。」
各々がそれぞれの感想を呟く。
「いや、僕は卍解には至ってないよ。」
僕が刀をしまうと霧が晴れた。
「え?ですが、教書では卍解の説明がありましたが........四楓院先生や他の先生方も習得されている方が居ないのであれば、後は塾長だけでは無いのですか?」
「皆が疑問に感じるのも無理はない。卍解を取得していない僕が卍解の事を知っているか................それはね。僕の師匠が遣い手だったんだよ。」
まあ、本当は僕に師匠等いないけどね。
「師匠の卍解は素晴らしかったよ。森羅万象を破壊し、作り変える。比喩抜きに神がかっていた。そして、とても美しかった。」
僕は皆に語りかけながら、見渡す。
「僕も憧れた。自分がこの様な存在になり得るのではないか?.......結局はただの自惚れだったわけだ。.......でも、僕には夢がある。そう、君たちだ。君達こそいずれは卍解に至り、歴史に名を残す者が現れると信じている。僕は君達に賭けているんだ。君達こそが僕の夢だ。」
パチパチパチパチパチパチ。
拍手が鳴り響く。
「少し恥ずかしい事を喋ってしまったね。.......一先ず、始解のお披露目は終了だ。この後に書道の授業も行おうと思う。参加は自由だ。」
その後の書道の授業も結局、全生徒が参加する事になった。
さて、鏡花水月の仕込みも完了した。いつまでもお飯事に時間を費やし、崩玉の研究が滞るのも良くない。この塾は次の者に渡そう。幸い、繁栄の土壌はできている。今後千年くらいは、優良な人材が輩出されるだろう。彼等から魂魄を頂く。
踏むにも力加減が難しい蟻達ではあるが、塵も積もればなんとやら。崩玉の糧となってくれる事を期待しよう。