東方霊術伝   作:モン太

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神便鬼毒

依頼内容を確認してから、一月がたった。任務が決まってからも特に変わりなく、日々を過ごしていた。一応、僕が死ぬ事を前提とした仕事である以上、真央霊術院を2代目に引き継がせる必要があったので、朽木君に頼む事にした。生徒からは涙ながらに引き止められたが、なんとか説得し、無事に次代へと受け継がれる事になった。

 

まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

再び、頼光の屋敷にやってくると、4人の男達が待っていた。

 

そしてその4人は僕の顔を舐めるように見る。

 

品定めをしている視線を相手に気が付かせてしまう程度では大した脅威にもならないと、早々に結論を出し、僕は話しかける。

 

「お待たせして申し訳ありません。藍染惣右介只今参上しました。」

 

「全員揃ったな。では出発しよう。」

 

リーダー格の男が号令をかける。リーダー格の男を先頭に僕を囲む様に歩き出す。

 

歩き出しても特に会話は無かったので、今度は僕が彼等の様子を観察する。

 

4人とも明らかに今回の任務には乗り気では無い。当然といえば当然なのかもしれないが、それにしても彼らから漂う悲壮感という物が凄まじい。

 

先ほどから一言も喋らないのが良い証拠だ。

 

一見無表情に取り繕っているため分からないが、目を見てみると潤っており今にも泣き出してしまいそうな雰囲気だ。

 

相手は鬼である。それもおそらく最強クラスの。

 

鬼の縄張りに入るのは僕だけだが、それでも恐怖感と絶望感は言わずもがなである。

 

4人は手を時折ブルリと震わせ、ゆっくりと僕の後を着いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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道なりはそこまで過酷なものではなく、割と平坦な面が続いていたためそれほど体力を損なわずに鬼の待ちかまえている本拠地まで行く事ができた。

 

都からの距離は徒歩でざっと2日程であり、途中で野営を張ったりしての道程となった。その間になんとか4人の緊張などを解したり元気づけようと思ったのだが全くうまくいかなかった。

 

普通の人間であれば、すぐに都から逃げて、姿を眩ませるだろう。その点、この4人は逃げも隠れもしないのだからマシという事だろう。

 

彼等からすれば、道中で鬼に見つからなければいいので、それほど難しいものでは無いのだが。

 

そうした事を考えていると、いつの間にか鬼の指定した場所まで来てしまった。

 

「送りの任務ありがとうございました。身を隠して、夜にまたこの場所で落ち合いましょう。」

 

「わかった。武運を祈る。」

 

そう言い残し、彼らは瞬く間に姿を消した。

 

さて、鬼の姿は見当たらない。場所を間違えてしまったのだろうか?

 

「確かにここで合ってる筈だが?」

 

僕はその場でしばらく佇んでいると、遠くから地響きのような音がしてくる。

 

その音は経時的に大きくなっており、ある一定の所まで音が大きくなってくると多くの足が地面を踏みしめているのだと推測する事ができた。おそらく鬼たちだろう。

 

僕は霊圧知覚で鬼の霊圧を感じた。

 

素晴らしい霊圧だ。これ程の妖力が有れば崩玉の成長も捗るだろう。

 

しばらくその足音が大きくなるのを感じ取っていると、やがて鬼たちが目の前の森の中から姿を現す。その数はおそらく数百といったところだろう。どの鬼もがそこら辺の野良妖怪よりもずっと強いという事が容易に分かる。

 

僕は妖力の大きさを肌で感じる。それはまるで自分たちは絶対の存在であると言うかのような自信にあふれた力強い妖力。

 

ある種の絶景なのではないかと思うほどの様になった姿であった。

 

素晴らしいなこの鬼という種族(素材)は。

 

やがて鬼の中から1人の女性が足を前に出して歩み寄ってくる。

 

銀色の長髪を風に棚引かせ、胸元の大きく開いた着物のような何かをきており、右手には金色に輝く槍のような物を携えている。

 

そして微笑を浮かべてこちらにまで近寄り、口を開く。

 

「私は鬼子母神。此度はよくぞ我々の決闘を受けてくれた。感謝するぞ、陰陽師殿?して、何故あなた1人だけなのだ?」

 

随分と此方を舐めている様だ。

 

そして彼女から放出される妖力がすさまじい。

 

「あのいまさら申し上げ難いのですが、僕は決闘者では無く、決闘前の陛下からの使者です。今日は、決闘の方法とその前に交流をしていただこうかなと思いまして........」

 

僕が決闘者でないと言うと、鬼達は厳しい表情を浮かべたが、直ぐに酒樽を見ると機嫌が良くなった。

 

「ふむ。一方的に決闘を決めたのは鬼なのだからな。一理あるな。」

 

と条件提示を促してくる。どうやら鬼も人間側に大きなハンデを科してしまったという事は理解しているらしい。

 

「では、こちらの条件はこの決闘に勝った場合は可及的速やかに都から手を引く事。」

 

この言葉に鬼子母神は頷き、鬼側の条件を提示してくる。

 

「こちらからの条件は一つだ。それは強者との決闘だよ。」

 

当然要求してくるとは思っていたから慌てもせずに返事をする。

 

「分かりました。その条件を受けます」

 

すると、鬼子母神は大きく満足そうに頷いく。

 

「では、早速酒盛りとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おい、人間!こっちに来い!俺の酒が飲めないのか!」

 

私の前で1人の男が持参の酒を片手に右往左往している。

 

哀れな男だ。戦闘員ですらない者を1人、我ら鬼の集団に放り込むのだから。

 

鬼の頭領として、強い者には惹かれるが、弱い者には興味もない。先程名乗っていたが、既に名など忘れている。まあ、酒を飲もうと言うのなら、鬼として付き合おうではないか。

 

人間も舐めたものだ。こんな事をして、我らが手心を加えてくれると本気で考えているのだろうか?

 

「おい、人間!今度は私達の酒だよ!お前の酒も飲ませろ」

 

今度は萃香と勇儀に引っ張られていく。

 

ふむ。どうやら人間も此方が酒好きな事を知ってか、かなり味の良い酒を持ってきたのか。萃香達の次は私が飲もうかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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茂みから男が出てくる。

 

「藍染惣右介、只今戻りました。」

 

「そうか。無事で何より。鬼達との交渉は上手くいったか?」

 

「無事終わりました。流石に次の日というのは、怪しまれるかと思いましたが、やはり鬼は単純な様で、決闘が早ければそれでいいと嬉しそうに酔っていましたよ。」

 

「それは良かった。..........して、お前はあまり酔ってはいない様だな。鬼の酒を飲んだのでは無いのか?.....まさか、お前は任務を欺き酒を飲んでいないなどとは言うまいな?」

 

「そ、そんなことはありませんよ。僕も鬼達に囲まれて生きた心地がしませんでした。.......気を張っていたのですから、いくら鬼の酒でも酔えませんよ。」

 

藍染は慌てた様子で弁明する。

 

「それより、早くここを離れましょう。鬼達に気づかれるかもしれません。」

 

「それもそうだな。......まあ、お前が神便鬼毒を飲んでいなくとも、我ら4人でお前を始末する故、無駄な足掻きと言うものだ。」

 

藍染が急かすと直ぐに移動を始めた。やはり人間にとっては鬼という存在が恐ろしくて仕方が無いのだろう。急ぎ足で歩を進める。

 

暫くの間、逃げる様に進んでいた一行は足を止める。集団の中心........藍染が膝をつき身体を震えさせていた。

 

「ど.....どうやら...........毒が回ってきたようです。.................皆様には......ご迷惑をお掛けして.....申し訳ありません。ゴホッ.............頼光様には、..........無事任務を終えた......とのご報告...お願い.................し.....................ま....................................................す。」

 

最後に血を口から吐き出して、藍染は動かなくなった。

 

「漸く息絶えたか。......貴様に謂れずとも、頼光様には、我らが任務を無事全うした事を告げよう。」

 

「では、鬼に気取られる前にこの死体を埋めるぞ。.....運べ。」

 

「「「はい」」」

 

4人の男達は藍染の死体を引きずり、茂みに隠すようにしてから、地面に埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねえ、勇儀。これってやっぱり毒だよね。」

 

「当たり前だろ。鬼を封じ込める事が出来るなんて大した毒だな。」

 

ガハァッ!

 

勇儀の口から大量の血が吹き出す。

 

周りの鬼達は虫の息だ。立っているのは、萃香、勇儀、華扇、鬼子母神のみだ。

 

「あの人間も随分と舐めた真似をしてくれましたね。」

 

華扇が拳を握る。凄まじい闘気を発するが、毒に侵されているためか、脂汗を大量に流している。

 

「鬼子母神様。私の能力で解毒しましょうか?」

 

「それには及ばないよ、萃香。この程度の毒で鬼を殺せると思っている人間に思い知らせないと気が済まないしね。奴らは卑怯な手を使ったんだ。徹底的に殺してやる。だけど、私達の鬼の信念を曲げる事は無い。」

 

鬼子母神は口から血を垂らしながら、ニヤリと笑う。

 

「あの人間も殺してやりたいが、恐らくもう死んでいるだろうねぇ。」

 

「あいつもあの酒を飲んでいたしな。私達に怪しまれないように捨て駒にされたんだろうな。」

 

「残念ですね。あの藍染という男はこの手で引導を渡してやりたいのですが。」

 

「ふっ..........。鬼の底力を見せてやろう。」

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