あなたを追いつめる為にある
私、村紗水蜜は現在、羞恥心と戦っている。何故なら………
「どうした?早く食べないと冷めるぞ。」
「……は、はい。あ、あーん…ハム。」
こんなことをされているからである。そもそも私は名前も知らない青年らに何をされているのであろうか。勿論、助けてくれたことには感謝しているし、今のこの行為も私を気遣っての行動だというのもわかっている。
しかし、これはこれで神経がすり減る。ましてや後ろからその様子を見守られるなど、心に浮かんでくるのは羞恥心以外の何者でもない。それがお粥が無くなるまで続くのだ。私がいつ悪いことをしたのか。
いや、勿論こんな美形に優しくされたら女として嬉しくないとは言えないけれど………しかもこの青年、私が赤くなっていると『もしかして熱があるのか?』などと言ってくる。どれほどまでに鈍感なのか。
兎に角私は羞恥心と戦いながら、早くお粥を食べ終われますように…と願うのだった。
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「ご、ご馳走さまでした…」
「中々いい食べっぷりだったね。お腹一杯になったい?」
僕は彼女に問いかける。
そんな僕の問いに彼女こと村紗はこう答える。
「な、なったなった!お腹一杯!もう食べられないよ!」
必死である。彼女は相当ぎりぎりだったのだろう。
少々揶揄いすぎたかな。
「これから君はどうしたい?」
僕ははそう聞いた。まぁどうするといっても、彼女は怪我人だ。今は動けない。だからできることは限られているのだが……
「う、うん。実は私、最強の陰陽師っていう人を探しに来たんだ。」
そうして彼女は僕に目的を告げた。僕と要は人間だから、最強の陰陽師のことを知っているかと思ったからだ。
「成程、僕達に用事があったようだね?」
「え?」
無論、偶然などではない。予め鏡花水月をかけた土蜘蛛が無意識に領域をずらした事で彼女が足を踏み入れるように仕向けた。彼女はたまたま通り掛かった僕達が苦労して助けてくれただけと思っていた。
「じゃあ、君が最強の陰陽師…?」
「厳密には元陰陽師だね。既に護廷十三隊はやめたんだ。僕の名前は藍染惣右介。こっちの彼は東仙要だ。」
「よろしく。」
「あ、私は村紗水蜜。村紗って呼んで。宜しく、二人とも。それで、元ってどういうこと?」
「ああ、僕は彼ら陰陽師からすれば異端でね。妖怪をできるだけ殺さないように追払うに留めていたんだが、その事で居場所を失ってね。今は二人で放浪の身って訳さ。」
よくあるカバーストーリーを話す。何もかも出鱈目な話だが、相手に確かめる術など有りはしない。
「で?僕に何の用かな?村紗。」
「あ、実は、ちょっと会ってほしい人がいるんだよ!」
「ほう?」
彼女から会って欲しい人物。それは命蓮寺という寺にいる僧侶だそうだ。
そうしていると、急接近する霊圧を感知した。
「村紗ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!」
「えぇぇぇぇえええええ!?聖!?」
村紗の名前を叫びながら簡易の小屋を破壊しそのまま僕にに殴りかかる女性。
斬魄刀の鞘で受け止めるが、余りの膂力に要諸共吹き飛ばされる。
驚きながら女性の名前を叫ぶ村紗。
「村紗ッ!大丈夫ですか!?」
「いや、大丈夫だけど!いきなりどうしたのさ聖!あの人は…」
「いえ言わなくてもわかります!あの男達が村紗を拐ったのですね!大丈夫ですあの男達はすぐに私が倒します!」
彼女ーーー聖は大きな誤解をしているらしく、彼らを倒そうとしている。村紗が彼らのことを話そうとしたが聖は聞く耳を持たない。
聖に突然殴り飛ばされた僕達は極めて冷静に、地面につく際に受け身を取る。
「藍染様、御無事ですか?」
「ああ、問題ないよ、要。」
着地時のダメージを最小限に抑えた僕は聖に対し対話を試みた。
「いきなりどうされましたか?」
「村紗を拐った人が何を言うんですか!」
「何を言ってるんですか?違いますよ。」
しかし聖は聞く耳を持たない。そもそも村紗の言葉すら聞こうとしなかったのに、僕の言葉を聞く筈が無かった。落ち着く暇も与えないようにか、聖が僕に向かって飛びかかる。
「藍染様、ここは、私が……」
要が斬魄刀に手をかける。それに僕が止める。
「要、どうやら向こうは僕が目標のようだ。相手しないのは失礼にあたるだろう?」
会話による説得は不可能と判断した僕は、聖の拳を受け流し腕を掴む。
「!?」
「すみませんね。」
そのまま聖の勢いと自分の腕力を交差させて思いっきり地面に叩き付ける。俗に言う『背負い投げ』だ。
しかし聖も甘くない。その完璧な筈の背負い投げに対し、これまた完璧に受け身をとり即座に距離をとる。
「…何者ですか。私の攻撃を受け流すどころかそのまま攻撃してくるなんて…」
僕の正体を問う聖。僕はいいタイミングだと考え、一度は捨てた話し合いによる解決という案を引っ張り出した。
「僕は藍染惣右介です。彼女ーー村紗が土蜘蛛に襲われていたのを見つけたので、助けました。身元がわからなかったのでとりあえず僕の家まで背負っていって休ませていたんです。」
できる限りゆっくり、なだめるようにそう言う。しかしその言葉は更なる誤解を生んだ。
「そ…それでやましいことをしようと!?許せません!」
ーどうやらもう少し実力を確認できそうだねー
僕は小声で呟く。
どうやら聖は完全に頭に血が上っているようだ。いつものように冷静な判断ができず、僕の言葉を又も変にとらえてしまった。だがこれは好機だ。
僕は斬魄刀を抜く。
「砕けろ 鏡花水月」
刀身から霧が発生する。即座に聖の視界を奪う。
「これが斬魄刀というやつですか。ですが、小賢しい!!」
普通の人間では有り得ないスピードで突っ込んで来る聖。その聖の拳は地面を叩き、瞬く間に霧を晴らす。それだけに留まらず、地面に亀裂を入れる。
鬼とも遜色無い膂力だね。
「藍染様!!!」
亀裂が走った地面に足を取られた隙に間合いを詰めてくる聖。
無防備な鳩尾に拳が入り込む瞬間
「聖ストーォォォォオオオオップ!!!!」
村紗の全力の制止の叫によりようやく止まった。
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「あの、誠に申し訳ございません……」
「本当だよ聖!」
「いえ…大丈夫ですよ。わかってくれたんですから…」
ボロボロの姿で彼の部下に治療を受ける陰陽師。
「村紗君。この方は?」
「あ!この人は聖白蓮!それにしても手間が省けたね!2人とも、君達に会わせたかったのは聖だったんだよ!」
「「「………え?」」」
村紗以外の3人の声が重なった。
それから事情を聞き、お互いに矛を収める。いや、私から仕掛けたのですから、この言い種はよくないですね。ともあれ誤解が解け、村紗も無事で良かったです。
「そうだったんですね。……それにしても、僕もまだまだ見識が狭いようでね。元護廷十三隊だと言えど、こうして打ちのめされるとは……最強の陰陽師だと持て囃されても、上には上がいる訳ですね。」
「いえ、あなたの体術も素晴らしかった。私も少々腕に自信がありましたが、見事いなしきったではありませんか。」
そうして息を吐いた時、ふと感じた違和感。
喉に小骨が引っかかったような違和感。
私が彼にトドメを刺そうとした時に叫んでいた部下。
褐色肌で目元を塞いでるこの男性は、己が上司に危機に叫びはしたが、駆け込む様子はなかった。
今も甲斐甲斐しく治療の術を行使するぐらいには、忠誠心があるはずなのに。
そう思うとあの叫び声も些か真剣味が薄かったのではないか?まるで本当は如何とでもなると言わんばかりのような……
……いや、初対面の相手ですからなんとも言えませんね。
ーーこの出逢いが
ーーこれから先、約千年もの長い暗闘を繰り広げることとなる藍染惣右介との邂逅だった。