東方霊術伝   作:モン太

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信じるのは、まだ早い


Turn Back The Pendulum

現地に到着した聖達3人ではあったが、苦境に立たされていた。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、く…っ」

 

到着した3人が目にしたのは、理性を失い暴れる怪物と化した一輪と村紗だった。

 

顔には何やら仮面の様な物がついており表情は伺えない。そして何故か一輪からは妖力を、村紗からは霊力を感じ取れる。2人とも種族的には有り得ない筈のそれにより力が増大していた。

 

近くには東仙が血を流し倒れ意識を失っている。小傘も早々に一輪に吹き飛ばされ戦闘不能。助けたいがその余力もない。

 

「どういう事ですか、あれは…。本当に一輪なのですか…。それにあの仮面…感じる力も妖力…!」

 

「…ウ…オオオオオオオオオ」

 

「!!!」

 

雄叫びをあげる一輪。共に控えている雲山も理性が無いように見える。

 

一度距離を離し、再度戦況を確認する。

 

しかしその瞬間、凄まじい速度で聖の背後をとる一輪。

 

「何…!?」

 

そこから繰り出されるパンチをギリギリでガードする。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、凄まじいですね…。流石は一輪です。」

 

息を切らしながらも耐える聖。チラリと村紗の方に視線を向ける。

 

村紗の方は幸い、ぬえが相手をしていた。村紗の力も凄まじいがぬえも大妖怪の端くれ。すぐに戦いの天秤がどちらかに傾くような気配は無かった。

 

「行きますよ、一輪!」

 

聖は己の法力を拳に溜めて駆け出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夜。命蓮寺から1人の人影が門から出ようとする

 

「どこに行くんだい、お師匠?」

 

しかしそれを咎める者がいた。

 

「見つかってしまいましたか…」

 

「聖の後を追いかけるんだろう?…さっきのお師匠の様子を見た時から、こうなる予感はしていたよ。」

 

見つかった者は、寅丸星。見つけた者は、ナズーリン。共に主従関係を結んでいる者達だ。

 

「…流石ね。……通しちゃもらえないかな?」

 

「…それは無理だね。」

 

否定された星がやはりかと覚悟を決めようとするが、

 

「お師匠1人で行かせはしない。」

 

「えーー?」

 

意表を突いたナズーリンに目を丸くする星。

 

「今宵言いしれぬ恐怖を感じているのは私も同じ事だ。…惣右介には悪いけど、私達も2人で聖を追いかけよう。」

 

共に頷いた2人は命蓮寺を走り去っていく。

 

その後ろ姿を藍染は無感情に眺めていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁあ!!封印術 変幻封尽!!!」

 

七色の光の帯が一輪を拘束する。

 

「はっ…はっ…はっ…これで終わりです。」

 

村紗の方を確認する。

 

「あちらもちょうど終わったようですね。」

 

ぬえも村紗を無力化することに成功していた。

 

「……なんとかなりましたね。」

 

聖がぬえの方へ足を進めた瞬間、突如暗闇が襲いかかった。

 

「なん…ですか…これは!?」

 

突然視界が暗闇となり、驚愕に足を止める。

 

「うあっ」

 

「ぬえ!」

 

ぬえの悲鳴が聞こえそちらに走ろうとするが、いきなり背中を斬られ地に伏してしまう。

 

そして、暗闇が晴れたそこに居たのは

 

「…あ……あなた……東仙…………!」

 

東仙要が刀を手に佇んでた。

 

まさかの裏切りに表情を険しくし、問い詰める聖。

 

「なぜです…あなた…一輪を…自身の師匠を…裏切ったんですか…!?」

 

 

 

 

「裏切ってなどいませんよ」

 

 

 

 

だが聖の耳に新たな声が入る。

 

 

 

 

「彼は忠実だ。」

 

 

 

 

それは出会ってからずっと側に置いていた者

 

 

 

 

「ただ忠実に」

 

 

 

 

疑ってもいたし、信じてもいた部下。

 

 

 

 

「僕の命令に従ったに過ぎない。」

 

 

 

 

最近は本心で信頼し始めていた男

 

 

 

 

「どうか彼を責めないでやって下さいませんかーーー聖先生」

 

 

 

 

「…藍………染…!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やはり…あなたでしたか…」

 

「気付かれていましたか。流石ですね。」

 

「当たり前です…」

 

「いつから?」

 

「あなたが産まれた時からですよ…っ」

 

彼女は会話の主導権を握らせないようにはぐらかす。

 

「成程。」

 

「私はずっとあなたを…危険だと…信用できない男だと思っていました…だから私はあなたを弟子に選んだのです…あなたを…監視するためです、藍染…!」

 

藍染の口元に笑みが浮かぶ。

 

「…ええ、感謝しますよ、聖先生。あなたが深く疑ってくれたお陰で貴方は気付かなかった。」

 

「…気付いていたと言いました。」

 

「いいえ、気付かなかったでしょう?この一月、あなたの後ろを歩いていたのが僕では無かったという事に。」

 

「…な…!?」

 

聖が驚愕に目を見開く。当然だ。ずっと警戒し、監視していた相手が偽物だと思う筈はないのだから。

 

「敵にこの世界のあらゆる事象を僕の意のままに誤認させる。それが僕の斬魄刀『鏡花水月』の真の能力です。その力を指してーー“完全催眠”と言う。」

 

「…完全………催眠ですって……!?」

 

とても信じられる話で無い。いや信じたく無い話だ。それが本当なら、策謀で藍染の上をいくことは不可能だからだ。

 

「あなたは鋭い人だ、聖先生。あなたが普段、他の命蓮寺の面々と同じように僕に接していたなら、或いは見抜く事が出来たかもしれない。だが、あなたはそうしなかった。あなたは僕を信用していなかったが故に常に僕と一定以上の距離を保ち、心を開かず、情報を与えず、決して立ち入ろうとしなかった。だからあなたは気付かなかったんです。僕が全くの別人に掏り替わっても。僕の身代わりをさせた男には僕の普段の行動とあなたや他の面々に対する受け答えを全て完璧に記憶させました。もしあなたが僕の事を深く理解していたなら、僅かな癖や動きの違いに違和感を覚えたでしょう。」

 

藍染は聖を見下しながら笑う。

 

「あなたが今そこに倒れているのは、あなたが僕の事を何も知らないでいてくれたお陰でなんですよ、聖先生。」

 

「…藍染…」

 

ふらつく足に力を入れて立ち上がろうとする聖。

 

藍染もそれに合わせて歩を進める。

 

「…それからもう一つ。あなたは先程僕に、“監視する為に弟子に選んだ”と言いましたが、それは間違いです。ーーあなたと初めて出逢った彼処は、僕が鏡花水月で操った土蜘蛛を使って村紗君を誘導し、あなたを誘き寄せたんです。何故そんな事をしたのか。…理想的だったからです。あなたのその僕に対する過大な警戒心が僕の計画にとって正に理想的だったからです。解りますか?“あなたが僕を選んだ”んじゃない。“僕があなたを選んだ”んです、聖先生。」

 

藍染は地に伏す一輪やぬえを見る。

 

「あなたは仲間達に謝罪すべきかも知れませんね。あなたが僕に選ばれたが為に、あなたもその仲間もそこに横たわる羽目になったんですから。」

 

「……………藍染…!」

 

流石に仲間を侮辱され、頭に血が昇る聖。地に伏していたとは思えない力で立ち上がる。

 

しかし

 

「…が…ッ!?」

 

突然顔面から白い液体が吹き出し、顔を覆い、仮面が形成される。

 

「…安い挑発に乗って頂いて有難う御座いました。」

 

「く…ッ…私も…!」

 

「ぐぅ…ッ」

 

ぬえの呻き声を聞き、振り向くと彼女の顔にも仮面ができていた。

 

「藍染!!何ですかこれは!?あなたは一体何がしたい……ッ」

 

仮面がどんどん侵食していく

 

「ぐあああああああああああ!!!」

 

「…やはり、興奮状態の方が破面化の進行は速いようだね。」

 

「……破面化……!?何ですか……それは…?」

 

「知る必要は無い。」

 

「…ぐ…ッぐあああああああああああああああ!!!!」

 

聖の叫び声に反応するように村紗がふらつきながら立ち上がる。

 

「…ひ…ひ…じ…………り………?」

 

それを一瞥する藍染

 

「要。」

 

「はい。」

 

藍染に命じられた東仙が斬魄刀に手をかける。

 

「!やめ…」

 

ザンッ!

 

聖の制止も虚しく、斬り捨てられる村紗

 

「ーーー終わりにしましょう、聖先生。あなたは完璧な師匠だった。あなたは僕を警戒していたが故に手許に置き、警戒していたが故に距離を取った。あなたはその目で見る事で僕の動きを抑制しようと考えた。…最後に憶えておくと良い。」

 

ゆっくりと刀を抜く藍染

 

「目に見える裏切りなど知れている。本当に恐ろしいのは目に見えぬ裏切りですよ、聖先生。」

 

そして刀を上段に振り上げる。

 

「さようなら。あなた達は素晴らしい材料だった。」

 

絶望に瀕した聖は目を瞑る。

 

「みんな…申し訳ありません。」

 

しかし次の瞬間、藍染の背後から星が奇襲をかけた。藍染は難なく奇襲を避けたがそれにより聖は命拾いした。

 

「……………ほう。これはまた…面白いお客様だ…」

 

星とナズーリンが険しく顔で藍染達を睨む。

 

「…何の御用ですか?寅丸さん、ナズーリンさん」

 

陰謀が露見した事により危機に陥る藍染達。直ぐに東仙が動く。

 

「斬ります。」

 

「いや、いいよ。」

 

だが藍染が止める。

 

「しかし…」

 

「要。僕は“いい”と言ったよ。」

 

たった一言が、途轍も無い重みとなって東仙の体を縛る。

 

「は…!僭上な物言いお許し下さい!」

 

直ぐに跪く東仙が、何よりも一輪と藍染という同じ上司としての格の差を見せつけていた。

 

「藍染……」

 

「はい。」

 

「ここで何を?」

 

「何も。ご覧の通り、偶然にも戦闘で負傷した変死事件の調査部隊の方々を発見し、救助を試みていただけの事です。」

 

「……何故嘘をつくんだ…?」

 

「嘘?弟子が師匠を助けようとする事に何か問題が?」

 

「違う。ひっかかってるのはそこじゃない。お前は何故ここにいる?聖に命蓮寺守護を任され、剰え私達より先に到着している訳がないんだ。それが何よりもお前が犯人だと証明している!」

 

「…成程。やはり君達は思った通りの人達だ。」

 

藍染の気配が悍ましいものに変わる。何か力を発している訳ではない。先程もそうだが見た目の変化は無いはずなのに、醸し出す雰囲気が異質すぎる。

 

藍染が刀を鞘に納め背を向ける。

 

「今夜此処へ来てくれて良かった。退くよ、要。」

 

「!待…」

 

「お師匠、避けてッ!!!『財宝 ゴールドラッシュ』!!!!」

 

動揺する星とは違い、ナズーリンは冷静だった。本性は臆病だが、だからこそ常に状況に合わせて最適解を導き出せるクレバーな一面があった。

 

その彼女の答えが奇襲による最大火力の弾幕。相手に何かさせる事なく、最悪自白はできない可能性もあるが殺してでもここで仕留めることが最適解だとナズーリンは確信していた。

 

星は咄嗟に伏せる事で弾幕を回避。最大妖力を注ぎ込んだ弾幕が背中を向けて歩く2人に殺到する。

 

「縛道の八十一 『断空』」

 

だがそれは藍染の短い言霊による霊術の壁に呆気なく阻まれた。

 

「……………………莫迦な……」

 

今の一撃は不意打ちなら聖すら容易く殺せる攻撃だった。そして間違いなく不意打ちだったはずだ。

 

「“人間”が…私の本気の攻撃を止めた…!?」

 

暫く爆発の突風と煙が晴れた頃には藍染達の姿は無くなっていた。

 

「すまない…!逃してしまったようだね…」

 

「ナズ…彼は一体…?」

 

だが、彼女達に呆けてる時間など無かった。

 

夜の暗闇の中から何本もの松明と馬が走る音が聞こえてくる。やがて姿を確認できる頃には、100人規模の集団に囲まれていた。武士や陰陽師の姿ばかりだ。その全員が肩や弓、呪符を構えていた。

 

「何なんだ、アンタらは!?」

 

嫌な予感に駆られ、ナズーリンが声を上げる。

 

だがそれに応える事なく、集団の大将と思われる人物が声を張り上げた。

 

「命蓮寺!!…いや、此度の都での変死事件の犯人共!!!」

 

「!?」

 

驚きで目を丸くする2人

 

「お前達は妖怪に味方する邪悪なる思想を持ち合わせているだけでなく、妖怪を匿い、それに不都合な者を変死事件として処理してきた。」

 

「ちょっと待って!誰がそんな事を…」

 

星もたまらず声を上げる。

 

「お前達に何かを言う権利があるとでも思ってるのか?」

 

「…藍染惣右介か…?」

 

「二度目だ。次はないぞ。」

 

「それは全部あいつのした事だ!私達は被害者達を助ける為にここにいるんだ!」

 

2人がどんなに言葉を並べても向こうの大将の顔色に変化はない。それどころか心底呆れた表情を浮かべるようになる。

 

「嘘もそこまでくると滑稽だな。藍染惣右介などという人物は、200年前の大罪人。いくら奴が極悪人だからといって、今の世を生きてる訳がないだろう!言い訳をするにしてももっとましなセリフを言うんだな!」

 

「何だって…!?」

 

大将の言葉により、星とナズーリンの2人の中での物事の辻褄が全く合わなくなる。最早何がどうなっているのか完全に把握する事など不可能。

 

何が嘘でどれが本当なのか?どこまでが偶然で、どこまでが陰謀だったのか?藍染惣右介とは一体何者なのか?何故、タイミングよくこいつらがこの命蓮寺のメンバー全員が負傷している状況で集う事になったのか?

 

頭の中は混乱するばかりだが、ナズーリンは一つ確信していた。この状況は間違いなく藍染の手の上であると。

 

「お前達をこれから封印する!殺されないだけでもありがたいと思え!!」

 

だが今はそんな確証に意味はない。

 

ナズーリンはすぐに頭を切り替えて、星に小声で話しかける。

 

「逃げるよ、お師匠。」

 

「…………」

 

だが星はあまりの出来事に放心していた。

 

ナズーリンは強引に星の肩を組むと走り出す。

 

「とっ……捕えろ!!逃げるな!!」

 

「ナズ!!聖達が!!!」

 

揺さぶられて意識が帰ってきた星がナズーリンに叫ぶ。

 

「私達だけで全員は無理だ!今は逃げるしかないよ!!」

 

「……そんな」

 

「追え!!追うのだ!!!」

 

2人は背後からの追手を巻きながら、夜の暗闇に身を隠した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「成果は上々だ。やはり予想した通り、強固な個体であれば虚化、破面化は魂魄自殺なく安定するようだ。それに地獄と魔界に録霊虫を送り込む事に成功した。」

 

「ええ、そうですね。また、感情の昂りによっても進行に影響がある事も判りました。……ですが、そうまでして成功したあれらの個体の出力はあの程度とは…」

 

「問題無いよ。手法が解ったんだ。次は出力を上げる為に、今の未完成の崩玉を更に成長させよう。」

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