東方霊術伝   作:モン太

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ぼくたちは ひかれあう

水滴のように 惑星のように

ぼくたちは 反発しあう

磁石のように 肌の色のように


得体の知れない旅人

私は生まれた時から、この村を護ってきた。いや、そもそもいつ生まれたのか私にもわからない。ただ人に畏れられ、人に恵みを与えるのが、当然と思っていた。

 

そんな生活の中、最近大和が領土拡大に乗り出し始めいていた。天照大神率いる大和は、強大な軍事力を背景に次々と他国を吸収、肥大化しつつあった。その脅威は、私の治めるこの諏訪の国にも影響を及ぼし始めていた。

 

まだ、村の者はそこまで緊張している様子ではなかったが、私はいずれこの国にも戦争を吹っかけられるだろうと考えていた。その為、常に外の様子を警戒していた。

 

そんなある日、突然私の警戒網に一つの霊力を感知した。この時私は、すぐにこの現象が異常である事を感じていた。霊力は普通の人間であれば、誰でも持っている程度だった。しかし、何者かが近づいている訳ではなく、いきなり森の中で発生したのだ。そして、異常はまだ続く。

 

その霊力が出現してから、どんどんと霊力が上昇して行くのだ。こんな速度で霊力が増えていく事に私は警戒心を抱いた。

 

考えている間にも、霊力は上昇していく。こいつは一体何者だ?私の警戒網を、まるですり抜けるかの様に突然現れる存在。人間なのか?妖怪なのか?神だという事はあり得ない。神力を持っていないからだ。偶に妖力と神力の両方を持っている奴もいるが...........

 

どうやら戦闘している様だが、相手側の妖力の方が遥かに大きい。どのみち此処まで力の差があるなら、殺されるのだから考えてもわからない事を深く考えるのはよそう。

 

しかし、私の思惑とは裏腹に妖力の反応だけが消え、霊力の反応だけが残った。しかも、その霊力はだんだんこちらに近づいて来る。

 

悉く、私の予想や知識を上回って来る存在に私は一つの可能性を検討し始めた。

 

もしかすると大和からの密偵か?

 

私は直ぐに、小型のミシャグジを地中に潜らせ侵入者の監視にあたらせた。

 

侵入者は白い服に目元によくわからない何かを着けていた。村の老人や若者とも仲良く喋る侵入者。ただの人当たりのいい好青年といった感じだ。しかし、油断できない。やつは、私の視線に勘付いている。時折、山の方を見る様子からも私の神力を感知できる様だ。明らかにただの人間ではない。

 

この日はずっと様子を見ていたが、特に動きは無かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、朝から泊まっていた家の家主のお手伝いに励んでいる様だ。それにしても甘い風貌のお陰か、周りの警戒心を簡単に解いてしまう。特に女性の中には、頬を染めている者までいる始末。

 

そして、朝食の後に老人と侵入者は私の所に挨拶に来る事を確認し監視をやめる。

 

しばらくすると、社の門の前に人間の気配を感じた。

 

とうとう、来たか。

 

私はこいつの正体を確認する為に、案内役の老人を家に帰し、2人きりの空間を作った。

 

私は無言で徐々に神力を高めていく事で、旅人への圧力をかけて見る。しかし、動揺した様子が観られない。30分ほど経って無駄だと考えた私は単刀直入に聞くことにした。

 

「お前は何者だ?」

 

「旅人にございます。」

 

間髪入れずに微笑みながら返してくる。なんとも胡散臭い笑みだ。もし、彼の力や怪しさがなければ、簡単にころっといってしまうだろう。

 

だが、私は常にお前を監視していた。その程度では、誤魔化せんよ。

 

「嘘を吐くな。……お前は旅人ではないだろう? 」

 

「普通の旅人......人間なら、突然森に現れることなど無いだろう?」

 

ここで漸く、彼の表情に動揺の色が表れる。だが、次第に「何のことやら?」と言いたげな表情になる。

 

「なるほど、しらを切るのか。」

 

表情が段々と固くなっていくのに、気分が良くなり、最後にたたみかけた。

 

「もしやお前、大和の密偵か?」

 

旅人の顔が完全に引き攣った。これで完全に黒だ。こいつはここで天罰を下す!

 

「やはりか。ならばこの祟り神である洩矢諏訪子が、お前に天罰を下す!」

 

「ミシャグジよ。あいつを喰え。」

 

ミシャグジ。私が絶対的に信頼を置いている眷属だ。いくら、面妖な力を持っていたとしても、ミシャグジとあいつの力の差は歴然。この力の差ならば、相手も尻尾を出さざるおえない。これで死んでくれれば、なお良し。

 

ミシャグジの突進にギリギリのところで回避し、拳を作ったところで、彼から感じる力の質が、霊力が拳に移った。そのままミシャグジを吹っ飛ばした。

 

霊力の扱いが上手い。

 

「等々本性を表したか。」

 

彼の表情に困惑の色が表れる。もしかして、こいつ自覚無しに使っているのか?

 

ミシャグジは体制を立て直し、再び彼に突進する。

 

危機を感じた私は、直ぐにもう一体のミシャグジを召喚し彼の背後から襲わせる。

 

「なかなかの威力だが、それでは私は止められんぞ!」

 

あの威力と速度。おそらく、一発で限界になったのか?なら、これで詰みだ!

 

彼の背後からミシャグジが襲いかかる。

 

仕留めた!

 

私の顔に勝利の笑みが浮かぶ。しかし、ギリギリで回避される。

 

チィ!悪運の強い奴め!

 

私は更に2体のミシャグジを召喚する。1体で精一杯なら、3体で殺す。

 

「これの代償は高くつくよ。洩矢諏訪子。」

 

奴の顔に不気味な笑みが浮かぶ様子を私は奴を注視する。いや、してしまった。奴の目を。

 

光沢のない黒が凝縮したようで、見つめ続けると深みにはまってしまいそうだ。そして、そこに自分が映っているのかと疑問に思う。

 

無価値で無感動に風景も生き物も一緒くたに観察する目だ。揺れ動くことなく、驚愕という感情すら浮かばないのではないのだろうか。

 

その立ち姿からは神に対する恐れや、自らが敵地とも呼べる場所の只中で唯一人だけという危機にあるという気配は微塵も無く、唯泰然とそこに立つ事が当然であるかの如く私を見下ろす。

 

奴の口元に浮かべた笑みが余裕から来るものか、それとも何らかの喜びから来るものかを推し量ることは、そのときの私には出来なかった。

 

只の一瞬目が合っただけでその暗い闇に囚われ、底無しの沼に沈み込むように這い出すことも逃げることも叶わず、ただ深く深く沈んでしまいそうな錯覚。

 

それは初めて感じる根源的恐怖、暗く重く恐ろしいほどの闇、ただの人間、いやたった一つの存在が抱えるにはあまりに大きすぎる闇をその男は有していた。

 

気が付けば、私の背中に冷たい汗が流れていた。体が震える。

 

「口調が変わってるぞ。それが、お前の本性か?」

 

いつの間にか敬語も抜けて、上から目線な口調になっている。

 

これ以上動揺を悟られない様に此方も噛みつく。

 

「随分と饒舌になったな。私はお前と喋りたい訳ではない。さっさと私に殺されろ。」

 

「キミは、強者が弱者を支配するのは当たり前だと考えているかい?」

 

「何をいきなり.....」

 

こいつは何を言ってるんだ?また、よく分からない深みに嵌っていく感覚を感じる。

 

「いや、言い換えよう。神が人を支配するのは当たり前だと思うかい?」

 

「当然であろう。この村も私の加護がなければ、豊作にはならない。」

 

「つまりキミは、ここでは強者という事だね。なら、あまり強い言葉を遣うものではないよ。」

 

「弱く見えるぞ。」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の頭は怒りで沸騰した。先程まで抱いていた恐怖など吹っ飛び、ただ目の前の男を殺すことにした。

 

神である私に対して此処まで狼藉、絶対に許しはしない!

 

「もういい!ミシャグジよ。こいつを殺せ!」

 

全力でミシャグジを嗾ける。

 

「縛道の一 塞」

 

「何!」

 

一切手を抜いて無いはずなのに、あんな簡単に私のミシャグジを封じ込めただと!

 

私が呆気に取られている隙に、封じ込めたミシャグジが此方に飛んでくる。私は慌てて、鉄の輪を召喚して切り裂く。

 

開けた視界で私が見たのは、口元に笑みを浮かべ、私に向けて人差し指を向けてくる男だった。

 

「縛道の一 塞」

 

ミシャグジに使ってきた拘束の術か!?

 

「くそッ!私にこの様な真似をしてただで済むと思うなよ!」

 

引き千切ろうと神力を高める。所詮は人間が使うレベルの術だ。こんなもの!

 

「破道の一 衝」

 

「グアッ!」

 

私の体を衝撃波が襲う。私は耐えきれずに吹っ飛ばされる。

 

クソ、私が吹っ飛ばされただと!?

 

「破道の一 衝」

 

今度は防御態勢を取って受ける。土煙で視界を封じらた。その間に完全に拘束を解く。

 

先程は頭に血が上ったが、今度は冷静に土煙が晴れるまで警戒する。

 

「..............................」

 

土煙が晴れ、周りの様子が向け目視できるようになる。周りを見渡すが、あの男は居ない。どこかに潜んでいるのかと気配を探るが、気配を感じない。そうしているうちに私の中で沸々とした感情が湧き上がってくる。

 

神である私をここまでコケににした奴は、初めてだよ。いいだろう、藍染惣右介。貴様こそ、この代償が如何に大きいか思い知らせてやる。

 

私は無数のミシャグジを地面に潜らせ、藍染惣右介の探索にあたらせた。

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