初めての弟子①
諏訪大戦から約600年後。普通の人間であれば、とっくに死んでいるはずだが、どうやら僕は普通では無かったようだ。霊力の成長が止まらずトンデモナイ事になっているのだが、そこは藍染様クオリティ。かけている眼鏡にリミッターをつけて、周囲の影響を及ぼさないようにしている。
鬼道については、原作で描かれた物なら大体できる。もちろん「五龍転滅」も使えるようになった。だけど、一度使って見てその土地を文字通り沈めてしまってからは使用していない。
裏破道はまだ習得していないが、原作では「鉄風殺」しか無いし、試し打ちでまた大惨事を起こしそうだから、習得は後回しにしている。
瞬歩、白打もマスターした。特に白打は原作藍染様の様に素手で剣を止めれる位にはなった。
研究については、あまり進んでいない。新しい物は1つだけだ。原作で背後からの不意打ちの月牙天衝を防いだ盾「ミジョン・エスクード」。背面に100万層からなる盾を作り出す。これで死角からの不意打ちを防げる。
崩玉にも挑もうかとも考えたが、あれはかなり非人道的な人体実験を経て、完成された危険な物である以上、なかなか手を出す気になれない。
斬魄刀についても成果は得られていない。自作した刀を浅打として常に持ち歩いているが、一向に始解に至る事ができない。それどころか精神世界に入る事もできない。やはり霊体でないと無理なのかもしれない。でも、神力を得た時は他人の物とは言え、斬魄刀を振るう事はできたのだけど。一応、諏訪子から抜き取った神力の培養には成功している。流刃若火もいいけど、やっぱり鏡花水月が欲しい。
そんな修行と研究の600年を過ごした。
「藍染さん、まだ着かないんですか〜。いい加減、ヘトヘト〜。」
「シャキッとしろ、サクラ。藍染さんも我々と同じ様に歩いておるのだ。藍染さんを困らせるな。」
「ええ〜。でも、ずっと歩きっぱなしじゃない。つまんないわ〜。」
「ハハ。ならそろそろ食事にしようか。」
「本当ですか!やったー!」
「はあ。全く、藍染さんも余り甘やかしてはダメですぞ。」
「それは申し訳ないね。以後、気をつけるよ。」
「そんなニコニコ顔で言われても本気だとは思えません。」
「いやいや、君には本当感謝しているよ。君のその厳しさは僕の事を思ってるからこそだろう。」
「もちろんです。藍染さんに助けられたこのレン。ご恩は一生忘れはしません。」
「ハハハ。それは頼もしいね。」
最近、弟子を取るようになった。気分屋で自由奔放、快活な少女サクラ。生真面目で僕に対して忠誠心が凄まじ過ぎて、制御しきれない少年レン。
2人を連れ添って、歩き回るきっかけは偶々だ。妖怪が暴れまわった村の調査をしていた時に偶然生き残った子供を引き取った。それがこの2人。
何処と無く、原作の市丸ギンと東仙要を彷彿とさせる。容姿は全然違うけど。2人の姿は普通の黒髪にでサクラ君は長く、レン君は短く切っている。銀髪だったり、パーマとかでは無い。普通の日本人と言った感じだ。特段、美人でも美少年でも無い。服装は、死神の死覇装だ。腰には刀を差している。斬魄刀というわけで無く、僕と同じただの刀だけど。年齢は2人共11歳。
この時代には似つかわしくない格好の3人組。だからよく、妖怪に絡まれる。ある意味では、この2人を鍛えるのには丁度良かった。お陰で普通の妖怪程度なら軽く倒せるようになった。剣技もそれなりにできるし、鬼道も五十番位まで、三十番台なら詠唱破棄も余裕がある。
とは言っても彼らと僕とではやはり根本的に違う。僕のように何百年も生きることはできない。寿命も人並みだ。だからこそ、今向かっている大和に彼らの安住の地があればいいのだが。
「何ぼーっとしてるんですか〜。藍染さんも手伝ってくださいよ〜。」
「すまない、今いくよ。」
「ほら!レンも早く鍋を出して!」
「お前は元々何も持っていないだろう!何故そんなに偉そうなのだ!」
レン君が持っていてくれた荷物から、薪を出して並べる。
「もう日もだいぶ傾いている。今日はこのままここで野営だ。」
「はーい。」
「わかりました。」
「破道の三十一 赤火砲!」
サクラ君が赤火砲で火をつける。
「おい!鬼道をそんな所で使うな!危ないではないか!」
「まあまあ、楽でいいじゃん。ねー!藍染さん!」
「ハハハ。今回は許してあげよう。ただし、ちゃんと加減はするんだよ。」
「はーい。」
「全く、藍染さんはいつもそうやって.....」
あらら、またレン君の説教が始まってしまったようだ。
初めて弟子を持った僕は、どうも彼らを甘やかしてしまう。やはり、弟子が可愛いというのが大きいかな。
そうして、適当な山菜とキノコに塩を入れただけの簡単な汁物ができた。600年も経ち、記憶は殆ど残っていないが、それでも料理の質が前世と比べて、かなり悪いのはわかる。さすがに600年もすれば慣れたが。
「ふう〜。身体に染みるわ〜。」
「行儀良く食べれないのか!」
でも、目の前の2人はとても楽しそうだ。
「最近は、葉っぱばっかりだね〜。お肉食べたい。」
「そうだね。最近は山菜が多かったから、猪でも狩ろうか。そうすれば、肉も食べられる。」
「わかりました。明日の朝には狩ができるように準備しておきます。」
「うん。頼んだよ、レン君。もちろん、サクラ君も狩に出てもらうね。明日の修行代わりにしよう。」
この時代に限らず、女性は荒事に出さないのが常だが、彼女にはいずれ自分の力だけで生きていかなければならない時が来るかもしれない。要らぬお節介かも知れないが、親心のようなものだ。
「ご馳走様!」
「ご馳走様でした。」
「ご馳走様。」
昔、諏訪大戦で自分の力が他を圧倒的に隔絶する事を確信した時に、どうしようも無い孤独感に苛まれたが、割り切ってみればこんなにも簡単な事だったんだと感じていた。
600年間、ずっと1人だったから忘れていたけど、他人と一緒に鍋を囲む事が、これ程幸せな事なんだと改めて思い出させてくれる。確かに美味しいとはとても言えないが、心は暖まる。今はこの暖かさを嚙みしめよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日。
僕達は昨日決めたように山に入り、猪を探していた。
「猪探すのはいいけど、何の計画も無く適当に歩くだけじゃ、見つからないよ〜。」
山に入って1時間位が経過していた。サクラ君が駄々をこね出し始める。いつもは注意するレン君も疲れてきているのか、注意する様子はない。
「そうだね。では、二人共霊圧探知をしてみようか。」
「藍染さん。猪に霊圧はありませんが、意味はあるのですか?」
「確かに猪に霊圧は無いよ。霊圧探知は霊力、妖力、神力などの力を探知する技術だが、それ以外にも使い道はあるよ。」
「もう!回りくどいな〜。早く教えてくださいよ〜!」
「ハハハ、そう焦らないで。霊圧探知を只の技術では無く、自分の感覚の一部とするんだ。そうする事で、自分の感覚を遮るモノを感じる事ができるようになる。それが地面や木々や川であったりする。その中から動くモノを探すんだ。」
「それが猪だと?」
「そこまではわからないよ。ただ、霊圧は無いが動くモノを探知できるという事がわかるって事だよ。でも、効率は上がるだろう。」
「では、早速やりましょう。」
「いや、いいよ。そんなすぐにできるものでは無いからね。それはまた別の機会で練習しよう。今日は僕がやるよ。」
「わかりました。」
「さすが藍染さん!でも、それなら最初からやってくださいよ〜。」
「すまないね。うっかりしていたよ。」
「嘘ばっかり!どうせ私達が苦労しているのを見たかったとか、そんなところでしょ。」
「いやいや。そんなに怒らないでくれよ。しっかり見つけるから。」
霊圧探知を開始する。そして、
「おや。どうやら3匹。北東に進んでいる動物がいるね。」
「早!」
「さすがです。」
「では、そこまで行こうか。2人共ついておいで。」
「「はい。」」
2人共を連れて山を走る。瞬歩で移動できればいいのだが、2人は瞬歩ができない。原作では当たり前のように使われていた瞬歩だが、かなりの霊力を消費するようだ。死神のように霊体であれば、負担はだいぶ軽減されるようだ。つまり、僕の瞬歩は膨大な霊力のゴリ押しである。
走る事5分。猪を見つける事ができた。
「どうやら、見つかったようだね。」
「藍染さん、確か3匹ではなかったのですか?」
「そうだね。移動している間に別れたのかも知れないね。」
「よーし!捕まえるぞー。」
「では、2人のお手並みを拝見させていただこうかな。」
「「はい!」」
元気良く返事する2人。僕の前で力を披露できるのが嬉しいようだ。生真面目なレン君も勇猛な笑みを浮かべている。
どうやら本当に僕は彼らを甘やかして育ててしまったようだ。大和に着いた時に順応できるか少し心配になってきた。
僕は木に登る。
猪は2人の敵意を感じ取り、突進する。2人はそれを左右に分かれて回避。
「縛道の三十 嘴突三閃!」
サクラ君が放った縛道が猪を捉え、木に縛る。
「はあああああああ!」
レン君が抜刀し、身動きできない猪を一閃。首を刎ねた。
さすがに霊圧の無い生き物を倒すぐらいは簡単すぎたかな。
「お見事。成長しているようで嬉しいよ。」
「ありがとうございます。」
「すごいでしょ!」
「ああ、素晴らしいよ。では、山を降りようか。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は中国地方の小さな村に住んでいた。俺の村はとても小さく、村長はいるが、それが豪族と名乗れるほどの力は無かった。それでも俺達は貧しくも幸せな暮らしをしていた。当時はまだ6歳。田んぼ仕事もできないが、親が働いている様子は見ていた。俺も将来は家族と生きていく為に頑張る事になるんだろうと、ぼんやり考えていた。
村長や村の人間達も、静かで平穏な暮らしが気に入っていたんだろう。村の勢力拡大は一切行わず。また、争いを嫌い、目立たないように生活していた。実際目立つ行為を行えば、すぐにでも大和あたりに征服されていたかも知れない。
かくして、俺達の村は他の人間には見つかる事はなかった。
そう人間には。
それはただの不運だった。偶々山奥の縄張り争いに負けた妖怪の集団が、下山した場所が俺達の村だった。
負けた妖怪といっても、妖怪は妖怪。人間では歯が立たない。父さんと母さんは石と木でできた農具を持って、家を飛び出して行った。出ていく時に俺に山に逃げろと言われ、我武者羅に走った。今思うと、俺も父さんと母さんに加勢していれば、何か変わっていたかも知れないし、変わらなかったかも知れない。
山を走るにしても、当時6歳の子供。ついに力尽きて、地面に倒れた。そんな時にあのお方はやってきた。
「どうしたのかね。子供がこんな所に。............大丈夫かい?」
「あ、あの!あ、あっちで俺、俺の村が.....」
俺は偶々通りがかった人物に必死に助けを求めようとした。だけど、心身共に極限状態の俺はまともに話せなかった。それでも、その人は何かあったのだと察したのだろう。表情を引き締めた。
「わかった。僕が見てこよう。君はここから動かないでおくれよ。すぐに戻ってくる。」
俺は首を動かすしかなかった。と、次の瞬間、僕の目の前からその人は消えた。普通なら驚くのだが、その時はそんな事を考える余裕など無かった。
それから、本当に僅かな時間で帰って来た。
「大丈夫かい?」
「..........はい。」
「君にはキツイ事だろうけど、先に言っておくよ。村は全滅していたよ。」
その言葉を聞いた瞬間、体の力が抜けていくのを感じた。でも、心の何処かでその可能性もあるとは覚悟していた。
「思ったほど、動じないようだね。強いね。」
「........そんな事無い。俺は無力だ。」
「そうか。.........それはそうとして、どうする?この話を聞いた君には権利がある。村の様子を見るかどうかをね。」
「.......連れて行って欲しい。」
「そうか、わかった。ついて来るんだ。」
俺は頷き、着いて行く。少し余裕ができてきて、その人を観察する事ができた。全身に白い服を着ている。その服の感じは、俺の村の人間が着ているような服とは違い、かなりしっかりした服をしていた。それから、目元に何かよくわからないものを付けていた。でも、それが違和感なく似合っていた。
そして、村に着いた。
俺の目に映ったのは、変わり果てた村。立ち上る煙、崩れ去った柵、荒らされた田畑、そして凄まじい吐き気を催す死臭だ。
「通りがかったのも何かの縁、仇は討った。だが、村の人々はもう..........。すまない。」
呆然としていた俺は、その言葉を聞いて周りを見渡す。確かに人の死骸以外にも妖怪の死体もあった。
「...............」
ゆっくりとした足取りで村に入る。そして、見つけてしまった。父さんと母さんだったものを。
思わず、その場にへたり込んでしまう。
「それが、君の両親か。」
俺は頷く。
「そうか。僕は少し席を外す。暫くしたら帰って来るよ。」
再び、あの人の気配は無くなった。
結局、何をしていたのかは覚えていなかったけど、たぶん泣いていたんだと思う。
暫くすると、白い服を汚した状態であの人は帰って来た。
「落ち着いたかい?」
「.......はい。」
頷き立ち上がる俺を見て、その人は俺の両親の亡骸を抱きかかえた。
「何処に持って行くの?」
「付いて来ればわかるさ。」
「汚れるのにいいの?」
「別に構わないよ。必死に子供を護った人達だ。汚い訳が無いよ。」
「重くないの?」
「ああ、重いさ。」
「じゃあ、なんで.....」
「彼らの高潔なその意思は何者よりも重い。でも、だからこそなんだ。」
「......そう。」
そうして村の外に出てみれば、沢山の石が並べられていた。
「.....これは?」
「お墓のつもりだよ。残念ながら、即席で作った墓地だ。大した石は無かった。.....すまない。だが、これで全員の埋葬は終わりだ。」
俺は振り返って、村を見る。
全然気が付かなかったけど、俺が放心していた間に村の片付けがなされていたようだ。だから、服も汚れていたのか。
俺の両親が埋められ、石が建てられる。
「僕はこれから、村を焼く。」
「え?なんで?」
「あの死臭が漂ったままだと、また別の妖怪や野生動物がやって来る。火を放てば、野生動物は近寄ってこない。死臭も消せる。だから、また少しここを開けるよ。」
「...............」
「無理をしなくていい。人が死んで悲しみ、泣くのは当たり前の事だ。ましてや両親だ。僕も火を放ちにここを退く。誰も見ていない。だから、無理をしなくていいんだ。」
その言葉を聞いた瞬間には、既に目から涙が溢れ落ちていた。さっきも泣いたばかりで、涙なんて枯れてしまったと思っていたのに。
少し経つと、背後から何かが燃える音がした。見て見ると、そこには大きな火柱を上げて燃える村があった。
その中からあの人が出て来て、俺の所に戻ってきた。
「別れは済ませたかい?」
「はい。......あ、あの...」
「?......ああ、そうか。肝心な事を忘れていたね。僕は藍染惣右介と言う者だ。君の名前は?」
「俺はレン。」
「そうか、レン君か。では、君は僕に付いて来なさい。子供1人で生きて行けるほど、この世界は優しくはない。せめて安住の地が見つかるまでの間は、僕が君を預ろう。」
「はい。わかっています。藍染様。」
俺がそう言うと、藍染様はキョトンとした顔をし、次に苦笑いに変わった。
「藍染様はやめてくれ。どうしてもと言うなら、藍染さんで頼むよ。」
「わかりました。藍染さん。」
俺達は炎を背に歩き出した。
俺は藍染さんの横顔を見る。
「ん?どうかしたかな?」
「いえ、何も。」
この人に感謝の言葉をかけても、きっと「当たり前の事をしただけだよ。」と笑顔で返されてしまうだろう。
でも、俺にとってはそうじゃない。命を救われただけじゃなく、両親を弔ってもらった。
この恩は一生忘れないだろう。
「藍染さん。」
「なんだい?」
「俺を強くしてくれませんか?」