Fate/Rising hell   作:mgk太

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名無しのマスター 2

「やっと見つけたわ、セイバーのマスター」

 

 そのサーヴァントはおよそ高校生くらいの、少女だった。

 長い黒髪に紅い大きな瞳が可愛らしくも知性をにじませている。そして左目には黒い眼帯。厨二病を匂わせる素敵ファッションだ。

 場違いにも、タイプだな、なんて考えてしまう。

 思えば、自分は今からこの少女に殺されるのだ。

 

「セイバーは偵察にでも行っているのかしら? まさか最優のサーヴァントのマスターがこんなに馬鹿野郎だとは思ってなかったけど。貴方、本当に魔術師?」

 

 少女のサーヴァントはこちらのサーヴァントの姿が見えないのを良いことのに、それはまぁ色々と言ってくれる。

 

「お前、さっさと俺を殺さなくていいのかよ」

 

「ええ、すぐに殺すわ。けど、貴方を殺すとセイバーのヤツが野放しになるのが少し鬱陶しいわね。……貴方、自分のサーヴァントをどこに押し込んでいるの? まだ一回も姿見てないんですけど?」

 

 やはり、このサーヴァントは『俺』がセイバーのマスターだと勘違いしているようだ。いや、もしかすると本当にセイバーのマスターなのかもしないが、いないものはしょうがない。

 なのでハッタリをかけることにした。

 

「ああ、この際言ってしまうが俺のセイバーは少々特殊でな、姿が感知されない魔術をかけてあるんだ」

 

「ッ! 認識阻害の術式ね……。けど、貴方、魔術回路が少し変ね」

 

「へ、変ってなんだよ」

 

「ボヤけてるっていうか……貴方、本当に魔術師?」

 

「はぁ!? 何言ってやがる! 魔術師じゃないのに聖杯戦争に参加できるはずないだろう!」

 

 ムキになって叫んだ。

 それにしてもこのサーヴァント、まだ殺さないのか。

 

「それとだけど、俺のセイバーは遠距離も狙える」

 

「なっ! サーヴァントに気づかれないレベルの認識阻害に遠距離攻撃ですって!? そんなキャスターとアーチャーの両属性持ちみたいなの、あり得ないわ......」

 

「あり得るんだな、それが。俺は当たりサーヴァントを引いたって訳さ」

 

 行ける。このサーヴァント、ちょろいぞ!

 少しだけ希望の光が見えてきた。このまま話術で撤退に追い込むしかない。

 

「ほら、後ろのずっと向こう、木の上に立って狙ってる!」

 

 何もないはずの木の上を指差して言った。

 そこには『俺』の言った通り、火縄銃のような物を構えたサーヴァントが立っていた。

 

「え......?」

 

「アーチャー!」

 

 叫んだのは少女のサーヴァントだ。彼女はどこからかサーベルのような剣を取り出して構える。

 対して俺のせいで奇襲がバレたアーチャーのサーヴァントはここからでも聞こえるような大きな舌打ちをし、銃を構えたままこちらに突っ込んでくる。アーチャーは大人しく遠距離だけを狙っているんじゃないのか?

 『俺』の決断は早かった。

 アーチャーが突っ込んでくる反対側にまた駆け出した。

 

「逃げるのが正解なんだよ!」

 

 しかし___

 

「そう簡単に逃がすとでも?」

 

 目の前にマスターと思しき男が立っていた。

 挟み撃ちだ。

 呑気にこのサーヴァントと喋っている間に狙われていたらしい。

 『俺』はどうしようもなく、後ずさって少女のサーヴァントの元へ戻された。

 

「おいおい、どうしてくれるんだ。挟み撃ちにされているぞ」

 

「それはこっちのセリフよ。貴方がつまらないハッタリかけてくれるから、アーチャーに気付かなかったじゃない!」

 

「言い掛かりだな。取り敢えずここは建設的な話をしようぜ。どうにかして切りぬけよう」

 

 背中合わせの『俺』と少女のサーヴァント。

 アーチャーとそのマスターを倒せるとは思っていない。このバカっぽいサーヴァントが実はめっちゃくちゃなチート使い、とかなら話は別だが、今の状況を鑑みるにそれはないだろう。

 

「で? セイバーのサーヴァントさんは本当はどこにいるのかしら? 貴方の戦力も回してもらわないと、割とキツイわよ」

 

「それなんだが、ご期待には添えそうにないよ」

 

 出来るだけ申し訳なさをアピールしながら告げる。当然、セイバーが存在すると思い込んでいる少女サーヴァントは、意味がわからないとでもいいたげな風に言った。

 

「どういうこと?」

 

「そのままの意味だ。俺にサーヴァントはいない。どういうわけか分からないけどな」

 

「もう、本当に意味が分かんない。......仕方ないわね、今は逃げることだけを考えましょう。あのマスターだけど、見た感じあまり魔術回路は強くない。貴方でも走って逃げれば何とかなりそうね」

 

「何とかって、随分と適当だな……」

 

「何言ってるの。私、分析と戦術だけは自信あるんだから。ていうか、本当は貴方なんて見捨てても私には何ら損害はないのよ?」

 

 だから感謝しなさいよね、と彼女は言った。

 全くその通りだ。『俺』を助けたところで彼女に何ら利益はないのだ。『俺』に恩を売っても何ら出てきやしない。

 それなのに、彼女は助けてくれるという。

 

「お前、もしかしてツンデレか?」

 

「は、はぁ!? こんな時に何言ってるのよ! ていうかこの私のどこにツンはともかくデレの要素があるわけ!? まだ貴方とロクな会話してないけどそれくらい分かるでしょ!」

 

「(はは、ツンの自覚はあるんですね......)」

 

「何? 何か言った?」

 

「いえ別に。......ちゃんと走って逃げるよ。俺、逃げるのだけは自信あるんだ」

 

「うわぁ、嫌なヤツ。私のマスターじゃなくてよかった。……スリーカウントでいくわよ。私が右に跳んでアーチャーの気を引くから、貴方は左に逃げてマスターを引っ張ってって頂戴」

 

「分かった。ありがとう」

 

 心からの感謝だった。しかし、彼女のマスターは許してくれるのだろうか。他のマスターを助けるなんて、裏切り行為そのものだというのに。

 勿論、『俺』にそれを気にかける気概はない。

 

「作戦会議は済んだのかな、ライダーとそのマスター」

 

 大体二十歳前後と思われる、アーチャーのマスターはそう言った。なるほど、この娘はライダーだったのか。それにどうやら『俺』は彼女のマスターだと勘違いされているようだ。ならそれはそれで都合がいい。

 

「ええ、もう万全よ。3秒間だけ、待ってあげる。逃げるなら今のうちよ。それからはもう容赦しないから」

 

 ハッタリと言って良いのか分からないくらい見え見えの虚勢だ。向こうのマスターもこれくらいは見抜いているようで、

 

「はん、つまらないな、ライダー。どうやら主従揃って愚か者のようだ。黙って令呪さえ渡せば命は見逃してやるというものだ。分かっているだろう?」

 

「煩いわね。3」

 

 額を汗が伝う。

 果たして上手く逃げ切れるのだろうか? このマスター、何というかオーラが凄いのだけど。何というか、この眼帯サーヴァントなんかよりよっぽど威厳があるというか。

 

「2」

 

 それに、自分のことはよく分からないが、体力が多い方とは思えない。さっきは逃げるのは得意などと言ったが、あれは嘘だ。そんなものは知らない。

 

「1」

 

「ふん、なら望み通り殺してやる。やれ、アーチャー」

 

「0!」

 

 アーチャーの動く気配を感じたが、『俺』はライダーの指示通り左へ全力疾走する。

 後ろは振り返らず、ただ一心に走った。

 ただただ、決して走りやすいとは言えない、ぬかるんだ地面を蹴り続けた。どうやらそれに少し、坂道になっているようだ。

 ライダーは、アーチャーは、あのマスターはどうなったのだろうか。

 気にかかるが、それでも『俺』は走り続けるしかない。

 ライダーに指示された通りに逃げる。

 

「はぁっ、はっ」

 

 これで正解だ。

 『俺』は無力なマスターだ。というか、最早マスターかどうかも曖昧。『俺』に出来ることなど、何もありゃしない。

 

 有りはしないのに。

 

「くそッ! どうしてだ! 何で俺はここまで無力なんだよッ!」

 

 ただ逃げるしかない、というのが何故か悔しくて、心の底から叫んでいる『俺』がいる。

 アーチャーのマスターは『俺』の方には来ていない。上手く巻けたのかもしれないが、はなからライダーを追っている可能性もあるのだ。あのライダーは、アーチャーとそのマスター相手に太刀打ちできるのだろうか。

 

「いや......アイツにもマスターがいるか......」

 

 『俺』は一度立ち止まり、呼吸を整える。

 ここまで来れば大丈夫だろう。マスターも追って来ていないようだ。

 

 乾いた発砲音が鼓膜に響いたのはその時だった。

 

「何!? アーチャーか!?」

 

 坂道のさらに登った方角。『俺』が逃げて来た方とは反対だ。アーチャーはライダーを追って『俺』とは真反対に逃げたはず。それならアーチャーがこんな所にいるはずはない。

 

「となると......アーチャー以外のサーヴァントか、あるいはマスターか。どちらにせよ、俺一人じゃ勝ち目ないな」

 

 近くの茂みに身を隠し、息を潜める。

 

「......来ないか」

 

 しばらく待ったが、誰も来る気配はない。

 確かに銃声はしたのだが......。

 『俺』は茂みから痛む腰を上げ、思い切って銃声のした方へ歩いて行く。

 この判断は正解か、否か。

 『俺』にはまだ答えは見えなかった。

 

「っと、崖か......」

 

 相当登っていたようで、少し進むと崖に当たった。

 銃声はこの下からしたようだ。

 『俺』は恐る恐る崖の底を見下ろす。見下ろして、息を呑んだ。

 

「ライダー! それにアーチャー!?」

 

 崖下では、ライダーとアーチャーが戦闘を繰り広げていた。それにアーチャーのマスターもいるようだ。

 アーチャーの火縄銃から銃弾が飛び出し、ライダーは見事な身体捌きで回避して行く。

 しかし優勢なのはアーチャーだ。

 ライダーは避けるだけで守備一点。対してアーチャーは余裕の仁王立ちで火縄銃をぶっ放している。それにアーチャーにはマスターが付いているのだ。

 このままいけば、ライダーは押し負ける。

 

 『俺』は息を呑んでそれをただ見ていた。

 どうにかならないか。

 

「っくぁッ!?」

 

 ライダーの悲鳴が聴こえる。

 ついに銃弾が当たってしまったらしい。

 よろけて倒れそうになっているが、なんとか持ち堪え、後方退避しつつ襲い掛かる銃弾をサーベルで弾いている。

 

「ライダー......」

 

 どうにかならないか。

 このままでは『俺』はライダーを見殺しにしかできない。

 しかし、ここにいつまでも居座っていられない。

 聖杯戦争に参加しているのは、ライダーとアーチャーだけではないのだ。セイバー、ランサー、アサシン、キャスター、バーサーカー。残り五人のサーヴァントとマスターが獲物を狙って目を光らせている。

 『俺』は格好の餌だ。

 間違いなく、ライダーは見捨て、一刻も早く身を隠すのが正解。

 これはライダーとそのマスターの問題であり、『俺』には関係ない。

 そう思わなければならないのに。

 

「クソだ! ライダーのマスターは何をやってる!? 早く助けに来ないとアイツ死ぬぞ!」

 

 もしかして、見捨てたのか?

 ライダーの腹に銃弾が直撃する。ついに倒れて転げ回ってしまう。

 マスターは、ライダーを助けないつもりだ。

 

 『俺』は少なからずライダーに恩を感じている。

 あの時、アイツは『俺』を助ける必要は無かった。

 お人好しだったのか、天性のツンデレだったのか、彼女は少しも迷わず『俺』を助けてくれたのだ。

 ならば。

 

「借りは返すのが正解だ!」

 

 自分の右手の甲に刻まれた刻印を見る。

 サーヴァントさえいれば、ライダーに加勢できるのだ。サーヴァントさえいれば......。

 右手の甲をひたすら見つめる。

 何かを、見落としている。

 

「俺にあるのは令呪3画分だけ......けど操るべきサーヴァントが......」

 

 閃光だった。

 『俺』の脳に一筋の雷光が走った。

 そうだ。一つだけ、あるじゃないか。

 

「何で、気付かなかったんだ......。もしどこかに俺のサーヴァントがいるなら、令呪で呼び出せばいいじゃないか!」

 

 勿論、サーヴァントがいればの話だ。

 けどライダーの話から察するに、まだセイバーのサーヴァントは現れていないらしい。となると、『俺』のサーヴァントはセイバー。令呪を一画分消費することになるが、そんなものは大した問題ではない。

 

「どんなサーヴァントかは知らないが、使えるものは使うまで!」

 

 天に右腕を掲げ、周りは御構い無しに叫ぶ。

 

「令呪をもって命じる! ......あー、何て言えばいいんだっけ? まぁいいや、俺のサーヴァント、来い!!」

 

 直後、応えがあった。

 『俺』の背後で魔法陣が描かれていく。

 そうだ、これでサーヴァントが呼び出せる!

 

「やったか!? よしっしゃあ! 来い、俺のサーヴァント! セイバー!!」

 

 眩い閃光と共に、そのサーヴァントは召喚される。

 雷光を纏い現れた彼女は、美しく流れる黒髪、紅の瞳に強い意志の光を湛えている。

 そして、左目に眼帯を掛けていた。

 唖然とする『俺』には眼もくれず、彼女は告げる。

 

「さ、サーヴァント・ライダー、召喚に応じ......ってええ!?」

 

 紛れもなく、先ほどまで崖下で闘っていたライダーその人だった。ツンデレの再来である。

 あまりの衝撃に、『俺』は固まってしまった。

 そうだ。よくよく考えれば、彼女のマスターが助けに来なかったのは『俺』がマスターだから、という可能性もあったのだ。

 ライダーもまた、『俺』を見て絶句していた。

 何てことだ......。一体どこでフラグを建ててしまったのやら。

 

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