永夢はカービィを抱きながらCRへと帰還した。
「遅い!何をしていたんだ!」
「す、すみません……」
飛彩の父、灰馬がしかめっ面で永夢に食ってかかったかと思えば、
「おお飛彩。よく帰ってきたな。無事で嬉しいぞ」
「…………」
この待遇の差である。永夢はうんざりしながらカービィを地に降ろした。
カービィが微笑む。彼なりの運んでもらった礼だろうか。「どういたしまして」の意を込め、永夢も微笑み返した。
「親父。慌てて俺達を呼び戻した理由はなんだ?」
当然の質問と同時。一足先に席につき、飛彩はショートケーキを準備する。
「ああ。それはだな……!?」
「なにっ!?」
すると突然、フォークとナイフを突き立てようとしたケーキが、飛彩の下から逃げた。
正確には、引っ張られたと表現した方がいいかもしれない。
飛彩は咄嗟にフォークを突き立てるも空振り、机に穴が開く。
ショートケーキは、そのままいつの間にか机上に乗っかっていたカービィの大きな口の中へ吸い込まれて胃の中へと溶けていった……。
永夢の顔がみるみる青白くなる。天才外科医鏡飛彩は何よりも糖分摂取にこだわる男。そんな彼の至福の時を邪魔したとなれば、例え誰であろうとも許さない。
「貴様っ」
案の定、大切なケーキを丸ごと奪われた彼は糖分が不足していることもあってかカービィに迫る。
カービィは鬼の形相を目の当たりにし、慌ててCR内を駆け回る。
「危ないから走っちゃダメ~!!」
「お、落ち着いてください飛彩さん!?」
「おのれ~、よくも飛彩のために買ってきたケーキを!!」
永夢と明日那が止めようとする中、常に息子至上主義の灰馬は一緒になってカービィを追い回し始めた。そんな大事な息子の邪魔にしかなっていないのは秘密である。
―――しばらくして。
鏡親子が疲れ果て、ようやく騒動は決着を見た。
カービィの圧勝である。変幻自在なすばしっこさで逃げ回る彼を生身の人間が捕まえられるわけがない。
しかしあのクールな飛彩がここまで激怒するとは……永夢はなんだか親しみを感じると同時に絶対に糖分摂取の邪魔をしないことを独り心に誓った……。
「ふふ、相変わらず騒がしいな、元気で何よりだ諸君」
声がした。全員がそちらを見ると、スーツを着た若々しい男性が壁に背を預けながらこちらを見ていた。
灰馬が焦りながら、声を上げる。
「そうだ!幻夢の社長がお前達に会いたがっていたんだ!!」
「それを早く言ってくださいよ!!!」
「まあまあ。私は気にしていないよ。それより、話を進めたいのだが、いいかね?」
「! は、はいすみません!」
永夢はバツが悪そうに、男性―――『檀黎斗』に頭を下げた。
黎斗は大手ゲーム会社「幻夢コーポレーション」を担う若社長。彼の打ち出した数々のゲームは全てにおいて一定の人気を博している。
同時に、幻夢は衛生省と協力関係にあった。永夢達ドクターがバグスターと戦うために必要なゲーマドライバーとライダーガシャットの開発を主導したのが、他でもない黎斗なのである。
『俺はずっと待ってんだ。早くしろ』
「大我!」
不機嫌そうな催促する声と共に、モニターに大我の顔が映し出された。どうやら黎斗は彼にも声をかけていたらしい。
黎斗は全員の顔を見渡し、最後にカービィをしばし見つめると、ついに口を開いた。
「君たちに収集をかけたのは他でもない、ダークマター騒動の件についてだ。あのような存在が現れるとは、私自身も正直驚いている。あれはバグスター以上の危険性を孕んでいると推測できる。早々に我々で対処する必要があるだろう。そしてもう一つ……」
黎斗は再び、カービィを見た。今度はカービィの方からも視線を向け、頭の上に疑問符を浮かべている。
「君たちが最も気になっているであろうその生き物―――カービィについての情報を提供するためだ」
「おやおや……大丈夫ですか、ゼロ様?」
誰も立ち入ることのない場所に、朽ち果てた教会があった。
ここは今、ダークマター達の根城としての役割を果たしている。
ゼロはDマインドに担がれ、ボロボロの椅子に座ると、独り「作業」を続けていたDミラクルに進捗状況を尋ねた。
「問題ない。それよりも、ダークプラントは完成したのか?」
「ええ。昼方の試運転を経て調整が完了しましたよ。勿論、主様が力を行使してもその華奢で可愛らしい不完全な肉体が耐えられないなどということがないように、十分な『闇』も備蓄してあります」
気味の悪い喋り方で余計な言葉を付け足すDミラクルにゼロはイライラさせられるが、今はそんなことを思うよりもやることがある。
「ご苦労であった。では早速『闇』を私に寄越せ」
「しかし、先程お力を使ったのです。少しお休みになられては?」
「気遣いは不要だ。私は一刻も早く力を取り戻さなければならない。あの忌々しい存在を消すためにな……」
ゼロの紅い瞳が、より一層強烈な光を放つ。意志の強さを垣間見たダークマター達は互いに頷き合うと、Dミラクルが教会最奥の建造されたダークマター発現装置『ダークプラント』を起動した。
ダークプラントは、ゼロ達ダークマターが地球の技術で造り上げた一族起死回生の切り札。カービィに敗れ、落ちぶれてしまった一族の汚名を晴らすべく必要な力を蓄える装置だ。
ゴウンゴウンと大きな音を響かせながら、プラントの中央の空洞が開いた。そこから、現在東京上空を覆い尽くしているものと同一の『闇』が生まれ、その殆どがゼロへとまとわりつく。
「ぐっ!!う……がぁああああああああああ!!!!!!!!」
少女の姿をした支配者の絶叫。『闇』がホムンクルスの肉体を、ゼロが扱うに相応しいものにするべく細胞レベルの改造を施しているのだ。
少女の身体を蝕む激痛はまるで留まるところを知らず、たった一秒でさえ永遠に感じる程、ホムンクルスの痛覚神経を刺激し続ける。
危険を感じ取ってか、浮き出る脂汗、上昇する熱量。
ゼロの臣下達も固唾を飲んで経過を見守る……。
(この痛みは”罰”だ……あの時敗北した自分への”罰”に他ならないっ!)
(耐え難い屈辱だった。どのような戦士が現れようとも圧倒的な力でねじ伏せてきた私が、あんなマスコットキャラクターのような外形の生物に負けるとは……!!)
脳裏に過ぎるのは敗北の記憶。刻み込まれた最初にして最大の汚点。
(今こそ雪辱を晴らす時だ。カービィをこの手で倒せるのならば、私はどんな”罰”にも耐えてみせる!!!)
瞬間、『闇』は全て、ゼロへと吸収されていった。
完了したのだ。
荒い呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がるゼロ。
「成功です」
Dミラクルがそう呟くと、右の瞳が妖しく輝く。これまでとは比較することが無駄である程に……。
その日の夜――――
「あぁあああああああああ!!!!!!風鳴翼のライブ中継わ~す~れ~て~たぁあああああああああ!!!!!!うわぁあああああああん!!!!!!!!」
ポッピーがCRで叫び散らしていた。
ダークマターの一件について黎斗の得た情報を共有しその整理を任されたためにドタバタしていたせいで、今夜生中継の世界的アーティスト風鳴翼のライブ生中継をすっかり忘れていたためだ。
彼女は気がついた。が、時すでに遅し。テレビを点けた時、ライブは終わり、観客の熱のこもった歓声をBGMに風鳴翼がやりきった顔で退場していく姿だけが映っていた……。
「ピヨる……ピヨるよ……」
四肢を床にペタリとついて、この世の終わりのような表情を見せるポッピーピポパポ。普段のテンションが高い彼女を見ていれば分かると思うが、この落ち込みよう、相当である。
しかも誰もその嘆きを聞き取る者はいなかった。悲しみを誰かと分かち合うことも出来ず、ポッピーは寂しくゲーム画面の中へと引っ込んでいった……。
聖都大学附属病院は既に消灯時間を迎え、電気は殆ど点灯していない。永夢は自宅に帰らず、灰馬に許可をもらってカービィと共に屋上に来ていた。
いつもは星空がよく見える屋上。しかし、今日はそれが叶わない。
ダークマターの『闇』が星、月光すらも遮っているのである。
「驚いたよ。君が遠い宇宙の惑星からやってきた生き物だなんて」
カービィのことは、黎斗からすべて明かされた。
ポップスターという惑星の生命体であること、そしてダークマター一族と何度も激戦を繰り広げ、あのゼロを一度倒していること……。
なぜ幻夢コーポレーションがそんなことを知っているのか気になったが、問いただす間もなく黎斗には逃げられてしまった。
そして黎斗はこうも言っていた。
ダークマターと戦う為には、カービィが必要不可欠であると。
……本当にカービィを巻き込んでも良いものかと考える。
彼は今回、巻き込まれた被害者なのだ。いくらカービィが戦士であろうとも、協力を求めるのは些か身勝手が過ぎると思う。
チラリと横を見ると、カービィは永夢が買ってきたお菓子を次々と平らげていた。相当な食いしん坊であることは分かっているが、やはり丸い体のどこに大量の食糧が貯蔵され消化されるのか、仮にも医者の端くれであるためか不思議でならず、苦笑する。
何かを食べている時のカービィの表情は、とても幸せそうだ。
「そうだ。この星にはもっと美味しいものがたくさんあるんだ。ダークマターを何とかしたら、街を案内するよ。どうかな?」
だから永夢は思い切った。こちら側の都合で巻き込んでしまう代わりに、めいいっぱい地球を楽しんでもらいたい。そう思ったからだ。
「!!」
美味しいものがあるという言葉にカービィは目を輝かせた後、強く頷き賛同した。
「ありがとう!一緒に戦おう」
永夢が差し出した手を、カービィは快く握った。
カービィとて仕方なしに協力を了承した訳ではない。地球の食べ物がポップスターに負けず劣らずのクオリティだったからこそ、滅ぼされることを拒絶するのだ。それを永夢が知るのは、もう少し先になる……。
飛彩先生がかなりキャラ崩壊している気がしてならない。
あの親だからね、多少変なとこ似せてもいいよね!←だめです。