言われ無き悪名
「ん~……」
むくりとベッドから起き上がるあたくしエレナ、確か14歳でゴッドイーターやってます。
さあさあ本日もお仕事お仕事、疲れも中々感じないこの体はとっても便利です。
「ん……?」
時計を見遣ると時刻はお昼……
「……アアアアア!!?!??」
完全に寝過ごした!早く着替えてエントランスに行かないと!
「よぉ、まあ座れよ」
「あぁあぁぁぁリンドウさん!この度は大寝坊してしまい誠に申し訳なきゅ、なく存じ上げまして候ゥウゥゥゥ!!」
「ちょ、落ち着け落ち着け……別にお前は寝坊なんてしていないからさ」
「……へ?」
リンドウさんの一言で一気に冷静になるあたし。
とりあえず、エントランスのソファに腰掛けて深呼吸を繰り返した。
「ほら、まぁ飲めよ」
「え?いやあたしお酒は……」
「ジュースだよ、只のリンゴジュースだ」
「あっ、頂きます」
渡されたコップを受け取る、流石にもう力加減を誤って割ったりはしない。
リンドウさんは自分のグラスにウィスキーを注ぎ、ポケットから端末を取り出した。
「サカキのおっさんから聞いてるからさ、少し投薬したから起きるのは昼頃になるってな」
「あ、そうだったんですね」
よかった、寿命が縮まる思いで急いで準備したのがちょっと恥ずかしいけど本当に良かった。
「他の皆は任務ですか?」
「ああ、俺も少し前に帰ってきたばかりだがあいつらももう来るだろう」
あれ、ということはリンドウさんは一人で任務に行っていたのかな?等と考えつつリンゴジュースを口にしたりしながらリンドウさんと談笑した。
「あれ、起きたんだエレナ」
「あ、お帰りー」
数分後、第1部隊の4人が帰投した。
4人の様子からすると随分余裕だったのだろう。
「おうお帰り、どうだった?」
「フッ、華麗な僕の活躍など言うまでも無いね」
「ああ、俺達4人の素晴らしい連携プレーを2人にも見せてあげたかったよ!」
「お前ら、そんなに役立ってたか?」
男3人は喜悲交々、サクヤさんも笑いながらリンドウさんに言った。
「第1部隊4名、無事生還したわ」
「そうか、この調子なら俺もデートの回数を増やしても良いかもしれないな」
瞬間、サクヤさんとソーマ、エリック達の顔つきが変わった。
デート……?アレかな、リンドウさんには許嫁が居てサクヤさんはリンドウさんが好きだからこんな険しい表情を……
いやそれだとソーマとエリックが表情を変えるのはおかしい、つまり……
……つまり、ソーマとエリックもリンドウさんが好きで……嘘……そんな事って……
顔が熱くなる、つまりソーマとエリックってそういう━━
「何て顔してやがる」
「あ━━い、いや、何でも無いですはい」
いかんいかん、いくら何でもそれは無い無い。
でもそれならあの2人の表情は……と考えているとエントランスに放送が鳴り響いた。
『業務連絡、本日第7部隊がウロヴォロスのコアの剥離に成功、技術部員は第5開発室に集合して下さい。繰り返す、ウロヴォロスのコア剥離に成功、技術部員は第5開発室に集合して下さい』
そんな放送が鳴り響いた、そして同時に慌ただしくなってくるエントランス。
「ウロヴォロス!?何処のチームが仕留めたんだ!?」
「しかもコア剥離に成功かよ……ボーナス凄えんだろうな……」
「おい、奢って貰おうぜ」
「やめときなさいよ、みっともない」
そんな声も聞こえてくる、コータはキョロキョロしながら
「ウロヴォロス?強いの?」
と言った。
ターミナルにも情報があった、確か━━
「めっちゃ大きなアラガミやよ、複眼で触手を振り回したり大口径のビームを撃ったりする……〈平原の覇者〉って呼ばれてる━━」
「まさか、交戦経験があるの!?」
サクヤさんの声と同時に第1部隊全員があたしの方を向いて驚きの表情を浮かべる。
あたしは両手をぶんぶんと振りながら
「いやいやいや、ターミナルの情報ですよ!」
と答えた。
流石にあたしみたいな新人に割り振られる様な討伐対象では無いだろう……
(いや、いくら新人でも……)
(エレナならやりかねんな……)
サクヤさんとリンドウさんがなんだか疑いの目でこっちを見てくる。
気にしない気にしない、ソーマに言われたことを思い出して気持ちを落ち着かせる。
「感心だね、しっかりと勉強しているようだ」
「ああ、俺達も鼻が高いよ!」
「テメェらも少しは見習え」
そんなやり取りを見届けてリンドウさんは立ち上がった。
「さ、俺は次のデートに備えて精の付く物でも食ってくるかなぁ」
そうしてエントランスを出て行くリンドウさん。
それを見届けるサクヤさん、ソーマ、エリック達の表情は硬い……
しかしコレで何となく察した、リンドウさんが他の第1部隊を別の任務に行かせて1人だけ別行動だったのは……
「前、良いですか?」
「おう、また会ったな」
食堂で分厚い肉に齧り付くリンドウさん。
あたしはその向かい側に着席する、ちなみにあたしの昼食はスパムと野菜のサンドイッチだ。
「突然ですが質問です」
「ん?なんだ?」
サンドイッチは未だ手を付けず、他の人には聞こえない声に絞ってリンドウさんに問う。
「ウロヴォロスは一人で討伐を?」
「……んーまぁ、そうだな」
成る程、やはりか。
「何故皆には隠すんです?」
「んー……いやまあ隠す必要は無いんだが、あまりチヤホヤされるのは性に合わないっつーか……まぁその、小っ恥ずかしいんだ、分かってくれ」
ああ成る程、別に後ろめたい事がある訳では無いのか……それならいいんだ。
「それなら大丈夫です、迷惑をお掛けしました」
「コウタの奴は誤魔化せたようだが……エレナみたいな幼いのに見抜かれるようじゃあ、俺もまだまだだな」
「いやまあ、コータですし……」
あたしは苦笑いしてサンドイッチを1口、スパムのほんのりとした塩気が効いて中々美味しい。
と、今度はリンドウさんが口を開く。
「そうだ、お前だけには言っておこう」
「はい?」
あたしにだけ?何だろう?
「まだリーダークラスまでしか知らない情報だが、新型がまた1人極東支部に配属される事になったらしい……が、少しばかりメンタル面に少々難あり、ということらしい」
「ほうほう」
「同じ新型のよしみだ、恐らく第1部隊に配属されるだろうから気に掛けてやってくれるか?」
とうとうあたし以外の新型か、第1部隊は生存率が高いという事らしいからきっと貴重な新型を守るためにここに配属されるのだろう。
「勿論、出来る限りサポートしますよ」
「お、頼もしいな……もう俺ナシでもやっていけるんじゃないか?」
「ウロヴォロス単独討伐する豪傑が何を言いますかね」
「あー止めてくれ、むず痒い」
「ウフフフ」
今日の食事はとても楽しい物だった。
数日後、極東支部は配属される新型神機使いの話題で持ちきりになった。
その内容と言えば……
「オイ聞いたかよ、また新型が来るってよ」
「聞いた聞いた、エレナみたいなのがまた来るって事になる訳よね?」
「そうなった場合……俺達下手すりゃ仕事を全部奪われちまうんじゃ……」
「マジかよ!?考えた事も無かったが……」
「そうね……エレナが2人に増えたらこの辺り一帯のアラガミの根絶は免れないわね……」
「しかも新型って下着を着けないらしいぜ」
「なにそれ初耳」
大体こんな感じである。
ご免なさい新しい新型さん、あたしのせいであらぬ嫌疑が掛けられています。
そして安心して下さいアナグラの皆さん、あたしみたいなのはもう出て来ません。
口に出して言えないのが非常にもどかしい。
後最後の噂を流したのは誰だ、前に出なさい。
「お、噂をすれば……」
そんな声が……え、もう来たの?
第1部隊はエントランスに集合と聞いて来たのだが、まさかの顔合わせの為だったのか。
「紹介するぞ、今日からお前達の仲間になる新型の適合者だ」
「初めまして、アリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します。本日一二〇〇付けで、ロシア支部からこちらの支部に配属になりました、よろしくお願いします」
ツバキさんに紹介されたのはとても綺麗な銀髪の女性、スタイルも素晴らしいが少々ツンツンとした人だ。
いやはや、凄い服だ……
「女の子ならいつでも大歓迎だよ!」
「……よくそんな浮ついた考えでここまで生き長らえてこられましたね」
え?と間の抜けた声を出すコータ。
そりゃ仕方ない、今のはコータが悪い。
「彼女は実戦経験こそ少ないが、演習では抜群の成績を残している。追い抜かれないよう、精進するんだな」
「……りょ、了解です」
しずしずと引き下がるコータ。
「アリサは以後、リンドウについて行動するように」
「了解しました」
「リンドウ、資料等の引継ぎをするので私と来るように。その他の者は持ち場に戻れ、以上だ」
そう言い残し、ツバキさんとリンドウさんはエレベーターに乗り込んでいった。
それを見送り、コータがまた口を開く。
「ね、ねえ君ロシアから来たの?あそこってすげえ寒いんでしょ?あ、でもさいぎぃ!?」
スパァンとコータの頭を叩いて黙らせる。
流石にここで止めておかないとしゃべり続けてしまう、あたしの行動は間違ってない。
「第1部隊へようこそ、橘サクヤよ……今頭を叩かれたのがコウタで叩いたのがエレナ、その後ろに居るのがソーマとエリック、そしてさっきツバキさんに連れて行かれたのがリンドウ、第1部隊のリーダーよ」
「随分と多いですね……まあ、旧型は柔軟性がありませんからね」
結構刺々しい言い方だった。
ソーマは不機嫌そうに舌打ちし、ミッションカウンターの方へと歩いて行った。
「でもね、エレナは新型よ?」
「え?」
あたしの方を見るアリサさん。
初対面の印象から、少し話し掛け辛い。
「ど、どうも……新型です」
「……年齢といい性格といい少し頼りないですね、ちゃんと戦えるんですか?」
その瞬間、エントランスに居た全員がアリサさんの方を一気に注視したのを感じた。
憐れむような、否定するかの様な視線で。
「……何ですか?私間違った事を言いましたか?」
「い、いやそんな事は━━」
今もまだアリサさんは注視され続けている。
流石に居心地が悪いのだろう、髪を弄りながら少し俯いてしまった。
「ま、まあまあ……アリサは長旅で疲れてるでしょうから少し自室で休んでいらっしゃい」
「そう……させて頂きます」
軽く一礼し、その場を去って行くアリサさん。
先行きが不安だが、どうにかこうにかやっていくしか無いだろう。