「フッフンフーン♪」
今日も今日とて任務のお時間。
愚者の空母でコンゴウ3体の討伐任務……だった。
「頑張れー、神機君頑張れー」
ズルズルと、コンゴウを1口で食べられない神機にそう激励しながら引き摺り回して素材回収。
と、無線に通信が入る。
「はいはいー、任務完了したよー」
『緊急連絡です!!』
「……何かあったの?」
通信から聞こえたヒバリさんの声は非常に切羽詰まった物だった。
遠くに帰投用のヘリが近付いているのが見える。
『贖罪の街でソーマさん、エリックさん、コウタさんが討伐対象外のヴァジュラに遭遇、至急救援に向かって下さい!』
「近いね……分かった、すぐに向かうよ!」
通信を切り替え、ヘリパイロットに声を掛ける。
「その位置でホバリングして!」
『え?あ、ああ分かった』
その場で止まるヘリ。
あたしは神機がコンゴウを捕食し終えたのを確認し、ヘリに向かって飛び、ドゴォン!と搭乗。
「うお!?なんだなんだ!?」
「連絡いってたよね!?贖罪の街へお願い!」
「うわ!?いつの間に!?」
今日のヘリパイロットは敦だった。
そんなやりとりが交わされつつも、ヘリは贖罪の街へ急ピッチで飛行を開始した。
「見えた!あそこだ!」
「急いで!」
「とっくにフルスロットルだ!」
雷鳴と同時に咆哮する獣が遠くに見える。
アレがヴァジュラ……未だ交戦経験は無かったが、四の五の言っている場合では無い。
「10°右に、そこから直進して!」
「マジか!作戦エリアを突っ切れって事か!?」
「そうや!」
猛スピードで作戦エリアを飛ぶヘリコプター。
『何をしている!作戦エリア内だぞ!』
「そう言うなソーマ君!援軍を連れて来たぞ!」
『ホーネット、テメェ何のつもりだ!』
唐突にソーマから無線が入る。
しかしあたしはそれを無視して下を見据え、敦に話し掛けた。
「あたしがヘリから降りたらランデブーポイントへ向かって待機してて」
「えっ……何する気だ?」
「衝撃に備えて……3……2……1……」
あたしはヘリを蹴って飛び降りた。
頭から無回転状態で落ちる、手にした神機に力を入れ、ブーストを解放する。
「……エレナ!?」
「何っ!?」
エリックがあたしに気が付く、ソーマもエリックの声で驚いてあたしを見上げる。
良い位置だ、狙うはヴァジュラの背中ド真ん中。
「チエエェェストオオオオォォォォ!!!」
渾身の一撃がヴァジュラの背中にめり込む。
そのままメキメキメキと音をたててヴァジュラの胴体は地面にめり込んでいき、遂にはヴァジュラの頭とお尻がくっつく形で二つ折りになっていく。
ズンッ、と着地する頃にはヴァジュラは口をパクパクさせるだけの亡骸と化していた。
「……間に合った?」
「相変わらずテメェは……」
「……た、助かったよ」
呆れたように目をそらすソーマと引き攣った笑顔でお礼を言うエリック……あれ……?
「コータは!?コータはどないした!?」
「コウタ君はヴァジュラの奇襲を受けた際に雷撃を食らってしまってね、ダメージはあまり受けなかったようだけど麻痺してしまったので華麗な僕が安全な場所へ運んでおいたのさ」
「……俺を囮にしてな」
「し、仕方ないだろう!?」
ホッと一息、大事は無かった様で本当に良かった。
エリックのコウタ君を迎えに行こう、という提案に賛成し、3人で歩いて別の広場へと移動した。
「あててて……あれ?エレナ?」
「コータ、大丈夫?」
物陰に隠れて座り込んでいたコータを見つけて声を掛ける。
「何でエレナがここに……」
「救援依頼が来て駆けつけたんよ……まあ本当に外傷は無いみたいで良かった」
「あははは……まだ少し痺れが残ってるけどな」
「どいつもこいつも、油断するからだ」
「本当だよ、死んだら元も子もないんだよ?」
「テメェにも言ってるんだエリック」
オゥ、と肩をすくめるエリック。
コータも歩けるようになったみたいだし、待たせてある敦のヘリに帰ろ━━
「━━何?」
「え?」
ソーマが何かに気付き驚愕している。
その顔が向いている方を見てみると━━
「━━お前ら?」
「あれ?リンドウさん達まで何でここに!?」
リンドウさん、サクヤさん、アリサさんがこっちに向かって歩いてきた。
「救援依頼で来たんですか?」
「救援依頼だと?こっちには届いてないぞ?任務の為にここに来ただけだが……」
「え?」
おかしい、戦場の混乱を避けるために緊急時以外は任務は作戦エリア1つにつき1チームだけの筈。
「同一区画に2つのチームが……どういう事?」
「考えるのは後にしよう、さっさと仕事を終わらせて帰るぞ。俺たちは中を確認、お前達は外を警戒、いいな?」
あたし達4人は頷き、建物の入り口を守るように警戒態勢を取る。
それを見て、リンドウさん達3人は建物の中へ入っていった。
「君達、この状況をどう思う?」
「……キナ臭えな」
「唐突なアラガミの乱入に救援依頼の通達ミス、そんでもってこの作戦エリア内の複数チーム投入やね……」
「……絶対に何かあるって事だよね」
互いに顔を見合わせて頷く。
と━━
「……ん?」
「どうしたんだい、エレナ?」
微かに、しかし徐々に大きくなってくる震え。
地面の砂が動く、何かが、何かが起こっている。
「━━構えろ!何か来るぞ!」
4人は神機を構え、襲撃に備える。
強くなる地鳴り、唸る咆哮。
「な━━」
ソイツが、姿を見せた━━
「何……コイツ……?」
「……マズいな、囲まれてやがる」
動きはヴァジュラに似ている。
しかし違う、圧倒的に違う……
白い棘、白い顔、漂う冷気……こんなアラガミ、ターミナルにも載っていなかった。
その数、実に6体━━
エリックが無線を取り出す。
「リンドウ!未確認のアラガミ6体!救援を!」
『こっちでも交戦中だ!サクヤを向かわせるから持ち堪えてくれ!』
「嘘だろ……こんなの相手出来る訳が……」
「ボサッとするな!やるぞ!」
瞬間、あたしは駆けた。
目の前のアラガミの前足を潰す、次に目に入ったアラガミの顔を潰す、迫り来る鉤爪を払い退けて顎目掛けてアッパー、すかさずブーストを解放し顔部分を削り取る━━
「はぁぁぁあああ!!!」
顔が無くなったアラガミを踏み台に余所見している個体の横っ腹をハンマーで抉り取る━━
「ス……スゲェ……」
「余所見している場合じゃないよコウタ君!!」
エリックは寄ってくるアラガミに対し顔目掛けて放射弾を放ち怯ませる。
どうにか、防衛線を築くことは出来ている━━
「━━━━」
エリックの顔が凍りつく。
それは目の前のアラガミに対してでは無い。
「更に……増えるだと……!?」
同個体のアラガミが3体現れる、しかもまだ遠くから別の同個体の咆哮も聞こえた。
エリックは撤退しようと提案し、リンドウさんを呼ぶために再び通信機を取り出し━━
「━━何の音だ!?」
「わ、分からない!建物の中からだ!!」
まるで洞窟の崩落音、それが建物の中から突如響きだした。
4体目のアラガミを神機に食い千切らせたあたしはその音を聞き、不穏な胸騒ぎを覚えた。
「━━ゴメン、あたしが見てくる!」
「おい!勝手に━━」
迫るアラガミ、余所見する暇は無い。
しかしそれでも、今の音は何か途方も無いことが起こっているとあたしの勘が言っていた。
「あなた……!!いったい何を!!」
「違う……違うの……パパ……ママ……私、そんなつもりじゃ……!」
そこに居たのはへたり込むアリサさんと、何かを問いただそうとしているサクヤさん。
そしてその前には……通路を完全に封鎖する程の瓦礫の山があった。
「ぐぅっ!!」
吹っ飛ばされたコータがアラガミと共に建物の中へ侵入した。
マズい、このままでは持たない。
「早くしろ!逃げられなくなるぞ!」
ソーマの声が聞こえる、しかしあたしはそれどころでは無かった。
この瓦礫の向こう側は出口が無い広間、そしてここに居ないのは只1人━━
「命令だ!アリサを連れてアナグラに戻れ!」
「リンドウ……さん……!?」
今の声は間違いない、瓦礫の向こう側にはリンドウさんが居る。
「でも……」
「聞こえないのか!アリサを連れてとっととアナグラに戻れ!!」
リンドウさんの指示が聞こえてくる。
「サクヤ!全員を統率!ソーマとエレナで退路を開け!」
「リンドウも早く……!」
「わりぃが、俺はちょっとこいつらの相手をして帰るわ……配給ビール、とっといてくれよ!」
その指示は即ち━━
「ダメよ!私も残って戦うわ!」
「サクヤ!これは命令だ!全員必ず生きて帰れ!」
━━リンドウさんを、見捨てろという事━━
ガラガラと、完全に瓦礫で通路は塞がれた━━
「コータ!!アリサさんを連れて離れて!!!」
「え!?」
「いいから!!!サクヤさん、どいて!!!」
サクヤさんを掴み、建物の入り口へ投げ飛ばす。
コータもアリサさんを連れて走って行く。
神機のオラクルリザーブのレバーを引き、Oアンプルを2個取り出す。
「リンドウさん!!瓦礫から早く離れて!!!」
「……エレナ!?何をするつもりだ!?」
時間が無い、離れてくれるのを祈るしか無い。
1本目のOアンプルを飲みながら後ろを見る……石造りの壁だ。
すぐに2本目を飲む、覚悟は出来た。
出し切る、あたしの本気━━
「ハァァァァァァァアアアアアアア!!!」
ブーストを限界まで解放し、声の限りを叫び、力の限りを尽くした一撃を爆音と共に瓦礫に叩きつける。
瓦礫はビキビキッと大きなヒビを入れて音を立て崩れ始めるが、まだ道を塞いだままだ。
「あたしが、皆を━━━━」
今の一撃で身体が宙を舞っているが構わず、神機を銃形態に変形させ空中で瓦礫に銃口を当てる。
あたしの目からは涙が溢れていた。
「━━━━救うんだァァァアアア!!!」