ここから暫くの間、ソーマ視点で進みます。
「なっ……!?」
鼓膜を裂く爆音と共に建物の壁が吹き飛ぶ。
その破片は周辺にいたアラガミに飛来し、その全てを仰け反らせるに足る威力だった。
そして、その破片から一際大きい物体が見える。
「エレナ!?」
石壁を突き破って出てきたのはエレナだった。
吹っ飛んできたエレナはアラガミに直撃して弾き飛ばし、地面に転がる。
起き上がる気配が無い、意識を失っている。
「クソッ!」
「エレナッ!」
エリックと共に駆け寄る、しかし━━
「邪魔だ!」
横から突っ込んでくるアラガミを切り払い、前を見ると倒れたエレナに近付くアラガミが2体。
間に合わない━━
「クソッタレがっ!」
「エレナぁぁぁ!!」
エレナに噛みついたアラガミからぐちゃり、と嫌な音が聞こえた━━
「どけ!バケモノどもが!」
アラガミの下半身から頭に向かって切り払う。
もう1体はエリックの放射弾を無防備な脇腹に受けて活動を停止する。
その瞬間、空気が凍り付く━━
━━エレナの左腕と左脚が食い千切られていた。
「……クソッ、クソッ……クソがっ!」
「間に合わ……なかった……」
俺は怒りを露わにし、エリックは絶望する。
その直後、後ろから叫び声が聞こえた。
「退け!アナグラまで退却するぞ!!」
「リンドウ……!」
「説明は後だ!コウタ!そのままアリサを連れて行け!俺とソーマ、エレナが道を開く!」
リンドウが建物から飛び出すと、即刻アラガミを斬り伏せる。
しかし咆哮が近づく、更なるアラガミの予兆だ。
「リンドウ……エレナがやられた……!」
「何っ!?」
リンドウは俺の足元で倒れたエレナを見て驚愕。
そして歯を食いしばって言い放つ。
「ソーマ!エレナを担げ!エリックとサクヤは近いアラガミを追い払え!全員で帰るんだ!!」
「……了解、私に任せて!」
「分かった、ソーマ……エレナを頼む!」
俺は担ぎ上げようとし、エレナの腕輪に神機から触手が伸びて繋がっている事に気が付く。
即刻引き千切り、神機を放させエレナを担ぎ━━
「ぐっ……何……!?」
「急げ!増援が来るぞ!!」
重い、この体格からは有り得ない重さだ。
神機は既に手放させた、いったい何が……という所まで考えて思考を捨てる。
自分の神機も投げ捨て、エレナを担ぎ上げる。
「ホーネット!こちらエリック!アナグラと連絡が繋がらない!そちらからは繋がらないか!?」
『駄目だ繋がらない!こちらも救難信号を出しているが何も反応は無い!』
「何故だ……!?こんなにも狙い澄ました様に危険な状況が……兎に角、すぐに飛び立てるよう準備をしておいてくれたまえ!」
『了解!ご武運を!』
通信を切ると同時にエリックは近くへ来たアラガミの頭に銃撃をお見舞いする。
コウタに遅れて駆ける、振り返らずただひたすらに前を向いて走る。
「リンドウ!左前方の崖上に新手よ!!」
「……何だと、アイツはロシアの……!?」
足は止めずに首だけを向ける。
今度のアラガミは黒い、ヴァジュラに似ている様で全く似つかない。
「ディアウス・ピターだ!サクヤ!牽制だけでも頼む!絶対に近付けさせるな!!」
「了解よ!」
放たれる狙撃弾━━しかし大柄にも関わらず全てを躱しながら寄ってくる。
狙いは、俺か。
「ハァ、ハァ、クソッ、クソッタレがぁ!!」
眼前に迫る巨大な爪、エレナを抱えたままでは避けることが出来ない━━
「そこかっ!」
目前で結合崩壊するディアウス・ピターの前足。
「走れソーマ!コイツはこの僕が引き受ける!」
割って入ってきたのはエリック。
後ろを向き下がりながら1発、2発、3発と連撃をピターに叩き込む。
「サクヤさんは他のアラガミを頼む!もうすぐ合流地点だ!スパートを掛けるよ!」
「分かった、任せたわよエリック!」
エリックはポーチからOアンプルを3つ取り出し、全てを一気に飲み込む。
「……グッ……もうすぐ……もうすぐなんだ……!」
『駄目だ!このヘリではどう頑張っても5人乗せるのが精一杯だ!』
「何だと!?」
「兎に角アリサとエレナを先に乗せろ!」
合流地点を目前に俺達は更なる問題に直面する。
今の人数は7人、ヘリに乗り切らない。
こうしている間にもアラガミの群れはヘリの方へと近付いてくる。
「俺が残る!全員神機を捨ててヘリに乗れ!」
「ダメよ!いくらリンドウでもあの数は対処しきれないわ!私も残る!」
「駄目だ、これは命令だ!」
『いえ、誰も残る必要は無いわ』
突如、上空から弾丸の雨が撃ち下ろされる。
不意を受けたアラガミの群れは足を止める。
「今の声……ジーナか!」
『ええ、丁度任務の帰りで救難信号を拾ったわ』
『俺達のヘリに2人乗せる、5人選んで先に行け』
ジーナとカレルの声が聞こえる、第3部隊だ。
尚も援護射撃をしながら近付いてくるヘリ。
「た……助かった……」
「エリック!?」
突如エリックが倒れる。
リンドウが駆け寄りエリックを担ぎ上げた。
「コウタ!アリサを乗せたら射撃に回れ!サクヤも残って2人で第3部隊のヘリに乗れ!!」
「了解!」
「了解よ!」
アリサをヘリに乗せたコウタの後にエレナをヘリに乗せ、リンドウが乗った瞬間に叫ぶ。
「ホーネット、出せ!」
「了解!」
すぐにヘリは浮き上がり、作戦エリアを離れた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
「リンドウさん!通信が回復しました!」
「通信機を貸せ!」
「私なんて……放っておいてよ……!」
「ソーマ!アリサに鎮静剤を打て!」
ヘリの中は未だ落ち着いていない。
リンドウはアナグラに通信を取り、俺は呼吸を整えながらエレナの手足を縛って止血していた。
「こちら第1部隊!重体1名、体内オラクルの枯渇による意識不明が1名、錯乱して意識混濁状態の1名!ヘリポートから搬送する準備をしろ!」
『了解しました!すぐに手配します!』
通信が切れ、リンドウは椅子に座り込んだ。
俺はアリサに鎮静剤を打ち、注射器を捨てる。
「エレナの容態は?」
「顔色が悪い……ハァッ、出血し過ぎだ……」
「大丈夫か?」
「俺の事は良い……エリックは?」
「1日安静にしていれば回復するだろう……」
出来る事は全てやった、後はアナグラに到着するまで待つだけだ。
しかし、俺は浅はかだった。
「ぐぅ、うううウウウゥゥゥ……」
「エレナ……!?」
意識が無かったはずのエレナが突然唸り声を上げ始め、不規則な呼吸を繰り返す。
目も開いているが、明らかに正気じゃない。
「まさか……アラガミ化か!?」
「いや腕輪は無事だ……もしや出血によるショック症状か……!?エレナ!俺が分かるか!?」
リンドウはエレナの肩を掴み呼びかける。
しかし見開いた目は虚空を見つめ、呼びかけに対する返答はおろか反応も無い。
「駄目か、エレナにも鎮静剤を!」
「……いや駄目だ」
「何!?」
「サカキのおっさんが言っていた……エレナはもう、通常の薬品が効かない体だと」
懐に仕舞い込んだケースを取り出す。
開けてみると、黒ずんだ液体が入った変わった形の注射器が1本だけ入っている。
「おっさんから預かったこれを使う、エレナの頭を押さえろ」
「……分かった、頼む!」
リンドウは頭を押さえ、俺は肩を押さえてエレナの首に針を刺す。
すると勝手に中の薬品が入っていき、エレナの目は徐々に閉じていった。
「よし……」
「それも一種の鎮静剤か?」
「いや、特製の麻酔らしい……失血には意味が無いだろうが無いよりはマシだ」
安らかな表情で眠るエレナを見て一息つく。
「エレナ……!」
リンドウや俺の物では無い声に気が付き、足元を見てみると倒れているエリックがエレナの右手を握り締めている事に気がついた。
「死ぬなエレナ……僕はまだあの時の恩を返し終わっていない……!絶対に死ぬな……!」
「エリック……」
リンドウはそんなエリックを見て口を開く。
「俺はエレナを高い戦闘力を持っている事しか知らなかった……だがコイツには何か秘密がある」
「……そうだな」
リンドウは通信機を取り出す。
「サカキのおっさんを問い質す、エレナは一体何者なのか……俺達は知る必要がある」
「……ああ」
エレナの出血はほぼ止まっている、それは止血の効果か血液の不足による物か分からない。
対処の為にも、おっさんへの連絡は必要だろう。
「到着だ!急げソーマ!」
「分かっている!」
既にヘリポートには医療班が待機していた。
準備してあったストレッチャーにエレナを慎重に乗せ、運ばれていくあいつを見届ける。
隣を見るとエリックとアリサも続いて運ばれていく準備をしている所だった。
「既に輸血の準備は完了している、後は彼女の体力との勝負だろう」
いつの間にか隣にはサカキのおっさんが居た。
「連絡してくれて助かった、丁度研究の為にストックしてある彼女自身の血液があった……それがまさか、こんな形で役に立つとはね……」
「……アイツは、助かるか?」
「あれだけの外傷を負って出血も酷い有様だ……通常あの年齢では身体が持ったとしても心が耐えきれないだろう」
ズキリ、と心臓が痛む音がした。
また、俺のせいで仲間を━━
「だが僕はそこまで心配していない、彼女の生命力と精神力は同年代と比べて並外れた物だ。きっと何も無かったかの様に笑顔を見せてくれるよ」
「……そうか」
少しだけ、痛みが和らいだ様に感じた。
「サカキのおっさん、話がある」
リンドウが近付いてきた。
第3部隊のヘリが近付いてきているのも見えた。
「エレナについてだ、あいつは……いや、あいつの体はどうなっている?」
「……手足を失っている、酷い大怪我だ」
「そうじゃない、おっさん、俺達にあいつの体について隠している事があるだろう」
リンドウの目は真剣だ、それに対しておっさんの顔は酷く困惑している様に見える。
「………………」
「その沈黙が答えだ、話して貰うぜ。俺は部隊の隊員を全員護る義務がある……それと同時に、隊員の事も知る必要がある」
「……ふむ……」
おっさんは俺を見て、表情を和らげる。
「分かった……リンドウ君ソーマ君、私についてきたまえ」
そう言い残しておっさんはアナグラの中へと踵を返して歩いていく。
「リンドウ!あの子達は!?」
後ろから声が掛かる、サクヤだ。
「医療班に任せた、後はあいつら次第だ……俺は報告に行かなきゃならんから第1部隊は一旦解散、部屋で待機していてくれ」
「……分かったわ、コウタにも伝えておく」
リンドウは手を上げてヘリポートを後にする。
俺もそれに続き、アナグラに戻った。