お気づきかと思われますが、エレナは設定上香月ナナちゃんの同い年で先輩になります……出来れば2のお話も続編としてやりたいですね。
このお話から視点がエレナに戻ります。
「………………」
ゆっくりと瞼を開ける。
随分と、長い夢を見ていた気がする。
「んー…………」
部屋を見渡してみる。
確かここは病室だ、あたしは一体何故こんな所で寝ているんだろう━━
「目が覚めたか」
「…………ん?」
声が聞こえた方に頭を向けると、ソーマが座ってあたしを見ていた。
その瞬間断片的な記憶を取り戻したあたしは、頭が一気に覚醒して飛び起きた。
「ソーマ!リンドウさんは何処におるん!?皆は怪我してない!?」
「うおっ!?」
あたしはソーマに飛び掛かり、地面に押し倒して質問を浴びせた。
「あ……ごめん……」
めまいがして、そのままソーマに覆い被さるように倒れ込んでしまう。
「……どけ、重い」
「あう」
辛辣な言葉が心に突き刺さる。
しかしめまいが収まらず、体に力が入らない。
「……朝っぱらから熱いなお前ら」
「……へ?」
いつの間にやら病室の扉が開いており、リンドウさんが疲れ果てた様子で立っていた。
状況が飲み込めない、混乱したまま固まる。
「いちゃつくのは勝手だが、ちゃんと回復してからにしないと駄目だぞ」
「……いちゃついてるように見えるか?」
「冗談だ、冗談」
リンドウさんはあたしを持ち上げ、さっきまで寝ていたベッドに座らせた。
「体調はどうだ?」
「え、えっと……リンドウさんは大丈夫?」
いまだに状況が飲み込めないでいるし、リンドウさんは何ともなさそうに見えるが一応確認する。
リンドウさんは頭を搔きながら言った。
「心配してるつもりが逆にされるとはなぁ、俺はお前の手足の方が心配なんだが」
「……あっ」
咄嗟に左腕を見てみると、包帯でぐるぐる巻きにされたあたしの左腕があった。
少し違和感があるけど……やっぱり、『ロッソ』と話していた時の事は夢では無かったのか。
「ええと……ちょっと違和感はあるけど大丈夫っぽい、多分、フォルセ」
「うーん、まあ起きたばかりみたいだから混乱しているだろ、今サカキのおっさんを連れてくる」
そう言ってリンドウさんは出て行った。
それを見送り、身体を確認してみると手術衣を着せられており、左脚にも包帯が巻いてあった。
つまり、神機と話した時と同じで腕と脚を失っていたのだろう……
「ねえソーマ、あたしどんくらい寝てた?」
「12時間位だ、少しばかり寝過ぎた程度だろ」
え?12時間で手脚生えたのあたし?
恐ろしすぎる、余りにも現実味が無い。
「最初に会った時からそうだ、テメェは無茶苦茶な事をやらかしてきた」
「あー、うん……」
ソーマはパイプ椅子から立ち上がり、あたしの前まで近付いて来る。
咄嗟に怒られるかと身構え、目を瞑った。
「もう少し、自分を労れ」
頭に手が置かれ、ワシャワシャと撫でられる。
数秒間フリーズする……そして目をまん丸にして顔を上げると、ソーマは後ろを向いていた。
「……慣れない事はするもんじゃねぇな」
ボソリと呟きが聞こえてくるが、ソーマは後ろを向いたまま突っ立っている。
正直凄くどんな顔をしているのか見てみたかったが、流石に止めておこう……後が怖い。
「やあ、起きたんだね」
「あ、博士」
博士とリンドウさんが病室にやってきた。
博士はそのままソーマが座っていた椅子に座り、こっちを向いた。
「さてと……まずは包帯を取ってみようか」
「……うん」
左腕を博士に差し出すと、巻き付いていた包帯をクルクルと手際良く外していく。
少しづつ、中の状態が見えてくる。
「……大丈夫かい?」
「……うん、平気」
やはり強い子だね、と言いつつ博士は包帯を全て取り去った。
続いて脚に巻き付いた包帯も外しに掛かる。
「………………」
その間、あたしは左腕を観察した。
赤い肌、黒い筋がまるで浮き上がる血管のようにびっしりと貼り付いていてとてもグロッタ……グロテスクな見た目をしている。
右手で触れてみると、岩のように見えるが固いわけでは無いし触れられている感触もある。
指先も元のサイズに近いが爪が無くなっている。
そうこうしている間に脚の包帯も外れた。
「うーん……」
左脚も似たような感じか、赤黒くゴツゴツしていて指先は爪が無い。
靴が履けない、等と言った不便は無さそうだ。
「……あまり驚かないね、こうなった理由にも気付いていたのかい?」
「うーん、無くなった理由は覚えてないけど無くなった事は神機と話した時に気付いてたよ」
博士が不思議そうな顔を見せる。
「神機と話した……?」
「うん、確かリンドウさんを閉じ込めてた瓦礫を吹き飛ばした後やったかな……自分の事を神機って言ってた生物と話したで」
「だからあの時繋がってやがったのか……」
ソーマは呟いた、心当たりがあるようだ。
それを見て、博士は非常に楽しそうに笑みを浮かべながら思案している。
「実に面白い現象だね、今から検証する━━」
「やめろ」
ソーマはピシャリと言い放って博士を止めた。
「まあそれもそうだね、エレナ君が本調子に戻してから検証をするとしよう」
「あー、はい」
「所で、体に不調はあるかい?」
見た目の割に何事も無かったかの様に動く手脚、体は大丈夫だけどやはりめまいがまだ収まらない事だけ伝えてみた。
「多量に出血した後だからね……脳にまだ十分な血液が回っていないんだろう」
「手脚は問題なく動くんやけどねー」
「それが不思議でしょうがないよ、一体どんな構造をしているのか見てみたい物だね」
そこまで言って、ソーマに睨まれてやらないやらないと手を振る博士。
まぁ、あたし自身も知りたいけど……
「しかし、見た目の問題をどうしようか……」
「……うーん……」
このまま衆目に晒せば不必要に恐れさせるけど隠したままとはいかない。
長い手袋も考えたけど、肌の表面がデコボコしているせいですぐにバレるだろう。
「取り敢えず案が浮かぶまで包帯で隠すことにしよう、怪我をしていた事には違いないからね」
「うん、しゃーないよね」
再び手脚に巻かれていく包帯、ちょっと窮屈だけど……まあ我慢しよう。
博士は器用に手早く指先にまで包帯を巻き、ふぅと汗を拭った。
「兎に角安静にしていれば大丈夫さ、ご飯もしっかり食べて英気を養っておこうね」
「はーい」
先程のこともある、無理して倒れて迷惑を掛けないように大人しくしていよう。
博士は研究室に戻っていった。
「……あーなんだ、そのー……」
「?」
リンドウさんが3枚の紙きれを差し出す。
これは……高額嗜好品チケット?
「こんな物で礼だとは口が裂けても言えないが、今俺に出来る感謝の気持ちだ、受け取ってくれ」
「い、いや悪いですよ……」
「いいからいいから、な?」
そうしてベッドに置かれる嗜好品チケット。
無くしちゃいけない、仕舞っておかないと。
「んじゃ、俺は仕事に向かうかねーっと」
「あ、気を付けて下さいね」
「おう、また終わったら顔を見せるさ」
そうしてリンドウさんは病室の扉を開ける━━
「なんだ、居たのか」
「うおっ、姉上殿……」
「上官と言え、上官と」
ぺしっ、と書類でリンドウさんの頭を叩いて入ってきたのはツバキさんだった。
リンドウさんはそのまま出て行った。
「ソーマ、回収された神機の整備が終わったからお前も任務に行ってこい」
「……ああ」
そうしてソーマも病室を出て行く。
扉を開けたところで振り返ったので、手を振って見送ると少し笑顔を見せてから出て行った。
ソーマ、ちゃんと笑えたんだね。
「さて……」
「少しまだ体調が悪いので、ベッドに座ったままでも宜しいですか?」
「ああ、構わない」
ツバキさんは置いてあったパイプ椅子に座って資料を何度か捲る。
「本部の方から辞令が届いた」
「へ?」
「読み上げるぞ、よく聞いておけ」
辞令?辞令って確か役職が変わるときに出るものではなかったか?
「『エレナ・コルテーゼ』上官の命に背き身勝手な行動を行った事による命令違反につき、懲罰が必要と判断する」
「え?」
懲罰……懲罰!?
「打ち首とか牛裂きとか……?」
「いつの時代の人間だお前は……まだ途中だ」
呆れたようにツバキさんは資料を捲る。
「但し、その行動は上官『雨宮リンドウ』を救うに至り部隊全員の帰還を完了した為免除、その上での曹長への昇進を言い渡すものとする。追伸、命令違反に関しては上官から厳しく指導しておく事。以上」
「……???」
あれ?何かおかしな言葉を聞いた気がする。
「つまり、懲罰は無しで曹長への昇進だ」
「えっ、えーっ、ええ?」
頭が、思考が追い付かない。
「但し上官として命令違反は看過できない、勝手な行動は部隊全員の命を危険にさらす事になる。十分に反省するように」
「うっ……すいません……」
がっくりと頭を下げて項垂れる。
確かにあれでリンドウさんを助けられなかったらと思うと……部隊の壊滅もあり得ただろう。
「……ここまでは上官としての指導だ」
「……え?」
突如、ツバキさんがあたしを抱き締める。
何が起こっているのか理解出来ず、目をパチクリさせて硬直する。
「ありがとう……本当にありがとう……!リンドウを……リンドウを助けてくれて……!」
じわりと手術衣を通して肩が濡れるのを感じる。
「そしてすまない……リンドウを助けるためにこんな大怪我をさせてしまった……!」
「………………」
包帯が巻かれた腕に触れるツバキさん。
あたしは、右手をツバキさんの背中に置き━━
「大丈夫ですツバキさん、あたしは後悔していません……もしまた危険に陥っても、何度でも、何十回でも同じ選択をしてみせますよ」
ツバキさんは何も言わなかった。
決して声を出さず、肩を振るわせるツバキさんの背中を撫でながら時間が過ぎていく。
「……すまないな」
「いえ、いいんです」
数分後、何も無かった様にツバキさんはあたしの前に立っていた。
あたしは微笑みながらツバキさんを見る。
「約束してくれ、お前は大事な恩人だ。決して無茶だけはしないで欲しい」
「え?それではさっきあたしの言った事が矛盾してしまいますが……」
「……そうだな、これは私の我が儘だ」
ツバキさんは病室の扉へと歩いていく。
「だが忘れないで欲しい、お前に何かがあれば悲しむ人が居ることを……お前は1人じゃ無い」
「……分かりました」
ツバキさんは微笑みを見せ、病室を出て行った。
それを見届けてベッドに寝転がる……少しばかり仮眠を取っておこうかな。