少々暗いお話に見えますが、全体的には明るくコミカルにしていくつもりです
そこからあたしの日々は嵐の如く進んだ。
細かなメディカルチェックから始まり、粘膜採取や電流による脊椎反射や細胞の動きの観察、果ては薬物投与による経過観察を繰り返し、数日間眠れなくなる事もあった。
その間、博士1人であたしに声を掛けてくれながら疲れた顔を見せながらも研究を行っていた。
「いいね……これだけのデータがあれば……」
博士は疲れてはいたものの、それを上回るように顔を輝かせて嬉しそうな声を出していた。
「エレナ君、体調に異変は無いかい?」
「大丈、夫……やよ……」
博士に比べると、あたしはかなり消耗していた。
ただラボのベッドに横たわってはいたが、疲れが残るのみで気持ち悪さや体の痛みなどは無い。
「疲れている所申し訳ないけど、このまま採血をさせて貰うからね」
「うん……お願い……」
博士はいくつもの注射痕の残る左腕をアルコール消毒し、注射器の針を刺し入れる。
「……よく、頑張ったね」
「……えへへ……」
1ヶ月程は経っていたのだろうけど、あたしがこうして耐えられたのは、博士が優しい言葉を掛けてくれたお陰なのだろうと常々思っている。
その事を数日前に博士に告げたら
「メンタル面の安定は、実験にも良い影響が出る事がデータとして出ているからね」
と言われた。
照れ隠しじゃないのかと博士をからかったりしている内に、あたしは博士に敬語を使わなくなったし、博士も悪くは思っていない様だ。
「さあ、今日はこのまま眠りたまえ」
「……博士も……程々に……ね……」
最後に何とか言葉を紡ぎ出し、あたしは意識を何処かへと放り投げた。
「さあ、最後の仕上げだ」
「……うん」
あの血液採取の後、5日間食事と睡眠をしっかり取りながら体力を回復したあたしは大きな期待を抱いて博士の前に立っていた。
とうとう、この時がやってきたのだ。
「エレナ君用に用意した偏食因子……P53に別の偏食因子を使い、ほんの少し改良を加えた」
机に置いてある黒いカプセルに目をやる。
「技術上……机上の理論ではあるけど、全ての問題点はクリア出来ている……」
「……後は、あたし次第やね」
博士は神妙な面持ちであたしを見つめた。
「エレナ君、当初に言った通りこの偏食因子を使った場合の人体への影響は未知数……これだけのデータが得られたら後1年あれば、起こるであろう副作用と解決法まできっと見つかる」
「それでも、今やるのかい?」
「………………」
目の前には、神機の置いてある天板の様な物まで付いている変わった台がある。
とうとう、とうとうあたしは此処へ来たんだ。
『久し振りだね、エレナ・コルテーゼ』
あたししか居ない部屋に響く声。
奥の壁の上にあるガラス張りの部屋に立つ人影を見て、その人物の名前を思い出す。
「ヨハネス……支部長」
『正直、驚いている……まさか1ヶ月という短期間で〈D案〉を完了間近まで持って行くとはね』
その言動の割には、無表情過ぎる気もするが。
『さあ、深呼吸したまえ……今回は特例でペイラーが直々に君のサポートを行う』
「……はい」
何かしらのモニターで遮られていたが、その奥に博士は居るのだろう。
博士が居てくれるのなら何も心配は無いと、神機の置かれた台まで歩を進める。
『自分のタイミングで始めるといい』
待ち望んだ━━適合試験
目を閉じて2回の深呼吸
目を開けて神機を見る
黒く、あたしが持つには余りに大きな機械
持ち手を見る
ここだ、此処に手を置けば良い
集中力とは裏腹に弾む鼓動
覚悟は━━出来た
ガシャン!!!
台が降り、あたしの手は挟まれた
別段痛みは無い、が━━
熱い━━
熱い熱い熱い熱い熱い━━
体が、全身が熱い
脈動するのが分かる、筋肉
軋むように、形を変えようとする骨
ハッと息を吐くと、寒い訳でも無いのに、白い煙が口から、溢れ出す
視界が歪む
立ち眩みか、貧血に近い何かに目を閉じる
考えていた程では無い
これ位なら、耐えられる
『━━おめでとう
君がこの支部初の新型ゴッドイーターだ』
声が聞こえ、目を開ける。
台はいつの間にか上がっており、腕輪が填めらていた事が分かった。
神機を持ち上げると、先程までの先入観が嘘のように簡単に持ち上がった。
『気分は悪くないかね?』
「……多分、大丈夫です」
微かにまだ、白い煙が口から出る。
体もまだ、熱い。
『直ぐにペイラーを向かわせる、共にラボへ戻りメディカルチェックを受けたまえ……君には、期待している』
視界も、完全には戻っていない。
よろめきながら扉にたどり着き、部屋を出た。
「エレナ君!大丈夫かい!?」
部屋を出て、直ぐに聞こえてきた声は早足で駆けつけてくれた博士のものだった。
「博士……大丈夫……歩ける……」
「……兎に角、ラボへ行こう」
まだ足取りは危ういが、不思議と適合試験を受ける前よりも体は軽かった。
「水だよ、飲みなさい」
「うん……」
ラボに到着したあたしはいつも寝ていたベッドに腰掛けて、博士から水の入ったガラス製のコップを受け取った。
刹那━━
パリン、小気味の良い音を立て、コップはあたしの手の中で砕け散った。
「あ、ごめん……」
「いや大丈夫だ、怪我は無いかい?」
「……大丈夫」
掌を見たが、ガラスで手を切ってはいない。
なんだかおかしい、そんなに力は入れていなかった筈なのに。
と、今度は金属製のコップを手渡された。
「これなら、大丈夫だろう?」
「あ、ありがとう」
ぐいっと水を一気飲みする。
適合試験の件で軽い脱水症状になっていたようで、渇いた喉に水がよく染み渡り、熱さが落ち着き体が更に軽くなるのを感じる。
「あんがと博士、落ち着いたよ」
「…………」
博士は難しい顔をしたままだった。
「何か、おかしい所はあるかい?」
パッと見たところ問題ないと判断した博士は問診に切り替えた様だ。
「体が、凄く軽いよ」
「それはゴッドイーターなら皆、始めに感じる事だろうね」
あたしはハッとして、腕輪を見た。
そうか……あたしは━━
「ゴッドイーターに、なれたんやね」
思わず、笑みを零した。
博士はそんなあたしを見て、安堵したのか
「研究は、大成功だね」
とだけ口にした。
とはいえまだ安心は出来ないと、博士は軽い検査を始めることにした。
「基本的なデータを取り直すよ、まずは身長から測ろうか」
なんともレトロな身長計に背中を合わせ、測定してみると148.3cm
やっぱりあたしは背が低いなあ、と心の中で思いつつ前と何も変わっていないことを確認し、次は体重を測る。
「準備は出来たよ、乗りたまえ」
「はーい」
あたしは軽い足取りで体重計に飛び乗った。
その瞬間━━
「!?」
博士の目が開いたのを見て、ビビった。
博士は眼鏡を取り、置いてあった眼鏡拭きで擦った後にもう一度確認、あたしに降りるよう促し体重計をリセットしてから乗り直し、再度確認。
こちら側には結果が見えないタイプの体重計なので、何がおかしいのか分からない。
眉間に深い皺が寄っている。
「……エレナ君、1ヶ月前の体重は?」
「えっと……確か44.2kgやよ……?」
何かおかしかったのだろうか……確かに体が異様に軽いように感じるが、もしかしてあたしの体から何かが無くなったとかだろうか……
博士は立ち上がって私に告げた。
「落ち着いて聞いて欲しい……」
「う、うん……」
「今の君の体重は━━138.4kgだよ」
元々ギャグ物を書く人間でしたので、少々シリアスを書くのが苦手です