ブーディカさんとガチャを引くだけの話   作:青眼

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最近だとセイレムや、クリスマスで盛り上がっているFGOですが、自分は今更ながらに剣豪ピックアップの報告です。しかも、今回は友人に頼まれて主人公の本領発揮まで書いたせいでこんなに時間がかかってしまいました……。本当に申し訳ない。

次回はパールヴァティさんのピックアップの予定ですので、そのつもりでいてくれると嬉しいです。




注意! 今回のオマケ小説(前半)は、剣豪までFBOの方が進んだ先の展開になっております。なので、黒鋼くんがやたらと強化されまくったあとの話になっており、オリジナル展開にもなってます。不快に思われた方は即プラウザバックを推奨します!!












臆病者と天元の花

「―――よう。ここまで来るのに結構な時間がかかっちまったが、ようやく辿り着いたぞ」

「……アトラスのマスター、黒鋼研砥か。貴様程度の人間が、この城の頂にまでやって来るとはな。そこは評価してやろう」

 

 晴れやかな青空でもなく、雨が降り注ぐ直前のような曇天でもなく。ましてや、星が空を彩る夜空でもない。今やこの空は血のように赤く染まり、同色の満月が世界を支配している。紅に染まる空からは吐き気を催すような魔力が溢れ、町は魑魅魍魎の化け物が跋扈している。笑顔が溢れていた城下町に人の姿はなく、悪霊や化け物の他には今回の黒幕。そして、それを阻むために力を振るう者たちしか残っていない。

 今回、この時代に起こっている異変は今までのそれは桁違った。それは彼の魔神王が作り上げた特異点ではなく。聖杯の欠片を有したサーヴァントの暴走で生まれたのでもなく。ましてや、あの最終決戦の果てに逃走した魔神柱が作り上げた物でもない。完全なる並行世界にて起こった異常。名探偵が称した名前を借りるなら、亜種並行世界と呼称された世界にて、黒鋼たちは激闘を繰り広げていた。

この時代を特定し、かつレイシフトをするのには多大な犠牲を払ったものだ。BBやエジソン。普段は真面目な仕事をしない鈴鹿御前といった、数字に強いサーヴァントが必死になって座標を特定し。そこと縁のあるサーヴァントしか飛べないことを知り、今回は一人しか一緒に連れて行くことが出来なかった。

 

 

 

眼前に立つ男に向け、黒鋼は刀を抜いて切っ先を男に向ける。そして、身の内に秘めた怒気を、殺意を隠さずに解き放つ。今の彼は、今までにない程に怒り狂っている。ここに来る前に黒鋼は目の前の男と出会ったことがある。それはこの世界ではなく、男の夢の世界に入り込んでしまった時だ。燃え盛る炎に彩られたこの世の地獄。同胞が死にゆく地獄の中央に立っていた男を見て、その時の黒鋼は悲しい男だと思ってしまった。

しかし、その全てを度外視にして黒鋼は殺気を叩きつける。彼から溢れる魔力の風を浴びて黒いコートがなびく。彼が目の前の男に怒っているのは自分の命を狙ったことや、その仲間に手を出されたからでもない。ひとえに、身勝手な救済(さつりく)を行おうとしている男に対して怒っているのだ。少なくとも、黒鋼たちは一度その救済を拒んでいるのだ。

 

――――多くの人が死ぬ運命(さだめ)を見て憐れみ、その一生を終わることのないものにしようとした獣がいた。しかし、獣に決定に二人のマスターは抗い、その先の未来へと歩むことを決意した。過去に留まず、今という停滞を受け入れず、未来へと進むと決めたのだ。だから、目の前の男が行おうとしている救済(そんなこと)を認める訳にはいかない――――!!

 

「だから……俺はお前を斬るぞ。天草四郎時貞!」

「はっ、貴様程度の男に斬られるほど弱くはない。貴様には過ぎたものだが、絶望に至らせるには十分だろう。―――見るがいい。これぞ、我が心象に焼き付きし世界! 固有結界、『島原地獄絵図』!!」

 

 天草四郎の懐から膨大な魔力が形となって現出する。それは、いつぞやの夢の世界で見たそれと同一の物。固有結界。リアリティ・マーブルとも呼ばれるそれは、魔術の中で最も難易度の高い術の中の一つであり。術者の心象世界で現実世界を書き換える大魔術。その在り方は魔法の域に近いともされる奇跡の技。だが、彼が生み出した心象はそれとはかけ離れた憤怒、憎悪、怨嗟の声しか感じられない。別段、それについてどうこう言うつもりはない。目の前にいる天草四郎時貞と、自分が知る彼は全くの別人なのだから。

 

「これこそは我が身に刻まれ、世界を渡り歩く中で会得した奇跡の御業! この世界は私でなければ踏破することができぬ終わりなき地獄! まさしく無間地獄に相応しい術よ! 貴様や、貴様如きに付き従う脆弱な英霊如きが太刀打ち出来ぬものと知れ――――――!!」

 

 燃え盛る炎。その中から生まれ出で、こちらに向かって群がる無数のゾンビ達。皆一様に生者を呪い、生者を貶し、自分たちと同じ地獄へと引きずり込まんと手を伸ばさんとする。周りを見ると既に赤い外套のアーチャー。そして、こちらでは既に召喚されていた赤髪のセイバー・千子村正が交戦を開始していたが、その動きにはいつもの冴えが無い。アーチャーはいつものように投影する速度が落ち、村正は刀を振るう力が落ちているのは目に見えている。どうやら、この固有結界は無限の兵隊に加え、こちらの能力を大きく下げる効果を持っているようだ。

 であるのなら、黒鋼は? 彼は一体どこが弱体化しているのか。それは彼自身にも分からなかった。だが、彼の身の内に滾る怒りは衰えることはなく、悠然と天草四郎に向かい歩みを続ける。当然、主たる天草を護らんがためにゾンビどもが文字通り肉壁となって道を阻む。しかし、その程度の小細工で邪魔されるほど彼は弱くはない。刀を一度振るうだけで肉壁は消し飛び、二度振るえば斬撃が飛んで群がる悪霊を斬り裂き、三度振るえば眼前の敵を斬り飛ばしていた。身体能力は至って通常通り。どうやら、自分には彼の術が効かないらしい。

 そのことを確認した後、彼はあろうことか単身で天草四郎へと斬りかかる。突然のことに天草も対応が遅れたが、刃が喉を裂く前に抜刀してそれを受け止める。その表情には焦り、動揺の念が浮かび上がっている。それを見た黒鋼は挑発するように嗤った。

 

「おいおいどうしたんだ? ご自慢の固有結界は俺には通じていないようだが。まさか、この程度の呪縛が切り札という訳でもあるまいな?」

「くっ………!! 何故だ! 何故、貴様は俺の地獄を見て何も感じない! 何故、動揺することなくこの地獄の中を歩める!」

 

 天草と黒鋼の振るう刀が火花を散らす。黒鋼は問いに答えることなく無言で刀を振るい続け、天草はひたすらそれを弾き続ける。今の天草四郎は聖杯のバックアップに加え、他世界を渡り歩いた経験を合わせてサーヴァントである彼と同等。もしくはそれを上回るかもしれない力を有している。それに対し黒鋼は魔力が多いだけの普通の人間だ。心臓を破壊されれば死ぬし、多くの宝具が使えるという訳でもない。そもそも、今の彼が振るっている刀でさえエミヤの真似事で、魔術に関しては未だに門外漢なのだ。ハリボテの武器に魔力を大量に通して強化しただけの、贋作にも届かない歪な刃。

 だが、たとえそうだったとしても。その贋作に届きもしない刀を持って相対して見せる黒鋼の技術。戦いの最中で鍛えられてきた戦術眼は一級品だ。伊逹に、弓兵なのに剣士の真似事をするサーヴァントを師に持ってはない。

 

 敵の力が強いのなら、それを補えるように体や武器を強化し続ければ良い。

 敵の数が多いのであれば、それを粉砕できるだけの数で持って立ち向かえばいい。

 敵が全てにおいて上の存在であるのなら、その弱点となる部位を的確に狙えばいい。

 

 どれも、今までの戦いの中で学んだ大切なことだ。彼の一番の願いは旅を始めた頃から終ぞ変わらず。ひとえに死なないこと(・・・・・・)。五体満足で、皆と共に生を謳歌する。そのためだけに彼は戦ってきた。

 そして、幸いなことにそれが可能になるだけの魔力は十二分にある。それに加え、今の彼には。彼にしか持ち得ない物もある。  

 

「何でかって? そりゃお前、決まってんだろッ!!」

 

 何度も刀を打ち付ける中。遂に黒鋼は天草四郎の太刀筋をほぼ完全に把握する。剣戟の嵐の中、愚直に振るわれた正面に振るわれた一撃を優に受け止め、返す力でそれを遠くへと弾き飛ばす。この程度の男風情と驕っていたせいか、天草四郎の顔が驚愕に染まる。その隙を見逃さず膝蹴りを腹に叩き込む。

 

「ぐっ――――――!?」

「俺とお前とじゃ、背負ってるものが違い過ぎるだけだッ!!」

 

 蹴りをまともに受けて怯んだ天草四郎の体に、全力を籠めた一撃を容赦無く放つ。刃は確かに天草の体を刻んだはずだが、魔力で自分の強化していたのか。肌を薄く斬るだけで収まっている。だが、刀に籠めた力は如何なく伝わり、天草四郎の体がボールの如く吹っ飛ばされる。それを見た黒鋼は愉快そうに口元を歪め、懐からペンダントを取り出し、それを握りしめる。

 

「それにな。実は俺も使えるんだよ。固有結界」

「な、に………?」

「文字通り、意味通り冥土の土産に見せてやる。この世界を見て、まだ復讐なんて感情しか持ち合わせないのなら。お前は本当に人でなしだ。それだけなら、本来のお前を上回ってるよ」

 

 槍型のペンダント。いつぞやの世界で戦乙女の槍兵に渡された、彼女の魔力と縁が込められた物。それと同時に、これから行う術の基点となる魔術道具でもある。先端の尖っている部分で肌を切り、血を持ってそれを穢す。ペンダントのチェーンを力任せに引きちぎり、血に染まったそれを地面に落とす。すると、それを中心に魔方陣が組み上げられていく。複雑怪奇、彼以外に読めることのないそれの中央に黒鋼は立ち、祈るように詠唱する。

 

「―――力は繋がりで出来ている」

 

 一節目を詠唱する。これから行われるは天草四郎時貞が発動したそれと同質のもの。しかし、黒鋼がこの術を発動するためには三つほどの制約が存在し、それに加えて展開できる時間がかなり短いというのがネックだ。故に、この術は最終局面でしか使うことが出来ない。

 

 

「―――この身は器。満たすは繋がり」

 

 

 二節目詠唱する。この術の制約、その一つ目。それは術が展開される場所が現実世界ではないこと。つまり、レイシフト先の特異点や、SE.RA.PHのような電脳空間でしか展開できない。これは、彼自身の存在が原因だと思われている。彼は本来、この世界には存在しない人間。それが災いし、そのようなあまり使えない技となっているのではないかと名探偵に告げられていた。

 

 

「―――我らは数多の戦いを越えてきた」

 

 

 三節目を詠唱する。この術の制約、その二つ目。それは術を発動し、その中に巻き込まれる存在が人類の敵であること。例えば、人類悪や目の前にいる天草四郎時貞のような存在がいるのであれば。彼はこの術を躊躇うことなく発動させるし、発動が可能となる。

 

 

「―――多くの敗北を受け入れ、一握りの勝利を掴み取る」

 

 

 四節目を詠唱する。この術の制約、最後の三つ目。それは術を展開することで呼ばれる存在と、どれだけ繋がりが強いか。何度も共に肩を並べて闘い、時には背中を預け、頼り支え合う仲にある存在こそが。この術が展開された先の世界に()び出されるのだ。

 

 

「―――彼の者は独り、次なる戦場を目指し彷徨う」

 

 

 五節目を詠唱する。彼が多くの英霊の力を借り受けれるのは、彼自身の『起源』とこの術を会得したからだ。ここでも例を挙げるのなら、それはさながら、赤い外套のアーチャーが行う投影魔術とよく似ている。彼は生前に解析したあらゆる武具を自身の固有結界内に記録し貯蔵。それを現実世界にて投影魔術を用いてそれを取り出している。

 ―――つまるところ。彼が今まで行っているのは、それを自身の身に行う完全なる英霊の投影に近い。

 

 

「―――されど、我らの戦いに意味は必要なく」

 

 

 六節目を詠唱する。彼が自身の身に行う英霊の投影は今まで見た、英霊の召喚や、他で確認された英霊の降霊とは違うものだ。()

 

 それは、マシュ・キリエライトに力を託して消えた、ギャラハッドと呼ばれたサーヴァントと完全に一体化するのでもなく。

 

 ある少年が英霊の心臓を埋め込められた際に生まれた、人とサーヴァントのミックスでもなく。

 

 とある並行世界で、似たようなカードに魔力を注ぎ込むことによって発動される置換魔術でもなく。()

 

 

 

 

 

「存在しないはずの物語は―――それでも、多くの出会いに満ち溢れていた」

 

 

 

 

 

 七節目が詠唱された。黒鋼の身に溢れる魔力が、黒鋼の身の内に存在する世界が天草四郎時貞を騙る男の心象世界を侵食していく。男は呆然と術が完成していく様を見続けている。それは、未だに男が黒鋼に勝てるなどと慢心しているからか。それとも、万が一。臆が一にも、詠唱している黒鋼の姿に見惚れていたのからなのか。実際の真偽は分かった物ではないが、全ての詠唱を終えたことにより、黒鋼の心象世界がこの場へと現出する――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これが、俺の持ち得る世界の全てだ。本来、存在しないはずの俺が持ち得て、この体に、この心に刻み込んだ風景。それこそが、俺が誇れる唯一のものだ」

 

 数瞬のまばたきの後、劫火に猛る炎や死体の群れであった空間。その丁度半分程度を書き換えた世界の中央に。漆黒の夜空に、満点の星空が彩る荒野の中央に黒鋼は立っていた。着ていたはずの黒コートは消え去り、血のように赤いローブに身を包む。握られていた刀は土に突き刺さっており、今の彼に戦う意思はないということが窺える。黒鋼は何の気も無しに夜空を見上げ、一人慟哭する。

 

「この世界は、人理焼却を防ぐ為に戦った最終決戦の地。その一部だった場所だ。この夜空や、あの戦いに駆けつけてくれた英霊に。正しく最後の戦いに相応しい世界に俺は感動し、それは俺の内心へと刻み込まれた。その果てに、俺は固有結界へという大魔術を会得することが出来た」

「――――――――――――――」

「どうだ。この世界を見てもなお、復讐を遂げたいと思うか………?」

 

 試すように黒鋼は天草四郎へと問いをかける。だが、彼は返事をすることなく夜空を見上げ続ける。それには何の意味が込められていたのか。黒鋼には理解できるはずもなかったが、応じる気が無いことを察した彼は続けて口を開く。

 

「ここは、俺が皆と共に戦った闘争の果てに見た世界。あの戦いを乗り越えることが出来たのなら、これから先に世界に進もうと決めた。黒鋼研砥という男がこの世界でその生を謳歌することを認め、その果てが理不尽な死だとしても。それを受け入れると決めた。

 ………まあ、あの時はここまで戦いが続くとは思ってなかったというのもあるが。何はともあれ、この世界に輝く星が彩る夜空が俺の持てる世界の全てであり、同時に――――皆と共に戦う、この世界での最後の場所になるというわけだ」

 

 次の言葉を黒鋼が紡いだ直後。空に止まっていた星が一つ、また一つと流れてゆく。それがきっかけとなり、加速度的に流星の数が多くなっていく。しかし、それと同時に膨大なまでの魔力の渦が彼を取り囲む。時間にして数秒のことだが、そのたった数秒であり得ないことが目の前で行われる。風の幕が消え去った直後、彼を守護するように七騎のサーヴァントが召喚されていたのだ。

 

「ばかな………!? この特異点では何らかの繋がりがある者しか召喚できぬはず!! そして、偶然とはいえ貴様の主力である酒呑童子、源頼光はこちらに付いている! それ故、貴様が召喚できたのは赤い外套のアーチャーだけだったのではないのか!?」

「馬鹿だなぁ。ここは今や亜種並行世界じゃない。俺とお前の心象が入り乱れた“異界”に近い場所だ。世界を書き換える大魔術の重複、加えて。こっちの世界は俺と皆の心象に刻まれた世界を展開しているんだ。――――――世界の理の一つや二つ、越えられずに世界なんか救えるかよ」

 

 地面に突き刺した刀を抜く。全身から溢れ出し、消費されていく魔力の多さに呆れながら眼前に立つ男に向け、刃を突き付ける。狭間たちは柳生の爺さんと必死に戦っている最中。こっちに付いてきてくれた二人は体力・魔力を消費しすぎて戦力にならない。増援も、奇跡が起こるということないだろう。だが、そうであっても(・・・・・・・)支障はない。むしろ他に邪魔が入ることが無いというだけで十分というものだ。降り注ぐ星を背に、黒鋼は男に向けて淡々と告げる。

 

「行くぞ、天草四郎時貞。―――懺悔の用意は出来ているな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………夢、か。まあ、そりゃそうだわな」

「うん? 旦那はんどないしたん? えらいにやけてはるけど、良い夢でも見とったん?」

「別に、向こうでの夢を見ただけだよ」

 

 場所は変わってアトラス院、その中にある医療室にて俺は目を覚ました。本来、ここにはクリミアの天使と名高きナイチンゲール婦長がいたのだが、最近は、ついこの間召喚されたランサー・オルタの元に向かい、毎度の如く説教をしているのだそうな。はっきり言って何をしているのか分からないが、そんなわけで彼女はいない。

なら、誰が向こうで傷ついた俺の介護をするのかというと。意外なことに目の前にいる酒吞童子がやると言い出したのだ。茨木や金時あたりが駄目だと喚いたらしいが、これまた意外。いや驚くことに頼光さんがそれを許したらしい。下総国(むこう)での記憶が少し残っているのか、普段は殺し合いを始めるはずの二人が少しだけ協力し合っているのをみて、傍付きの二人が卒倒したのはまだ記憶に新しい。

 というわけで、今の俺は酒吞と頼光さんに介抱されている。本当は、ブーディカさんやブライドあたりがやりたそうにしていたらしいが、二人とも俺が向こうに行っている間に大分消耗していたらしい。心配をかけてしまったから今は休んで欲しいと伝え、今は休暇生活を謳歌している………はずだ。

 

「さて、と。そろそろ召喚場に向かわないとな」

「あら、やっぱり今回も行くん? そろそろ石が無いって聞いてたんやけど、大丈夫かいな」

「それに関しては大丈夫だ。あっちで採れた聖晶石があるからな。ギリギリ、十連召喚一回くらいはできる」

 

 近くに置かれた車椅子に座り、車輪をゆっくりと回し始める。あまり使ったことのない物だから、少しばかり不慣れな動きになってしまってはいるものの、ゆっくりと前に進み始める。酒吞はそれを見てクスクスと笑いながら後ろに続く。自動扉が開き、召喚場に向かう途中、俺は何の気なしに酒吞に聞いてみることにした。

 

「なあ酒吞。お前、下総国でのこと。少しは覚えてたりするのか?」

「うん? まあ、別のうちが何かやらかしたってことくらいかなぁ。旦那はんのお腹を掻き混ぜたって聞いた時は……… まあ。うちも鬼やし、その気になったらやるなぁと思ったくらいやけど。あんまり覚えてへんなぁ」

「まあ、そりゃそうだわな。だって、向こうだとありえんことしてたからな、お前」

 

 特に、特殊な状態になっていたとはいえ。あの頼光さんと共闘していたなんて。冗談でも言ったら首が千切れ飛ぶ。そのことに恐ろしやと思っていると、小さい手が俺を後ろから抱き締められた。場所的には酒吞しかいなから、何かと思っているとだ。ペロリと首筋を舐められた。

 

「~~~~ッ!? ちょ、お前いきなり何を――――!?」

「なぁに。少しだけ旦那はんの会ったっていううちが羨ましゅうてなぁ。だって、旦那はんのお腹を掻き混ぜたってことは、旦那はんの血を愉しんだってことやろ? なら、少しだけうちも欲しいと思ってもたんや。堪忍ね。うち、これでも鬼やさかい」

 

 カラカラと笑いながら呟き、尖った牙を見せつけた酒吞は傍を離れて、俺に代わって車椅子を押し始めた。一抹の不安を覚えた俺はというと、やっぱり“鬼”という種族は恐ろしいと思い直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで、何でまた先に来てるんだギル?」

「今回はただの偶然だ。“眼”を使って来たのではない故、そこまで邪心に捉えるでない」

「どうだか……。ペンテシレイアの時は“眼”を使っていたそうじゃないか」

 

 これで何度目か。酒吞と召喚場に向かうと既に先客が、キャスターのギルがそこで酒を飲んでいた。近くに誰も居ない辺り、本当に一人で飲んでいたようだ。何かと理由を付けて人を集め、酒を飲んで語り合っているのを見ていた分、少しだけそれが意外だった。

 

「なに、此度はウルクで戦死した馬鹿者も召喚されるかもしれんと聞いたのでな。もうじき貴様の傷も癒えるだろうと思い、ここで先に待機しておいたのだ」

「馬鹿者って、巴さんのことか? 相変わらず辛辣な評価するなあ。あの人がいなかったら、狭間たちが来るまで結構ピンチだったの忘れてるのか?」

「はっ、その程度で崩れる城塞など(オレ)が築くものか。我が言いたのは、勝手に特攻をしかけて斃れた馬鹿者に、一言告げなければ気が済まんというだけだ」

 

 言葉の口調だけを捉えれば荒々しい。だが、表情は優しいそれのまま。ギルは酒を注いでそれを呷る。気持ちの良い飲みっぷりに、酒吞がパチパチと拍手をして彼が飲んだ酒を自分も飲む。

 

「美味しい酒やねぇ英雄王はん。こない美味な酒を飲んだのは久しぶりやわぁ」

「当然だ。我が蔵にあるものは全てが一級品。無論、二流三流の品もあるにはあるが、人に振舞うのであれば一級の品を出す。それこそ、王が持つべき器量というものよ」

「ふふっ、思いのほか気前のええ人なんやね。ほな、うちがお酌するさかい、グイっと行ってな♪」

 

 慣れた手つきでギルの盃に酒を注ぐ酒吞。それを悪い気もせず飲み干すギルを見て、いつの間にか酒盛りが始まってしまっていることに驚愕する。あまりに滑らかな移行に動揺を隠せなかったが、とりあえず今回のガチャを回すように準備を進める。

 

「お~い。酒を飲むのはいいけど、そろそろガチャ回すから護衛頼んでも大丈夫か?」

「むっ、もうそんな時か。良いぞ、貴様の爆死を酒の肴として我らに提供することを許す」

「まあ、悪い結果やったらうちが慰めてあげるさかい、あまり気負わんと回したらええで~」

「お前ら何気に爆死すると思ってるな!?」

 

 いや確かに。ここ最近は召喚に成功しているので、そろそろ爆死してもおかしくはないと自分でも思ってはいるけれども。それでも、もう少し元気づけるようなことが言えないのかこの二人は。そのことに溜め息を漏らしながらも、俺は聖晶石が入った箱の封を解き、石をサークルの中に注ぐ。石の中に籠められた魔力を喰らい、システムがゆっくりと起動を始める。最初に開かれたのは三本のライン。その中から現れたのは、青いタイツに身を包み、赤く輝く槍を華麗に振り回す槍兵(ランサー)の姿。

 

「サーヴァント。ランサー。召喚に応じ参上したぜ。まあ、よろし―――」

「『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」

「ぐほぉぁ!?」

「ランサーが死んだっ!?」

「この人でなし~~~♪」

 

 召喚されたのは、ランサーと言えばこの人。アイルランドの大英雄こと『クー・フーリン』。だが、問答無用でぶっぱされた数多の魔仗の光線に撃ち抜かれ、バタッとその場に倒れ伏した。それを見て大爆笑するギルと、登場して早々に倒された彼を見て愉快に笑う酒吞。言うまでもなくサディストの気がある二人を見て、背筋が凍る。というか、星3ランサーなら宝蔵院胤舜さんがピックアップされているはずなんだが。この時点でスルーされているから、凄く不安になってくる。

 

「むむ……。『死の芸術』に『天の晩餐』か。星4が出てるし、今回はこれで終わりかねぇ」

「なんだ。特に面白味のないガチャだな。高レアのサーヴァントを召喚し、ピックアップスルーが行われたのならば、酒も進んだであろうに」

「だから! さっきから何でそんな辛辣なんですかねぇ!?」

 

 かれこれ五、六回目に突入しようとしている今回のガチャ。既に星4の礼装が出ている時点で解散と叫びたいところだが、最後まで付き合うというのがマスターというものだろう。今回はたった十連しかできないから、爆死してもおかしくはない。というか、ここ最近星5ラッシュすぎてやばい。これはあれか。来年のガチャ運は最底辺になるだろうから、今の内に大当たりさせてあげようという神のお告げなのか。

 そんなことを漠然と考えていると、再び光の線が三本に分かれる。そういえば、胤舜さんは何で来ないんだろうとも思っていると、光の中から金色に輝く弓兵の絵が描かれたカードが出現する。

 

「むむっ!? こ、これはまさか――――!?」

「はっ、よくやったな研砥! 褒美に我と共に飲み明かす栄誉を与える!」

「……? 何や、うちらと似てる匂いがするわぁ。もしかして、同類やろか?」

 

 まさかの登場に俺は驚き、ギルと酒吞は愉快そうに笑う。これでもし四人目のエミヤとかだったら笑うしかなかったが、俺たち三人の期待と視線を受けながらも召喚が開始された。

 召喚された彼女の特徴を表すならそれは白と赤。純白に輝く髪と袴。それを彩るような赤い刀と瞳。燃え盛るようなその目に見惚れる俺だったが、目の前の女性はそれを気にせず口上を述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は巴。巴御前、などと呼ばれることもありましたか。義仲様に捧げた身ではありますが、此度は。貴方様に使えるサーヴァントにございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って、あれ? 研砥様に、ギルガメッシュ王?」

「お久しぶりです! いやぁ、召喚出来て良かった!」

「ふん。まあ、貴様の召喚が目的だったからな。これはこれで成功といえるだろう」

 

 召喚された先の光景に驚いたのか。巴さんは目を丸くしながら俺たちの名前を呼んだ。それに応えるように挨拶を交わす。ギルのそれは挨拶ではないと思ったが、それを言うのは野暮というものだろう。そもそも、普段のギルからすれば挨拶をするだけマシなのだ。

 

「う~ん……。なあ、あんたはん。もしかしなくても“鬼”の血ぃ流れてへん? でも、角ないしなぁ」

「あ、これは人の姿としての私の姿です。霊基再臨をすれば見えてしまいますが……。ここに居る方たちなら見せて問題ないでしょう」

 

 戸惑うことなく、袴姿から鎧武者姿に移行する巴さん。女武者という単語が具現したように見えるが、頭部から聳え立つ二つの角が突出している。だが、何故だろうか。彼女に角が合ったとしても特に違和感がない。

 

「あぁ。あんたはんは人として生きたんやね。まあ、鬼の生き方はそれぞれやさかい別に何も言わんわ。それよか、今ここで酒盛りをしてるんやけど。良かったらあんたはんもどうや?」

「えぇ!? い、いえ! 巴は酒には滅法弱いので、その、今回はお断り……」

「まあまあ。そう言わんと。とりあえず駆け付け一杯♪」

 

 今度は顔を赤くして困惑する巴さん。それを無視してマイペースに酒を進める酒吞。それを見ながら苦笑を漏らす俺だったが、予想外の出来事に俺も丸くすることになった。今まで愉快そうに酒を飲んでたギルが、手に持った盃を落としたのだ。その彼も驚きの余り目を見開いている。視線の先、未だ稼働している召喚に何かが起こっている。今度はアサシンの方が召喚でもされたのか、そんなことを考えながら後ろを振り向いた時。頭の中が真っ白になった。視界の先、そこにあったのはサークルの中央に現れた金色の騎士。眩い光を放つ金色のセイバーのカードだったのだ。

 

「………嘘、だ。嘘だよな。だって、こんな辛気臭いところにあの人が来る、はずが――――」

「はっ、研砥よ。確かに貴様は日陰者だが、此度の騒動に関しては主役であったであろう。ならば、そこまで自身のことを過小評価するな。でなければ、貴様に応じた者が哀れだからな。―――胸を張り、誇るが良い。此度の戦は他の誰でもない。貴様が齎した勝利だ」

 

 驚いていた表情から、いつもの傍若無人な態度に戻る。落ちてしまった盃を蔵に仕舞い、新たな酒器を二つ(・・)用意する。それと同時に、金色に輝くセイバーから光の粒子が溢れ出す。それは、ここにいない新たな英霊の姿を形作る。淡い桃色の髪を一つに纏め、露出の多い紺色の袴を来た女性。スラリと伸びた腕と足は美しく輝き、二振りの刀を優雅に構える。

 

 

 

 ―――俺は、彼女の名前を知っている。天元の花と称された女性のことを。

 ―――俺は知っている。無念無想を切り裂き、“零”に至った剣士のことを。

 

 そう、彼女の名は―――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新免武蔵守藤原玄信………!? ごめん、やり直し! サーヴァント・セイバー。新免武蔵、ここに推参! 面白おかしく過ごさせてね、マスター?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おろ? 今度はどこに迷い込んだと思ったら、君の所に呼ばれたんだね~。ま、これからよろしくぅ!」

 

 愉快そうに笑いながら、二天一流の開祖。宮本武蔵は何の気なしに手を伸ばした。握手をしようという意思表示なのだろうけれど、俺はその手を掴まなかった。いや、掴めなかった(・・・・・・)というのが正しいか。彼女が召喚された直後というもの、俺の目から涙が零れて止まらないのだ。会えるはずがない。ずっとそう思っていた。なのに、どうして。彼女はさりげなく現れるのだろうか。

 

「って、泣いてるじゃない黒鋼君。どうしたの? 綺麗で素敵。加えてカッコイイお姉さんを召喚できた感動のあまり、泣いちゃってるのかな~~?」

「う、うるせぇ! というか、なんであっさり召喚されんだよ! こっちが焦るわこの馬鹿!」

「あ~! 馬鹿って言ったなこの泣き虫マスター!」

 

 貶されているのにも関わらず、どこか嬉しそうに笑う武蔵。その笑顔はとても眩しくて、美しくて。あの侍が称したとおり、野に誇り咲く一凛の花のようだ。彼女の召喚に驚いていた俺だが、後ろの方が少し騒がしくなってきている。どうやらギルや酒吞、それから巻き込まれた巴が騒がしくしているようだ。そのことに苦笑を浮かべつつ、俺は改めて武蔵と握手を交わす。

 

「……改めて、自己紹介を。アトラス院に所属するマスター。黒鋼研砥だ。改めて、よろしく頼むな。武蔵」

「ええ。サーヴァント・セイバー、新免武蔵。此れよりは貴方の武器として、貴女の仲間として仕えさせていただきます。それじゃ、よろしくね!」

 

 こうして、ウルクで共に戦ったサーヴァントの一人。巴御前と奇妙な縁で召喚されたセイバー。宮本武蔵の召喚に成功するのであった。つもり話はある。だが、とりあえず後ろで開かれている酒盛りに参加するとしよう――――――

 

 

 

 

下総国ピックアップ2篇(オマケ)

 

 

 

「………というわけで、下総国ピックアップ2回すぞぃ!」

「お~~! 段蔵ちゃんを召喚してよね! マスター!」

 

 時間が変わって再び召喚場。ここにいるのはマスターである俺と、物見遊山感覚兼、護衛役として武蔵がここにいる。あの後、結局酒に飲まれてしまった巴の看護をして酒盛りは終わった。だが、あっちで共に戦い、そして敵として対峙したサーヴァントたちが召喚しやすいという情報を聞きつけ、こうして呼符を用意したのだ。

 こちらでは、既に召喚されている酒吞や頼光さん。“剣聖”柳生宗矩と、からくり人形が意思を持った女性の忍。所謂くノ一の加藤段蔵がピックアップされている。セイバーもアサシンは育成が終わっていないので、正直回す理由は無い。だが、俺としては彼らのうち一人を召喚したいのだ。純粋な日系サーヴァントという時点で欲しいと思う人は少なくはないと思いたい。

 

「というわけで、ササっと回すぞ。時間が勿体ないからな」

「はいはい、こっちも育ててもらっている側だもの。でも、できれば納得のいく召喚にしてね?」

 

 言われるまでもない。お茶らけて言う武蔵にそう返しながら俺は呼符をサークルに投げ込む。だが、召喚されるのは礼装や、既に召喚された英霊ばかり。特にランサーが多いが、一向に宝蔵院胤舜さんが召喚される気配がない。どういうことだ、まるで意味が分からんぞ!

 

「って、なんか急に金バーサーカーが出てるんだけどぉ!?」

「……え、何これ。うちのマスターのガチャ運おかしくない? 色々とやばい気がするんだけど」

 

 色々と召喚されるのが察してしまったが、登場した金色の輝きを纏いながら現れたのはここでも三度目になる女性だ。豊満を超え、もはやリンゴを入れているのではないかと思えるくらいに大きい胸に、慈愛に溢れた優しい笑顔。けれど、その奥底から溢れる濃厚な剣気は隠さず。彼女はニッコリと微笑みながら口上を述べる。

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、愛らしい魔術師さん。サーヴァント、セイバー……あら? あれ? 私、セイバーではなくて……まああの…… 源頼光と申します。大将として、いまだ至らない身ではありますが、どうかよろしくお願いしますね?」

 

 

 

 

 

「…………馬鹿な。頼光さんの宝具レベルが3、だと………!?」

「あらあらまぁまぁ。まさか、母をここまで愛してくださるなんて。母はとても嬉しいですッ!」

「ちょ、頼光さんギブギブギブ!! 貴方のハグはもはや凶器だからぁ~………」

「流石は源氏の侍大将。人を超えた鬼神。牛頭天王と呼ばれるだけのことはあるわね………。ほんと、凄い、サイズです……………!!」

「見惚れてる、場合か、この色ボケ侍ィ~~………」

 

 その後、数分の間は頼光さんの抱き枕にされた。それ自体問題ないしむしろ幸福なんだが。その、彼女の抱擁は本当に凶器に等しい。あの素晴らしすぎるくらいの胸に挟まれた時点で昇天するのは間違いないのだが、同時に息が出来ないのだ。必死になって息を吸い込んだら、今度は強引に胸の中に引きずりこまれるという。どこか嗜虐的に笑ってもいたので、やはり彼女もまたドSなのだという認識を新たにする。

 

「いやぁ、やっぱり頼光殿は凄いねぇ! ま、私や巴ちゃんを召喚したせいで育成が進んでないし。召喚は諦めた方が良いんじゃない?」

「いや、ここで引いたら。小太郎とかに悪いだろうが。次に酒吞が来たらマジで何とかしろよ。俺もう、令呪使って止めるくらいしか体力残ってないからな」

 

 半ば投げやりになりながら、俺は最後の呼符を投げつける。最後の一枚に淡い希望を持つも、召喚されたのは銀色に輝くキャスターのカード。バベッジさんかジェロニモかと落胆したその瞬間。銀色のカードから閃光が迸る。雷鳴にも似た激しい光の直後、銀色が金色の光を放つカードへと様変わりする。

 

「は、え、ちょっと待て。ここでピックアップスルーの星4キャスターだとぉ!?」

「……最後の最後でこれとは。でも、こんなにガチャ運が良いのって良い事なんじゃないの?」

「良いことだが、ここまで連続だと新年が怖い……。えぇ……。来てくれるならキャスターのギルとかが良いなぁ。未召喚組が喚ばれたら種火本当に足りなくなるぞ……」

 

 新たに召喚される英霊に溜め息を漏らしながらも、高レアのサーヴァントが召喚されるというのはありがたいことだ。確かに、最近は微課金マスターの名に相応しい課金をしているが、ここまで大盤振る舞いだと本当に来年が心配になってくる。そんなことを考えていると、目の前で新たな英霊が姿を現した。――――――直後、俺は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・キャスター。諸葛孔明だ。なに、本来の孔明ではないだと? いかにも、私の名はロード・エルメロイⅡ世。まあ、今後ともよろしくぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 自己紹介を始めた謎のキャスター。それを見た俺はすかさず召喚場に何故か取り付けていた落とし穴を起動させ、強制的にこの場では無い場所に放り込む。何故か、孔明(・・)などという声が聞こえた気がするが気のせいだろう。ああ。気のせいに違いない……!!

 

「え、ちょ研砥!? 孔明って、あの諸葛孔明なの!? ってか、せっかくの星5サーヴァントでしょ!? なにやってるの!?」

「知れたこと! 俺はマーリンも孔明も使わず、今までの戦いを生き抜いてきた! あれを使ったら大抵のクエストに勝利してしまう! あれを使わずに攻略することこそが俺の生きがい! しかし、召喚してしまったという事実を変えることは出来ん! なればこそ! 即刻保管庫送りの刑に処すまでのことォ!」

「はあ!? うちのマスターは散々ひねくれてると思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ! というか、召喚出来てないマスターに代わってちゃんと育ててあげなさいよ!?」

「だ・が・こ・と・わ・る!! 少なくとも、残り24騎残っている星3以下のサーヴァント全てを育て切ってからレベリングしてやるよォ!!」

 

 まさかの結果になってしまったが。今回のガチャはこれにて仕舞い。孔明の処遇は、既に育成が終わっているライダー陣による宝具の雨霰の刑ということで矛を収めるとしよう―――

 

 

 

 

 

 

 

~~~一方そのころ、諸葛孔明はというと~~~

 

「っつつつ……。くっ、一体どうしたということなんだ。今までにないマスターだぞあれは。私を見て泣く者がいたが、あそこまで無表情に罠に嵌めるとは。全く、どこぞで会った私が彼にあそこまでヘイトを溜めさせてしまったのか?

 ……駄目だ、情報が無さすぎる。とりあえず、この施設にいるサーヴァントに事情を教えてもらうとしよう」

 

 召喚場から直通の保管庫に送られた、あらゆるマスターが喉から手が出る程欲しいと評される最強のキャスターの一人。発祥の地である中国に留まらず、その名を全世界に轟かせる大軍師。諸葛孔明こと、依り代となったロード・エルメロイⅡ世は一人呟く。いきなりのことで倒れてしまったが、とりあえず現状の把握が必要だ。召喚の際に最低限の知識提供をされてはいるが、自分がどこにいるのかまでは分からないのだから。

 

「ゴメンナサーイ! ここに孔明ってサーヴァントが放り込まれてないデスか! 先ほど、マスターの指示で迎えに来たのだけれど~!」

「むっ、それは私だ! お手数をかけて申し訳ない」

 

 孔明を迎えに来たのは、米国の民族衣装に身を包んだ高身長の女性。褐色の肌にグラマラスな体系。加えて、万人を照らさんばかりの輝かしい笑顔を見た孔明は安堵の溜め息を漏らす。どうやら、先の落とし穴は手違いだったようだ。

 

「ごめんなさいね。私たちのマスター、貴方にとてつもない負の感情を持っているみたいなの。だから、育成するのがかなり後ろになってしまいそうだから、今の内にゆっくり休んでね?」

「………これは驚いた。私の絆レベルがカンストしてから使われなくなることはあったが、最初から私を使わずに戦い続ける者がいたとは」

「まあ、私も2017年になってからここに来たサーヴァントなので。あまり詳しいことは知らないんデスけど。あ、自己紹介がまだでしたネ! 私はライダーのケツァル・コアトル! よろしくネー!」

「キャスター・諸葛孔明こと、ロード・エルメロイⅡ世だ。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 神霊クラスの英霊が召喚されている異常事態に驚きながら、孔明とケツァル・コアトルは握手を交わす。目的地に向かって歩いている間にここ最近の事情を話していた。特に、一年と半年もの間。高難易度攻略などで孔明を使っていなかったということを聞いた時、公明は表情を驚愕に染めた。どうもここのマスターは、自分の所持しているサーヴァントでしかパーティーを編成しないという、奇妙な縛りプレイ要素を導入しているらしい。

 

「まあ、聞いた話によると。ある特異点で、貴女がマスターの大切な人に手を掛けたから嫌っているとも聞きましたケドね。何はともあれ、私は貴方を歓迎しマース!」

「そう言ってもらえるとありがたい。さて、そうなると暇つぶしがいるな。何か時間を潰せる物はないだろうか……」

「あ! それは問題ないデスよ! 今は暇を潰せる場所に向かってますからネー!」

「それはありがたい。こちらとしても、どこに何があるか分からないからな」

 

 そう言って二人はある部屋の一室に入る。そこにいたのは多種多様な英霊達。槍と剣がぶつかり合い。超高速で移動を続け、時折激突した際に迸る火花。派手に拳で地面を殴って即席の畳替えしをしたりと。言わずとも分かると思うが、ここは英霊達の訓練場だった。一騎当千、万夫不当の英霊達がするのはおかしいかもしれないが、日々精進の精神で絶えず努力を続ける人は少なくはないのだ。

 さて、その光景を直視した諸葛孔明こと、ロード・エルメロイⅡ世はというと。顔面蒼白になって逃げようとしていた。ここは頭脳派である自分がいるべき場所ではない。それを瞬間的に察知したが故の逃走だった。だが、それを隣に立つ最強のルチャマスターが見逃すはずがなく。呆気なく捕まった大軍師殿は訓練場に放り込まれるのだった。

 

「くっ、私を諮ったのか! ケツァル・コアトル!!」

「あら? 私は暇を潰せる環境を紹介しただけデスよ? それに! ずっと部屋に籠ってばかりというのも良くないデース! まずは、軽い運動から始めまショー!!」

「いや、私はキャスターで後方支援だからそういった体作りはいらなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 これから数か月後。育成するサーヴァントが遂に尽き、マスターである黒鋼は嫌々ながら孔明を育成した。少なくとも、種火や宝物庫の周回に参加されることになったのだが、戦闘に参加する度に礼を言うエルメロイⅡ世がそこにいたそうな………。




というわけで、下総国ピックアップ1では巴御前と宮本武蔵が! ピックアップ2では三人目となる頼光さん。それに加えて諸葛孔明こと、ロード・エルメロイⅡ世がやってくるという奇跡的なガチャとなりました! いやぁ、今回のオマケは武蔵と小次郎のやり取りを書いてたのにエルメロイⅡ世が来たため急遽予定を変更せざるをえなかったです。柳生の爺さんや、段蔵ちゃん狙ってたのに孔明って。最近ピックアップスルー酷くないですか……?
 この話を書いてる時には今年のハロウィンが始まったので、早速宝具レベル3の頼光さんを運用してみましたが。殺意が高すぎて引きそうです。自バフのみの全体宝具で、一人当たり8万を超えるってどういうことなんだ………!? あ、絆レベルもカンストしたので、『童子切安綱』をゲットしました! 周回で使えなくなるとか、少し複雑だなぁ。

 あ、遂に孔明が召喚されてしまいましたが。今のところ彼のサーヴァント、絆、スキルレベルは初期値のままです。というか、今までマーリン・孔明を使わないと宣言してたんですから。そんな私が彼を使う訳がないでしょう? 今のところ、彼は楽しい休暇ライフを送っていることでしょう。残る星3以下のサーヴァント。全24騎の育成が終わるその時まで、彼には倉庫番という大切な仕事を全うしてもらいます。果たして、彼は二部が終わるまでにアトラス院の戦線に加入することができるのか!! 孔明先生の活躍に乞うご期待!! 


ここまでの読了、ありがとうございました! 誤字脱字や設定等のミスがありましたら、指摘してくださると嬉しいです!

それでは、次回もよろしくお願いします!

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