あ、例によって独自ストーリが混入しております。ご注意ください。
「
「分かればいいのよ、分かれば。全く、元から完璧な私をより強くしようだなんて。馬鹿な人よね、全く」
「え~~? 本当にそんなこと思ってるんですかぁ?」
「―――よし、やっぱり殺すわ
「駄目だよメルト! お母様は確かに面倒だけどここで暴れるのは駄目! BBもメルトからかわないでください!」
「まあまあ。皆落ち着いて。あ、BB。研砥の治療お願いね」
いつの間にやらマスターの声が聞きとりづらいのは、先ほどの育成ラッシュの後。一気に自分の根底を揺るがすかのような成長を遂げたメルトが照れ隠しの如くヒールの側面で蹴りつけられ、その結果としてマスターの頬が風船の様に膨らんだからである。どうしようもないかもしれないが、正直なところ自業自得に近いので勘弁してもらいたい。
さて、何故ここに新たに二人のサーヴァントがいるのかというと。メルトリリスが召喚された時にその反応を彼女達が察知したからである。そして、その二人の顔立ちはメルトリリスとよく似ている。少女の一人の名はBB。カルデアが保有するセラフィックスと呼ばれていた油田基地が亜種特異点化した舞台、『深海電脳楽土
もう一人はメルトリリスと同じアルターエゴのパッションリップ。こちらもSE.RA.PHでの騒動を終えた後に再会したサーヴァントの一人で、凶悪な爪と巨大をこえた爆乳の持ち主である。そこ、変態的な説明と思った奴は表に出ろ。他に表現のしようがあるなら書き直すから。ともあれ、その巨体を生かした圧倒的なパワーと防御能力は数多いるサーヴァントの中でも一際強力だ。以前は性格にかなり難ありだったようだが、
「はいはい。それじゃ、どうしようもない駄目駄目なマスターにBBちゃんからありがたい治療のお時間です♡ はーい、生き返れ~~♪」
満面の笑みを浮かべながら目の前で項垂れるマスターを嗤いながら、BBは教鞭のような杖を出現させてそれを振るう。彼女の持つそれは『支配の錫杖』と呼ばれるもので、彼女が自身のスキルや自分が獲得した女神の権能を行使する際に用いるデバイスである。尤も、本来の全力を出す為にはムーンセルという月に存在する電脳世界である必要があるため、その出力はかなり制限されている。だが、それを抜きにしてもBBの性能は破格と言っていいほどに凄まじい。くるくると教鞭でマスターの体を中心としてハートを描き、光のビームが彼を包み込む。その奔流が消えると彼の顔は元通りに戻っていたが、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。
「………わざわざビームぶっぱする必要あったのか、今の」
「いえ、別に無いですけど? ちょっと黒鋼センパイの驚く顔が見たかっただけです」
「必要のないことやってんじゃねぇぞ駄目後輩……」
「え~そんなこと言っちゃうんですかぁ? どうしましょう、SGシールド並み頑強さを誇るBBちゃんハート、傷ついちゃいました。ぐすん。これは、カルデア組の捜索に手を貸すのやめちゃうしかないですね!」
バレバレな嘘泣きを披露しながらここぞとばかりに弱みをつつくBB。それにぐぬぬと唸りながらも頭が上がらない黒鋼は、渋々と言った形ではあるが頭を下げる。
―――そう。カルデア組がシャドウボーダーを用いて虚数空間に逃げ込んだのは問題ない。それは、間違いなく黒鋼とその仲間たちも同じ行動を取ったからだ。だが問題なのは虚数空間に逃げ込んだ彼らの行く先を誰も知らないということ。そこで、自然と虚数空間に長けたBBや、それを論理的かつ数字的に存在証明というアンカーを作るために鈴鹿御前やバベッジといったサーヴァントたちの協力が必須になったという訳だ。
「……さてと、それじゃメルトリリス。今から二つ選択肢を上げるわ。好きな方を選びなさい」
心底面倒くさそうに、BBは支配の錫杖で円を描く。すると軽快な効果音と共に錫杖の先に光の玉が出現する。一体何の塊何だろうと首を傾げる一同を見た後。溜め息を吐きながら視線の中心にいる少女は説明した。
「これは以前、貴女ではない貴女が残した記憶データよ。同型機である私達は記憶の共有が出来るのは知っているわよね。今からこのデータを貴女に渡します。それを破棄するか、同期させるかは貴女に委ねるわ。後悔しないように選択しなさい」
錫杖から玉が離れ、メルトリリスの前に跪くように光の球体は無防備な姿を晒す。BBが言っていた記憶データというのは、間違いなく電脳楽土での彼女の記憶データだろう。少なくともこちらのリップは自身の記憶をこちら側にやってきたBBに保管させ、彼女が召喚されたと同時にそれを同期するという手段を用いてかつての記憶を復活させた。それと同じ手段ならば、メルトリリスもかつての記憶を取り戻せるだろう。
―――だが、結果は意外な形を迎える。淡く儚い光を放つ光の玉。メルトリリスはそれに少しばかり苦笑する。いや、あれは優しい笑みか。かつての
「………それで良かったのですか、メルトリリス? 貴女は今、貴女自身を引き裂いたに等しいことをしたのよ」
「ええ、問題無いわ。かつての私が残した記憶というのには興味があったけれど、それはその
鬱陶しそうに苦々しい表情を浮かべるメルトリリス。その表情に偽りはなかったが、同時にどこか儚げでもあった。
「そうですか。いえ、貴女ならそう言うと思ってたわ。まあ精々頑張ってくださいね。私はをそれを横で眺めて弄り倒すだけですから」
「そういう貴女こそ頑張りなさい。いつまでもあの人の影を追ってばかりだと……を逃すわよ。あぁ、ごめんなさい。私としたことが失念していたわね。貴方、あの人以外には決してなびかない残念な女だったわ」
「―――安い挑発ですね? いいでしょう、高値で買いますよ?」
「はっ、エラーの塊が何を偉そうに。新しい私の力を試すには丁度いいわね。存分に私のサンドバックになりなさい、お母様?」
「だーかーら! 二人ともどうしてそんなに仲が悪いの!? 喧嘩は駄目だよ!」
一触即発とはまさにこのことか。互いが互いを挑発するために今にも決戦が始まりそうな空気の中、リップが爪を前面に出して二人の間を取り持つ。それに舌打ちをする二人だが、BBの方は既に用事を終えたためそのまま召喚場を出てしまった。一方のメルトリリスはというと、興が冷めたのかつまらなさそうに鼻を鳴らしながら黒鋼の隣に並び立った。それにきょとんした黒鋼に、彼女は溜め息を零しながら見下ろした。
「何よ。別に、貴女に義理立てるつもりはさらさらないけど、ここまでの力を手に出来たのは貴方のおかげだから。それに免じて今日くらいは護衛役を担ってあげるだけ。ただそれだけよ。勘違いしないように」
「―――絵にかいたようなツンデレ」
「蹴り殺すわよアンタ」
「すいませんでしたっ!!」
徐にヒールを持ち上げるのを見て黒鋼は五体投地をする覚悟で謝罪する。それを見て召喚されてもう何度目かに溜め息をメルトリリスは零す。それを見て苦笑するブーディカとリップだが、それに気づいたメルトは焦らせるように黒鋼に召喚するように催促した。
「ほ、ほら。早く新しいサーヴァントを召喚しなさいよ。そのためだけにこの私がいるんだから。あ、勿論のことだけど。あの性悪女やドンファン面を呼んだりしたら後で思いっきりお腹に膝。だからね」
「理不尽すぎる上に実際にありえそうなこと言ってんじゃないぞ!? ったく、どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだ………理不尽すぎるだろ」
もはや悟りの境地に入りそうな気持ちで、黒鋼は召喚システムを起動させるべくエンジンとなる聖晶石を放り込む。音を立てながら再起動する召喚システムに一抹の不安を抱きながらも、このまま更なる戦力の確保をしたい黒鋼は両手を合わせて祈りを込める。そんな中、リップが至極当然な疑問を口にした。
「あ、そういえばマスターって次は誰を呼ぼうとしてるんですか? メルトを呼ぶために頑張って他の知ってるんですが、そこまでしてもう一人を呼ぼうとするなんてよっぽどですよね?」
「あぁ、そっか。リップはまだ来て日が浅いもんね。候補は二人いたんだけど、今回はその内の一人に絞るみたい。かなり悩んでたんだけど、流石に二人一緒に呼ぶのは無謀だからね」
リップの疑問に答えるのはブーディカだ。断念した一人というのは、今でも頼りになるランサーのサーヴァント。クー・フーリンの師匠である影の国の女王、スカサハだ。宝具であるゲイ・ボルグの多数召喚や、原初のルーンを用いることでランサーの身でありながら高ランクのキャスターに等しい魔術も行使する万能のサーヴァント。アサシンとして召喚された彼女もこちらにいるが、ランサーの霊基を付与することができたらこれから先の戦いでも大いに活躍すること間違いなしだった。トドメと言わんばかりに『神殺し』というスキルを所持していることも加味され、『神』に連なる物や『死霊』系に滅法強いというのも魅力。
だが、そんな彼女を差し置いてまで召喚したいサーヴァントとは一体誰なのか。リップだけでなくメルトの視線も自然とブーディカに集まる。まじまじと見すぎだと注意しながらも、彼女は何の気なしにその真明を明かした。
「古代ウルクの王にして、この世全ての宝を手にした暴君。ここにいるキャスターの彼より少しだけ若い英雄の中の英雄王。―――対界宝具なんて馬鹿げた力を持つ文字通り最強のサーヴァント一人。アーチャーのギルガメッシュだよ」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「マスター! 召喚するのをやめなさい、今すぐに! 絶対後悔するわよ!」
「ふはははは! もはや俺に止まる理由などなし! 貴女の召喚に成功した以上流れは間違いなく来ている! こんなもの、今回さずしていつ回す!」
「どこかあの金ぴかっぽいセリフはやめなさい! はっ倒すわよ!」
既に起動した召喚システムも既に三十を超える召喚行為が実行されている。その間にフィン・マックールやアストルフォといった高いランクのサーヴァントの召喚には成功したものの。一向にあの黄金の英雄王は姿を見せない。今回を含めて五回目の挑戦、加えて今回は過去最多の消費となりそうなのにも関わらずだ。いい加減こちらに力を貸してもらいたい。貴方の見守るべき世界が盗人共に纏めて奪われようとしていると伝えたい。
「というか今までの結果から考えて来てくれないのは分かってるさ! 福袋で“山の翁”を召喚してさ! ピックアップを見事的中させてメルトリリスを召喚してさ! あそこまで格の高い英雄王が来てくれないって分かってるさ! でも回す! そこにガチャがあるのなら!! 逝くしか俺たちに選択肢など残されてはいないのだから!!」
「山があるから上るみたいなこと言っちゃダメだって、前にも言ったような気がするなぁ」
「で、でもブーディカさん。実際にアーチャーのギルガメッシュさんが召喚されたら一気に戦力が上がりますよね。なら私、マスターには頑張って欲しいです!」
「それ、単にあなたが休みたいだけなんじゃないの?」
「違うもん! 本当にマスターの事を思って言ってるだけだもん!」
ニコッと花が咲いたような笑みを浮かべて言うリップに、メルトの容赦ない一言がその心を容赦なく抉る。嗜虐的な笑みを浮かべて詰るメルトに、それにぷんすか怒りながら否定するリップ。そんな二人の姿を見ていると心がとても温かくなる。こういう感情を尊いと言うんだったかと、内心一人で感慨にふけっていたその時。召喚サークルに再び金色の輝きが灯る。今度は誰が召喚されたのかとワクワクを隠せずにいると、最近だと珍しい人が御呼ばれされていた。
頭部に生える二つのケモミミ。美しい凹凸がくっきりと分かる美しい肉体に腰のあたりから伸びる尻尾。軽快な笑みの少女が身に纏うのは学校の制服で、手には一振りの刀が握られている。自信に満ち溢れた彼女は元気いっぱいに口上を述べる。
「サーヴァント・セイバー! 召喚に応じ超☆参☆上! みたいな~?」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「御前様や………御前様がご降臨なされおった……ありがたや……」
「え、ちょ、なにマスター? 私が召喚されて嬉しいのは分かるけど、さすがに御前様呼びはちょっと。その、照れるからやめて欲しいなー。みたいな?」
「滅相もない! 御前様は御前様だから良いのです。私なんぞが呼び捨てで呼ぶなぞ恐れ多い……」
正直なところ、黒鋼が目の前で召喚されたセイバー。鈴鹿御前のことを御前様と呼ぶ理由には大きく分けて二つほどある。一つは、彼女にも他の世界戦で運命と言える出会いがあり。そのような関係にある人は一線を置いて話をしようと心掛けているからである。二つ目は、単に黒鋼が初めて鈴鹿御前の戦いを見た時に自然とそう呼ぶようにしていたからだ。第四天魔王が娘にして天魔の姫と称された彼女の剣、能力、振舞いは品があって美しい。何故、JKの言動をトレースしているのかは追及できない謎の一つではあるものの。それを抜きにしても美しいのだから自然と様付けしてしまうというものだ。
お互いがお互いを尊重し合うが故に話し合いに決着が着かず。どうしたものかと二人して悩んでいた時。すっ、と流れるように銀色に輝く刃が黒鋼の首元に添えられていた。先端から徐々に大きくなっていく刃に見覚えがあると思いながらも、両手を上げて降参の意を示しながら後ろに立つ少女に問う。
「あの、メルトさんや。いきなりヒールを首元に添えるのはやめてね? 間違って首斬ったら死んじゃうからね、俺」
「あら、召喚されたばかりでいきなり(種火や素材に)襲われてしまった私のアフターフォローもしないで、新しい女を呼んで呑気に話してるマスターにイラっと来ただけよ?」
「―――マスター、さすがにその女に手を出すのはやめた方がいいし。それ、綺麗な白鳥に見えてるけど主ごと殺す毒鳥だから。てか、今マスターと話してたのに邪魔するとかありえなくない? やっぱあんたウザいんですけど」
「それはこっちのセリフよスズカ。貴女の方こそ顔がでかいわよ? 蝶よ花よと育てらえたから知らないかもしれないけど、こういうのは先に呼ばれた人から話すの。今呼ばれたあなたにそれをする権利はないわ」
―――どうしてこう、メルトリリスは全方位に喧嘩を売りまくるのか。そういうのは『被虐体質』であるリップの専売特許ではなかったのかと、二人の間に挟まれている黒鋼は繰り広げられる論争に巻き込まれながら諦観していた。ふと視線を外に回すと、既にリップはこの場を去っており。余計な面倒に巻き込まれたくないからと逃げ帰ったに違いないと判断した。なお、ブーディカだけはこの三人のやり取りを少し離れた所から見守ってくれていた。
………素直に助けてほしかったなと、黒鋼は内心で巻き込まれないように距離を取っていた彼女に苦笑するしか出来なかった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
そうして、鈴鹿御前やメルトリリスを宥めてからどれだけの時間が経っただろうか。既に十連分の石は底を尽き、手元に残ったのは虹色に輝く石が九つのみ。その間に召喚されて特筆するべき人はおらず。ここまで嫌われているのであればいっそのこと笑えてくる。あの時、第七の特異点で彼の王に救われてから夢見た時。にもかかわらず、どうして自分はここぞという時の引きに弱いのだろうかと。黒鋼は内心で自分のことをひがむ。
だが、いつまでもそうするわけにもいかず。気を引き締めて最後の単発召喚に挑む。どうせこれで良い物を引けるはずもなく、よくて概念礼装がポンポンやってくるだけだろうと内心見限っておく。
「さてと、最後の単発召喚に行きますか。あ~もう、どうせ爆死なんだろうけどなあ!」
「そもそも、あの金ぴかが召喚に応じるだなんて思わないことよ。あいつ、勝手に真実を見抜いて高みの見物するタイプだし。ま、いつも慢心してるせいでかませ犬なってるんだけど」
「メルトはギルガメッシュに厳しいねぇ。もしかして、こっちに呼ばれる前に何かあったの?」
「あったも何もないわよ。こっちが宝具を使おうとする前にあのふざけた宝具をぶつけてきたのよ!? 私の無敵性をぶち抜くとか本当に信じられないわよ!」
よほどその時のことが悔しかったのか。メルトは人目を気にせず怒りに満ちた表情を見せる。それに二人はAUOは何でもありだからと、フォローになってない答えを返すしかない。ともあれ、このまま話し合っていてもどうしようもない。ささっと残った聖晶石をサークルに放り込む。一枚目は『激辛麻婆豆腐』。二枚目は『優雅たれ』。どちらも彼の王と接点のあるものが続くが、どちらもその辺りに落ちているごくごく平凡な概念礼装だ。
「はいはい、どーせこんなもんだと知ってましたよ~。んじゃ、ササッと他のサーヴァントの育成に移りますかね。結構新しい人も呼べたし」
「そうだね、ほらメルト行くよ? 今から色々と案内してあげるから」
「分かってるわよ。良かったわ、ここには色々と因縁があるやつが多そうだし。そこにあのギルガメッシュまでやってきたら溜まった物じゃない―――」
「―――ほう。面白いことを言うではないか女神もどき。貴様如きが我が名を呼ぶなぞ不敬の極みではあるが、その成長した精神性に免じて多少加減してやろう。余興だ、捌いてみせよ」
どこからか、とても尊大な王の声がした。突然のことに頭が回らない。回らないが、このままだと不味いという漠然とした事実は理解できた。嫌な予感ほどよく的中するもので、メルトの周囲から黄金の波紋が揺らめく。その中心から顔を覗かせたのはどれも黄金や宝石で彩られた輝かしい武具の数々。それが一斉にメルトリリスに向かって放たれる。回避不可、防御も間に合わないまさに必殺の間合い。このまま彼女は何もできずに無残にその霊基を破壊される―――
「……舐められたものね。この程度で、私がどうこう出来るとでも?」
否、そんな結末は認めないと。プリマドンナは砲撃の合間を縫うように滑り出す。鉄の刃に水の魔力を纏い滑らかに舞う姿は間違いなく華麗な鳥のそれ。次々と放たれる宝具の雨の中を美しく舞い、黄金の波紋と水の魔力と混ざり合って一つの劇の様な優美さを感じさせる。
メルトリリスが宝具の包囲網を潜り抜けると、黄金の波紋は元から存在しなかったかのようにその身を散らす。放たれて無造作に置かれた宝具の数々もまた、その身を黄金の粒子に変えて姿を消した。それを確認した後、メルトリリスはつまらなさそうに鼻を鳴らしながら召喚サークルがあった方を睨む。
「……まったく、貴方も随分暇なのね。それとも何かしら、いまさら星の危機に応じて重い腰を上げたといった感じかしら?」
「戯け、我にとって星がどうなろうが知ったことではない。我は裁定者、絶対的な王の視点から人類を見定める位置から動くつもりはない。だが、此度の騒動となれば話は別だ。我の庭を荒した憐憫の獣を倒し、此れより先の未来はそこにいる凡夫達が勝ち得た唯一の報酬。それを横から奪い取ろうなどという、筋違いなことをした愚か者を誅しに来たにすぎん」
召喚サークルの中央から響き渡る男の声。がしゃがしゃと甲高い金属を立てながら煙が吹く召喚場の中からその姿が露わになる。逆立てた金の髪に同色の煌びやかな鎧。燃えるような赤い瞳に表情には笑みが浮かんでいる。それが彼が望む愉悦からくるものなのか、それとも怒りのあまりに嗤っているだけなのか。ともあれ、圧倒的な存在感を隠すことなく放ちながら黄金の英雄がここに顕現する。
「ふはははは! この我を呼ぶとは運を使い果たしな雑種! 我にクラスなぞ無いに等しいが、この場に現界ためやむを得ずアーチャーのクラスで現界した。此度の我に慢心はない。本気にさせるかは貴様の努力次第だがな。我が宝物庫に秘された輝き。英雄王たるこの我の力、真なる覇者の姿をその目に焼き付けることを許そう。―――言うまでもないが。此度の騒動においてのみ、特別にだぞ?」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「まさか、本当に最後の最後でギルガメッシュさんを召喚するなんて。これにはBBちゃんも驚きです。やっぱり、ここぞという時には最高のネタを提供してくれるから黒鋼センパイは最っ高ですね!」
「余計なことは言わなくてよろしい。それで? カルデア組のサルベージは出来そうか?」
「う~ん、とりあえずあの人たちがどこに流れているのかは把握できたんですけど。問題なのはあちらとこちらを繋ぐアンカーという名の縁なんですよね。ほら、乗組員とのつながりは強くても引きずり上げるのは縁が弱い車の方ですから。制作したデータを基に引きずり上げても良いですが、失敗したら元も子もないですからね。このまま観測するのが精一杯です」
少しだけ悔しそうに表情を歪ませるBBに、お疲れさまと感謝を示しながら小皿に移したケーキを渡しておく。それを美味しそうに口に含んだのを確認しながら、これまで色々あったことを振り返る。
世界の歴史が白紙に帰ったとしても、女性陣にとって忘れられないし逃してはならない季節―――バレンタイン。ある特異点もどきを形成しながら出現した最古の毒殺者、アサシンでありながら高ランクのキャスター適性を持つセミラミスと共に過ごした日々。イベント後にもさらっとこちらに召喚された彼女は『毒殺者の会』なる危険なグループを作っていた。まあ、参加しているのが彼女とロビンフッド、それから静謐や酒呑童子といった人物なので。厄介そうな事件は起きてもそこまで悲惨なことにはならないと信じている。
当然、バレンタインと来れば次に来るのはホワイトデーだ。あの時は男性サーヴァントの召喚成功率が高くなっていたので、今度こそ施しの英雄を引こうと頑張っていた時のこと。残念ながら彼は今回も召喚に応じてはくれなかったが、その代わりに顕れたのは聖剣を携えた男の騎士王だった。獣を追う旅の途中ではあるけれど、こうして召喚されたのも何かの縁。星の聖剣を以て、君の行く道を照らそう。彼の騎士王は威厳と覚悟をこの身に託してくれた。
その他にも、契約自体は結ぶ事は無かったがジャンヌ・オルタとの再会。再度出現したオガワハイムにて新しく契約を交わした両儀式と面識があるという魔眼使いの浅上藤乃。そしてすり抜けて来たので無慈悲に保管庫送りになった諸葛孔明などなど。正直なところ、過剰戦力も大概にしろと言われても仕方ないほどの軍勢がこの場に揃った。油断するつもりはさらさらないが、これには多少の同情が生まれても仕方がない。
「あ~あ。センパイが苦戦して『助けてBBちゃ~ん!』 って泣き叫ぶところが見たかったんですけど。これじゃあ見れそうにないですね」
「いや、BBにはいつも助けてもらってるからな。ホント、感謝してもしたりないくらいだ。というわけで、激化するであろう戦いに備えて報酬を先払い、っと」
先ほど置いたケーキの隣に備えるように、黒鋼は少し大きめの金の杯をBBに置く。渡された本人はケーキに合うように添えられた紅茶を口に含んでいたが、それを見た際に勢いよく噴き出す。ゲホゲホと咽るその背中を優しくさすってやると、顔を赤くして教鞭型のデバイスを取り出して叫んだ。
「な、なんて物を私に渡そうとしてるんですか!? これ聖杯ですよね!? 私みたいな破綻したAIに渡せばどうなるかくらい、分からないセンパイじゃないですよね!?」
「ん? いやまあ、正直なところ渡すか否かはついさっきまで悩んでたよ。けど、ここまで頑張ってもらってるしな。他に出来ることと言えばお前とこうやって時間を潰すくらいなもんだから、それじゃあ流石に味気ないだろ? だから、今の俺が出来る精一杯の物をプレゼントしようと思って」
遠慮なく受け取ってレベルアップしてくれ。黒鋼は深々と頭を目の前の少女に下げながら頼んだ。そして、それを本心から言っていることは彼女も理解している。このマスターは彼女が未だに恋をしている先輩ではないし、言動も姿もここの在り方も異なっている。だが、それでも決して自分やパッションリップ、メルトリリスといった異常な存在とも対話を試みようとしてくれる。此処に来たのはムーンセルに呼び出されてそのまま消えるのが癪だったからではあるものの、自分がダメダメな人間だと理解しているからこそ。こちらに協力してくれと頼む弱いマスターの力になろうと彼女達はここにいるのだ。
―――あぁ、これは決して恋の在り方ではない。でも、そんな目の前にいるセンパイだからこそ渋々ではあったけれど力を貸そうと思ったのだ。それならば、これを受け取るのもやぶさかでないと。黒衣の少女は苦笑する。全く、自分も大いに変わってしまったものだと自嘲しながら。
「―――はぁ。仕方がありませんね。分かりました、分かりましたよ。黒鋼センパイにそこまで言われては仕方がありません。それに、そういう気持ちは素直に嬉しいですから。この聖杯はありがたく頂戴します。ムーンキャンサーの名に懸けて、貴方の前に立ちはだかる物をデリートしてあげましょう!」
で・す・が。わざわざ一言区切りながら、BBは聖杯を己の胸の中にある同型のデバイスに取り込む。スキル名『黄金の杯』、BBが人の欲望という悪性情報の塊を泥の形状にして相手の垂れ流す際に使われるもの。それは現世の様に言えば汚染された聖杯と同義。自分のデバイスに聖杯のデータを取り込むことによって、より強力な霊基への成長を確認した少女は、相変わらずの小悪魔的な笑みを浮かべながら宣言した。
「私、どんなに成長しても。好感度が上がっても人間とか大っ嫌いなので。今はまあ、その愛すべき可哀そうな人間さんたちが絶滅危惧種になりかけているので仕方なく力を貸してあげているのです。その辺り、勘違いしないでくださいね? セ・ン・パ・イ?」
にっこりと、心の底から愉快そうに教鞭を振るう黒衣の少女。それにマスターである彼は苦笑しながらも頷く。余裕層に演じる彼女の頬が朱に染まっていることに敢えて言わず、内心で可愛い後輩だと笑みを浮かべる。
―――前日譚はここに終わりを迎える。世界の未来を変えんとした者たちに対し、奪われた未来を取り戻すもの次なる戦いの
というわけで、これで新年のガチャ報告は終わり! 次回は一気に時系列を飛ばして異聞帯一章。『永久凍土帝国 アナスタシア――獣国の皇女――』ピックアップ篇をお送りします!
続きまして、それまでのピックアップで引くことが出来た方々についての報告です。かなりの数を引けて青眼さん大勝利~! でもカルナさんはどうやっても来てくれないんですよね。いい加減来てくれないかな……
↓アナスタシアピックアップまでに引けた人一覧
パールヴァティ
マルタ
柳生宗矩
望月千代女
浅上藤乃(宝具2)
パッションリップ(宝具1→2)
アン・ボニー&メアリー・リード(宝具2→3)
アストルフォ(宝具2→3)
巴御前(宝具1→3)
カーミラ(宝具2→5)
セイバー・ランスロット(宝具3→5)
“山の翁”
メルトリリス
アーチャー・ギルガメッシュ
セミラミス(宝具2)
アーサー王
殺生院キアラ
諸葛孔明(宝具1→2)
オリオン(宝具1→2)
いやぁ、こう見ると壮観ですなぁ。セミラミスは礼装目当てで十連三回と単発少々で二人も来るという神引き。おかげでフレポがっぽがっぽなバレンタインイベントでした。自分で火力が出せるアサシンって、画期的でいいよね!
今回はトータルで二万四千近くなってしまいましたが。ここまで読んでいただきありがとうございました! 近頃ではスカサハ・キャスターやらワルキューレやらが流行していますが。前書きでも書いた通り自分はシグルドが一番の推しです! ブリュンヒルデを召喚している身としては是非とも呼びたいところ。予定では、アナスタシア→アポクリファコラボ→帝都イベ→水着復刻→ゲッテルデメルングという順なので。夏休みに頑張って書き終えたいなあ!
それでは、この場を借りてもう一度。ここまで読んでいただき、ありがとうございました! これからもよろしくお願いします!!!