ブーディカさんとガチャを引くだけの話   作:青眼

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――――――――――――何も言う事は無いです。すべて私の不徳が致すところ。忙しい環境にあったという言い訳の元に怠惰な生活を繰り返していたせいです。本当にごめんなさい。そして、これからはもう少しペース上げて更新できるように頑張ります。こんなダメな作者ですが、これからもよろしくしてくだされば幸いです。


無窮の果て、抑止の契約者。

  ―――そこは何もない、まさに純白の世界だった。狂った聖杯戦争は存在せず、珍妙な生物が闊歩する帝都東京でもない。称するならば“無窮”と呼ばれるべき世界を舞台に戦いが繰り広げられていた。今回の事件の張本人たるあの男は、自分が何を望み何を求めたかも忘れ、ついに狂人となって己が野望を果たさんとした。だが、最後の最後でそれはたった一人の少女と、二人のマスターによって阻止された。その少女が漏らした一つの言葉で正気に戻った彼は、どこか満足した表情で英霊達が存在する座へと還る。それが終わり、今度は少女の姿が徐々に透けていく。それもそのはず、彼女は今回の為に霊基や力を調整された抑止の守護者。守護者は自身の課せられた仕事が終われば消え、また次の仕事を課せられて人類と世界を運営させるための装置。だが、彼女は先も言ったように今回の為だけに用意されたのだ。沖田総司という幕末の剣士が残した“借り”を返す為だけに。

故にこそ、沖田総司でありながら沖田総司ではない彼女の名前は、沖田総司・オルタナティブ。それを理解していた彼女は、もうじき消える自分の体に苦い笑みを浮かべる。そして、淡々と事実だけを突き付けられた二人の内の一人が叫ぶ。そんな事実は認めないと、あんなに頑張ったのに何も報われずに行くなんて間違っていると。確かにその通りだ。だが、そんな当たり前の事さえままならないのが世界であり、それはこの場にいる二人も理解している。だからこそ、そんなままならない事実を受け入れていた彼女は、男の怒りに呼応するかのように笑みを悲しみに満ちた表所に変えて叫んだ。

 

 

 

 もっと生きていたい。もっと世界を見たい。もっと、もっと―――マスターと一緒にいたかったと。だが、それは叶う事は無い悲しい事実。そして、時間は非情にも過ぎていき、それに伴って彼女の体が、霊基が黄金の粒子となって消えていく。今いる彼女はここで消える。決して変わることのないこの事実に何もできない男に近づいて彼女は手を伸ばす。そして、その時に彼女は何かを見て満足した。もう十分だと、仮初の命だったとしても。この思い出は私だけのものだと。自慢気に、どこか誇らしく笑みを浮かべながら彼女は男をこの世界から追放した。最後に見た彼の表情は、自分に対して悲しんでくれていたそれではあったが。自分の為に泣いてくれる人がいる。それだけでも自分は恵まれたサーヴァントだったと呟いた。

 ―――さて、この場にはもう一人マスターがいる。この世界で此度の騒動における黒幕と対峙し、もう一人のマスターが退場するまで黙っていた男がいる。何をするでもなくただ彼女の目を見る。そして確信する。今の自分に出来る事は無く、あったとしてもそれはしてはならないということを。彼は少なからず彼女に同情を、いや。もしかすると憐れんでいたのかもしれない。そんなことはしてはならないと理解はしていた。だが、あまりにも悲しすぎるその生き方にその感情を挟まずにはいられない。だが、最後に見せる表情はこんなものであっていいはずがない。なので、少し卑怯ではあったがちょっとした道具を彼は取り出した。液体の入った小瓶を取り出し、なけなしの魔力を使ってどこにでもあるような湯呑を二つ作り出し、一つを彼女に渡す。渡された方は何をするのかときょとんした表情でこちらを見るものだから、彼は苦笑して口を開いた。

 

「満足して、十分満たされて逝くんだろ? なら、せっかくだ。この世界やお前が消えるまで。ちょっと付き合ってくれよ」

「……マスターはまだ未成年だったはずだ。お酒は良くないぞ」

「残念、中に入ってるのはただの水だよ。俺は酒を飲んだ事は無いし、飲むつもりもない」

 

 互いの器に水を注ぎ、もうすぐ消えるかもしれない世界に我が物顔で座り込むマスター。それに呆れたように笑みを浮かべながらも、沖田・オルタもまたそれに倣って座り込む。何を語らうでもなく、何をするでもなく。ただただ、ぼんやりと互いに時間を過ごす。最後にすることがこれでは味気ないかもしれないが、それくらいがきっと丁度いいと彼は思った。そのまま数分を共に過ごす。瓶の中に入っていた水も消え、彼女の姿も陽炎のように揺らいできた。それを見た彼は、傷ついた体に鞭を打つ感覚でゆっくりと立ち上がり、直に消える彼女に向かって言葉を送る。

 

「それじゃあな。今回は助かった。―――生まれ変わったらまた会おうぜ」

「―――――っ」

 

 生まれ変わったら。ここに彼女ではなく、何かの縁で彼らの元に呼ばれたまた会おうと。彼は今いる彼女にそう言ってくれた。今回のみの異例な召喚にも拘らず、次に彼女が呼ばれる可能性は0に近く。呼ばれたとしても、それはここにいる彼女ではなかったとしても。さよならではなく、またなと言ってくれた。それがとても嬉しくて、悲しくて。けれど、どこか誇らしくて。彼女はそれに応えるように満面の笑みを浮かべて返した。

 

「ああ。待ってる。待ってるからな」

「―――馬鹿だな。お前が生まれ変わるんだろうが」

 

 

 

 こうして、今回の戦いにおける特殊事案は終結した。沖田総司・オルタナティブはこの時を以て消滅し、二人のマスターは各々が所属する組織へと帰還する。そこに彼女の姿は無くても、きっと。またいつの日か会えると信じて。彼らはまた歩みを続ける――――

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ、参上した」

「抑止力違いィィィィィィィィィ!!!」

 

 帝都東京で拠点としていた部屋の一室。龍脈とパスを繋いだ足跡の召喚場にて行われている本日何度目かの十連召喚にて呼ばれた青年に向け、マスターである黒鋼は悲痛に満ちた叫びをあげる。誰が見ても召喚された人に対して失礼なその物言いに弓兵は嘆息しながら呆れを隠さない。

 

「やれやれ。君も節操がないな、それも、私と似たような存在を呼ぼうとしているのも趣味が悪い。それにこれからの事を考えれば、潔く手を引くのも英断だと考えた事は無いのかね?」

「分かってるよそんなこと。どうせこの後に控えてるのは、去年の水着イベントの復刻版だ。つまり、去年呼ぶことが出来なかったキャスターのネロを含んだガチャが始まるんだ。だから! ただでさえ少ない資産を切り詰めて全力でガチャに挑んでるんだろうが!」

「ええい、少しは我慢するということを覚えろ言ってるんだ! その強欲な一面に溺れ一体どれだけ辛酸を舐めてきた! 自分を律することを覚えろこの馬鹿!」

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞこの馬鹿!」

 

 凶悪な犬同士が吼え合うような絵図になっている黒鋼と褐色白髪の弓兵(エミヤ)。心を落ち着かせるような古めかしいクラシックが流れている部屋なのだが、二人が喧嘩をするせいで雰囲気が台無しである。あまりにも残念なその空気には、この場に居合わせている同居人も黙ってはいられない。

 

「まあまあ。二人ともそんなに怒らないでよ。それに、彼女が召喚される確率だって決して高くないんだ。マスター君もそんなに力まずにガチャを回した方が良いんじゃないかい?」

「まあ。お竜さん的には見ていて面白いからいいぞ。あ、竜馬。そこに生け捕りにしてあるカエル取ってくれ。カエル~」

 

 白いスーツに一振りの日本刀を腰に下げた西洋風の衣装に身を包んではいるものの、立ち振る舞いは日本人のそれ。エミヤより少し深くも軽快な声の男性の傍では長身の女性がふわりと浮いている。白い青年の名前は日本人ならば知らぬ者はいないともされる英雄。桂小五郎と西郷隆盛の二人を彼を中心として同盟を結ばせた『維新の英雄』、坂本龍馬。船に乗り様々な場所へ移動したこともあってか。サーヴァントとして召喚された際に与えられたクラスはライダーである。

 そして、傍らに寄り添うのは竜馬と同時に召喚されたセーラー服に身を包んだ女性。坂本龍馬が生前に封印されていた彼女を開放した時からの付き合いというある意味謎の存在である。史実上にもお竜という女性はいたらしいが、どちらがどうなのかは本人たちした知り得ぬことである。

 

「いやさ? 別に召喚できなくても良いんだよ。でもな、あんな風に別れたら呼ぶしかないじゃん。カルデアの方へは単独顕現も真っ青なレベルで降臨したらしいじゃん」

「それ聞いた時は僕も驚いたなあ。いや、彼女凄いと思うよ」

「かの維新の英雄が共感しているところすまないが、こいつの本音は全く別の所にあるぞ。さっさとはっきり言え」

「声帯が〇木碧の褐色儚い系長刀美少女とか欲しい要素しかないだろぉ!?」

 

 血の涙を流しながらガチャに戻る黒鋼。それに苦い笑みを浮かべる竜馬に、いつものことだと呆れるエミヤ。そんなことよりカエル美味しいと両生類を頬張るお竜さん。三者三様の評価に自分の心境を理解してもらえない悲しみに打ちひしがれるも、周りの視線なんぞ知ったことではないと石をサークルに放り投げる。

 

「来い来い来い来い来いこぉぉぉぉい!! ここで引けねば男の恥ィ!」

「いや、それただのフラグって奴だろ。お竜さんは詳しいから知ってるぞ?」

「こらこら。必死になってるマスター君をからかっちゃだめだよ。ごめんねマスター君。お良さんはほら、正直者だから思った事をすぐ口にしちゃうだけでね?」

「皆まで言う必要もない。あれは、ああいう男だ。今の内に慣れてしまった方が身のためだぞ」

 

 何やら後ろが騒がしいような気がしなくもないが、ここで気にしては無理強いしてでもガチャを回している意味がない。この後に待ち受けているであろう去年の水着キャラピックの為にも、今引ける分だけで。用意した十連召喚七回分で決着を着けるしかないのだ。既にだが、現在進行形で進められている物を含めて残り三回。その中で後ろに控えた弓兵が今更の如く顔を覗かせるのだからイラついてくるというもの。おかげで宝具レベルが二から五に上がったまである。

 

「ちっ」

「なんについて舌打ちしたのか分かるぞマスター? よし、今日の夕飯は抜きにしてやろう」

「貴様は鬼畜外道か!?」

 

 ガチャという地獄に足を踏み入れ続ける愚かなマスターを嘲笑うようにニヒルな笑みを浮かべるのに自害させてやろうかと思ったが、その前に黄金の輝きがサークルを満たす。だが、その程度の事で期待できるほど今の黒鋼の精神状態はよろしくない。現に、金色の回転で出現するのは後ろの弓兵とある槍兵のみなのだから是非も無しである。微かな望みを託して黄金のサークルから出現するカードに期待するが、やはりというべきか。出現したのは上下が逆さまになったピエロのカードではなく。黄金色に輝く槍兵のカードであった。既に召喚されるサーヴァントに限りを付けた黒鋼は白目を剥く。

 

 

 

「サーヴァント・ランサー。真名を李書文と申す。存分に槍として使うがいい

 

 

 

 

「書文先生五人目ェェェェェェェェェェェェェ!!」

「呵呵呵ッ! お主も酔狂な男よ。儂も一つの武術を極めんと生涯を終えたが、そのような儂を多く呼ぶマスターも酔狂の極みよ。なに、否定はせぬよ。これからも儂を存分に振るうがよい」

「言葉だけだと凄く頼もしいけど、正直もういいからね!? 今回だけでもう三人目あたりだからね!?」

 

 いい加減うんざりしながらも遂に宝具レベルがカンストした槍書文を見送る黒鋼。ここまで引けないことに溜め息を漏らそうとした矢先。召喚場の扉が勢いよく開く。その事に驚いた黒鋼が後ろ振り向くと、こちら向け何かが刺さった串を突っ込んでくる浅葱の袴を着た美少女の姿があった。

 

「よもや貴様が――――!?」

「覚悟してくださいマスター! オルタの私を引く、ないし引きたいなんて言いやがった口はこれですか!!!??? いやここですかぁ!!!!!!!?????」

「ゴギガガガギゴォッ!?」

 

 黒鋼いきなり口の中に突っ込まれたとてつもなく暑い食べ物。熱々のうずら卵が嚙み砕かれ、その中に秘められた汁が勢いよくその口内に迸る。予想を超える熱さに苦悶の声を上げるが、下手人はそんなことを露と知らずに次々と持参した鍋に入ったおでんから具を叩き込む。

 

「どうせ私は英霊となった後でも病弱が治らない草雑魚剣士ですよ! 胸だってそんなに大きくない微乳剣士ですよ! どうせオルタの私の方巨乳で小次郎さんばりの長刀使いでかっこいいですよ!! うわぁぁぁぁぁぁぁん! マスターの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

 自分でも何を言っているのかさっぱりなのかもしれないが、とりあえず胸の内に秘めた言葉の羅列と涙を振りまくその姿は儚い。だが、一心不乱に己のマスターに熱々のおでんを叩き込んでいく姿は鬼神の如し。浅葱色にだんだら羽織、この場に居合わせた坂本龍馬と同じ日本出身者にして全国にその名を轟かせた壬生の狼。『新撰組』と呼ばれた治安組織の一番隊隊長。強者揃いの中でも最強と謳われた『沖田総司』その人である。といっても、本来は男なのだが何らかの要素によって女性として召喚されている。史実では男だが、女性として召喚されたなんてことはもはや日常茶飯事なので簡略しておく。

 さて、そんな沖田の凶行を見かねてか。彼女の後ろにやれやれと言わんばかりに一組の少年少女が続く。ほぼ同じ黒一色の衣装に帽子を被り、靡く黒の長髪や赤い瞳も瓜二つ。違う点を強いて挙げるのであれば、それは身長差程度だろう。

 

「………うわぁ。なんじゃこれ、あまりにも無残過ぎて是非もなしとか言ってる場合ではないのじゃが」

「良いじゃないですか姉上。あのマスター最近調子に乗ってましたし、少しいい気味あいたっ!?」

「虚けめが。だから主は何時まで経っても信勝なのじゃ。そんなので本当に良いと思ってるのかのぅ?」

「いや名前は良いでしょう!? 何で僕が貶される感じになってるんですか!_」

 

 慌てふためく信勝と呼ばれた少年にどちらにしても駄目じゃのう、と辛辣なコメントを送る彼女の真名は『織田信長』。同じく日本にその名を轟かせた大将軍の一人であり、天下統一まであと少しと言ったところで家臣に裏切られて没した大物である。こちらも史実は男、だが召喚された時は女性という謎の存在である。ちなみに少年の方は信長の弟である『織田信勝』。史実で活躍したことはあまりないので省略させてもらうが、とんでもないシスコンであるということは表記しておく。

 

「いや僕の説明雑すぎません!? というかこれじゃ僕がシスコン以外取り柄の無い可哀相な存在みたいじゃないですか! 他にもあるでしょう? ほら、『ぐだぐだ明治維新』で初登場した時は姉思いの優しい弟だったとか!」

「いや、茶々あの時のカッツのしたこと覚えてるし。行っとく? もいっかいゴッド・フェニックス行っとく?」

「げぇぇ!? 茶々様!? あ、あとゴッド・フェニックスはちょっと著作権的に危ういからやめておきせんか!」

「そんなの今更じゃろ。こんな二次創作を許可取らずに書いてる時点でいつか消されるのも無理も無し。というか、こんな駄作呼んでおる読者は本当にいるのかのぅ?」

「メタメタしいですよ二人とも!! お二人ともどんだけこの作品廃止にしたいんですか!!」

 

 ひょこっと顔を出した女の子、信長の姪である茶々とシレっと禁句に近い発言をする信長にツッコミを入れる哀れな信勝。織田家のツッコミ担当である彼にとってここは理想の環境足り得るだろう。さて、いきなりやって来た三人がワイワイしている内に、一通り八つ当たりを終えた沖田はどこか気まずそうにおろおろとしていた。

 それも無理はない。バーサーカー特有の狂化も真っ青なレベルで一心不乱にマスターへおでんを叩き込んでいたのだ。おかげでマスターの口は前とは比べ物にならない程にただれており、泡を吹いて白目を剥いて死人様に意識を失っていた。

 

「あわわわわわ!? オルタの私に少しだけ嫉妬してしまったとはいえ、わ、私はなんということを………!!」

「いや、止めきれなかった僕も悪いからね。沖田君、あまり気に病まないでね?」

「そーだぞー。ところでそれ余ってるか? お竜さんにも一つ喰わせろー」

「あ、こらお竜さん! 今そう言う雰囲気じゃないから。もう少しだけ待って? ね?」

 

 子供の様に泣きじゃくる沖田を宥めて、適当につまみ食いしようとしているお竜さんをあやす。同時並行で二人の女性を相手取る竜馬。生前もこの間の帝都もそうだったが、こうしてカルデアにまで一緒に来てくれた彼の気苦労は絶えないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ―――そして、そんな召喚場で賑やかな雰囲気にある彼らを見守る影が二つ。一つは赤い髪を一つに纏め、エプロンを身に着けた翡翠色の女性。もう片方は黒い袴に同色の髪、腰に差した一振りの刀に鋭い目つきの男。女性の方は安心したようにふっと笑い、その場を離れようとしたが、それを男が引き留める。

 

「おい、アンタはあっちにいかなくていいのか。大方、あの坊主が心配で来たんだろう」

「ん~? いや、確かにそうだったけど。あの中に入るのは少し忍びなくてね。君こそ行かなくていいのかい?」

「あんな喧しいとこに行くやつの気が知れねぇよ。俺ぁただ、あいつらが阿呆な事やらねぇか監視してるだけだ」

 

 赤い髪女性と黒髪の青年。『勝利の女王』ブーディカと『新選組副長』土方歳三が言葉を交わす。周りから見れば珍しい場面かもしれないが、食堂では割と言葉を交わしている二人である。いや、正確には沢庵と白米ばかり食べる土方に一品、二品とおかずを作っては提供しているだけなのだが。放置しておくと沢庵ばかり食べている彼を気にかけているだけなのだ。

 

「ふふっ。実は、沖田ちゃんが持って行ったあのおでん。まだ作りかけでさ。オルタの沖田ちゃんが召喚出来たらお祝いにと思ってたんだけど。何を勘違いしたかあんなことになっちゃってねぇ……」

「あんの馬鹿が。だからいつまで経ってもあいつは馬鹿なんだよ。それでも新選組の隊士か。馬鹿らしい……」

 

 片手に握った沢庵をボリボリと齧りながら土方は溜め息を吐く。生前からの付き合いで、彼女の良い所も悪い所も把握している戦友だからこその溜め息なのだろうけれど。あまりに見え見えの面倒そうに溜め息を零す様を見たブーディカも苦笑する。

 

「まあまあ、そんな邪険にしないの。それに、それこそ今更なんでしょう?」

「それとこいつは話が別だって言ってんだよ。いくらアンタでもこいつは変わんねぇしな」

 

 だがまあ。一言言葉を切り、沢庵を一本丸齧りした鬼の副長と恐れられた彼が懐から一丁の銃を取り出す。刀の刃と同じくらいに長いそれを肩に乗せ、少しだけ目をギラつかせながら彼は召喚場へと足を向ける。

 

「あんたみてぇな別嬪の飯をあのクソガキが奪ったってんなら話は別だ。特に関係ねぇことだから静観してるつもりだったが、気が変わった。今すぐあの馬鹿連れて送り届けて矢っから、先行って待ってな」

「あ~………別に今すぐという訳じゃなかったんだけど。うん、それじゃよろしくね?」

 

 これから起こる惨劇に同情しながらブーディカは一人去る。直後、召喚場から罵声やら銃撃音。怪物の叫び声から剣戟の音が轟いたそうだが。それはまた別の話である。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「………どうして、俺のガチャはこんなに喧しくなってしまうのだろうか」

「いや、今回は特別参加している人数が多いからじゃないかな? というか、さりげなく沖田君や土方君を召喚してる辺り流石だねぇ」

「そうなのか? お竜さん的には肝心なところで召喚失敗クソザコナメクジにしか思えないぞ」

「ガハッ」

「こらこらお竜さん。本当の事だからって何でもかんでも正直に言えばいいってものじゃないからね」

「グフッ」

「いや、竜馬もさりげなく言う大概だと思うぞ。おーい人間。生きてるかー? お竜さんの唾いるか?」

 

 織田家の三馬鹿や新選組の面々が大暴れし、何の責任も取らずに帰ったために滅茶苦茶になってしまった召喚場を目の当たりにして独白する黒鋼だが、それに追い打ちをかけるかのように維新の英雄コンビの言葉が胸に突き刺さる。

 確かに、新たな特異点の情報を感知し。その前に始まった復刻イベントで土方や沖田を引いてしまったためにガチャ運は底をついてしまっているのかもしれない。予算はまだある方ではあるが、残りのお金は今すぐ石に変換せず去年の雪辱を晴らすためにこそ振るいたい。故に、残る石を投げて今回のガチャは終わりだ。泣いても笑ってもこれが今回最後のガチャである。精神的なダメージこそ受けたが、夢の中でいきなり悪夢の中に引きずり込まれた時に比べればと自分を奮い立たせる。

 

「それじゃ、最後の一回。付き合ってもらえるかな?」

「勿論だとも。頑張って引けると良いね」

「お竜さんも竜馬と一緒に祈ってやろう。感謝しろよ―人間」

 

 二人の応援に報いねばと残った石をサークルに放り込む。今回の召喚での目当ては沖田総司のオルタナティブ。クラスはパッションリップやメルトリリスと同じアルターエゴなので、クラスカードのイラストで逆さまのピエロが二人描かれたカードが出現したら確定で召喚成功である。行ってしまえば簡単だが、エクストラクラスのカードなんてそうそうお目にかかれるものではないので期待薄である。現に、最初の一回目でイベント用の高レア礼装が出現し、後の消化試合を眺め続けている。

 

「今回のガチャは駄目だったか……でも、この前に色々と引きまくってるし。引きすぎなくらいだよな?」

「そうかもだけど、やっぱりこういうのは引けないと辛いものだよね。僕はあまり賭け事とかしたくないけど、以蔵さんはこういうのよくやっては負けて苛立ってからなぁ」

「あ、そういえばこっちだと全然見ないけど。あのザコは呼んだのか? 居ても居なくても変わらないが、お竜さんの相手には丁度いからな。あのクソザコナメクジ」

「「――――――――――――――」」

 

 お竜さんの言葉で、ふとこれまでのガチャ結果を思い返す。そういえば、今回のイベントにはもう一人大目玉のサーヴァントが存在していた。遂に誕生した期間限定の星三サーヴァントにして、坂本龍馬とは並々ならぬ因縁がある人斬り。『天誅の名人』と称されたあの男の存在を彼らは今の今まで忘れていたのだ。

 

 

 

「わしが土佐の岡田以蔵じゃ。『人斬り以蔵』のほうがとおりがえいかの。なんじゃと? アサシン………? 勘違いすな。わしのクラスは『人斬り』じゃ」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「お、おぉ! 岡田さんじゃないですか! ひ、久しぶりですね!」

「なんじゃおまんか。へっ、向こう側もこっちでも呼ばれるたぁおかしな縁でも結ばれたがのう。ま、こっちでもよろしゅうなァ。そしてェ――――死に晒せェ!!」

 

 召喚の口上を終え、帝都以来の再会を果たして言葉を交わした直後。飢えた野良犬の様なギラついた目を細めて笑ったかと思えば、即座に黒鋼の後ろに立つ竜馬に向けて飛び出して懐に飛び込んだ。そのまま腰の刀に手を当て即座に抜刀、目にも止まらぬ早業で銀色の刃が逆袈裟に振られる。深々と刃がその体を裂くかと思ったが、以蔵の凶刃は触れる前にお竜さんの腕一つで容易く止められた。

 

「おいナメクジ。いきなり斬りかかって来るなよ。弱く見えるぞ?」

「黙っとれやこのスベタがァ! 何度もわしの邪魔しおってからに、今度こそ八つ裂きにするき、そこに直れやァ!」

「相変わらず喧しい奴だなお前。こういうのを何て言うんだったか………」

「いやいやいや。二人ともいきなり喧嘩はやめよう? マスターの目の前だからさ」

「あ、思い出したぞ。負け犬の遠吠えだ。良かったな、始末犬」

「――――――はっ。あはははははッ! よぅく分かったぜよ。竜馬の前におまんから始末しちゃるァ! 覚悟せェよ、こんのクソアマァァァ!!」

「うわーい。召喚したのもマスターなのも俺なのに完全に蚊帳の外だぞぅ!」

 

 怒りの余り自力で霊基再臨第二段階へと移行し、完全にお竜さんに天誅を下さんとする以蔵。そんな以蔵の一撃をわざと受け、そんなものは効かないぞと一々煽るお竜さん。そんな止めようとしてあたふたする龍馬。完全に自分は蚊帳の外ではあったが、この三人がああやって賑やかに騒いでいるのを見ているとどこか心が温かくなる。完全にグダグダし始めた召喚に目も当てられないと溜め息を一つ。とりあえず、以蔵が召喚された最後のガチャを見届けて今回は終わろうと後かたずけを始めようと振り向いたその時。金色の光が回転するサークルを彩っているのを見た。

 金色ということは高レアリティのサーヴァントが出現する前触れだが、所詮は虹演出による最高レア確定演出ではない。どうせ沖田・オルタは召喚されないんだろうなと見限りを付け、ぼんやりと召喚されるサーヴァントを見る。出現したカードのクラスはライダー。高レアのライダーならばマルタやアン&メアリーあたりかと内心で少しだけ喜んでおく。

 だが、出現したのは暴れる竜を自らの祈り(物理)で沈めた聖女でも。竜馬やお竜さんと同じく二人一組のサーヴァントではない。緑の髪に琥珀色の瞳、見る者を魅了するかのような綺麗な顔立ちはイケメンと言わざるを得ない。黒を基調とした簡素な鎧に身を包んだその青年から流れて来る圧は、彼が今まで出会ってきた英雄の中でも抜きんでる程に戦いを経験してきたことを物語っている。召喚されただけでこれだけの威圧感を辺りに撒き散らす存在に、騒いでいた三人も喧嘩を止めて視線をそれに集中させる。一同が自分に視線を向けているということに気付いた彼は、右手に持った槍を器用にクルクルと回してから地面に突き立て、己の真明を述べる。

 

 

 

「いいサーヴァントを引き当てたぜ、アンタ! ってな訳で、ライダーのサーヴァント。アキレウスだ。……そうそう、踵が弱点でお馴染みの英雄さ。ま、俺の踵を捉えるなんて、誰にでも出来ることじゃねぇがな! 人類最速の足、伊逹じゃあないぜ?」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「あ、アキレウス………だと……!?」

「おっ、アンタはいつぞやの時の駄目マスターじゃねぇか。元気してたか? ったく、呼ぶのが遅ぇんだよ!」

「あ、あいたたたたた! やめ、筋力Bの力で頭撫でるのやめろォ!」

 

 半ば強引に頭を撫でるアキレウスに抗議の声を上げるが、本人はどこ吹く風と言わんばかりに笑いながらそれを無視する。キャスター等の非力な筋力値ならば強引に引っぺがすことも出来なくはないが、眼前に立つはギリシャ神話においてヘラクレスと同じ知名度を誇る英雄の一人。だが、このままの勢いだと首がへし折れ兼ねないことを黒鋼が危惧していると、ひょこっと現れたお竜さんがアキレウスの手をどかしていた。

 

「馬鹿かお前。この人間はそこのナメクジより弱いクソザコナメクジなんだぞ。撫でるにしてももう少し丁寧にやってやれ」

「あん? あ~それもそうだな。悪ぃ悪ぃ、つい癖でな。にしてもお前さん、相変わらず弱っちぃな。ちったぁ前には進めたかよ?」

「言われるまでもない。ったく、これだから英雄って言うのは…………あ」

 

 事あるごとに強引に頭を占めてくるサーヴァントの多さに頭を抱え始めると同時に、アキレウスという単語の元に思い出してしまったことがあった。そう、それはついこの間の事。帝都イベの前に行われた幻の聖杯大戦の後、ケイローンを呼んだ後のこと。あの時はまだ男性のギリシャ神話系サーヴァントだったから良かったが、ここに本人が召喚されてしまった。それはつまり、彼女の怒りのゲージが振り切れるということではないだろうか。

そんなことを考えた矢先、召喚場の扉が勢いよくこちらへと吹き飛んだ。冷や汗をかきながら、壊れた歯車の様にゆっくりと後ろを振り向くと――――――案の定、幽鬼(ペンテシレイア)の姿がそこにはあった。目に光は灯っておらず、怒りの余り笑みさえ浮かべた幽鬼の如き表情でこちらをジッと見つめている。

 

「………おい。いい加減にしろよ。前回と全く同じ展開じゃねぇか! いい加減にしろよ! ネタが尽きたのか作者ァッ!!」

「アキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「怖い怖い怖い!! 名前を延々と連呼するのは聞くならまだしも字面にすると滅茶苦茶怖いよ!? ど、どうすんだよこれェ!?」

 

 ケイローンが召喚された時と同じように、ギリシャ神話系男性サーヴァントを根絶やしにせんと。しかも、今回はペンテシレイアが最も殺したい男であるアキレウスに対してその拳を振るわんと全速力でこちらに迫る。召喚されたばかりの彼は苦笑しながらも黒鋼を肩に背負い、前屈みの体制に入る。今すぐにでも走り出しそうな彼に白目を剥き、全力でやめるように抗議する。

 

「ちょ、アキレウスやめろ! そんなことしりゃいけない!」

「あァ? いや、でも仕方ねぇだろ。俺ぁ召喚されたばっかでまた弱っちぃしな。ペンテシレイアには殺されても仕方ない事をしたが、俺はお前さんのサーヴァントだ。むざむざ殺されてやるわけにはいかねぇよ。つー訳で逃げるわ! 悪ぃが、残りの連中はあいつの相手を頼む! じゃあな!」

「オイコラ頼むから全力疾走はやめヴぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 召喚されたばかりだというのに、流石は人類最速を誇るギリシャの大英雄というべきか。まさに音速を越えかねない全力疾走で召喚場を勢いよく飛び出す。それに反応したペンテシレイアが鉄球を乱雑に振り回すが、それを涼しい顔で避けながら廊下へと踊りだし、勢い誤ったスピードを殺すために足を壁にめり込ませ、壁走りからローリング、体制を立て直してそのまま一目散に走り去る。狂っていながらも標的が目の前から逃げたことを察したアマゾネスの女王が咆哮を上げる。貴様を絶対に逃さないと怒りの怒号を轟かせながら部屋を出ようとしたが、その前に三人の男女が立ちはだかる。

 

「ちっ、まさか召喚されて初めての仕事が女を斬ることたァの。カルデアちゅうんも中々エグイとこじゃ」

「いや、こんな事めったにないからね。それにしても、まさか女王様と戦うことになるなんてね。お竜さん、行けるがか?」

「問題ない。お竜さんはいつも強いからな。仕方ないから、今回はナメクジも守ってやる。感謝しろよ」

「誰がおまんらに護られるか! そっちこそ、ワシの足引っ張らんよう気ぃ付けやァッ!!」

 

 一番槍は己だと言わんばかりに以蔵は鞘から刀を抜き、眼前で狂う女王に迫る。その背を見た維新の英雄は、生前はよく見ていたかつての友の姿と重なり合う。そして、その彼と共に戦うことが少しだけ気恥ずかしくもあった。だが、それと同じくらい喜びを感じていた。

 

「―――ああ。こうして一緒に戦えるだけでも。僕はここに来た甲斐はあったよ。ねぇ、以蔵さん。さて、僕らも行こうか!」

「ああ。ところで龍馬。あれ、二人ともどう見ても敵だし食べてもいいか?」

「いや、食べちゃダメだからね!?」

 

 

 

 

 

 

 





というわけで、今更ながらの帝都イベガチャ報告でした。その前の復刻版ぐだぐだ明治維新、それから帝都イベ記念に沖田さんを引いた挙句の果てに帝都イベでアキレウスと。いや、ほぼ無課金で星五を引けてるのは嬉しいんだけれども。正直な話沖田オルタは普通に欲しかったのぜ………

↓ぐだぐだ明治維新(呼符単発のみ)
土方歳三×1

↓沖田総司ピックアップガチャ(十連二回)
沖田総司×1
ぐだぐだ看板娘×1

↓ぐだぐだ帝都聖杯奇譚(十連ガチャ十回)
アキレウス×1
エミヤ(弓)×4
李書文(槍)×3


 いや、正直に言うと普通に沖田オルタは欲しかった。だってあんなリーチの長い刀使うんだよ? 私セ〇ィロスみたいな長刀使う人大好きだから欲しかったなぁ………。けど、この後にはどうせ2017水着イベントが。術ネロが待ち受けているのだと自分を戒め、バイト代も温存するように心がけて我慢しましたとも! さぁ! 次は術ネロガチャだぞぅ!
次回のサブタイトルは、『決して枯れる事のない希望の花と夢』! お楽しみに!!



あれは、酷い地獄だったぜ…………(泣)
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