ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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うっかり寝てしまい更新が朝になってしまいました…

今回誤字脱字が多いかもしれませんが、とりあえずどうぞ!


第24話

「来たか──」

特になにもせず大量の瓦礫の山に佇む美形の男が1人。

男は優美な身のこなしで瓦礫の山から地面へと降りると次元の狭間から現れた2人の少女の方へと歩み寄る。

「これはこれは、アルディギアの王女ラ・フォリア様。隣の麗しい少女は?」

人工生命体(ホムンクルス)です」

「なにか違和感を感じると思えばそういうことでしたか」

「オシリス、アルディギア王国の王女ラ・フォリア・リハヴァインの名において命じます。直ちにアトゥムに取り次ぎこの戦いをやめさせなさい。これ以上はあなた達にとっても損害にしかならないはずです」

「ラ・フォリア様、あなたがここに来るまで私も同じことを考えていました。しかし、兵というものはただ命じられたことを遂行しなければならないのです。そこに私情を挟むなど以ての外。あなたも上に立つ者なら分かっているはずです」

「ですが、オシリス──」

「それにです、戦争というものは悲しきかなどちらにもある程度の損害は出るものなのです。どうかご理解を」

「仕方がありませんね、アスタルテ」

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

少女の背中から生じた虹色の翼は、やがて巨大な腕へと変わった。

さらには宿主であるアスタルテの全身を包み込み、完全な人形へと変わる。

「ほう、眷獣を宿した人工生命体(ホムンクルス)とは珍しい」

アスタルテの正体は、眷獣共生型人工生命実験体──世界で唯一の眷獣を宿した人工生命体(ホムンクルス)なのだ。

人形の眷獣の腕をがっちりと掴んだオシリスはそのままアスタルテごと眷獣を投げ飛ばす。

どうやらオシリスは見ただけで薔薇の指先ロドダクテュロスに物理攻撃の類いが効かないことを理解したらしい。

彼の司るオシリスは冥界神と豊穣神という2つの側面を持つ。

元来エジプト神話においてオシリスは豊穣神として描かれてきた。

それが時が経つにつれ緑は大地から芽吹くというような解釈からオシリスには地下の死者たちの王、冥界神としての側面を併せ持つようになったのだ。

「警告、魔力濃度の上昇を検知──危険です」

「下がりなさい、アスタルテ」

命令受諾(アクセプト)後退します」オシリスの身体から膨大な魔力が放出されアスタルテはラ・フォリアの命令により後退する。

「──我が身に宿れ、神々の娘。軍勢の護り手。剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ!」

後退するアスタルテに代わり彼女を守るようにラ・フォリアが前に出る。彼女が奏でる祈りの詩が、美しく響き渡る。

その声に呼応するように、アスタルテたちの周囲を包み込んだのは、氷河にも似た青い霊気の輝きだ。

オシリスが放った膨大な魔力波はその輝きにことごとく阻まれ弾け飛んだ。

「戦艦級の防護フィールド──、聖護結界ですか。擬似聖剣(ヴェルンド・システム)ならず擬似聖楯(スヴァリン・システム)までもお1人で扱われますか」

擬似聖楯(スヴァリン・システム)は防御系魔術の最高峰と言われるアルディギア王国の秘呪だった。

精霊炉から供給される神気によって生み出される障壁は、吸血鬼の眷獣と同様に、すべての物理攻撃を無効化する特性を持っている。

精霊炉を搭載した大型軍艦と同等の結界をラ・フォリアは1人で展開しているのだ。

「戦場へと身を置く以上、自分の身は自分で守れねばなりませんからね」

「もっともです、しかし擬似聖楯(スヴァリン・システム)といえど無敵ではありません。あなたの霊力が尽きる、あるいは大型軍艦をも落とせる攻撃ならば──」

オシリスは言葉の最後をあえて言わず、大地から多量の魔力を吸収しラ・フォリアへと放出することで示した。

翠の魔力の奔流がラ・フォリアが展開する防護フィールドと触れた瞬間、凄まじい轟音が響き渡りラ・フォリアとアスタルテの2人は吹き飛ばされてしまう。

「さすがですオシリス。旧き世代の眷獣にも耐えうる擬似聖楯(スヴァリン・システム)をこうも簡単に」アスタルテの纏う人形の眷獣に抱かれなんとか無傷で済んだラ・フォリアは珍しく表情を歪めていた。

「ラ・フォリア様、どうか私をお許しください。これが戦争なのです」

そんな言葉とともにオシリスは今までの攻撃を遥かに超える密度の魔力を両腕へと集中させ2人の方へ向ける。

「そんなことは百も承知です。あなたを責める気はありませんよ、やりなさいオシリス──」

 

しばらくの沈黙の後、ラ・フォリアの決意とは反対にオシリスの両腕から魔力の揺らぎが消えた。

「あなたは強運なお方だ。アトゥム様が私を呼んでいる」

「私が強運なのではなくあなたが優しいだけでしょう?私を殺すのに数秒とかからないでしょうに」

「はて、なんのことでしょうな。戦争で散りゆく命は多けれど、拾える命は拾うに越したことは無い。ただそれだけの事です」

「そうですか、オシリス最後に1つだけいいですか?」

「なんなりと」

「なぜ冥府神としての権能を使わないのですか?」

「あれはあまりにも醜すぎる──」

その言葉がラ・フォリアの耳に届いたとき、目の前に立つ優雅な男の姿はもう消えていた──

 

 

何度目かの空間転移魔術特有の違和感がなくなり、新たな戦場へと降り立った古城の周りには錆びた鉄の臭いのような異臭が漂っていた。

「まさか…」

目を開けた古城の前には見るも無残に引き裂かれた特区警備隊アイランドガードと聖環騎士団の混成部隊の死体がゴミのように山積みにされていた。

「遅かったじゃない、暇すぎてこいつら食ってしまおうかと思ったわ」

「っ……!!」

山積みの死体の前に立ち愉しそうに笑う女が放った言葉は古城を怒らせるには充分だった。

連戦の疲れなどまるでないかのような動きで古城は女の懐へと入り雷撃を纏わせた拳を女の鳩尾へと突き出したが、硬い壁に阻まれあと数ミリのところで止まってしまう。

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」古城の怒号によって巨大な双頭龍が現れ古城の前の硬い壁を空間ごと喰い破る。

「面白いわね、その眷獣」

荒れ狂う古城の怒りに呼応するように双頭龍がその顎あぎとで女を捉えようと暴れ狂う。

「でも、そんなに空間に切れ目をいれると私だけじゃなく自分自身も危ないことを理解していないの?」

女の言葉を聞き、周囲を見渡した古城は周辺の空間が不安定になっていることに気づき仕方なく眷獣の実体化を解いた。

「偉い偉い、眷獣出さなくていいの?君もあの死体の山みたいになっちゃうわよ」

古城は自分の方へと手を向けてくる女に本能で危険を感じ取り咄嗟に金剛石の盾を展開した。

彼の身体を金剛石の盾が覆った瞬間──

 

身体の左肩から下が血を吹き出し地面へと落ちた。

「ぐぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「痛い?痛いよね、今どんな気持ち?」

苦痛に顔を歪める古城を嬉しそうに見ながら女は興奮する。

甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)…」

距離をとるために霧になった古城を向いて女はニヤリと笑い──

 

地面に倒れる古城の顔を踏んでいた。

「なっ…!?」

霧になったはずが地面で顔を踏まれていた古城は驚きの声を上げた。

「愚かね、私の能力も知らないで」

「能力──」

古城は頭を踏まれながら自分が何をされたのか考える。

同等の相手に掴まれるのとはまた別の感覚に女の能力の恐ろしさを感じる。

「頭踏まれたまま考えるとかマゾ?」

女の脚が古城の顔面を蹴り飛ばし古城の鼻をへし折った。

重力制御により大きく女から離れた古城は新たな眷獣を呼び出した。

ヘビの下半身と髪を持つウンディーネが現れ古城が傷を負う前の姿へと時間を巻き戻していく。

「便利ね、その力」

「そんなこともないさ、見た目だけで魔力までは完全には戻らないからな」水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)は吸血鬼の回復能力を司り全てを無に帰す力を持つがその絶大な能力の代償としてかなり燃費が悪い。

古城の身体を魔力を消費するより前に戻したとしてもそこから能力を使う魔力の残りが消費されるため魔力は大して回復しないのだ。

「残念、何回でも痛ぶれる都合のいい能力ではないのね」

女の言葉を聞き流し古城は浅葱に助言を求める。

「浅葱、相手の能力って分かるか?」

「多分だけど、テフヌトかな…湿気の女神。それより古城大丈夫?見てられないくらいやられてたけど…」

「まだ大丈夫だ、もう少しなんとか頑張るよ」

古城は浅葱にそう言うと覚悟を決め残りの魔力を全てかき集め新たな眷獣を召喚する。

テフヌトの周囲の地面が赤く膨れ上がり彼女を超高熱のマグマの檻が囲み、上空に現れた巨大な三鈷剣がその莫大な質量に自然落下と重力制御の能力による加速を加え、破壊そのものとなりテフヌトを捕らえるマグマの檻へと突き刺さる。

攻撃による余波が半径数10キロを壊滅させた。

「これでどうだ…」

「とんでもないことするわね、あなた」

「なっ…!?」

古城は自分の背後から悠々と歩いてくるテフヌトの方を向きながら魔力を使い果たし倒れてしまった──

 

「やれやれ、不出来な教え子はこれだから困るな」

そんな声とともに古城の身体を紫色の魔法陣が包み込みその場から消える。

「空隙の魔女?ようやくでてきたのね」

「出てきたというより、引きずり出されたのだがな」いつも通りの豪奢なドレスに身を包み那月はテフヌトに不敵に笑い返す。

「でも、もっと早く引きずり出せると思ってたわ」

「それには同感だが、少し余裕すぎはしないか?たかが光の屈折を利用した身代わりごときでいい気になられてもな」

「さすがといったところね、そこまで簡単に見破られるといっそ清々しいかしら」

たった1度で自分の能力を看破されたテフヌトに初めて焦りの色が見えた。

それを皮切りに那月の身体がテフヌトの視界から消え、一瞬のうちに数100体の那月が現れる。

「教官気取りのその態度…ムカつくわね」

テフヌトは周囲に超高圧で水を噴射し鋭利な刃物のように飛ばすことでその全てを消し去った。

「空気中の水分を高圧で射出…ウォーターカッターのようなものか」

古城の金剛石の盾が簡単に切断されたのも同じ技だ。

那月の冷ややかな笑いとともに大量の銀鎖がテフヌトを襲う。

高圧で水を飛ばし迎撃しようと試みるが圧倒的質量にテフヌトは弾き飛ばされた。

「底は見えたな、このつまらん余興も終わらせるとするか」

「魔女の分際で…どうして第四真祖に肩入れするの」

「悲しいことにあいつは私の教え子でな、教え子を守るのも教師の務めということだ。聞きたいことはそれだけか?」

「呪ってやる…」

「存分に呪え」そのやり取りを最後にテフヌトは殺到する銀鎖に絡まり監獄結界へと消えていった。

輪環王(ラインゴルト)を使うまでもなかったな…、アトゥムのやつは暁にやらせるとして他の連中を回収しに行くとでもするか──」

 

閉じてあった日傘を開き那月はまたその場から姿を消した──




今日の夜更新予定の次回からは人間戦争も最終局面を迎えます!
最後のバトルは長めに書く予定なので期待してください^^*

キャラ紹介は昼過ぎ更新予定です!

今回の話もそろそろ終わりに近づいてきたので、活動報告にあるアンケートにコメント頂ければ皆さんのお気に入りのキャラが次章から登場するかもしれないのでよろしければお願いします。

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