ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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またまた日常回の新章です。
そんなに長くはならないと思うのでお付き合いください^^*


眷属たちの休暇篇
第28話


「なんだこれ?俺宛の手紙か…?」

このメールやSNSが普及したネット社会で手紙が送られてくることに一抹の不安を覚えたがまさかこの薄い手紙に何か仕掛けられているわけもないと古城は手紙を開封した。

「ブルエリの招待券…か?」

中にはブルーエリジアム、大型レジャー施設の招待券が1枚入っていた。

古城は以前基樹によってオープン前のブルーエリジアムで浅葱と屋台のアルバイトをしたことを思い出した。

「あんまりいい思い出はないよな…」

古城たちが以前ブルーエリジアムに行ったときとある事件が起き施設が半壊したのだが、どうやらその復興工事が終わったらしい。

オープン前に施設が壊れたということで気合が入っているのか以前よりも施設の豪華さが上がっている。

再オープンに向けて、古城を広告塔に起用したいということらしい。

「まあ…春休みもそろそろ終わりだし何人でも使えるっぽいし使わせてもらうか」

とりあえず古城は雪菜たち3人が帰ってくるのを待ち招待券を机の上へと再び置き直し、リビングでテレビでも見ることにした。

朝に引き続きまだ古城とラ・フォリアの熱愛報道が大々的に行われている。

ラ・フォリアの政略結婚説なるものが唱え始められさすがの古城も嫌気がさしてきた頃順番に3人が帰ってきた。

「古城くん、もう帰ってたんだ。遅くなっちゃったから外でお惣菜いっぱい買ってきたんだけどよかった?」

「ああ、今から作ったら何時になるか分かんないしな。用意オレがしとくから凪沙達は着替えてこいよ」

「はーい」

4人分の食器を古城が用意し終わり全員が席につく。

「姫柊と煌坂はなにしてたんだ?獅子王機関がどうって話だったけど」

「まあ…大した事ではないんです。先輩が気にするようなことは何も」

「そうか?ならいいんだけどさ、また何かあったのかと」

「そんな心配してるなら自分のことを心配したらどう?王女との話ニュースでも新聞でもずっと取り上げられてるわよ」

「それはなんとかするよ…」

「雪菜ちゃんと煌坂さんが家族になるのも嬉しいけど、夏音ちゃんが家族になるのも嬉しいよねー」

凪沙は古城が徐々に周りを固め始めていることに何も感じないのか1人そんな呑気なことを言って古城を呆れさせる。

「そうだ、明後日から2日くらい暇か?オレ宛にブルエリから招待券が来てさ、なんでも誰を何人連れて行ってもいいみたいなんだ」

「再オープンが確か来月でしたね、私と紗矢華さんは大丈夫ですよ」

「凪沙は?」

「もちろん、でも夏音ちゃんがまだ帰ってきてないんだよねー…。誰誘おうかな」

「じゃあ、3人は決定か。じゃあ、ちょっと浅葱と矢瀬に電話してくるよ」

食べ終わった古城は3人を置いて自室へと戻り浅葱へと電話をかけた。

「もしもし、古城?どうしたの?さっき会ったばっかりだけど」

「悪いな遅いのに、明後日暇か?」

「何もないけど…」

「ブルエリの招待券貰ってさ、一緒に行かないか?」

「今度はバイトとかじゃないのよね…?」

「ああ、ちゃんと遊びまくれるよ」

「ふーん、じゃあ仕方ない一緒に行ってあげるわ」

「矢瀬にも伝えておいてくれるか?」

「はいはい、分かった。じゃあ、寝るわね?」

「おう、おやすみ」

 

「やっぱり2人きりなわけないか…ちょっと期待したじゃない。古城のバカ…」

電話が切れてからベッドに横になった浅葱は愚痴を漏らしながら基樹へと古城の伝言をメールで伝え早々と不貞寝した──

 

 

当日になり古城は雪菜と紗矢華も凪沙を連れ待ち合わせの場所へと急いだ。

「悪い遅くなっ…」

「古城さん!久しぶりですね!」

古城の元に小さな女の子が走り寄ってくる。

江口 結瞳、リリスとして精神支配の力を受け継いだ小学校高学年の女の子だ。

「おう、久しぶりだな結瞳。元気だったか?」

「はい、古城さんも元気でしたか?最近大変そうで…」

「心配しなくても大丈夫だ、相変わらず結瞳はしっかりしてるな」

「はいはい、結瞳ちゃんそいつから離れた方がいいわよ。私たちの知らない間に2人も伴侶がいるんだから」

雪菜と紗矢華が浅葱のそんな言葉で首元を押さえて俯いた。

「へ?古城さん、ほんとなんですか!?」

「まあ…そういうこともあったりしたな…」

「古城さんの嘘つき…幸せにするって約束してくれたのに…」

結瞳は不服そうな目で古城を睨んでいる。

「まあまあ、落ち着けよ結瞳坊。古城は真祖だぞ?伴侶なんていくらいてもいいんだよ」

結瞳の保護者を務める基樹が彼女の頭を撫でながら宥めた。

「おいで、結瞳ちゃん古城くんなんてほっておいて私と遊ぼう」

「凪沙さん…、わかりました…」

凪沙に気に入られている結瞳は逆らっても無駄と分かっているのか渋々連行されていく。

「まあ、さっさと行こうぜ」

「悪いな古城、オレは仕事があるからここまでだ。ごゆっくりな」

「おい、お前…ほんとに仕事なんだな?」

「おう、もちろんだ。オレがお前に嘘ついたことあるか?」

「あるから言ってんだろ…」

ため息をついた古城は仕方なく雪菜と紗矢華と凪沙と浅葱のいつものメンバーに結瞳を加えた5人を連れブルーエリジアムが用意してくれた個人用ジェット機に乗り込む。

雪菜の叫び声とともに数分の短いフライトを終えた古城たちを従業員が迎える。

「ようこそお越しくださいました、今日から2日間当施設は暁様の貸切となりますので是非ごゆっくりお過ごしください」

「か、貸切!?オレ達だけなのか?」

「はい、もちろんです。まずはお部屋にご案内しますのでお荷物をこちらへ」

男の言葉に従い古城たちは荷物を預け後ろをついていく。

「ねえ、古城くん。ちょっとこのエレベーター上がりすぎじゃない?」

エレベーターの階数表示が止まる様子を見せないことに不安を感じたのか凪沙がそんなことを口にしたとき丁度エレベーターが停止した。

「このフロアなら好きにお使いいただいて大丈夫ですので」

「こ、このフロアってスイートルームが4つ…」

「では、何かあればまたお申し付けください」

従業員の男が去ってから古城たち6人は古城と同じ部屋がいいと言う結瞳をなんとか抑え、古城と浅葱が1部屋ずつ雪菜と紗矢華、凪沙と結瞳のペアにそれぞれ1部屋ということで落ち着いた。

スイートルームの内装や部屋の設備を1通り楽しみ水着を持った古城はとりあえず昼前に1度プールに行こうと浅葱を呼びに彼女の部屋へと足を運ぶ。

「浅葱ー?今から泳ぎに行かないかー?」

実は抜群の運動神経を持ち泳ぐのも好きな彼女なら喜んでついてくるかと思った古城だったが、返事がないため仕方なく1人で屋内の競技用50mプールへと向かった。

 

「いい?争わないためにもここは古城と2人っきりの時間をそれぞれが持てるように抜け駆けナシで1人ずつ時間を決めましょ」

そんな浅葱の提案に凪沙を除く3人が頷く。

4人が同意し、壮絶なじゃんけん大会が開かれ浅葱が1日目の夕方まで、紗矢華が夕方から夜まで、結瞳が2日目の昼まで、雪菜が2日目の夜までということになった。

お互いにそれで納得し、浅葱は時間を無駄にしまいと古城の部屋へと走っていった。

 

「古城ー?」

何回名前を呼んでもノックをしても古城が部屋から出てくる気配がない。

「先行ったのかな…」

パンフレットの施設案内を見て浅葱は競技用の50mプールへと向かった。

 

「やっぱりここにいた」

「おう、浅葱か。よく分かったな」

「あんたが1人でウォータースライダーとか乗らないタイプっていうのは知ってるわよ」

「別に嫌いってわけじゃないんだけどな、1人で乗るもんでもないだろ」

「そうね、一声掛けてくれれば最初から一緒に来たのに」

「部屋にお前を呼びに行ったんだけどな、返事がなくてさ」

「そう…。そういえば古城、あんた泳げなかったんじゃなかった?中学のときにプールに誘ったら散々嫌がったあげく1人だけ浮き輪で浮かんでみたり、老人みたいにウォーキングしたりで最後まで泳がなかったことがあったと思うんだけど」

「え、いやあの時は腰がな…腰が痛かったんだよ。別に泳げないってわけじゃ──」

「じゃあ、体育大好きな古城がプールに限って生理の女の子と一緒にプールサイドで見学してることが多かったのは?」

「ほら、吸血鬼には日差しが辛いんだよ。パーカーないしさ」

「中学の頃は室内プールだったわよ?」

「じ、実はオレ昔水難事故にあったトラウマで水が…」

「はいはい、古城が泳げないことは私も基樹もとっくの昔から知ってたわよ。それで、泳げるようになってるのはどういうこと?」

「分かってんならわざわざ言うなよ…、姫柊が泳げない真祖はイメージ的に問題があるとかで泳ぎを叩き込まれた時期があってだな…」

「ふーん、姫柊さんか…」

「まあ…な」

古城は泳ぎをマスターしてから始まった水中戦の訓練という名の拷問を思い出し寒気を覚えた。

「とりあえず私も水着に着替えてくる」

彼女も世界最強の吸血鬼が泳げないというのはイメージに合わないと思ったのかクスクス笑いながら更衣室へと向かい、すぐに着替えて帰ってきた。

「お、来た来た…すごいなその水着よく似合ってるよ」

「ほんと?変じゃない?」

「ああ、変じゃない」

彼女のプロポーションと綺麗な金髪にシンプルな白の水着はとても似合っていた。

「そうだ、他の連中は?」

「色々あって、今は私が古城をもらってるの」

「そ、そうか…。その水着で泳げるのか?向こうのテーマパークみたいな方に行くか?」

「お昼食べたらあっちも行こうかな、でも今はここでいい」

浅葱はそう言うとプールサイドから古城の隣へと降りてくる。

「お前な…準備体操くらいしろよ…」

「大丈夫、ほら古城どっちが先に向こうまで行けるか競走よ」

「あ!ずるいぞ浅葱!先行くとか」

「吸血鬼のあんたにはハンデとしてちょうどいいでしょー」

フライング気味に飛び出した浅葱の後を追いかけ古城も全力で泳ぐが50mという短い距離では差を詰めるのは困難だ。

「はい、私の勝ち。あとでお昼奢ってもらおうかな」

「それ目当てかよ…。でも何食べても何利用してもタダらしいぞ?」

「え、そうなんだ。さすがVIPね」

1通り泳ぎ疲れた浅葱と古城は屋内プールから出た。

簡単に身体から落ちる水滴を拭き1つ下の階にあるレストランフロアで浅葱とめぼしい店を探す。

「館内水着OKだなんて凄いことするわね」

「なんか、不思議な気分だけどな水着着てるのに中にいるとか」

「めんどくさい着替えがないんだからいいじゃない。古城、あそこにしない?」

「ああ、任せる。お前の舌は確かだからな」

「決まりね、すみませーん」

浅葱は古城の手を引っ張り店員へと声をかけた。

他に客がいないため待つ必要もなく席へと通される。

「ここの中華ね、島にはなくてずっと食べたいと思ってたのよ」

「そうか、意外なところで出会えてよかったな」

いつもよりだいぶテンションの高い浅葱を見て古城も釣られて微笑んでしまう。

そんな古城の前で浅葱がメニューを見ながら悩んでいる。

「どうした?決められないのか?いつもならすぐに決めちまうのに」

「この、坦々麺と点心のセットか麻婆豆腐と点心のセットか迷ってるのよ…」

「どっちもそんな変わらない気がするんだが…」

「変わるわよ」

「そうか…、ならオレが片方頼んで半分やるよ。それでどっちも食べられるだろ?」

「いいの?古城も食べたいものあるんじゃ」

「浅葱が選ぶってことはどっちも美味いんだろ?それを2つ食えるんだからオレも満足だよ」

古城の優しさに甘えた浅葱は彼の提案通りその2つを注文する。

すぐに運ばれてきた料理を見る浅葱の顔は嬉しそうだ。

食べたいものを食べた浅葱と古城は店を出て外にある大きな流れるプールへと向かった。

「ねえ、古城。日焼け止め塗ってくれる?」

「へ?」

プールサイドにあったビーチベッドへとうつ伏せに寝転がり背中を向ける浅葱を見て古城は変な声を出してしまう。

「はい、これよろしく」

古城にはお構いなしに浅葱から日焼け止めクリームが渡される。

誰も見ていないこともあり、仕方なく古城はクリームを手に取り浅葱の綺麗な背中へとクリームを塗ろうと手をあてた。

「あっ…古城…ちょっと冷たい…、手で温めてから塗ってくれる?」

「わ、悪い…」

浅葱が漏らした妖艶な声に気まずくなった古城は言われた通り両手でクリームを温め早々と彼女の背中へとクリームを塗った。

「こ、これでいいか?」

「うん、ありがと。前も頼める?」

「ま、前も!?」

「冗談、前は自分で塗るわよ」

古城をからかい満足したのか浅葱は慣れた手つきで日焼け止めを塗り借りてきた浮き輪に乗りゆっくりとプールを流れていく。

「古城ー、早く来なさいよー」

「勝手だな…ほんと」

浅葱に呼ばれ古城も浮き輪に乗り後を追う。

その後しばらくつまらない話をしながらプールを流され、近くにあったウォータースライダーを2人で満喫した。

「まだ、時間はあるんだけどあんたも休まないと疲れるでしょ?今日はこのくらいにしておいてあげる」

「悪いな、なんか」

「いいわよ、楽しかったし。1時間くらいしたら煌坂さんが部屋に行くと思う、それまで休んでおいたら?」

古城に気を遣うことも忘れず、浅葱はお礼を言い自室へと戻っていった。

特に見る気もなくテレビをつけながら古城がベッドに寝転がっていると控えめなノックが聞こえてきた──




次回は紗矢華回になる予定、結構前から出したかった結瞳を出せて個人的に満足です。

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