後書き長めなので前書き短めです!
何の当ても無く街を歩いていた古城と雪菜そしてライラはいつの間にか古城の家でもあるマンションへとやって来ていた。
「姫柊?そろそろ休まないか?オレ達さっきから2時間は歩いてるんだが…」
「先輩は情けない人ですね、少し歩いただけでもう疲れたんですか?」
「いや…手がかりもないのに歩くのは気が重いっていうかさ、ほら家も近いし、な?」
「先に歩き出したのは先輩だったと思うんですけど…。仕方ないですね、一旦家に戻りましょう」
雪菜も内心ただ歩くだけに疲れたのか古城の提案にすんなりと乗ってくる。
古城の背中ですっかり寝てしまっているライラを連れ2人は自宅へと戻り、服を着替えにそれぞれの部屋へと向かう。
いよいよ4月に入ろうとしているとはいえ常夏の絃神島では日中に30度近くになることはよくあることで、そんな中歩き回れば汗もかくというものだ。
「先輩?入っても大丈夫ですか?」
ライラを連れて着替えに行った雪菜が着替え終わったのか古城の部屋へとやってくる。
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
「あれ、ライラは?」
古城は雪菜と一緒に服を着替えに行った魔女の少女が見当たらないことに気づく。
「今回ライラさんは無関係の可能性が高いので、巻き込まないためにも意識を飛ばして眠ってもらいました」
「ああ、呪術とかでな。オレもその方がいいと思う」
古城はいつの日か紗矢華が凪沙にかけた催眠系の呪術を思い出してそう言った。
「いえ…その…」
「姫柊?」
「私にはそういう呪術は使えないので…」
「まさか、物理的に意識を奪ったのか…?」
「仕方ないじゃないですか!それしか出来ないんですから」
「まあ、いいと思うぞ…。で、これからどうする?」
古城は雪霞狼で強打されただろうライラに申し訳なく思いながら話題を変えた。
「そのことなんですけど…、今私たち2人…ですよね?」
「ああ、2人だな。それがどうかしたか?」
少し様子のおかしい雪菜を気にしながら古城は雪菜に先を促す。
「先輩がもしよかったら…その…子、作りを…」
「へ?」
古城の間抜けな声を境に2人の間に静寂が訪れる。
「姫柊…さん?どうして…いきなりそんなことを…?」
「そんなこと…ですか、そうですか、そんなことですか…」
雪菜の手が雪霞狼を入れた楽器ケースへと伸びていくのを見て古城は咄嗟に口を開いた。
「いや、嫌なんじゃなくてだな?どうしてそんなことを急に言うのかと…」
この状況にそぐわないことを言われたことや、雪菜ほどの可愛い女の子の口からそんな言葉を聞いたこと、中学生に手を出せばいくら皇帝でも社会的にどうなるのか等、古城の頭の中を様々な思いが巡る。
「今回のことが終われば先輩とはもう2度と会えなくなるかもしれないんです──」
そんな古城の思考などいざ知らず雪菜が衝撃的な言葉を告げた。
「どういうことだよ、それ。また定期検診の手紙かなにかの見間違いか?もう1回ちゃんと見直して──」
「違うんです!この前紗矢華さんと2人で帰還したことを覚えていますか?」
「ああ…」
古城はブルーエリジアムへと行く前になにやら2人が呼び出されていたことを思い出した。
「そのときに師家様から言われたんです。監視役というだけでこれ以上無理を押し通すのは限度があるって」
「どういうことだよ…」
「私が先輩の監視役になってから先輩の周りで色んなことが起こって…その度に私は色々と先輩と一緒に首を突っ込んできました。先輩の監視役という理由をつけて自分の意志でやってきたことですけど…その言い訳ももう通せないんだそうです…」
感情が溢れてしまっているのか、雪菜の言葉はいつもの彼女からは考えられない不安定なものになっている。
「私は監視役である前に獅子王機関の剣巫で…私が勝手な判断で行動することで外交問題になるって…」
雪菜の言葉は自分に言い聞かせるかのようにどんどん強さを増していく。
「だからもう次はないって、言われたんです。今度同じように勝手な判断で行動すれば監視役を解任するって、代わりの監視役も用意してあるって…」
「煌坂も一緒にか?」
「はい…」
「そっか。なあ、姫柊お前はここにいたいのか?」
「一緒にいたいに決まってるじゃないですか!」
「オレが1人で片付ければ姫柊たちはここにいてもいいんだろ?」
「そんなの無理に──」
雪菜の口を古城が手で抑える。
「無理だな、オレには姫柊も煌坂も必要だ。お前らがいないと困るんだ。だから、とりあえず力を貸してくれ。その後のことはオレが後でなんとかしてやるから」
古城は雪菜の頭を撫でながらそんなことを口にした。
「先輩…、なんとかなんて出来るんですか?」
「無理だったら獅子王機関に殴り込みにでも行ってやるよ」
「そう…ですか」
雪菜は久々に古城の前で心からの笑顔を見せた。
古城が自分のことを思ってくれていることが彼女にとってはなによりも嬉しいのだ。
「先輩、行きましょう。紗矢華さんが呼んでます、さっき着替えているときに連絡がきました」
「そうか、早く煌坂のところにも行ってやらないとな」
すっかり元気になった雪菜と共に古城は外へと出て、紗矢華との合流を急ぐ──
「あなた、日本で取り調べ中じゃなかったの?」
紗矢華は不機嫌そうな目で優麻を見ている。
「ついこの前終わったばかりなんだ。今は一応監視はついてるけど自由の身だよ」
「それで魔女絡みだから古城のことを助けにきたの?」
「そんなところかな、その怖い目をやめてくれると嬉しいんだけど…」
「まあ、いいわ。さっき雪菜たちに連絡したからすぐ会えるわよ」
「じゃあそれまでにどういう状況か教えてもらえるかな?」
「雪菜たちによると言語の魔女アレシア・ソリテュードっていう魔女が来てるらしいわ。街は意識のない人たちで溢れててなんとか古城が眷獣で街ごと催眠にかけて今はなんともないらしいけど…」
紗矢華は雪菜から式神で伝え聞いたことをそのまま優麻へと伝えた。
「そういうことか、アレシアの力は他人の言葉を奪ったり逆に新しい言葉を与えたりする力なんだ。本来自分の周囲数百メートルにしか力は及ばないはずだから、魔導書No.726と併用してるはずだよ」
「魔導書No.726…その魔導書はどんな力を持ってるの?」
「魔女の能力の効果範囲を広げる。ただそれだけの能力だよ。シンプルだけど使い勝手がよくて図書館では重宝されてきたんだ」
優麻1人がいることでこれだけのことが分かるという事実に紗矢華は少し驚くと同時に1つの疑問を覚えた。
「でも、その言語を奪ったり与えたりする力で機械が使えなくなるっていうのはちょっと…」
「煌坂さん、僕はそんなに詳しいわけじゃないけど機械のプログラムだって人間が作った言語によって作られているよね?」
「あっ…」
「よくヒトと猿の違いについて考えたりすることがあるけど、その答えは大抵文明を作ったか否か、そういうところに見出されることが多いよね。その文明を作るのは他でもない言語なんだよ。それだけで彼女の力がどれだけ強いものかが分かるよね」
「分かったけど…この国を機能不全に陥らせてどうするの?」
優麻は少し考えて紗矢華の疑問に答える。
「多分、図書館のトップになるつもりじゃないかな。第四真祖である古城を倒せば前のトップ、僕のお母さんより上っていうことになるからね」
「古城を1人にして楽に倒そうってわけね…」
紗矢華と優麻はある程度2人で今回の事件に結論を出し合流地点へと急ぐ──
日も暮れ始めた頃、やっと4人は合流することができた。
「煌坂…遠いわ。どこまで行かせるつもりだよ…」
電車も車も使えず、島の外縁部までひたすら走ってきた古城は出会い頭に紗矢華へと文句を言った。
「彼女を迎えに行ってたのよ」
「久しぶりだね、古城」
紗矢華の言葉と共にボーイッシュな女の子が古城の前へと歩み出た。
「優麻!無事だったのか?」
「無事って僕は別になにもされてないよ、取り調べが終わったから南宮先生に古城を助けるように言われたんだよ」
「那月ちゃんが…」
「それで、今回のことなんだけど──」
そうして古城と雪菜は優麻から彼女と紗矢華が立てた推論の内容を聞いた。
「じゃあ、アレシアってやつはそろそろオレになにか仕掛けてくるのか?」
「いや、多分その前に闇誓書と同じレベルの魔導書を使うはずだよ。彼女の性格からして確実に古城を仕留められる状態になるまで出てくるはずはないからね」
優麻の言葉とともに古城たちの耳に奇妙な音が聞こえた。
「ほら、来たみたいだよ古城」
魔導書の起動を感じ取った優麻が古城達へと警戒を促した──
雪菜と紗矢華が獅子王機関に呼ばれた話は人間戦争篇第27話 幕間に載ってます。
次回からやっと本格的にバトルシーンが入ってきますのでご期待を!
最近感想評価をよくいただけるのですが、もっと感想のところでワイワイやっていただければ嬉しいなーとか勝手に思ってます^^;
そして!この章が終われば、どこかに番外編のSSをちょくちょく投稿していこうかなと考えています。
例えば雪菜が古城に水泳を教える話(第28話)のように色々と触れていないところに触れていけるようにするつもりです。
そういえば、ここの裏話どうなってるんだ?とかあれば活動報告の方にアンケートを載せておくのでそちらで聞いていただければ番外編に載せることもあると思いますのでじゃんじゃん言ってください!
キャラ紹介の方も更新済みですのでそちらも合わせてどうぞ。
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