第38話
古城は凪沙のマシンガントークを切るいい言い訳が出来たと携帯を手に自室へと戻る。
「浅葱か?どうした?」
「どうしたじゃないわよ、あんた今一体どこにいるのよ!」
「どこって家だけど?」
「家!?」
「なんでそんなにびっくりしてるんだよ」
「さっき一瞬監視カメラに姫柊さんと煌坂さんが映ってたのを見つけて、古城に連絡しようとしたらあんたの眷獣がいきなり大阪で!」
「は?大阪!?何かの間違いだろ」
「間違いじゃないのよ!2人がカメラに映ったのもその近くなんだから!」
「なっ──」
「だからちょっと1回こっちに──」
「悪い浅葱、その場所送っておいてくれ」
浅葱の言葉も無視し古城はそれだけ伝えると電話を切った。
パーカーを羽織り途中だった夕飯も放り出し、玄関へと走る。
「古城くん!?どこいくの?」
「ちょっと姫柊と煌坂を迎えに行ってくる」
「へ?雪菜ちゃんを?どこまで行くの?」
玄関のドアが乱暴に開けられる音がした後凪沙の質問に答えるものはいなかった。
古城は公社に飛行機を一機手配するように電話をかけ、全力で空港まで走った。
雪菜と紗矢華しかいない場所で古城の眷獣が召喚されたということは、雪菜と紗矢華のどちらかが『血の伴侶』として古城の眷獣を召喚したということであり、それは2人がかなり危ない状況にあることを意味していた──
数日前のことだ。
雪菜と紗矢華は前回の事件の報告と古城の監視役の任を続けれるように上申するため絃神島を離れ日本へと向かったのだ。
話の内容が内容であるため2人は獅子王機関の本部ではなく、京都にある高神の杜で話をしたいという旨を伝えたところ意外にもすんなりと承諾された。
2人は母校でもある高神の杜へと赴き、師である遠藤 縁と会った。
「お久しぶりです、確か以前お会いしたのは真祖大戦の前──」
「雪菜、紗矢華。悪いことは言わないからすぐにあの島へ帰りなさい」
「それは、どういう?」
「あんたたちが言いに来たことは分かってるつもりだよ。でもそれはこの組織が望むことじゃない。分かったら早く──」
縁の言葉が終わらないうちに部屋へ金箔や宝石で彩られた巫女装束を纏った女が入ってくる。
「そうはさせませんよ。姫柊 雪菜、あなたを本部まで連行します。煌坂 紗矢華、抵抗するなら無関係なあなたにも危害を加えなければなりませんが?」
「最初からそのつもりでしょう…?」
紗矢華は雪菜を守るように立ち苦笑した。
「残念です、どうかお許しを──」
「紗矢華、雪菜を連れて逃げなさい」
縁はそれだけ言うと
それから数日間、雪菜と紗矢華は呪術や魔術に関する包囲網にも監視カメラにも引っかからずに全力で獅子王機関の追手から逃げ続けた。
しかし、それも長くは続かず
「獅子王機関三聖の長が雪菜に何の用?」
「偉そうな口を聞くようになりましたね、煌坂 紗矢華」
世界に音が戻った瞬間、雪菜と紗矢華の身体は車に撥ねられたかのように吹き飛ばされていた。
逃走の疲れもあり、一瞬で意識を失った2人を回収しようと歩み寄った
「出来の悪い教え子を持つとこれだから困るな」
古城が空港へと到着し公社によって手配された機体へ乗り込もうとしたとき背後に紫色の魔法陣が現れその中から豪奢なドレスに身を包んだ1人の小さな女性が姿を見せた。
「那月ちゃん!一体どこに…。そうだ、オレを日本まで連れて行ってく──」
「誰が那月ちゃんだ。それが面倒なことを代わりにしてやった恩人への態度か」
那月の拳が古城の鼻へと刺さった。
「痛って…、なにするんだよ…」
「少し日本に観光に行っていたら珍しいものを拾ってな、お前にくれてやる」
古城の方へ意識を失った雪菜と紗矢華が乱暴に投げ出された。
「那月ちゃん…」
「お前達を監獄結界に閉じ込めておくことも考えたが、それではなんの解決にもならん。獅子王機関とやりあうならお前も覚悟を決めるんだな」
「どういうことだよ…」
「まだ気づかないのか、このバカ者が。組織が出来れば派閥ができる。獅子王機関ほど大きな組織ともなればなおさらな」
「悪い、いい顔してるとこ悪いけど…さっぱりだ…」
「私は忙しい、あとは矢瀬のやつにでも聞け」
那月が怒りながら古城の前から姿を消し、機を見計らったように基樹が現れた。
「よう、古城。両手に花だな」
雪菜と紗矢華に挟まれる形になっている古城を見て基樹は満面の笑みだ。
「うるせぇよ…。それで説明してくれるのか?」
「長くなっていいならな」
「頼む」
「へいへい。獅子王機関にも那月ちゃんの言うように派閥ってもんがある。簡単に言えば過激派と穏健派、それと不干渉を決め込む連中だ。派閥ができりゃ否が応でも争いが起きるんだが、今の三聖の長である閑 古詠は過激派でな事実上その派閥には他は逆らえないわけだ」
「その派閥争いに姫柊たちがなんの関係があるんだ?」
「まあ、そう焦るなよ。獅子王機関が大規模な魔導災害や魔導テロを阻止するための組織っていうのは知ってるだろ?その仕事の中には将来起こる可能性がある災害を未然に防ぐっていうのも含まれてる。つまりだ、獅子王機関は古城──お前がなにかやらかす前に殺そうとしてるんだよ」
「話の流れでそれは大体予想ついてたけどよ、それと姫柊たちになんの関係があるんだよ」
古城は少し悲しそうな顔で基樹に話を進めさせた。
「聞いたらもう戻れないぞ?」
「聞かなくても殺されるのは決定事項だろ?」
「まあな…。姫柊ちゃんは古城の監視役って理由じゃなくお前の『血の伴侶』にさせるために送りこまれたんだ」
「な!?じゃあ──」
「落ち着け、姫柊ちゃんは少なくともそれは知らない」
「だから──」
「うるせぇぞ、古城」
基樹の拳が古城の鳩尾に入る。
「姫柊ちゃんとあの槍はお前を殺せる数少ない方法だ。お前の監視役に彼女が選ばれた理由のうちの1つはそれだ。もう1つの理由は彼女が神気を自在に扱える可能性があったこと。獅子王機関は『血の伴侶』になった姫柊ちゃんと古城との間に子供を産ませ、第四真祖直系の吸血鬼であり神気をも自在に扱えるお前らの子供を魔導組織への切り札として使役するっていう計画を立てたんだよ」
古城の返事がないことを確認した基樹は話を続ける。
「それまでにお前が危険になれば姫柊ちゃんの槍でお前を殺し、多少力は劣るが魔力と神気を扱える姫柊ちゃんを子供の代わりにする。危険でなければ子供を産ませた時点でお前を殺す。そういう計画があいつらにはあった。だが状況が変わったんだ、姫柊ちゃんは獅子王機関の想像を超えて『血の伴侶』になっても霊力を失わなかった。霊力と魔力という相反する力をその身に宿しながら神気さえも扱える特異な存在、自然の理を越えた『超越者』となってしまった」
「だから、子供じゃなくて姫柊をその切り札ってやつにすることに変えたのか?」
「そういうことだ。でも1つ問題があったんだよ、姫柊ちゃんはお前を殺せない。それがあったからこそ今までお前は生かされてきたし姫柊ちゃんもお前を止めるストッパーとして傍に置き続けた」
「流れからするとオレを殺せる方法が姫柊の槍以外に見つかったのか?」
「ああ、真祖を殺すための聖殲の遺産を獅子王機関は制御できるようになったって噂だ。それを使って実験がてらお前を殺して姫柊ちゃんを奪って洗脳なりなんなりして目的を達成しようってことなんだろうな。それでお前ら2人を引き離したいわけだ」
「そういうことか…」
「なあ、古城。オレら
基樹は悪戯な笑みを浮かべながら古城の方を見てさらに付け足した。
「那月ちゃんは日本の国家攻魔官を辞めてきたらしいな、お前に力を貸してやるために。そういえば、そこで意識飛んでる2人も獅子王機関に辞表出しに行ったんじゃ──」
古城の方をチラッと見ながら基樹はわざとらしくそんなことを言う。
「そうか…、ならオレが逃げていいわけないだろ」
「今度こそほんとに死ぬぞ?」
「死ぬのはまだまだ先にしたいな。それより獅子王機関の三聖の長って彼女だろ。いいのか?」
「さあな、バカな親友を持つと困るってな」
基樹は肩をすくめ古城へ笑いかけるとどこかへ歩いていった。
古城はその後ろ姿に感謝しながら雪菜と紗矢華の身体をゆっくりと持ち上げ家へと帰っていく──
以前からやりたかったのですが試験的に行間を少し開けてみました。
こちらがいいという声が多ければ過去話の調整と以後これでいこうかなと思います!
説明回でグダグダしてすみません( ̄▽ ̄;)
今日の更新はこれで終わりです。
明日は忙しいので多分更新はないかと…
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