ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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今回から新章です。
まだ分からないですけどすごく長くなるような予感…。
更新頻度は早めにするつもりなので前章よりかは早く終わると思います!


神々の信徒篇
第48話


雪菜が古城を送り出してから早くも2週間が経とうとしていた。

深夜3時、普通なら誰もが寝静まっているその時間に休む気配もなく働き続ける2人の少女がいる。

 

「紗矢華さん、これ間違ってます」

 

雪菜は紗矢華から流されてきた資料に不備を見つけ訂正を求めるため資料を彼女の元へと返す。

しばらくして、紗矢華がまったく動いていない事に気づいた雪菜は隣へと顔を向けた。

 

「紗矢華さん…?」

 

「紗矢華さん!」

「え!?どうしたの雪菜、なにかあった?」

「ここ、間違えてるんですけど」

「あ…気づかなかった、ごめんすぐ直すから」

 

少し怒った顔で自分の顔の前に資料を突き付けてくる可愛い後輩に紗矢華は逆らうことが出来ない。

すぐさまそれを受け取り訂正を加える。

 

「暁先輩のこと考えてたんですか?」

「そ、そんなわけないでしょう!?大体私があの変態吸血鬼のことを気にする理由がどこに──」

「紗矢華さん、同じ間違いしてますよ…」

「ゔ…」

 

自ら墓穴を掘ってしまった紗矢華は頬を染めながら下を向いて黙ってしまう。

それ以上彼女が何も言わないことを確認し、雪菜は独り言のように話しだした。

 

「先輩がいなくなって2週間…溜まりに溜まった公務を片付けたりアルディギアや獅子王機関のこと、色々忙しくてあまり考える暇はありませんでしたけど寂しいですね」

「雪菜はいいでしょ、最後に古城と話せたんだから。頼まれれば私だって血を吸わせてあげなくもなかったのに…」

「紗矢華さん…」

 

雪菜は拗ねる紗矢華を見て少し申し訳ない気持ちを感じてしまう。

 

「あの…勝手に先輩を送り出しちゃってすみません…」

「いいのよ、雪菜」

「え?」

「古城が決めたことでしょ?それに戻ってこないわけじゃないんだから」

「そうですね、じゃあ紗矢華さん。そこの資料の山早くこっちに持ってきてください」

「はーい…」

 

いい雰囲気になり少し仕事をサボれるかと思った紗矢華だったが雪菜にはそんなことお見通しだったらしい。

気だるげに返事をしながら、2人はいつ終わるのかも分からない作業にまた向かい始めた。

 

この2週間の間、雪菜たちは本当に忙しい日々を送っていた。

夜の帝国(ドミニオン)の領主である古城がいなくなり、その4日後にはラ・フォリアが古城の『血の伴侶』となったことを正式に発表したことでその対応に追われ、そして今現在、事実上組織の全権を握っていた静寂破り(ペーパーノイズ)が失踪したことにより獅子王機関が

瓦解しようとしているのだった──

 

 

「ん…あれ…?」

 

窓から射し込んでくる朝陽に嫌悪感を覚え起き上がった雪菜は自分が途中で寝落ちしてしまったことに気づき周囲を見回す。

隣ですやすやと寝ている紗矢華を見てから、雪菜の目に派手な金髪の女子高生と眠そうに作業をする少年がとまる。

 

「藍羽先輩に矢瀬先輩!?もしかして、私達が寝てしまったから手伝いにきてくださったんですか?」

「ああ、気にしなくていいって。2人共暫く寝てないだろ、オレ達がやるからもう少し休んでな」

「基樹、オレ達?なんで勝手に私までやることになってんのよ」

「そう怒るなよ…実際さっきまでやってたくせに」

 

いつものように2人で言い争う浅葱と基樹を見て雪菜はクスクスと笑むた。

 

「もう大丈夫です。私達、今は少しくらい寝なくても平気なので」

「それって、『血の伴侶』になった自慢…?」

「あ…いや、そういうわけじゃなくて!」

 

自然と雪菜の口からでた言葉が浅葱を刺激してしまう。

雪菜、紗矢華に加えてラ・フォリアまでが古城の伴侶になってしまったことを知ってから浅葱はずっと機嫌が悪い。

これ以上2人を喋らせておいても喧嘩になると判断した基樹は立ち上がると浅葱の襟を掴んだ。

 

「それくらいにしとけって、腹減ったしなんか食べに行こうぜ」

「…、もちろん基樹の奢りよね?」

「経費で落とせよ、それくらい…」

 

一瞬迷ったようだった浅葱だが、空腹には敵わないらしい。

基樹の手を振りほどくとすぐに部屋から出て行ってしまう。

 

「悪いな、姫柊ちゃん。あいつも悪気があるわけじゃないんだ」

「分かってるので大丈夫です。お手伝いありがとうございました」

 

浅葱を追って走る基樹の後ろ姿にしっかりと礼を言った雪菜は時計を一瞥し時間を確認すると紗矢華の身体を優しく揺する。

 

「雪菜?どうしたの?」

「仕事をサボったまま寝ることに少しくらい罪悪感を覚えてください…」

「あっ…、もしかして雪菜が全部やってくれたの!?」

「藍羽先輩と矢瀬先輩が手伝ってくれたんです」

「そう…藍羽浅葱が…」

 

紗矢華からするとあまり浅葱には頼りたくないのか少し悔しそうな表情を浮かべる。

そんな彼女を見て溜息をつき切り替えた雪菜も部屋から出るため立ち上がった。

 

「もう行くの?」

「はい。師家様を待たせるとあとで怖いですから」

「それもそうね」

 

互いに昔の記憶を思い起こし小さく身震いすると2人は来客を迎えるために上階にある部屋へと向かった──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

雪の降り積もった山の中にどこからとも無く1組の男女が現れる。

1人は長身銀髪の男、もう1人は小柄だが青く揺れる長髪が美しい少女。

男が身体の前へと手を伸ばす。

 

「警告、前方広範囲に対魔族用術式を感知──」

「え?おっと…痛てぇな」

 

少女の警告も虚しく男の手は大きく後ろへと弾かれる。

男が声を上げると同時に周囲に自然のものとは思えない大きな音が鳴り始めた。

 

「アスタルテ、これ何かわかるか?」

「回答、主人(マスター)が魔族払いの結界へ干渉したため警報(アラート)が鳴った模様」

「最悪じゃねぇか」

 

その場を立ち去ろうとした古城の足元へ銃弾が飛来する。

それに続いて周囲に大勢の武装した人間が集まってきた。

 

「待て待て別に怪しいことをしようってわけじゃない!オレは第四真祖の──」

 

古城の言葉は再び足元へと撃たれた銃弾の音によって中断させられる。

絃神島でこそ第四真祖はいいイメージを持たれてはいるが、世間一般では害悪そのものなのだ。

話など聞いてもらえるわけがなかった。

 

「仕方ないか…アスタルテ、全員殺さないようにできるか?」

命令受託(アクセプト)薔薇の指先(ロダダクテュロス)──」

 

不審な動きを見せた古城の方へ一斉に対魔族用の銀弾が放たれる。

しかし、その全てが古城を守るように立つ大きな人形眷獣によって防がれた。

 

「第四真祖の眷獣──!逃げろぉぉっ!」

「え?」

 

第四真祖が目の前にいる状況で眷獣が現れれば誰しもがその宿主は第四真祖であると思うだろう。

 

想像とは少し違ったが相手を傷つけず無力化することに成功した古城はアスタルテに眷獣の召喚を解くように命じてから先へ進もうとした。

 

「古城、そこにいますね?」

 

聞き覚えのある声に古城は足を止め、声のする方を振り向く。

 

「国の周りに張り巡らせてあった魔族感知用の結界を触るだけでダメにしてくれるなんて、さすが古城ですね」

 

上品に笑う声の方へ進み古城は声の主であるついさっきまでいた国境警備隊が落としたと思しき衛星電話を見つける。

古城はすぐに手に取り声の主に説明を求めた。

 

「一体どうなってるんだよ、いきなり大勢に囲まれたんだぞ」

「自業自得ですよ、家に来るならしっかり玄関から入るというのは万国共通の常識だと思いますよ?」

 

古城は当たり前のことを言われ自分が犯罪者と思われても仕方がない現状を改めて認識する。

 

「仕方ないだろ…普通に会おうと思ったら手続きとかで2週間は取られるし」

「そんなに急いでどうしました?私と結婚する気になられたとか?」

「冗談ばっかり言うのはやめてくれ、ラ・フォリア…」

 

クスクスと笑い始めたラ・フォリアは満足したのか古城の質問に答え始めた。

現在地は北欧アルディギア王国の南端にある小さな国との国境に位置する山奥であり、たまたまアルディギアとの合同軍事演習中だったこと。

 

「それでは古城。今から歩いてしっかりと空港で魔族用の短期ビザを申請、受けとってから入国してくださいね」

「待て待て待て、他の奴には秘密できたんだよ!」

 

三度ラ・フォリアは笑い始める。

古城が彼女に遊ばれていることに溜息をつくと、目の前に丸い円盤状の物体が現れた。

 

「古城、上で待っています。目の前の昇降盤に乗ってください」

 

言われるがまま昇降盤と呼ばれた円盤へと乗ると身体を異常な重力に襲われ目を閉じてしまう。

次に目を開けると古城の目には雪の降り積もる山の景色ではなく長い銀髪を持つ美女が映っていた。

 

「数日ぶりですね古城」

「ラ・フォリア…突然押しかけて悪かったな」

 

さんざんラ・フォリアに遊ばれ疲れ果てた古城は絞り出すように声をかけた。

 

静寂破り(ペーパーノイズ)との戦いで私の血は役に立ちましたか?」

 

古城はラ・フォリアの言葉で静寂破り(ペーパーノイズ)の能力に一瞬だけ干渉できたことを思い出した。

 

「ラ・フォリアのおかげだったのか?」

「何から話ましょうか、静寂破り(ペーパーノイズ)過適応能力者(ハイパーアダプター)ということは?」

「なんとなく察しはついてたよ」

 

古城の返事を受けてラ・フォリアの顔が真剣なものへと変わる。

 

過適応能力者(ハイパーアダプター)が生まれやすい家系というのが稀に存在します。そして、その能力は血を濃くすることによってより強力なものになるとか…」

「血を濃く?」

「単純な話、その家系の間で子を産み続けるんです。古来の王族によく見られる形ですね」

「それとラ・フォリアの血が関係あるのか?」

 

ラ・フォリアは少し残念そうな顔をしながら説明を続けた。

 

「アルディギア王家の者には使いこなせる者は極わずかですがあらゆる能力を解析し、干渉する術を持っています」

 

その言葉で古城は自分が何故静寂破り(ペーパーノイズ)の能力に干渉できたのか、その能力がなければ死んでいたかもしれないということを悟った。

 

「じゃあ、あれはラ・フォリアのおかげだったのか…」

「その様子だと命拾いしましたか?私の読み通り、使えるレベルにはなっていましたか…さすがは古城ですね」

 

満足そうに微笑むとラ・フォリアは古城へと抱きつく。

 

「ラ・フォリア!?」

「古城。それで今日はどんな用で来たのですか?」

 

耳元で囁かれ古城の胸は高鳴ってしまう。

 

「それは──」

「空隙の魔女、南宮那月の師である超越の魔女、キオナ・アゼリアの居場所を聞きに来ましたか?」

 

古城の驚く顔を見てラ・フォリアはまたしても楽しそうに微笑んだ──




最近Twitterでよくリプもらえて実は喜んでます…。

今回から二場面展開していくことになると思いますが読みづらかったり書き方の提案とかあれば感想等で教えてもらえればと思います!

タイトルは変えるかもです、とりあえず付けただけなので…
久々のキャラ紹介更新は次話と共にやります!

Twitterはこちら(‪@kokuren_hameln‬)よければフォローお願いします。

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