場面分けると進むのが遅いので次から文字数多めにするかも…
眩しい太陽の下どこまでも続く大地を駆け巡ったのはどれくらい昔のことだったか。
どこまでも続いていると思っていた大地が有限であったことを知ったのはいつだっただろうか。
やがて海を知り、渡り、新たな大地を踏みしめ、越えて元の場所へと戻り自らが住む星さえ小さく感じたのは何歳の頃だっただろうか。
この世に絶望し、離れ──虚無へと身を投じこの世の全てを俯瞰する。
永劫の時が流れ自分と世界の境界さえ曖昧になった朧気な意識の中で女は久方振りの思案を始めた。
自分が望んだものはこんなことだったのだろうかと──
その一瞬の思考も虚無の中へと消え、すぐに分からなくなってしまう。
そんな彼女の願いは1つ、『暇』を潰したい。
それだけだった。
物も無ければ秩序も無く、かといって混沌と呼ぶことが正しいのかさえも分からない、完全にこの世から切り離された虚無の領域に浮かぶその存在はふと笑った──
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雪菜と紗矢華は応接室を兼ねた広々とした部屋の前まできてあることに気づいた。
「いるわね」
「はい…」
部屋の中に自分たちの師の気配を感じとり二人の顔が引き締まる。
紗矢華が恐る恐る扉を開けると部屋の中から何かが飛んできた。
「──!」
飛んできた布製の何かを紗矢華は反射的に手で掴んだ。
「客を待たせるなんていい度胸じゃないか。一体いつからそんなに偉くなったんだい?」
「いえ、これは…」
予定時刻より早めに来ていると文句を言いたいところだが、それを言えば何をされるか分からないため紗矢華は黙ってしまう。
「師家様、申し訳ありませんが私達予定の時刻より早くここにっ──」
真面目な雪菜が反論してしまい紗矢華は焦って彼女の口を閉じさせ、師の顔色を伺った。
「どうやら罰は2人分用意しなきゃいけないみたいだね」
縁はそう言うとあらかじめ用意していたかのように雪菜の方へもメイド服を投げてよこした。
「そうだね、1週間くらいはそれを着て生活してもらおうか」
縁のその言葉に紗矢華が露骨に嫌そうな顔をするがなんとかバレなかったようだ。
そんな紗矢華にかまわず縁は本題へと入っていった。
「獅子王機関が今の御時世、あまり立場がないことは分かってるね?そんな中トップがいなくなったとなりゃどうなるか…」
平安末期から続く獅子王機関は由緒正しき組織であるが、時代が進むにつれ科学の進歩が目覚しい現代においての地位はそれほど高くない。
そのことを分かっている雪菜と紗矢華はある程度予想しながら縁の続く言葉を待った。
「うちは近いうちに潰れるだろうね」
予想していたとはいえ、雪菜と紗矢華は息を呑んだ。
「それで…、」
「なに、単純な話だよ。使えそうな者をここで引き取ってやって欲しいって話だ」
そう言うと縁は手に持っていた名簿を投げて寄越す。
そこには獅子王機関の要職、剣巫、真射姫から養成中の新人と思しき者の名前まで書かれていた。
もちろんそこには雪菜と紗矢華の名前も含まれ、2人の名前の横には小さな丸印が付いていた。
「これは…?」
「見ての通りうちの全職員の名簿だよ、もう隠す必要もないからね。この中から使えそうだと思うのをそっちで選んでくれればいい」
紗矢華は名簿を捲り、少し考えてから縁へとある提案をする。
「それなら全員ってわけにはいかないんでしょうか…」
「うちも組織だからね、組織直属の者と国から入ってきた者と色々いてね。前者はともかく後者は太史局の方に転属になるんじゃないかね」
「そうですか…ではこの件は後ほど議会の方に回して決まり次第連絡を──」
「ん?第四真祖の坊やはいないのかい?」
ちょっとした一言で今この国で一番知られたくないことを見抜かれ雪菜と紗矢華は気まずい顔をする。
それを見て縁はにやりと笑う。
「夜の帝国ドミニオンの領主が長年顔を出さないことはよくあることだからね、なにか都合の悪い事になったらそう言い訳すればいいさ。じゃあ私は忙しいからこれで帰るよ」
「ちょっと待ってください、師家様──!」
雪菜の呼びかけも虚しく縁は忽然とその場から消えてしまっていた──
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古城はラ・フォリアの顔を見ながら初めて彼女を警戒する。
何故彼女が古城が言う前に今回の用件を知っていたのか、そもそも彼女が現れたのがアルディギアの国境付近とはいえ異常なほどに早かったことも不思議だ。
そんなことを考えている古城とは裏腹に笑顔のラ・フォリアが近づいてくる。
「警告、それ以上
古城と同じことを考えたのかアスタルテは眷獣を半実体化させたままそう告げる。
それと同時に艦内のアルディギア聖環騎士団が2人を包囲する。
険悪なムードになったところでようやくラ・フォリアは改めて口を開いた。
「空隙の魔女を失った古城がなにをしようとするか予想してみただけですよ?伴侶が主を助けたいと思うのは当たり前のことかと」
そう言うとラ・フォリアは周りに包囲を解くように軽く指示した。
それを見てからアスタルテも引き下がる。
「でもどうして那月ちゃんの師のことを知ってるんだ?」
「それは、向こうから接触されたからですよ。古城に私の血を与えるように言ってきたのもまたキオナ・アゼリアです」
古城はラ・フォリアの言葉の意味が分からなかった。
「そうですね…彼女は神にもっとも近い存在とでも言いましょうか…」
「神ってあれか?普通にオレ達の思ってるやつか?」
「宗教色の薄いあなた達が思い浮かべるような神そのものですよ、全知全能とまではいかないようですが」
「うーん…さすがにちょっと分かんないかな」
「とりあえず人の領域を超えた存在とでも認識していただければ結構ですよ。そのキオナ、超越の魔女にどうしてか接触されたのです」
その後長々とラ・フォリアから話を聞いたが得られた情報は少なかった。
そもそも彼女も接触されるまで存在を知らなかったというのだから仕方がない。
分かったことといえば、キオナはこの世とは異なる空間にいるということとそこに行くには空間転移魔術に卓越していなければいけないということだった。
「その話とは別に少しいいですか?古城」
色々と考えていた古城にラ・フォリアが声をかけてきた。
「ん?なんだ?」
「その、『血の伴侶』になったことをそろそろ国民にもお伝えしなければならないんですが…どうしましょうか?」
「どうしましょうかとか言われてもな…」
古城はバツの悪そうな顔をしながらラ・フォリアから目を逸らした。
「一緒に出てもらうことはできませんか?」
「いや…今回は誰にも言わずに来てるか──」
「そうですか、残念ですが私1人で会見を開かせていただきますね?」
ラ・フォリアは古城が出ないと決めた瞬間、待っていたかのように早口でそう捲し立てた。
勢いに押された古城はもはや何も言うことも出来ず静かに肩を落とし、もう一つの頼み事をすることにした。
「ラ・フォリアに頼みたいことがあるんだけどちょっといいか?」
「はい、私にできることなら何でも言ってください」
「オレがいない間うちのこと頼んでもいいか?」
「それは…全権委任ということでよろしいですか?」
しばらく古城は考え込んだ。
「それでいいよ、そうだな…なんか書いておくから好きなようにやってくれればいい」
「承りました、悪いようにはしないので安心してください。随分と急いでるようですけどもう行きますか?」
「ああ、そうするよ。この辺で誰もいない場所があると教えて欲しいんだけど…」
「それくらいならお安い御用ですよ」
ラ・フォリアへの用件が全て終わった古城は夜の帝国ドミニオンの全権委任を許可する書類にサインをし、アルディギア南端にある小さな無人島でアスタルテと2人降ろしてもらった。
ラ・フォリアの乗る軍用機が見えなくなってから無人島へと降りたった2人は那月の師であるキオナのいる空間へと向かうための方法を考えることにした。
「さて、アスタルテ。空間転移魔術の練習方法って知ってるか?」
「………」
「もしかして、知らなかったりするのか?」
「………」
ジト目で見てくるアスタルテの目が痛い。
「失望、
アスタルテの言葉に何も返せず古城は1人苦笑いで立ち尽くすしかなかった──
久しぶりにキャラ紹介の方数行更新しました。
毎度言いますが若干のネタバレも考えられるので気にする方はあまり見ない方がいいかもしれないです(物語進む上で決定的なネタバレになるというほどのことは書いていません)
話が進むにつれてまた例のごとく書き足していくのでちょくちょく覗いてもらえればと思います。
次回で50話、UAもそろそろ5万を超えて、お気に入りも350件を超えまして…またまたなんとお礼を言えばいいのか…
また感想評価のほうもお願いします^^*
方向性失うんで苦笑
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