ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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なんとか今日中に更新間に合ったぁぁあ

すみません、思いっきり時間跳びます。
暁の帝国の詳しいことはまたあとで書くことになると思いますが
気になることあれば感想でもTwitterでも答えます。


第51話

何処までも続く暗闇の中に一つの光が現れ、やがてそれは人型へと変わった。

 

「あんた…ここはなんなんだ?」

「ひどくアバウトな質問だな、ついさっき虚無と言ったはずだが?」

 

女は不自然に苦しむ古城を見下ろしながら未だ笑い続けたまま特に何をするわけでもない。

意識が消えかけた瞬間、古城の右手が確かな温もりに包まれる。

その温かさに虚無の底から引っ張り出されるように古城の意識は再び覚醒した。

 

「っ──!アスタルテか!?」

「肯定、状況の確認を」

 

あくまでも冷静にアスタルテは自らが置かれる異常な空間の把握を試みる。

しかし数秒を経てそれも徒労に終わる。

 

「はぐれ者同士仲がいいことだな」

「え?」

「元は人の身でありながら真祖の力を手に入れたお前と眷獣を身に宿しながら生き永らえる紛い物の生命、どちらも自然の理から外れたものだろう?」

 

古城は自分たちの素性が明かされたことにひどく驚く。

そんな彼の心情を知ってか知らずか彼女の顔つきも得意気なものへと変わった。

 

「驚いたか?私はお前でもあると言ったろう?これくらい分かるのは当然だな」

「だから、あんたは一体何を言ってるんだ?」

「質問ばかりとは子供のようだな、暇つぶしに話してやらんでもないが」

「もったいぶってないで早く教えてくれよ…」

 

古城のあまりにもストレートな物言いに女は思わず言葉を続けることが出来なくなる。

 

「この空間さ、感覚があんまりないし気を抜いたら一気に意識が闇の底に引きずり込まれるっていうか…なんなんだ?」

「お、教えてやろう…」

「へ?」

 

急に上擦った女の声に古城が不思議がる。

そんな反応を無視し、女は説明を始めた。

 

「この世界はお前達がいた世界の裏の世界、表の世界のバランスを保つために存在する」

「バランス?」

「自然の力は常に中立、均整の取れた状態を好む。食物連鎖のピラミッドのようなものから人の貧富…+のものがいれば-のものがいなければならない。+、正のものが増えすぎれば正のものを減らすか負のものを増やすことによって自然とは均整を常に保ち続ける」

 

「この世界もその自然の力の例に漏れず遥か昔に生まれ、表の世界の成長や衰退に伴って私が来るまでは絶えず変化を続けてきた」

「あんたが来るまで?」

「私は元々表の世界に生まれ、お前と同じようにただの人間でありながら運命に選ばれ力を得た。そしてその力は際限なく膨らみ生物の域を越えてしまい、力の奔流に呑まれ唯一の友をも殺した」

 

女の声が段々と無機質なものへと変わる。

そんな彼女の声を聞きながら古城は何も言えない。

言いたいことがなかったわけではないが、単純に彼女という存在が放つ徒ならぬ重圧の一端を知り畏怖を覚えたのだ。

 

「そう怖がるな、取って食ったりしないさ」

 

女は愉快そうに笑う。

 

「それで…だな、罰としてなのか私はこの世界へと連れてこられた。私が来たときこの世界は表の世界と同じく色んなものがあったんだ」

「それがどうしてこんな何も無い場所になったのか、聞いてもいいのか?」

「もちろん、これはお前にも関係ある話だからな。私の力はこの世界に来てからもただひたすらに指数関数的に増えていき、初めこそ神のように扱ってくれた生物たちも怖がるようになってしまってな」

 

虚空を見据えながら女は昔を思い出し懐かしむかのように語る。

 

「そして私の力が表の世界のすべての生物、無生物たちの持つ力の総量を越えた時、この世界にあった物は一瞬にして跡形もなく消え去り…この世界から秩序が失われた。秩序がなくなった世界は自然と混沌へと帰るだけ、これがこの世界の馴れ初めといったところだ」

 

全てのものは混沌からある秩序によって要素を限定、抽出されることで存在する。

そして1度その秩序がなくなれば、世界にはあらゆる要素が激しく混在するだけとなってしまう。

そのことをなんとか理解した古城はひとつの疑問を抱いた。

 

「でも、あんたはこの世界に存在できてる。それはどうしてなんだ?」

「私は元は表の世界のものであるからな、影響はあまり受けない。だが長期をこの世界で過ごせば影響は生じる。私は自らを生物の域から概念へと昇華することによってそれを免れた。故に実態もなければ規定に縛られることもなく自ら秩序を構成し、お前になることも可能だ」

 

そう言うと女の影が古城と同じ姿形へと変わっていく。

 

表の世界と対をなし、均整をとるために存在する裏の世界には必然的に表の世界と同じものが生まれる。

その全ての要素が混在するこの世界において、概念として秩序を自由に構成できる彼女は文字通り誰にでもなれるのだ。

 

女が最初に口にした『何処にも存在せず、何処にでも存在し何にでもなれる』という言葉の真意は文字通りの意味だったのだ。

 

「それで、質問に長々と答えたところで…こちらからも質問させてもらおうか。何の用でこんな場所まできた?」

「那月ちゃん…、南宮 那月を知ってるか?」

 

女は少し考えるような素振りを見せ、やがて思いついたのか首を縦に振った。

 

「オレはあの人を助けたい、そのためにお前に会いに来た」

「ほう…」

 

女は古城の言葉を聞くとなにやら宙を手で弄り始め何かを掴んだ。

 

「そうか、あいつが教え子を守ってなぁ…成長したんだな」

 

古城は女がこの世界に混在する那月と対をなす要素から状況を把握したらしいことに気づいた。

 

「差詰め那月のいる空間に連れていけとでも言う気だろうが、それは無理な話だ。私が好き勝手自由に出来るのはあくまでこの世界だけだ」

「そんな…どうにかなんないのか!?」

「落ち着け、お前は那月の守護者を受け取ったのだろう?その力なら空間を跳ぶことなど造作もないことよ。まあざっと500年くらいの修練が必要になるだろうがな」

 

古城は500年という年月の長さに頭を抱えそうになる。

そしてしばらく思考を続け女の方へと歩み寄っていく。

 

「あんたこの世界ならなんでもできるんだよな、それなら時間が進むのを遅くしたりできるんじゃないか?」

「そう来たか…」

 

女はひどく愉快そうに今までで1番大きな声で笑った。

 

「思い出すよ、那月もお前と同じことをここで私に言ってのけた。死や老化というものから半ば抜け出た者なら至る考えかもしれんが…師弟の血は争えんらしいな。お前がこの空間に耐えれる実時間はざっと2年だぞ?」

「2年か…どれくらいその時間を延ばせるんだ?」

「無限だが、1度定めてしまえば終わるまで解いたりはできん」

 

女は挑発的な視線で古城を見据える。

その目をじっと見ながら古城は覚悟を決めたようににやりと笑みを浮かべた。

 

「そうだな、200年。いや、400年に延ばしてくれ」

「那月の4倍か、生きて帰れるといいな。そういえば言い忘れたがお前の身体機能のほとんどは実時間と共に進むということを忘れるなよ」

「ちょっと待てどういうことか説明しろよ!」

 

古城は女の言葉が大きな問題を含んでいる気がして驚き慌てる。

その姿を見ながら最後に女は2つ言葉を付け足した。

 

「魔力の回復も傷の回復も実時間を軸として働くということだ。簡単に言えば魔力の使いすぎ、負傷の2点には気をつけろということだな」

 

「じゃあ行ってこい、生きて帰れたらアゼリアと呼ぶことを許可するぞ古城」

 

アゼリアが可愛らしく手を振る姿を最後に古城はまたどこか別の空間へと跳ばされていった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

古城がいなくなってから約2年、暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)は魔族同士の小さな小競り合いや軽犯罪は相変わらず後を絶たないが、特に大きな事件もなく平和を維持していた。

 

2年という短い時間でこの国で行われたことは多く、枚挙に暇がないがラ・フォリアらアルディギア王国や元獅子王機関の構成員たちの働きが大きかった。

 

まず手始めに特区警備隊(アイランドガード)、人口島管理公社の解体及び再編成が行われた。

これにより不穏分子を排除し、より優秀な人材を多く起用できるようになった。

 

特区警備隊(アイランドガード)はアルディギア王国の下、最新鋭の魔導兵器を導入し対魔族戦闘の訓練を施され剣巫、真射姫はもちろん魔族まで幅広く採用されている。

このことによる治安維持効果もあり、今では試験的に魔族登録証の廃止案が検討されるほどだ。

 

そして絃神島最大の問題ともいえる食糧問題は、工場栽培を始めとする画期的なシステムを導入することでほぼ解決された。

 

こうした国の発展の立役者たちは今日も相変わらず忙しそうに島中だけにとどまらず様々な国を飛び回っている。

 

「雪菜?来週の土曜日久しぶりにおやすみなんだけど…空いてたりしない?」

 

紗矢華は電話の向こう側の雪菜の返事をドキドキしながら待つ。

彼女はここ2ヶ月アフリカ諸国を飛び回った疲れを雪菜で癒そうと目論んでいた。

 

「すみません…紗矢華さん、私その日はアメリカに…」

「あぁぁ…やってられないわよこんな仕事…」

 

電話越しでも紗矢華ががくりと項垂れるのが雪菜には感じ取れた。

 

「まあまあ、来月に2人での仕事があるじゃないですか」

「え、嘘!?それほんとなの?」

「あれ…藍羽先輩から連絡いってないですか?」

「来てないわよ!」

 

紗矢華が怒りを露わにした瞬間、音声に若干の乱れが生じた。

 

「煌坂さん、来月12日から姫柊さんと仕事ね。今伝えたから、それじゃ!」

「え?ちょっと待って…って……雪菜と?ほんとなの?」

 

乱暴に電話へと割り込んできたのは浅葱だった。

彼女もまた暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)の発展に貢献した1人だ。

 

「よかったですね、紗矢華さん」

「ええ──」

 

再び音声に乱れが生じ、紗矢華の言葉が遮られた。

 

「ごめん、2人ともやっぱり今の仕事片付けたらすぐにさっき言った仕事に移ってくれる?まずいことになりそう」

「はあ…結局今月も私に休みはないってわけね…」

「頑張り時ですよ、紗矢華さん」

 

紗矢華にとって雪菜だけが癒しだった──




今回ちょっと話がややこしい?
これでもだいぶ読みやすくしたつもりですが…最悪理解出来なくても読み進めれるようにはしたはず…

さて、こないだのアスタルテ回?の反響がかなりよくて今回少しばかり文字数増量しました。

感想をくれれば文字数が増える(もうお分かりいただけただろうか、おなじみの感想乞食です)

追記 活動報告のほうで人口島管理公社と特区警備隊の新しい名前募集してるのでよければ案ください。ルビはこちらで考えます。

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