すみません、ほんと。
ついでのようですが、70,000UA越えありがとうございます!
牧師が去り、再び暗闇へと戻った空間で雪菜は寒さと恐怖に身を震わせていた。
雪菜が閉じ込められている3mほどの筒の中は1時間ほど前から徐々に冷水で満たされ始めている。
1時間かけてやっと膝下ほどの水位。
通常の冷水なら少し体温を奪われるだけだが、この空間に満たされる液体はただの冷水ではなかった。
この水には恐怖心を増幅、促進する呪術が含まれているのだ。
不死身である吸血鬼を殺す方法は少ないながら、幾つか確立されている。
その中で、1番といっていいほどよく使われるのが再生不能なレベルで身体を粉々にするというものだ。
しかし、これは第四真祖の『血の伴侶』である雪菜には効果が薄い。
そしてこの計画の立案者も、雪菜を殺してしまうというのは意に反することだろう。
「精神の破壊…。必要なのは私の体質だけということみたいですね…」
時間が進むにつれ、水位は上昇し雪菜の身体を呑み込んでいく。
吸血鬼とて呼吸ができなければ、そのうち窒息による死を迎えることは避けられない。
初めこそ冷静さを保っていた雪菜だが、暗闇の中ゆっくりと迫ってくる死を前に、冷水に付加された呪術の効果も相まってその心にも揺らぎが生じる。
1度そうなってしまえば、あとは恐怖心が募るばかりだ。
「せんぱい…さやかさん…」
雪菜は珍しく恐怖のあまり最も頼りになる2人の名を呼ぶ。
だが当然ながら、それに答える声はない。
時間の流れすら分からなくなり死への恐怖が雪菜を蝕んでいく。
遂に口元まで水位が上昇し、死へのカウントダウンも秒読みといったところか。
「苦しいか?」
いつの間にか牧師風の男が雪菜の前に立っていた。
「…」
男の声に雪菜はなんの反応も示さず、ただ虚ろな目で虚空を見つめ続ける。
「もう少し張合いがあるかと思ったが、壊れてしまったか」
男の声は雪菜に対する哀れみを帯びていた。
その声とともに再び空間に明かりが灯され、人間、魔族あらゆる種族のものが中央に位置する魔具を取り囲む。
「儀式を」
そのなかの1人が牧師へと囁く。
それに呼応しその場にいるほぼ全てのものが狂ったように同じ言葉を口にし、大合唱が巻き起こる。
「儀式を!」
「儀式を!」
「儀式を!」
「静まれ──」
中心に立つ牧師はそのひと言で全員を黙らせた。
どうやら、このメンバーでは彼が一番優位であるらしい。
「神へと至る鍵の意識は失くなり、残るはその身に宿る術式を魔具へと接続し力を注ぐのみ。我らの願いが叶うのも時間の問題だ」
男の言葉に対して周囲から歓声が上がる。
魔具とは遥か昔に作られた魔術的道具のことを指す。
その多くは現代の技術を持ってしても再現することが不可能な場合が多い。
そして一般的に世に流通しているものはそんな魔具を解析し作られた劣化版、レプリカであることがほとんどだ。
しかし、この場にあるものは違った。
「鍵の持つ術式で世界を書き換える。この魔具で術式の規模を拡大し、必要な力を増幅し続け術式の効果を維持し続ける。今宵、我らは神の座へと舞い戻るのだ!」
男の声に今一度周囲が歓声を上げた。
遂に雪菜と魔具のリンクが構築され始め世界の改変が始まる。
巨大な駆動音と共に魔具が放つ光は龍脈を伝い、その世の理を改変する力は世界中へと伝播する──はずだった。
30分。
それは那月が示した
「暁、残り25分。どうにかしてあの魔具を潰せ」
紫の魔法陣から招かれざる客、銀髪の少年と黒のドレスを着た女性が現れた。
「了解、姫柊は?」
「早く助けたいなら目の前のやつらをさっさと片付けろ」
那月の指示を遂行すべく、古城は眷獣を呼ぶべく腕に魔力を収束させる。
が、その力はすぐに霧散してしまう。
「眷獣封じか、なかなか小癪なことをしてくれる」
古城の動きが止まった一瞬の隙を見逃さず、無数の相手が攻撃を仕掛けに迫ってくる。
「那月ちゃん、5秒だけくれ」
「人を頼るなバカ真祖が」
そんな態度とは裏腹に那月の能力により、不可視の攻撃が挟み込まれ周囲の敵が吹き飛ぶ。
「
眷獣封じの結界を膨大な魔力でぶち破り、古城はその右腕に
眷獣自身の重力制御能力により、多大なGをかけられた三鈷剣は本来の大きさから古城が持つのに丁度いいサイズまで縮小される。
「ほう、力の振るい方を覚えたか」
那月は満足そうに、敵の集団へと突進する古城を眺める。
「空隙の魔女…、どうしてここに?」
「少し頼まれてな」
彼女の前には牧師風の男が立っている。
ここにある魔具を操作しているその男を倒せば全ては終わる。
だが、事はそう簡単にはいかない。
あくまで那月が龍脈を断つことによって魔具の影響を防げるのは外界のみ。
この場にいる相手は世の理を改変し、その身に神の力を宿したものだからだ。
「この力を試すには丁度いい相手といったところでしょうか」
「一瞬で片付けてやるさ」
神を殺すために作られた真祖、神をも殺しうる力を手にした魔女と模造の神たちの闘いが始まった──
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
殲滅戦特化の降魔兵器、
空中に浮遊する島から紗矢華へ向かって絶えず飛び降りてくる獣人、魔族、魔具使い。
その全てが紗矢華の私情、鬱憤ばらしついでに殲滅される。
「どれだけ湧いてくるのよ!ゴキブリなの!?死になさいよ変態!」
紗矢華の物言いは理不尽極まりない。
そんな中、上空から第1波、第2波と迫り来る敵の様子が一瞬にして変化する。
「古城のやつ…、中でなにかやらかしたわね」
呆れた顔で紗矢華は淡々と鏑矢の斉射を続けた──
こちらのサイトの方でも感想、評価など待ってます!
もっと感想欄でワイワイやってもらえたら嬉しいです汗
その方が文字数も増えると思うので汗
56話の那月と
那月は
那月の能力は"挟める事象の限界値が空間の大きさと時間の流れに反比例する"のですが、那月の作り出した空間は大きさが小さく、時間の流れが実時間よりかなり早く流れています。
なので、普段よりも時間を遡って事象を挟み込むときの労力が減ります。(能力の対象となる空間の範囲が狭く、とてつもなく長い時間の中において那月の現在から契約をした時までの時間は微小時間とみなせるため)
そして、古城のアシストもあり
この2点によって56話で遂に那月は念願の
これで補完できるといいのですが汗
オリジナル作品の方もよろしくお願いします!
Twitterはこちら(@kokuren_hameln)よければフォローお願いします。