正直お気に入り登録数が半減してもおかしくないんじゃないかと思いました。
悪いようにはしないので読者の皆様にはああいう展開も受け入れてもらえたらな…と思います。
不安定だった空間は天井へ大きな穴を穿たれたことで遂に崩壊を始める。
そんな中、古城は雪菜が消えていった空を眺め立ち尽くしていた。
「暁、来い」
那月の放った銀鎖になんの抵抗もなく絡め取られた古城はそのまま力なく魔法陣の中へと引きずられていく。
そして誰もいなくなったその場所は人知れず崩れ去っていった──
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「ちょっと古城!次から次へとゴキブリみたいに湧いてきたあいつらはなんなの!?おかげさまでヘロヘロよ…ちょっとくらいあなたの血を分けてくれてもいいんじゃ…って古城?」
自分に与えられた仕事をきっちりとこなしていた紗矢華は那月と共に戻ってきた古城の方へ駆け寄った。
だが距離が近づくにつれ古城の生気のなさに気づいてしまう。
「ちょっとどうしたの…?」
動揺する紗矢華の言葉に古城は何の反応も示さない。
しかし紗矢華も、もう気づいていた。本来帰ってくるはずの少女の姿がないことに。
「ゆ、雪菜は…?」
なにかに縋るように放たれる彼女の声は激しく揺れていた。
そんな紗矢華の姿を前にしても、やはり古城は何の反応も示さない。
「ちょっと!なんとか言いなさいよ!」
感情のまま紗矢華は古城の顔を叩いていた。
その小さな衝撃にすら古城は抗うことなくそのまま真っ直ぐ後ろへと倒れていく。
もうそれは生きた屍、ただの抜け殻のようだ。
荒ぶる紗矢華を見兼ねて那月が古城と紗矢華の間へと降り立った。
「やめておけ。お前まで使い物にならなくなるか?」
侮蔑を含んだその笑みを見て紗矢華は一瞬我に返る。
雪菜がいない今、古城だけでなく自分まで目的を見失ってしまってはいけない。そう、自分に言い聞かせた彼女はなんとか少しだけ生まれた平静を保った。
「なにが起こったのかお聞きしても…?」
「姫柊 雪菜は自らの意思で逃亡した。端的に言えばそんなところだな」
「逃亡ってそんな…どうしてですか?」
「それは付き合いの長いお前が知るところだと思うが」
雪菜が良くも悪くも全て1人で抱え込んでしまう性質なのは紗矢華もよく知っている。
なにか雪菜に責任を感じることがあったのだろう。そう分かりつつもそれが何に対してなのかが紗矢華には分からない。
「その腑抜けた吸血鬼を連れて捜索に出るわけにもいかん。ひとまず帰るぞ」
「はい…」
紗矢華は拗ねた子供のように地に座る古城を睨み続けていた。
そのまま彼女は奇妙な浮遊感を得ると見慣れた場所へと転移させられる。那月の空間転移魔術でそれぞれ別の場所へと跳ばされたらしく、もう既に紗矢華の目の前に古城はいない。
「よう、散々だな」
改築されたキーストーンゲート上層、紗矢華に与えられているこの部屋に勝手に入ることが出来るのは3人。
合鍵を持つ雪菜とこの国のトップである古城。
そしてこの建物の責任者であり、後ろに立つ矢瀬 基樹だ。
「もう知ってるのね」
「まあ、詳しいことは知らないが」
雪菜が失踪したことは知っている。と基樹は言いたげだ。
大方浅葱に衛星写真でももらったのだろう。
「何しに来たの?」
「愚痴でも聞いてやろうと思ったんだが」
「そう…」
同じ古城に振り回されがちな者として、紗矢華と基樹は近頃愚痴を言い合ったりすることが多い。
そのため基樹は気を利かせて紗矢華の愚痴を聞きに来たといったところだろうか。
「古城はどうだ?聞くまでもないか」
「あなたの方がよく分かってるでしょ?」
「違いないな。この2年何処で何してたか知らないが精神的に脆いところは変わらないか、それとも…」
雪菜が古城の中でそれほど大事だということなのだろうか。基樹はそう言いかけて言葉を止めた。そんなことは傍で2人を見ていれば誰にだって分かることなのだから。
「雪菜の場所は分かってるの…?」
「それが分かれば苦労しないんだが、どういう訳か画面から消えちまってな」
紗矢華とてそこまで期待していた訳では無いが、やはり心のどこかで居場所くらいはという思いがあった。
「明日雪菜を探しに出るわ」
「止めはしない。でも1人でいいのか?」
「ええ、心配ならあなたがついてくる?」
「やめてくれ、まだ死にたくない。ミーティングくらい参加してけよ」
紗矢華は首を横に振り、話は終わりと言わんばかりにベッドへと横になる。
「そうかい、気をつけてな」
そんな姿を見ても基樹は何も言わず部屋をあとにする。
ドアの閉まる音を聞いた紗矢華は数日の疲れがどっと出たのかすぐ眠ってしまった──
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紗矢華とは違い、古城は懐かしい自室のベッドへと飛ばされていた。
どうやら長い間あまり使われていないらしく、部屋の中は古城が去った2年前から全く変わっていない。
閉じ込められた熱気で身体から汗が吹き出し、意識が朦朧とするが古城はただ穴が開くほど天井を虚ろな目で見つめていた。
「姫柊…」
古城はぼうっとする意識の中で雪菜のことを思っていた。
彼女の心境。なんの前触れもなく身に余る力を持ってしまった彼女は何を思い、悩み、決断したのだろうか。その思いは自分が世界最強の吸血鬼、第四真祖の力を得たときと同じものなのだろうか。
いくら考えても答えはでない。雪菜のことは雪菜自身にしか分からない。そしてなにより古城は雪菜と根本的に違う。彼は自らの決断で力を得たのだから。
「古城、いるんでしょ。入るわよ」
懐かしい声が古城の鼓膜を震わせる。
そして自室のドアが声の主、浅葱によって開かれた。
「腐ってんじゃないわよ、あと暑い。冷房くらい入れなさいよ」
呆れた様子で部屋のエアコンの設定を最低温度にし電源を入れた浅葱は未だ天井を見つめる古城の隣へと腰を下ろした。
「だんまり?大きくなった那月ちゃんから古城が正気じゃないって聞いたけど、そういう訳でもないんでしょ?」
そこで古城は目線を隣に座る浅葱へと向ける。
「ショックなのはそうだろうけど、どうしたらいいか分からないだけでしょ。古城、あんたのそういうところ昔から変わってない。そうやってれば誰かがなんとかしてくれるの?」
浅葱の口から放たれる言葉は辛烈だ。
「そうだな…もういいんじゃないか?」
「1度拒絶されたくらいで何言ってんのよ」
「あれが姫柊の意思なら」
「古城、あんたね──っちょっと!」
何かを言おうとした浅葱は古城に力づくで押し倒されてしまう。
「なあ、浅葱。お前なら助けてくれるのか?」
「古城?何言って…」
こんなとき、こんな状況であるのに浅葱の胸の鼓動は止まらない。
それを分かってか古城がゆっくりと近づいてくる。
「お前なら…受け入れてくれるのか?」
古城に耳元で囁かれた浅葱は頬を赤く染める。
「え…でも…そんな…だめ…」
言葉とは裏腹に浅葱の拒絶する手の力は恐ろしく弱い。
当然、その程度の力で古城を止めることもできず、浅葱の首元へ古城の牙が深々と突き刺さった。
そのまま血を吸おうとしない古城に浅葱は心の中に潜む天使と悪魔に揺らされていた。しかしそれも一瞬で浅葱は古城の頭を抱いてしまう。
「ねぇ、古城…。あんた…ううん、もう好きにして」
浅葱の胸中は複雑だった。
やはり古城の中で雪菜という存在が1番大きく自分は適わないと再認識させられ、古城の情けない姿を見ても未だ古城のことは諦められず、こんな形であれど求められることに幸福を感じる。
やってはいけないと心では分かっていても浅葱は長年望んだこの瞬間を捨てることができない。
そして遂に彼女は自らのポリシーに反し全てを捨て、古城を受け入れてしまった。
首へと刺さる牙から血を吸われる心地よい感覚に浸りながら、浅葱は目に涙を浮かべていた。
嬉しいという気持ちも少なからずあるだろうが、そこには雪菜に対する罪悪感が溢れているのだろう。
「古城…、あんたは私でいいの?」
限界まで血を吸われ、古城の血を与えられた浅葱は身体に流れる魔力の奔流に戸惑いながらそう呟いた。
「私さ…ちょっと後悔してる。あんたを受け入れちゃったこと、終わったあとにこんなこと言うの卑怯…だよね。でも古城は姫柊さんとの方がお似合い…よ」
泣きながら浅葱は溢れ出る感情をそのまま口にする。
「私…ちゃんと姫柊さんに謝りたい。古城の弱みに付け込んで誑かして…って、だからいつまでも腑抜けてないで連れ戻してきて」
一瞬、古城は浅葱の苦しそうな顔に何かを言おうとする。
だがそれもすぐに引っ込んだようだ。
「わがまま言ってごめん、でも嬉しかった…。これ置いておくから使って」
浅葱は自分を見つめる古城に抱擁をするとどこからか出したUSBメモリーを古城の手に握らせる。
「私って最低…ね」
古城に聞こえない声でそう言った彼女は足早に部屋を出て行く。
手に握らされたUSBメモリーを眺めながら古城はドアの外から聞こえてくる浅葱の泣き声を聞いていた──
まず、最初に…前書きに引き続き。浅葱推しの方…すみません!色々考えた結果、後のことも考えて気づけばこういう展開に…
(あれ、ストブラってこんな黒い話だっけ)と読み直して気づいたんですが…ちゃんと伏線?なのでご理解頂けたらと…
さて、そんな皆さんのおかげで晴れて60話です。
こんな駄文かつクソストーリーにお付き合いいただけている皆様には感謝しかありません。
なかなか話が入り組んできて、前回や今回など皆様の意見かなり気になっているので、
どうか!60話記念ですし感想をたくさん…
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