お気に入り28件&通算UA2000越え&ルーキー日間ランキング38位…
色々とありがとうございます。これも皆様とストブラという作品のおかげですね(2回目)
今回から新キャラが出たのでプロローグの前にキャラ紹介を付け足しましたのでそちらも合わせてご覧いただけると嬉しいです。
人波を掻き分けながら爆発のあった方へと急ぐ紗矢華。
人波を抜けると辺りは驚くほど静かで、3人の吸血鬼が互いに眷獣を使い争っているところだった。
「獅子王機関の舞威媛よ、聖域条約に則っ─」紗矢華が最後通牒を言い渡そうとしたとき、3人の吸血鬼は一斉に眷獣の攻撃を紗矢華の方へと向けたのだった。
「はぐれ吸血鬼の眷獣くらい何体いても!」紗矢華が捨て台詞を吐きながら攻撃を避けようとした…が、眷獣は紗矢華の横を通り過ぎて行く。
後ろを振り向いた紗矢華が目にしたのは逃げ遅れた女の子へと殺到する眷獣達だった。
「ひっ…!!」迫り来る眷獣を見て悲鳴をあげる少女。
その悲鳴を掻き消すかのように爆音が轟く─
「大丈夫?怪我してない?」
「うん…」
煌華鱗の擬似空間断裂による盾で間一髪防ぐ紗矢華。
「お姉ちゃんは?」
「うーん、魔法少女…みたいなものかな?早く逃げて」
「魔法少女…」走り去る少女の背中を横目にブルーエリジアムでの結瞳との会話を思い出し、赤くなったのも束の間3人の吸血鬼が近づいてくる。
多対一の闘いに紗矢華の持つ煌華鱗の呪術砲台としての能力は最高の相性であると言えるが、街中ということもあり擬似空間断裂だけでどう切り抜けるか考えていた紗矢華にユニコーンと虎の眷獣が飛び込んでくる。
まともに相手をする必要もないため、少し距離を取って様子を見る。
やはり、前回と同じように暴走した吸血鬼は単調な攻撃しかしてこないようだ。
「それなら──」
前回のように魔力の増幅が起きても躱せるギリギリの距離から隙を見つつ斬撃を繰り返す。
人数で上回りながら、なかなか有効打を与えられないことに苛立ちを感じたのか残る1人の吸血鬼も鳥獣系の眷獣を出し、三次元的に紗矢華を包囲し攻撃の手を緩めることをしない。
「そろそろね」そう言うと、紗矢華は地面を走る2体の眷獣が自分を挟み一直線になったときに笑みを浮かべた。
足元に簡易的な呪術を使いスタングレネードのような閃光が当たりを照らす。
迫り来る眷獣をギリギリまで引き付けて躱し、斬撃を加えもう一体に丁度当たるように若干の軌道修正を入れる。
紗矢華の狙い通り2体の眷獣がぶつかり形を維持出来ずに消滅する。
「さて、あと1人ね」古城と二人の時間を潰された紗矢華はイライラしているのか普段より高圧的だ。
暴走する吸血鬼に言葉が通じるのか、はたまた仲間意識があるのかはよく分からないが、眷獣の魔力濃度がどんどん上がっていく。
「だから、なんなのよ!その無茶苦茶な魔力は」旧き世代でもない吸血鬼にはあるまじき魔力濃度を誇り、まだまだ力を増していく眷獣にさすがの紗矢華にも冷や汗が見える。
鳥獣系の眷獣が紗矢華を攻撃しようと膨らんだ時だった。
吸血鬼の身体が折れ曲がり、凄まじい音と魔力波を伴いながら爆散した──
「うっ…」咄嗟のことで身を守れなかった紗矢華は爆風をもろに食らってしまい辛うじて身体が動かせるかどうかだった。
「やはり旧き世代でもない限り龍脈からの魔力供給には耐えられない…か」
「誰?」意識が朦朧とする中声のした方を向く。そこには白いドレスのような服を着た凪沙と同じくらいの歳のツインテールの女の子が立っていた。
「ほう、あの爆発で生き残るどころか意識まであるなんて。人間風情の割にはなかなか強い身体をしているのね。さすがは獅子王機関の舞威媛といったところか」紗矢華に会話する余裕がないと判断したのか、1人で話しだす謎の少女。
「どうしてやろうかしら、身体中の血を啜ってやってもいいのだけれど生憎同性喰らいの趣味はないのよね」そう言いながらも歩み寄ってくる少女の前に紗矢華を守るような角度で大きな雷が落ちてくる。
「煌坂ぁ!」莫大な放電が終わり2人の間にはくたびれた白いパーカーを着た少年が立っていた。
「第四真祖か、元は人間らしいが噂に違わず馬鹿げた魔力ね」複雑な顔をしながら古城に向かってそう言う。
「誰なんだ、お前は、煌坂に怪我させたのはお前か」
「それしか言えないのか、お前達は。私がやったといえば私がやったことになるな」
「質問に答えろよ!」
「片方には答えてやっただろう、自分の女を傷つけられたくらいでそう怒るな。だが、第四真祖の肩書きに免じて名前くらいは教えてやろう。滅びの王朝の吸血鬼アシュラー・レイハーネだ」
「滅びの王朝…イブリスベールの国か。そんなやつが何しに来てるんだよ!」
「お前と語らうのも楽しそうだが、私にも色々とやることがあるのでな。時期、また会うことになる」
「おい、待てよ!まだ聞きたいことが!」古城の言葉には耳を傾けず黄金の霧となって消えていくレイハーネ。
「クソッ、煌坂!!大丈夫か!?」危険が去ったことを確認した古城は紗矢華の方へと駆け寄っていく。
「なんとかね、帰れって言ったのに…」
「心配するに決まってるだろ」
「心配…」古城の一言に満足した紗矢華は気を抜いたのか古城に寄りかかって寝てしまった。
「まったく…」安心した古城は特区警備隊が来ると面倒なので眠る紗矢華を背負い逃げるように立ち去っていく──
家に帰った古城はもう寝ている凪沙を起こさないよう自室の扉を開けベッドに紗矢華を横たえる。
「確か、滅びの王朝の吸血鬼とか言ってたよな…」浅葱に調べてもらおうと思った古城だったがさすがに深夜なので思いとどまり、自分のベッドですやすやと寝息をかきながら寝ている紗矢華を見てリビングへ向かいソファーに横たわった古城も緊張感が途切れすぐに寝てしまった──
「第四真祖に対抗するにはやはり最低でも貴族級の吸血鬼が必要か…」とあるビルの上に座り島を眺めながらレイハーネは1人そう呟くとまた霧になってどこかへ消えていった──
「古城くん、起きて。そんなところで寝てたら掃除の邪魔だよ!」
「悪い…起きる」凪沙のお小言によりいつもより早く目が覚めた古城は朝の支度をするついでに昨夜風呂に入れなかったことを思い出し、シャワーを浴びた。一通り支度が片付き凪沙の掃除の手伝いをした古城は紗矢華の様子を見に自室の扉を開けた。
と、同時に古城が声をかけるより早く枕が飛んでくる。
「うぉっ、危ね!なにするんだよ煌坂!」辛うじて枕を避けた古城が枕を投げた人物へと文句を言う。
「異性の部屋にノックもなしで入る変態真祖なんて死ねばいいのよ!」
「死ねはないだろ死ねは!ってか死にたくても死ねない身体なんだよこっちは!それに、自分の部屋なんだからノックなんてしないだろ普通!」
「問答無用!」近くにあった目覚まし時計を投げようと掴んだ紗矢華を見て慌てて取り押さえようとする古城だった…しかし─
「ち、近寄らないで!お風呂入ってないんだから!」紗矢華の叫びとともに死角からきた蹴りが綺麗に古城の鳩尾に入り古城は倒れてしまったのだった。そんな古城を気にもとめずゆっくりとシャワーを浴びた紗矢華がリビングに座り、3人で休みの日特有の遅めの朝食を食べ終わった頃、凪沙が寝転びながら古城に声をかけた。
「古城くんは今日何か予定あるの?」
「あー、ちょっと浅葱の所に行かないとな。あとは…煌坂なにかあるのか?」公務の予定は全く知らない古城は紗矢華の方に確認する。
「夕方から人工島管理公社との会議があるわよ…」さっきのことをまだ引きずっているのだろうが、一応必要なことには答えてくれる。ここは雪菜と違っていいところだ。
「だ、そうだ」
「浅葱ちゃんかー…晩御飯までに帰ってくるなら牛乳買っておいてくれる?あと、アイスも!」
「わかったよ」普段から凪沙におつかい(主にアイス)を頼まれた古城は浅葱の家に行く準備をしながら紗矢華の方を向いた。
「そういうことだ、オレは浅葱の家に向かうけど煌坂はどうする?」
「行くに決まってるでしょ、監視役なんだから」そう言って用意をした2人は凪沙の見送りで外へと出ていった。
世間は春休みとあって、外はなかなかに賑やかだった。
絃神島は常夏の島というだけあって、長期休暇の度にたくさんの人が外からやってくるいわゆるリゾート地である。
街のあらゆる所にホテルやレジャー施設を構え観光産業が活発なのだ。
人混みを鬱陶しそうにしながら2人はさっきの事もあり黙々と歩いていたが、耐えかねた古城が紗矢華に声をかけた。
「そういえば、煌坂の私服ってあんまり見たことなかったよな。なんか新鮮でいいな」
「えっ…、まあそうね。大体いつも制服だったし」古城の何気ない一言で紗矢華は機嫌を直したようだった。紗矢華は忘れがちだが身長も高く、スタイルもいいモデル顔負けの容姿のため、こないだの転校初日の制服姿といい普段と違う格好をされると妙に意識してしまう。
紗矢華に女を意識してしまった古城はタイミングを逃してしまいまた二人の間に沈黙が流れる。傍から見ればさながら付き合いたてのカップルのようだった。
そうこうしているうちに浅葱の家へと着いた古城は自分の失敗に気づいた。浅葱の家には休みの日ということもあり、両親がいる可能性があるのだ。この前のお見合いのこともあり気まずい古城はインターホンを押すことに少し躊躇する。
「押さないなら、私が押すわよ」もたもたする古城に痺れを切らした紗矢華がインターホンを押してしまい、中から浅葱が出てきた。
「こ、古城?どうしたの?」
「ちょっと調べてほしいことがあってさ」
「そう、とりあえず上がって?今日は誰もいないから」家に浅葱しかいないことを知り深く安堵する古城。
「で、なんであなたがいるわけ?」
「そ、それは私が古城の監視役だからよ!」
「古城…?」
「うっ!」いつもと違う呼び方をする紗矢華と浅葱の間に見えない火花が散った。
「まあ、いいわ。それで皇帝の古城様は何が知りたいわけ?」
「改めてそういうこと言うなよ、お前は…」
「わざわざ人工島管理公社じゃなくて私に調べさせるから気になっただけ」
「吸血鬼の暴走事件って知ってるか?最近よくニュースでもやってるやつ」
「知ってるわよ、昨日は被害者はいなかったらしいけど街で暴れたらしいじゃない、それで?」
「それに関係することなんだが、滅びの王朝の…えーとレイなんとかっていう吸血鬼のことを調べて欲しいんだ!」
「アシュラー・レイハーネ」見かねた紗矢華が大事な部分を引き継いだ。
意識が朦朧としていた人間より覚えが悪い古城に古城の学力の低さが垣間見得てしまった。
「はいはい、ちょっと待ってね…。これね、アシュラー家の当主みたいね。元は滅びの王朝の長老だった貴族の名家よ」
「ちょっと待て、だった?」
「そう、なんでもディミトリエ・ヴァトラーに先代の長老、レイハーネさんのお父さんは喰われたみたいね…」
「そうか、助かった浅葱。今度なんか奢る」そう言い残すと古城は外に走って行く。紗矢華も去り際にぺこりと頭を下げて古城の後に続く。
「なんなのよ、ほんと朝から」ひとり取り残された浅葱は不平をこぼした──
「ちょっと、待ちなさいよ!」なんとか古城に追いついた紗矢華が古城の肩を掴む。
「悪い、煌坂」
「いいけど、急に走り出さないでよ。どうしたの?」
「いや、滅びの王朝の貴族がこの島になにかしてくる理由があるか?ヴァトラーみたいな戦闘狂ならまだしも」
「確かに、それは分からないわね…」
「だから、知ってそうなやつに聞こうと思ってな」
「滅びの王朝の貴族に知り合いでもいるわけ?」
「多分その辺のラーメン屋にイブリスベールのやつがいるはずだ」
「イブリスベールって、滅びの王朝の第九王子の!?なんでそんな方と知り合いなのよ…」
「まあ、前に色々あってな。とりあえず手分けして探そう」そう言って絃神島中の主だったラーメン屋を2人で駆け回った古城達だったがイブリスベールを見つけることは叶わなかった。
「クソッ、前は簡単に見つかったのに…」
「あなたを信用した私がバカだったみたいね…」息を切らしながら何の成果も上げられず徒労感だけが募った2人は公園のベンチに座り込んだ。
「不本意だが、人工島管理公社を頼るか…」
「最初からそうしておけばいいじゃない!」無駄足に終わってしまった紗矢華はイライラしている。
「それだと、皇帝だのなんだのって事件から遠ざけられかねないからな…」
「それなら大丈夫よ、あの吸血鬼にはあなたの第四真祖としての力が必要よ。多分あの暴走させられた吸血鬼が大量に攻めてきたらあなた以外に戦える人はこの国にいないもの」
「なら、いいんだけどな」
「よくないわよ!それだけあの吸血鬼が危険ってことでしょう!」
「わかったから、怒るなよ煌坂。行くとこも決まったんだし早く行こうぜ」
「ほんっとあなたといるとろくなことがないんだけど!」そう言いながらも古城が歩き始めると隣をついてくる紗矢華に心の中で感謝しつつ道を急ぐ古城だった──
もう少し1話の分量を多くしてほしいとの声を感想にていただいたので結構頑張って増やしてみましたがどうでしょうか。
ご意見ご要望等あれば、またお願いします^^*
さて、余談ですが
今回初のオリキャラのアシュラー・レイハーネという吸血鬼が登場しました。滅びの王朝は中東に位置する夜の帝国なので名前も中東に実際にある名前を使ったのですが(意味は 気高き花)
色々と調べる過程で中東の名前には
【本人の名】+【父の名】+【父の父の名】+【父の父の父の名】+【父の父の父の・・・】+…【氏族名】
という決まりが存在するんだとか…名前考える時にこれを知った時は絶句してちゃっかり無視してしまいました。