お互いの名を忘れた兄と妹の不思議な出来事が、今始まる。
いや全然始まらないけどね。
気が付けば見知らぬ場所に、妹と居た。
妹の名前は...知らない。けれど、隣にいるのは血を分けた妹だと分かる。
妹も俺と同様だった。
気が付くと此処に居て、俺が兄だと分かるけれど俺の名前は知らないようだ。
室内の様で、それ程明るいとは言えないが人の顔は十分に見える明るさだ。
此処は...どうやら映画館の中の様だ。
俺が居る周りには沢山の客席があり、後ろに振り返れば大きなスクリーンがあった。
どうやらこの場所には見覚えはある。
けれど、何処で見たのか分からない。
どうしていいものかと考え。取り敢えず、俺の隣にいる妹に話しかけてみた。
「妹よ。俺は自分の名前を知らないがお前の兄だ。しかし名前は知らない。お前はどうだ?」
すると、妹は苦虫を潰したような表情で返してきた。
「私も兄さんの名前は知らないし、自分の名前も知らない。でも兄さんが私の兄さんであることは分かる」
俺も妹と同じく苦笑いをする。
変な気分だ。隣にいるのが妹だと確かに分かるのに名前は知らない。
お互いに、其れっぽい名前を出し合ったがしっくりくるのは出なかった。
「もしかしたら私達は何処かの誰かに攫われて、それでもって人体実験とかされて記憶を奪われ、今も誰かに監視されている...とか」
「いや俺は人体実験よりも生贄に捧げられるべく育てられた方向で考慮する。記憶が奪われたのなら違和感がある。だが、俺とお前に違和感はない。其れならば、俺達は此処に現れるであろう何かに喰われてしまう...とか」
「あ、在り得る」
「だろ」
こう言う会話が出来ているあたり、やはり妹であると実感する。
俺と妹はさほど歳が離れているようには見えない。
精々離れていても2つか3つ辺りであろう。
「ところで...どうして私達は制服を着てるんだろう?」
妹が気が付いたことで俺も自分が制服を着用していることに気が付いた。
「もしかして、、、ディ」
「それ以上は言ってはいけない、妹よ」
妹が何か危険な事を言っている気がしたので制止した。間違ってはいない筈だ。
俺は、学ラン...と言う制服だ。
実際に着たことがあるのか不安になるが、知ってはいる辺り着たことがあるのであろう。多分。
「妹よ。お前のその服装は何だ?何処の海兵だ」
「兄者知らないのか。これは今流行りのセーラー服という制服だよ」
両手でスカートの襟を摘みドヤ顔を決める妹。
その表情に若干イラッとしたが。まあ許そう。何故なら俺の妹だからだ。
ここで、俺達の状況を確認した。
「まず俺とお前は兄妹であることに間違いはない」
「姉弟である可能性は」
「ないな。俺が兄でお前が妹だ」
「その根拠とは?」
妹の問いに、今度は俺がどや顔で答える。
「勘だ。獣の勘と言うのは大体当たっている。人間も獣みたいなものだ。だから当たっている」
「何となくだけど兄上の勘は何よりも信じられる気がする」
恐らく血を分けている肉親に対して、あまり信頼性が感じられない。
俺は確かに妹の兄...のはずだ。
「兎に角この場所が映画館の中だと一目でわかる。だが、それだけでは足りない」
「何が足りないの?」
妹は気付いてはいない。
この映画館は、確かに何処からどう見ても映画館の中だ。
だが...
「入り口が無いだろう」
「あ...確かに」
何処を見ても扉...入口兼出口が存在していない。
そんな映画館があってたまるか。
そもそも、態々映画館まで出向いて大画面で映像を見て楽しむというのに。
それが出来ないというのならば、それはもうただの一個とした空間に過ぎない。
壁を伝い、何処かに隙間か何かを探していたその時だった。
「兄さん。アレが動いてる!」
妹が指をさすアレ、とはプロジェクターの事だろう。
確かに動いている。
そしてプロジェクターが動き出したのと同時に、シアター内の照明が少しづつ暗くなっていく。
スクリーンに映る映像に、俺は見覚えがあった。
いや...ある。間違いなく見覚えはある。
どうして映像になっているのか理解が出来ない。
理解するよりも先に、俺の手は妹の手を取ってシアター内を走っていた。
「兄さんどうしたの?」
その問いに答えるよりも先に、俺は出口のない入り口を求めた。
扉は無い。入り口も出口もない。
だがどうやって俺と妹は此処に居た。
居たのならばどこかにある筈の出口を探す。
俺の勘が言っている。
妹に、あの映像を見せては駄目だと。
壁を叩き、反響音で出口を探るが効果は無し。
「このままじゃ映画が始まってしまう...」
「兄さん一体どうしたの。何を急いているの?」
冷静な妹とは逆に俺の心臓はこれ以上なく高ぶっている。
「(俺は知っているんだ。この手を離せば、妹は何処かへ連れて行かれてしまう事に)」
だがそれを妹に言って、この状況を如何しろというのだろうか。
無意味だ。そんなことを言ってしまえば妹は間違いなく消える。
怖い。連れて行かれるのがこれ以上なく怖い。
それが妹であるならば尚更だ。
照明が更に落とされ、間もなく上映開始となる。
掴んでいた妹の手はすり抜け、身体が光と化しスクリーンへと吸い込まれるかのように引き寄せられていく。
「ヴェェェェェェェェ?!」
「妹ぉぉぉぉぉぉ!!!」
妹を追いかけて、スクリーンに飛び込もうとしていた俺が思った事は2つ。
1つは、もっとましなの無かったの?と。
2つ目は...妹を助けてくれる正義の味方の名前だった。
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「...と、まあ山あり谷あり針金ありの冒険を潜り抜けた先にはなんと。俺達のヒーローさんが石像になっているではありませんか。そこで妹は「兄者見て見て、仮面ライダーが石になってる!」と死亡フラグを建てる勢いで突っ走り死にかけるかと思われたが、妹はクリティカルの幸運を見せ。何故か俺が死にかけてた所、やはり妹が「名前も知らない兄だけど、確かに私の兄だと言ってくれた兄さんを助けて!」と叫ぶと、仮面ライダーの石像は砕けて超絶カッコいいスクリューキックと共に俺を助けてくれたんだよね。で、そこからかっこいい仮面ライダーからかっこいい礼を言われて、妹が感動してたら敵が」
「もういい大体分かった」
「何言ってんのお前。ここからが本気だからな」
「まだ続くのか...」
半分は嘘混じってるけどね。
俺と話をしているのは勿論妹ではない。
こんなのが妹だとしたら俺は今頃発狂している。
「お前今、俺の事何か言ったろ」
「バンンボドババ
「お前それ態とだろ...」
強烈な光の先に待っていたのは、黒く染まった荒れ地だった。
俺は急いで妹を探した。
すると、案外近くに見つかったので本当に良かった。
見つかったのは良かったのだが、如何せん妹は何かに追いかけれれている真っ最中だった。
怪人...なのかもしれないが、なんの生物をベースにしたのか分からなかった。
だがその怪人はとても派手な色をしていた。
何というか、身体が黄金で輝いてたんだもの。
すごかった。本当にインパクト強かった。
肝心な妹だが、探しに来た俺に気が付いて走って来るまでは感動的だった。
だが、お前の後ろは駄目だ。
何を連れて来てるのかと思えばSAN値チェックが入るかと思った。
猫、犬、鳥、いや違う。
あ、あれは怪人じゃないか???!
妹が俺の元へ走ってくる前に、俺も走った。
だって妹の後ろの奴怖すぎだ。
なんの阿鼻叫喚地獄だよ、と今なら言える。
ルラギッタノディスカー!とか聞こえるわ。オンドゥルーーー!!!とかいう泣き声は聞こえるわで散々な鬼ごっこを繰り広げ、遂に決着の時は来た。
そりゃあね、怪人と恐らく一般高校生であろう俺達の体力の差はおかしい。
なんだよあいつ怪人かよ。うん怪人だね。
酸素を求める時間さえもその怪人は与えず、俺はそいつの蹴りで吹っ飛ばされ。妹はじりじりと追い詰められていく。
俺は口から火が出るかと思うほど身体が熱かった。
身体が動かなくても声は出た。妹に、逃げろと。
でも分かってる。
逃げろって言われて、妹は逃げれないことに。
それが悔しくて、目頭が熱くなった。
肝心な時にどうして俺の身体は動かないのか。
怪人の手が、妹に差し迫った時、俺は全身全霊で叫んだ。
「俺の妹に手を出すなーーー!!!」
血が逆流したのが分かるくらい口が鉄の味で満たされる。
目から出る海水で視界は歪んで見える。
けれど、俺の全身全霊を賭けた声は正義の味方にちゃんと届いていた。
妹の背後にあったのは岩に見えたけど、岩じゃなかった。
その岩が光に突き破られ、中からかっこよく登場したんだ。
俺と妹のヒーローが。
その名も、仮面ライダー。