環境デッキ使いたちのデュエル録   作:典型的凡夫

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 一風変わって、今回の話は1人称としました。元となったデュエルは10月頭のもので、3戦目のみになります。
 なお決闘者の片方が扱う【墓守】。この時点ではどう考えても環境ではありませんが、そこはご容赦ください。


外野の感想「意識変革」

 ガチ勢? あんなの所詮、デッキが強いだけだろ。

 

 いつだったか、誰かがそんな発言をした覚えがある。

 正確な台詞は覚えていない。けれど、ニュアンスは間違っていないだろう。負け惜しみとも取れる台詞が、どこか小馬鹿にしたような口調で紡がれたことは確かだ。

 

 実際、大会に入賞するような連中の扱うデッキは本当に強い。異常な回りを指して時にソリティアなんて言われるプレイングが出てくる始末で、禁止・制限改定が来れば大抵が規制されてしまうほど。その強さは正しく別次元だ。

 でもそれは裏を返せば、そのままだとゲームバランスを崩壊させると判断されているということで。規制されていないのは、ただ単に発売して間もないからに過ぎない。

 言ってしまえば、違反ギリギリ。”壊れ”とまで呼ばれるカードを使えば勝てるのは当然と、そう考える人が生じるのも自然な成り行きだろう。

 

 それに大会のデッキタイプや構築は似通ったものばかりだ。上位を占めるデッキの種類は多くても精々5つ、場合によっては僅か1、2種類になってしまう。そのくせ、構築も9割型変わらない。

 

 勿論、それが強さや安定性を求めてのこととは理解できる。同じものを目指せば、きっと誰もが近しい物を作り上げることになるのだろう。

 でも、そこまで同じというのなら。大会での勝利ってやつは単なる運じゃないのか。そんな思いは少なからず持っていて。

 だからこそ、その言葉を別段否定しはしなかった。

 

 けれど、どうやらそれだけじゃなかったらしい。

 

 昼のうだるような暑さが消え失せ、夜は日に日に冷え込むようになってきた秋の半ば。遊戯王というカードゲームの見方がほんの少し変わったのは、そんな季節のことだ。

 

 

 足を運んだカードショップで、目当てのカードを購入したその後。何の気なしにデュエルスペースへ目を向けると、そこら一帯がいつもと少し違う雰囲気をまとっていることに気付いた。

 テーブルは半分以上が空いていて、けれど閑散としているわけでもなく。1つのデュエルに幾人も群がっているのがその理由だろう。

 

 どちらか片方だけなら普通の光景でしかないけど、両方となるとやや珍しい。外野だけを合わせて4人も居れば、大抵は別れてデュエルするんじゃないだろうか。

 勿論、身内で固まっていればそんなこともある。別に驚くようなことじゃない。それでも興味を引かれるには十分で、物は試しと足を向けた。

 

「すいません、ここでは何を?」

「ん……? ああ、私たちは観戦してるだけですよ」

 

 私服ながらパリッとした服装。そんな格好からして、ひょっとすると既に社会人なんだろうか。

 不躾な質問になったかと思ったものの、それほどでもなかったらしい。気を悪くすることなく、1番近いその人が快く答えてくれた。

 

 曰く今はマッチの最中で、対戦カードは【墓守】と【征竜】。1戦目は後攻となった【墓守】が《ブラック・ホール》から《王家の眠る谷-ネクロバレー》を発動し、そのまま【征竜】を封殺。2戦目は【征竜】が《王宮のお触れ》から1ショットを決めたとのこと。これから3戦目を行うそうだ。

 

 そして話によれば少なくとも片方、手前に居る人はそれなりのプレイヤーらしい。環境への探り入れやプレイングの勉強、単純な興味からか、始める段になって人が増えたんだとか。

 イマイチ理解が及ばないけど、それほどの何かがあるんだろうか。

 

「先攻貰います」

「了解です」

 

 話を聞いているうちに、彼らもサイドチェンジからデッキカットまでを終えたらしい。

 これも良い機会かもしれない。最後の1戦、環境とやらの片鱗だけでも、生で拝ませてもらおう。

 

「ネクロバレー発動。4伏せエンドです」

 

 さっき流れを聞いた時にも挙がった《王家の眠る谷-ネクロバレー》。墓守の攻守を500上げるフィールド魔法だけど、そこはむしろおまけだ。

 その本領は墓地のカードに効果が及ぶ魔法・罠・効果モンスターの効果の無効化と、墓地のカードの除外封じ。つまり《死者蘇生》を発動しても無効になり、開闢のようなカードは特殊召喚自体できない。結構な種類のデッキに刺さる嫌らしいカードだ。

 

 しかもそれでいて、更に4枚もの伏せカードがある。欲を言えばモンスターが欲しいところだけど、メタビの系列ならそれは大した問題じゃない筈。完璧と言っても良いような布陣だ。

 

 でも、覗きこんだ【征竜】使いの初手はもしかすると【墓守】以上。こっちはこっちで他の罠を全て無効にする永続罠、《王宮のお触れ》を手にしていた。それも2枚も。

 正直言って、その引きには呆れるしかない。いつもこうとは限らないにしても、純粋に羨ましい。

 

「メイン入ります。《七星の宝刀》発動、コストは《瀑征竜-タイダル》」

「どうぞ」

「では2枚ドロー。タイダル効果、《幻水龍》を手札に」

 

 レベル7モンスターの除外をコストに、【征竜】側が宝刀で2枚ドローする。

 普通なら等価交換だけど除外が少し痛いというイメージ。でも【征竜】が使った場合はとんでもないことに手札が増える。そういう効果とはいえ、ズルいって言われるのも無理はない。

 

 その後に《幻水龍》が選ばれたのは、対となる《幻木龍》を引いたからだろう。《幻水龍》は地属性が居る時に特殊召喚できるレベル8で、《幻木龍》はレベルを水属性に合わせられる下級モンスター。この2枚で苦もなくランク8のエクシーズを作ってしまう優れ物だ。

 更に手札にあるのはお触れ。その後にランク8を出せば、すぐに【征竜】の勝利が決まってもおかしくない。

 

「《竜の霊廟》発動。《ガード・オブ・フレムベル》と《巌征竜-レドックス》を墓地へ。2枚伏せてエンドです」

「エンドフェイズ《サイクロン》、対象は向かって左で」

「ではお触れ破壊、と」

 

 2枚とも伏せたのを不思議に思ったのもつかの間。常識とも言えるエンドサイクにより、片方が速攻で破壊された。

 流石にここで相手が《大嵐》を撃ってくることはないだろうし、結果的には確かに正解だった。でも、お触れを2枚伏せたところで結局は1枚しか使えない。果たして両方とも伏せる必要はあったんだろうか。

 

「今のは【征竜】が渓谷型だからですよ」

 

 思案していると、横から控えめな声がかかる。声の主はさっきの親切な人だ。

 けいこく。まさか制限カードの《神の警告》じゃあるまいし、フィールド魔法《竜の渓谷》のことだろう。でも、それとお触れ2枚伏せとに何の関係があるのかわからない。

 未だに謎が解けないことを察したのか、その人は更に解説を続けてくれた。

 

「お互いにフィールド魔法を使う場合、張替えに注意しなければなりません。下手に先に出すとカード消費なしに破壊されますから」

「確かに、そうですね」

「それでも相手は先撃ちしてきた。となると手札に2枚目、もしくは伏せに張替えを防ぐサイクがあるということです」

 

 だから1枚じゃ通らない可能性が高い、か。成程、確かに聞けば納得できる。反論の余地もない。

 けれど、そもそもそこまで考えていることが驚きだ。開始して僅か2ターン。表立った動きはネクロバレーを張っただけなのに、そんな駆け引きが行われていたなんて。

 

「勿論場合によりけりですが、この対戦カードならほぼ間違いありません。またここでエンドサイクということは……いえ、やはり外野が憶測で先を語るのはやめておきましょう」

 

 続きも気になるけど、いずれわかることなのかもしれない。とりあえずは進行中のデュエルに集中するほうが良さそうだ。

 

 会話をしている間に【墓守】は伏せを追加してターンを終了していた。再び伏せ4のハンド1。未だにモンスターを引けないらしい。

 対する【征竜】はこのドローで手札が5枚になる。向こうのガン伏せとは対照的だ。

 

「スタンバイ、お触れ発動」

「チェーンサイクで」

「サイクは通しで。考えます」

 

 2枚目のお触れに対して2枚目のサイク……何だそりゃ。開幕からこれじゃあ、一体何回潰し合うことになるんだか。

 でも流石にこうなると【墓守】が有利だろう。何をするにしても、【征竜】はネクロバレーに加えて3枚の伏せカードを乗り越えなくちゃいけない。お触れが2枚もなくなって1枚ずつ確実にってことになったら、あれだけ罠を伏せているほうが強い筈だ。

 

「あ。もしかしてこれがさっき言いかけた?」

「ええ、そうです。自らサイクを使ってきたことで、もう1枚ある可能性も出てきました」

 

 【墓守】側のサイクはフィールド魔法を守り、お触れを破壊するためのもの。それを見えない伏せに対して使ってきたなら何かあるに違いない、と。

 つまりここまでは織り込み済みということか。でもそうなると……。

 

「何に悩んでるんでしょうね」

「うーん……これは何とも言えませんね」

 

 この人でもわからないことはあるのか。まあ、当然と言えば当然だけど。

 後ろからで顔が直接見えるわけじゃないけど、どうも目線は手札と相手フィールドを行ったり来たりしている感じだ。

 そうは言っても手札は幻木、幻水、霊廟、《死者蘇生》に、引き入れた《嵐征竜-テンペスト》。考えることと言えば、木水を使うかどうかくらいしか思い付かない。

 

 いや、待てよ。ネクロバレーがあっても、墓地のカードの効果を発動することはできるんだった。なら少し無理矢理だけど、墓地の征竜を特殊召喚することもできるのか。でも後が続かないし、それはあまりにも微妙な気がする。

 もしタイダルでタイダルをサーチしていれば、また話は違ったんだろうけど。あの時はテンペストが手札になかったんだから仕方ない。

 

 そうして1分は軽く超えただろうか。それでも結局大した答えが見つからないうちに、当の本人が動き出した。

 

「《幻木龍》召喚」

「エクシーズまでどうぞ」

「では幻水守備でフェルグラント」

「召喚時に強制脱出」

「フェルグラ効果、対象は自身」

「チェーン奈落で」

 

 結局【征竜】はエクシーズに踏み切ったけど、結果は通らず。ランク8の《神竜騎士フェルグラント》は《奈落の落とし穴》で除外され、お互いにカードを消費しただけで終わった。

 

 他のカードの効果を受けなくさせる誘発即時効果持ち、つまり1枚なら罠を無視できるフェルグラならと出てきた時は思っていたんだけど。3枚のバックはそこまで甘くなかったみたいだ。

 それでも、2枚のカードを使わせたのはせめてもの救いに思う。これが全てのモンスターを破壊する《激流葬》とか、召喚を無効にする《神の警告》だったら1枚で潰されていた。それじゃ一方的なアド損だし、そうならなかっただけまだマシなのかな。

 

「霊廟発動。フレムベルと《焔征竜-ブラスター》を墓地へ送ってエンドです」

「ドローします。2枚伏せてエンド」

 

 延々と攻め手を潰されている【征竜】に対して、【墓守】は【墓守】で未だにモンスターが引けない。

 ここで引いてくれば【墓守】の流れになったかもしれないけど。流石にこれじゃあ、まだどっちが優勢とは言えそうにない。

 

 あれ? でもこれって何かおかしいような。

 

「片方は元から握ってたカードですよね? なんで今になって伏せたんでしょう」

 

 確かに5伏せすると引いてきた魔法が使えなくて困るってことはある。でもさっきはバックの中にサイクがあって、【征竜】にも伏せがあった。どうしてもって時はサイクを使えば済んでしまう。

 手札に残すと言えば《大嵐》警戒だけど、それなら伏せる数はもっと少なくなる。どっちにしても妙な話だ。

 

「そうですね……伏せなかった理由を挙げるなら、単に5枚目を不要とした、マイクラを引いた時用にハンドの確保、ネクロバレーと誤解させて渓谷を牽制など、色々と考えられます」

「そんなにですか」

「とはいえ、ここで伏せたのは1枚追加しただけでは心許ないからでしょう。例えばあの中の1枚が汎用除去でなく、《ソウルドレイン》なのかもしれません」

 

 うーん、皆色々と考えているんだな。

 それにしても《ソウルドレイン》か。墓地・除外ゾーンのモンスター効果の発動を封じる永続罠なんて、【征竜】には天敵みたいなものだろう。もしあの中にそれがあったら、ネクロバレーよりも厄介な筈だ。最悪サイクや渓谷を引いても勝てなくなる。

 

 話している間に、回ってきた【征竜】のターンは終わっていた。今回は特別早いけど、何もしてないんだから当然と言えば当然だ。

 引いてきたのは《D・(ディファレント・)D・(ディメンション・)(リバイバル)》。除外されているモンスターを特殊召喚するカードだから、ネクロバレーには引っかからない。使えるって意味で今は《死者蘇生》よりマシだろう。

 でも今その対象になるのはタイダルと、素材のないフェルグラ。出す意味なんてほとんどない。それに発動するには手札コストが必要で、はっきり言ってこの状況だと微妙だ。そのままエンドするのも仕方ない。

 

 それにしても、話に聞いた1、2戦目から一転して随分と地味な戦いになっている。未だお互いにノーダメージだし、出てきた木水とそのエクシーズも居なかったようなもの。こんな戦いになるなんて完全に予想外だ。

 

「ドローします。お、やっと来たか。《墓守の末裔》召喚」

 

 デッキが空気を読んだってわけじゃないだろうけど、漸く向こうもモンスターを引いたようだ。当然、迷うことなく召喚してくる。

 ネクロバレーで500上がるから、その攻撃力は2000。4回ダイレクトアタックされれば、こっちのライフは0になる。

 

「バトル入ってダイレクト」

「通ります」

 

 お互いに電卓へ数値を打ち込む。そう言えば別々に用意しているけど、確認用なんだろうか。

 とにかく、これで【征竜】のライフは残り6000。一応まだ余裕はあるけど、まず壁を出せないんだから相手ターンで数えるともって3ターン。【征竜】の罠なんて《異次元からの帰還》くらいだろうし、それ以上は無理に決まっている。

 

 そして手札のない【墓守】は勿論、そのままターンを終了する。それ以外にないわけだけど、これで均衡が崩れたのは確かだ。

 

 フェルグラがあっさり除去されて以降、【征竜】のフィールドは空のまま。手札はテンペストと《D・D・R》、そして今は使えない蘇生しかない。

 対する【墓守】はネクロバレーと末裔に、3枚の伏せカードを残している。たとえ手札がなくても、フィールドアド、カードアドともに向こうが優勢だ。

 

 それに末裔が召喚されたことで、このまま行けば【征竜】のライフはいずれ尽きてしまう。こっちに残された機会は最大で3ターン分、向こうのドロー次第ではそれよりも少なくなる。

 流石にこれはどうにかして打って出るしかない。遅くても今から来るターンの次には動かないとダメだろう。

 

 絶望と隣り合わせ。そんな状況で目にした【征竜】のドローは考えられる限りで最高のものだった。フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する《大嵐》。現状を打破するのにこれ以上のカードはない。

 

 まったく、本当にふざけた運命力だ。羨ましいだとか妬ましいだとか思うより、ここまで来ると呆れてしまう。

 

 ともかく、これでネクロバレー共々バックを破壊。そうすれば墓地のブラスターやレドックス、手札の《死者蘇生》が使えるようになり、形勢を一気に逆転できる。

 いや、それどころか勝ち確と言っても良いかもしれない。そこからもう1度ひっくり返すなんて【墓守】にはできない筈だ。

 

 だから当然《大嵐》を発動して、相手の全てを無に帰す――――

 

「このままエンドで」

 

――――は?

 

 声に出さなかったことを褒めて欲しい。いや、実際は驚き過ぎて声にならなかっただけのことだけど。

 だってそうだろう? ここまで苦しんで苦しんで、漸く手にした希望。《大嵐》はそんな待望のカードじゃないのか。一体何をどうしたら動かないなんて選択肢が出てくるんだ。

 

 思わず隣に目を向ける。けれど1人はこっちに気付いても苦笑するだけで、もう1人は同じように困惑しているようだ。

 答えをくれそうな人は居ない。だからと言って考えたところで、答えなんて出やしない。

 

 そうして戸惑っている間も、デュエルの進行は止まらなかった。

 

「バトル入ります。末裔で攻撃」

「通ります」

「では更にマイナス2000、と」

 

 これでライフは4000。後2回攻撃を受ければ負ける。ここで待つなんて悠長なことをしている暇があるのか。いや、そもそも待つって何を待つんだ。

 

 あえて、そう、あえて言うなら、《神の宣告》や《スターライト・ロード》を意識したって考えることはできる。

 確かにここで《大嵐》を無効にされたら、再び一転して敗色濃厚。とてつもなく危険だし、警戒するのもわからなくはない。

 でもそんなの、エスパーじゃあるまいし、まさかサイクで撃ちぬくわけじゃないだろう。既に伏せてあったらどうにもならない筈だ。

 

 仮に3枚目のお触れを引けば何とかなるかもしれないけど、残り1枚じゃ話にならない。

 それ以前にもう1回相手にターンを回したら、適当なモンスターを引かれただけで終わる。お触れを伏せて次のターンじゃ間に合わないかもしれないんだ。いくら何でも、賭けるにしたってもう少しマシな手があるだろう。

 

 それに――――

 

「メイン2。1枚伏せてエンドです」

 

 相手にターンを回せば、こうして伏せが増える。それはつまり《大嵐》を止められる可能性が増すってことだ。

 待てば待つほど、状況はどんどん悪化していく。それなのに、どうして。

 

「ドロー」

 

 疑問は募るばかり。こっちのそんな気も知らずに、やっぱりデュエルは進んでいく。

 何を引いたのか見ていなかったけど、結局【征竜】はどうする積もりなんだろう。検討もつかない。

 

「メイン入ります。《竜の渓谷》発動」

「神宣で」

 

――――あ。

 

 《神の宣告》は「魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する」という効果を持つ、万能とも言えるカード。ライフの半分というコストは一見重いけど、その効果はこれを補って余りある。

 何しろカードの種類を問わず無効にできるんだから、その強さは誰もが認めるところ。今だって《竜の渓谷》を無効にして、ネクロバレーを維持した。これでまだ【征竜】が大きく動けない状態を保ったことになる。

 

 でも、このカードは制限カード。1枚使えばそれっきりだ。

 つまり”次”はない。

 

「では《大嵐》発動します」

「ぁー……っと、ありがとうございました」

 

 大きく息を吐いて、それから降参の意を示す。と同時にさっきまでの張り詰めた緊張感は薄れていった。

 

 結果だけを見れば、間違いなくこれは《大嵐》ゲーだろう。構築だってほとんどテンプレみたいなものだろうし、細かい駆け引きなんて最終的にはあってなかったようなもの。結局は《大嵐》が通ったから勝った。ただそれだけのことだ。

 

 でも、《大嵐》を”通した”。それは絶対に運頼みなんかじゃない。

 

「……にしても、最後のは流石ですね。これなら神宣使わないほうがマシだったかな」

「そうですね、《ソウルドレイン》が怖いですし。ちなみに残りの伏せは? こちらはテンペスト、《D・D・R》、蘇生ですが」

「奈落、脱出、激流ですね」

「そうなると、結果的にはSinサイエン引きくらいかと。渓谷張った後ブラスターに蘇生使ったとして、そこで激流はありませんよね?」

「確かに撃ちませんね。……ん、んん? ってことは位置までバレてる!?」

 

 反省会のようなものなんだろう。会話は成り立っているみたいだけど、ついていけやしない。お互いだけが納得し合えるその様は、まるで禅問答だ。

 

 その内容が気にならないと言えば嘘だけど、とりあえずそれは置いておこう。聞いてみるにしても、まずはあの《大嵐》が先だ。

 

「すいません。さっきのデュエルについて聞いても良いですか?」

 

 

 色々と聞いてみた結果。これまで思っていたよりも、あの人たちのデュエルはずっと深いものだと実感した。

 

 何と言っても驚いたのは、真っ先に聞いたあの《大嵐》。お触れにチェーンしてサイクを撃ってきたことから神宣を考えていたなんて、予想外にも程がある。

 

 奈落や強制脱出を使うならサイクはその時で済む。言われてみれば確かにその通り。油断してエネアードを出してくれれば奈落に落とせるし、そのほうが良いだろう。

 それでもチェーンしてきたってことはそうする必要があったってこと。サイクを合わせられないとなれば、まず間違いなくカウンター罠だ。これで神宣を考慮に入れるのは何もおかしな話じゃない。

 

 ただ、【征竜】が本当に凄いのはここから。3伏せに対して木水のフェルグラを選択した真の意図だ。

 

 例えば3枚の内容が神宣、奈落、《ソウルドレイン》の場合、【墓守】はフェルグラに対して神宣を使うしかない。

 つまりエクシーズを止められない上で神宣以外の除去が1枚なら、最も厄介な神宣を”使わせる”ことができる。まずはこれが1つ。

 

 そしてもう1つ。今回みたいに2枚の除去を使われたなら、カードの判定ができる。フェルグラに使ってこなかったんだから、1枚で済ませられる神警じゃないのは間違いない。その上でカウンター罠だって言うなら、もう神宣だ。

 更に3枚のうち2枚がなくなれば、言うまでもなく残りは1枚。だから【征竜】はあの時、神宣のことを知っていた。存在だけじゃなく、場所までもしっかり。

 それはつまり、もしも最後に渓谷じゃなくサイクを引いてきたら、神宣を撃ちぬいていたってこと。まさかそんなことができるなんて、思いもよらなかった。

 

 今までしてきた、見てきたデュエルとは違う、新しい何か。そんな未知のものがそこにはあった。じゃあ何が違うのかと言えば、多分、この人たちは相手を見ているんだ。今だってそう。

 

「テンペスト、ブラスター、フェルグラの順に攻撃します」

「ありがとうございました。……しかし、かかしがバレると微妙なカードになったとは。今期はフェーダーのほうが良いですかね?」

 

 伏せカードや手札、構築や次に取る行動にまで意識を向ける。デッキを作る段階から既に行っているそれが、きっと最も大きな違いだ。

 

 時に一方的にぶん回し、けれどソリティアには程遠い。勝利を追求するこの人たちは、誰よりも相手のことを考えている。デッキ以上に相手を見据えて戦っている。

 知識だけでも、経験だけでも、ましてや運だけでもない。それら全てを使って、ただただ真剣に対人戦を楽しむ。そんなデュエルの形を教えてくれた彼らもまた、間違いなくデュエリストだった。

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