FGO マシュズ・リポート ~うちのマスターがこんなに変~   作:葉川柚介

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第2章の記録 ローマサツバツ都市国家

「うむ! うむうむ! 何者かはわからぬが、助太刀に感謝するぞ! その方ら、いずこの者だ? 名乗るが良い。我がローマを救ってくれたのだ、盛大な報酬をもって報いようぞ!」

「通りすがりのカルデアマスターです。覚えておいてください!」

「先輩、それでは通じません」

「時の列車に乗ってきましたって言えばいい?」

「その説明に含まれるあらゆる概念がこの時代に存在しないのでなお通じないと思います」

 

 ローマの地からこんにちは。マシュ・キリエライトです。

 今日も今日とて私たちカルデア一行は人理修復に挑み、先日のオルレアンに続く第二の特異点、古代ローマにやってきました。

 時代にして、1世紀のころ。ローマ帝国においては第五代皇帝、ネロ・クラウディウスが華の帝政を敷いていた時代のことです。

 この国もまた、後の歴史に与えた影響は極めて大。もしもその存在が揺さぶられるようなことがあれば、人類史の崩壊は避けられないことでしょう。

 そのため、我々はまたしてもこの地の歴史を、人を守りつつ、聖杯探索を行わなければなりません。

 

「私たちが探し求めているのは聖杯と呼ばれる……そうですね、魔術の道具と思ってください。おそらくそれを持つ者がローマを脅かしていると思われます」

「ふむ、そういうことであったか。聖杯とやらの仕業とは……やはりあやつら迫害しておくべきか」

「あの、陛下、そのあたりは穏便に……」

 

 現状から考えるに、一番の近道はこの時代を生きるローマ皇帝、ネロその人への協力でしょう。明らかに異常な軍が当代ローマ軍を攻撃していたということは、ネロ陛下が戦っていた敵こそが聖杯を手にし、人理焼却を遂げんとするレフ教授の一派と思って間違いないでしょうから。

 

「では詳しい話はあとにするか。余の、ローマの危機を救ってくれたのだ。相応しい褒美を与えねば気が済まん! ……あいにくと今は彼奴ら連合ローマ帝国の魔の手もあって往時ほどの絢爛豪華とはいかぬが、世界一の都、ローマの栄華をまずは堪能するが良い。テルマエもいいぞ。最近優秀な技師を召し抱えてな、我がローマの浴場はざっと60年分は進化したとみてよいだろう! のう、ルシウス!」

「は、陛下のおっしゃる通りで。……むむぅ、皇帝ネロといえば、ハドリアヌス様よりはるか昔のローマ皇帝。それにあの客人はどう見ても平たい顔族……今度はどこへ来てしまったのだ? いや、ローマであることは間違いないのだが」

 

 というわけで、ネロさんからの歓待も受けつつ状況の把握とかその辺に努めました。

 ルシウスさんなる技師さんが設計したというローマ式浴場、テルマエはネロさんが自慢するだけあって本当に気持ちがよかったです。

 

 

 その後もいろいろありました。

 エトナ火山に向かって召喚サークルを設置したり。

 

「先輩? なぜローマから持ってきた林檎を火口に投げ入れようとするんですか!? また変な幻想種が湧いてきそうだからやめてください!」

 

 サーヴァント以外の者を呼び出そうとする先輩をがんばって止めたり。

 

「ほほう、馬に乗らぬと思えばなんだその……馬? のようなものは。いや、むしろ戦車か? 馬のいない戦車なのか!?」

『あー、いい感じに勘違いされてるなあ。もうそれでいいよな、マスター?』

「その礼装気に入ったみたいですね、先輩」

 

 ガリア遠征の足として、先輩は情け容赦なくフランスでも使った礼装を引っ張ってきたり。時代に全くそぐわないバイクをためらいなく使うその強い意志、さすが先輩です。

 

 

◇◆◇

 

 

「へー、あなたたちがネロの言う援軍なんだ。……うん、いいマスターとサーヴァントしてるみたいじゃない。安心したわ」

「素晴らしきかな、愛を知る者よ。この地は四方万里圧制者の治める地。生きること、それこそすなわち叛逆だ」

「えーとえーと、スパルタクスさんの言ってることはよくわかりませんけど、よろしくお願いします」

 

 たどり着いたのはローマ帝国軍のガリア遠征軍宿営地。

 なんとそこには、サーヴァントが二人もいました。

 一人はまさにこの時代の少し前を生きた、ブリテンの勝利の女王ブーディカさん。

 そしてもう一人はなんかもうかつてないくらいバーサーカーしている感じの、言葉は通じるけど会話が成立しないマッスルさん……じゃなかったスパルタクスさんです。

 

「先輩はスパルタクスさんが何を言っているかわかるんですか? すごいです! ……え、熊本弁?」

「うむ。闇に飲まれよ」

「『お疲れ様』だって。スパルタクスも歓迎してるみたいよ」

「本当に通じました!?」

 

 でもブーディカさんは普通に意思疎通できてるようですし、先輩もなぜか会話が成立しています。もしかして、私の方がおかしいんじゃ……。

 

『正気に戻るんだマシュ! 君は正常だから!』

 

 ドクターのフォローもありましたが、なんだかちょっと不安です……。

 

 ちなみに、実はサーヴァントの人はもう一人いました。

 

「あー、いかん。腹が減った。わしの腹が減るとカルタゴが滅ぶ。その前にローマ滅ぼさないとローマ。ちょっと宝具使ってくる」

「おじいちゃん、ローマは昨日滅ぼしたでしょ」

「痴呆老人の介護とはいえ不敬罪ものじゃありませんかブーディカさん!?」

 

 片目を布で隠したおじいさんで、なんとカルタゴの名将ハンニバルさんです。なんだか、ものすごく年を取った状態のようですが。サーヴァントは全盛期の姿で召喚されるはずなので、これはこれでハンニバルさんの全盛期ということなのでしょうか。

 たとえば、カンネーの戦いよりもずっと後、戦略戦術の冴えを失わないまま、歴史に残らない戦いを繰り広げた、とか。

 

 

 ともあれガリアでの戦いです。

 さすがにローマ首都よりも敵の本拠地に近いと思われる侵略を受けている最中の地だけあって、戦闘はとても激しいものになっています。

 

 ……それと、もう一つ。

 

「ドーモ、シールダー=サン。ククク、皇帝のみならずサーヴァントまでもが現れるとはアブハチトラズよ。貴様らの首を凱旋の手土産にしてくれよう。古代ローマカラテは魔技。お前たちの全身の骨を折る」

「アッハイ」

 

 なぜか、忍者っぽいサーヴァントがちょくちょく現れるんですが。

 サーヴァントです。まぎれもなくサーヴァントです。通常の人間では太刀打ちできないほど強く、魔力も感じます。

 でも古代ローマカラテとは一体。まさにこの特異点あたりの時期と場所で発祥した武術なのでしょうか。そしてそれが後の時代まで伝承されたということなのでしょうか。

 

「あー、あの手合いは気にしなくていいよ」

「ど、どういうことですかブーディカさん?」

「いやね? 古代ローマカラテ云々って言ってるああいうの、それなりに強いみたいなんだけど……」

 

「イヤーッ!」

「アバーッ!? サヨナラ!」

 

「ああやって、毎回瞬殺されるのよ。おかげで今まで戦ってる姿見たことないわ」

「なんか別のサーヴァントが奇襲しましたー!?」

 

 タ、タツジン!

 相手に全く気配を悟らせない、物陰からの完璧なアンブッシュ! 古代ローマカラテの使い手らしいニンジャはその実力を欠片も披露しないまま爆発四散してしまいました!

 

「スゥーッ! ハァーッ! ……ドーモ、シールダー=サン。ニ……アヴェンジャーです」

「ド、ドーモ……?」

 

 そして名乗る、アヴェンジャーのサーヴァント。

 その姿は、まさしく忍者でした。赤黒の装束に「忍」「殺」と彫り込まれた鋼鉄メンポ。一体何者なんでしょう……!

 

 残念ながら、アヴェンジャー=サンは私たちと行動をともにはしてくれませんでした。独自に行動して、徹底的にニンジャを狩るのだそうです。幸いというべきか、ニンジャは連合ローマ帝国側にしか召喚されていないようなので、実質共同戦線を張るようなもの。なのでひとまずそれでよしとしました。

 ……そうでもなければ、なんか言語が汚染されそうなので。

 

 

 そんなこんなで味方の将軍たちと顔を合わせ、ついにガリアに蔓延る連合ローマ帝国との決戦です。

 ……決戦、なのですが、妙に相手の抵抗が弱い印象を受けました。

 魔術によって作り上げられたゴーレムも混じってはいましたが、主力はごく普通の人間の兵。やりようはもっとありそうなものですが、なんというか指揮官のやる気が感じられない戦いでした。

 

「当然だ。なにせ私だぞ。この私が、セイバーだ。剣を取って戦えなど、お門違いも甚だしいとは思わないかお嬢さん」

「ユリウス・カエサル……! な、なるほど確かに!」

「せめて戦車を用意してもらわなければな。あとおりょうと左衛門佐とエルヴィンもいるとなおいい」

「……カエサル、ですよね?」

 

 そんな私の予想もさもありなん、相手はあんまりやる気のないカエサルでした。ローマが皇帝を擁するようになる前の終身独裁官。その業績は戦士というよりも指揮官、将軍としての側面が強く、もし軍団指揮を前提としたクラスが存在していれば間違いなくそのクラスで召喚され、猛威を振るっていたでしょう。

 ……冬木で遭遇したアーサー王、フランスで召喚した沖田さん、ネロさんという史実では男性として伝わっていたけど実は三人とも顔がよく似た女性だった事件に続いて、またしても女の子でしたが!

 

「いやな、私は生前間違いなく男だったぞ? ただこう、なんか霊基が最近の知名度補正的な影響を受けたらしくこの有様だ」

「あ、そうなんですか……」

「座でエルヴィンたちと戦車道に興じたのがよくなかったのだろうか……」

「戦車道とは一体」

 

 

 そんなこんなでカエサルも撃破して、ガリア遠征が大成功を収めての帰り道。

 

『地中海の島で神を見た、かい? うーん、ただの噂話じゃないかな。いかに特異点とはいえ、神霊が西暦以降の時代にこの地上に降臨するっていうことは、理屈の上ではほぼありえないと断言できる』

 

 道中のローマ市民たちが口々に語ったのが、地中海のとある島に住むという女神の存在でした。

 噂話をそのままに信じるわけにもいきませんが、なにせここは特異点。神霊、あるいはそれに類するものがいても不思議はなく、もし仮に召喚されているとした場合、連合ローマ帝国の手に落ちたら厄介なことになりかねません。

 ということで、実際にその女神が降臨したという島へ向かってみることになりました。

 

 ……ネロさんの操舵による船で。

 

 

「見るが良い! 余の十八番、軍艦ドリフトおおおおお!」

「きゃあああああ!? 大丈夫ですか先輩!? ……え、『人は死ぬ。みんな死ぬ。だが今日じゃない』ですか? でもこのままだと死んじゃいそうです!」

 

 錨を下ろして急制動をかけることによって艦尾側を滑らせるドリフト。そういった操船方法も世の中にはあるそうですがまさかこの身で味わうことになろうとは。

 ローマの精鋭兵士たちが軒並みグロッキーで、件の島に上陸できたのがネロさんと私たちカルデアメンバーだけということからもその壮絶さがご理解いただけることでしょう。もしこの島までの距離があと数キロ遠ければ、私たちも足腰立たなくなっていたかもしれませんが。

 

「あら、いらっしゃい。騒々しい勇者様たちね」

『って本当に神霊キター!?』

 

 しかしその甲斐がありました!

 なんとその島にいたのは本物の女神、ステンノさん。しかもしかも、なんとステンノさんの課した試練を乗り越えた結果、連合ローマ帝国の首都の位置を教えていただけたのです!

 

「なんだ、この看板は。『ゲソックの洞窟 ~メダイゴスの野望~』。……ステンノの出身であるギリシャの神の名か?」

「なんでしょう、無駄に広いマップとやたら長いロード時間と無限に走るフォウさんの姿が見える気がします。……先輩? なぜやたら目を輝かせて挑むのですか先輩!? え、『クソゲーオブザイヤーの予感』? 待ってください多分それは地獄です!」

「フォウ、フォーウ!?」

 

 ……正直、その洞窟の中で起きたことはあまり思い出したくありません。

 数パターンしかない構造が繰り返される無駄に長い道のりだとか、やたらめったら密度の高い敵遭遇率だとか、なんかもう心が折れそうでしたし。

 

 

「やーね、根性ないんだから。そんなのでアイドルが務まると思ってるの? 下積み時代のドサ回りは基本よ、基本」

「あはははははははは!」

 

 そして出てくる謎のサーヴァント。

 というか第一特異点でも出会ったエリザベートさんと、もう一人よくわからないテンションの狐さんでした。

 

「渡とは音楽性の違いで解散しちゃってねー。新メンバー探してる最中なのよ。……こいつは使い物にならなそうだけど」

「勇気凛々! 尻尾はビンビン! 笛の音色はワンダフル! タマモキャット・アズ・ナンバーワン! 我こそは九人の究極の九尾のゲフンゲフン。まあそんな感じのフレンズである! たーのしー! ……ところでそちらにランサーはいるか? キャットはその昔、槍ととらっぽい獣にコテンパンにされたような気がするのでトラウマなのである。とらだけに」

 

 だ、そうです。

 今回の特異点は、スパルタクスさんといい何を言っているのかわからないバーサーカーさんばかりです。

 

「ネロおおおおおおお! お前は美しいいいいいい!」

「ええま、そうですね」

 

 なんか地中海を単身泳いできた、カリギュラさんの方が意味の分かる言葉を発しているような気がするくらいには。

 

 

◇◆◇

 

 

 それからもいろいろありました。

 ガリアの開放、敵首都の位置を携えての凱旋。その途上で出くわした拠点防衛においては右に出る者のいない、スパルタのレオニダスさん。

 

「もっと……熱くなれよおおおおおおおお! 頭から火が出るくらい!」

「先輩! なんですかその人のような骨格をした鳥は! 口から吐く炎でレオニダスさんの頭がますます燃え盛っています! ……え、こんなこともあろうかとエトナ火山で手懐けておいた? ある意味竜種以上に人類史上いてはならない生物な気がするんですが!?」

 

 それを、先輩がこっそり餌付けしていたらしい火山生まれの怪鳥がしばき倒したり。

 

 

 ブーディカさんたちとはまた別の地で戦っていたらしい、特別遠征軍の荊軻さんと呂布さんが帰ってきたり。

 

「お前たちもネロに協力しているのか。なら、どちらがより多くの皇帝を殺せるか競争だな。私たちはすでに3人始末したぞ。アウグストゥスとティベリウスとウェスパシアヌスとか名乗っていたか。どいつもこいつも宝具を使うと巨大なロボットを召喚してきてビビったぞ」

「それを普通に倒している荊軻さんがすごすぎると思います」

 

 荊軻さんたちが活躍してくれて本当によかったと思います。

 先輩はそういう皇帝とも会ってみたかったようで、ネロさんに熱い視線を向けていましたがそういう危険は避けたいところです。

 

 そんなこんながありつつも、とりあえず敵本拠地への遠征です。いよいよもって本格的にローマを救うことができるのか。この戦いにその全てが掛かっています。

 

 

◇◆◇

 

 

 連合ローマ帝国首都へ向けての遠征。

 各方面で戦っていたサーヴァントの客将も集結させた、当代ローマ帝国の全戦力。ローマを取り戻すため、そして人理を救済するための全軍です。

 

 しかし当然相手も黙ってはいません。軍勢と軍勢のぶつかり合い、戦争が始まりました。

 

「っ! 前方、そして後方からも敵軍からの攻撃を受けています! あと呂布さんとスパルタクスさんが後方で一当てしてきた敵軍をどこまでも追っていったそうです!」

 

 その行動は、これまで連合ローマ帝国が見せた戦いとは一線を画すものでした。

 的確な行動、こちらの陣容を把握した作戦。明らかに目的を達成するため綿密に描かれた筋書きに沿っての動きです。

 しかし、それでありながら戦力の中核はこの時代の兵士。バーサーカーのサーヴァント、ダレイオス三世こそ襲撃してきましたが、あまりにもバーサーカーらしいバーサーカーであるあの人が作戦を理解していたとは思えません。

 となると、さらにほかのサーヴァントが、何らかの目的のために陽動を行っている。そう見るべきです。

 

「は、はいなんでしょう先輩! え、そこに紙きれが落ちていた? 『捕ブーディカ』……こ、これはまさか! そうです、先輩の言う通り『いかん、孔明の罠だ!』というやつです!」

 

 その目論見は、まもなく明らかとなりました。

 敵の狙いはブーディカさん。軍列の前後から攻撃を受けて混乱している最中に何とブーディカさんが攫われてしまいました……!

 

 

◇◆◇

 

 

「やあ、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ。会いたかったよ」

「貴様がブーディカを捕らえた敵の将か。……王ではあっても、僭称皇帝ではないな」

「いかにも。名乗っておきたいんだけど、僕の名前はいっぱいあってねえ」

 

「先輩、ああは言っていますがイッパイアッテナとは名乗っていません」

 

 巧みな用兵でブーディカさんを捕らえたのは、アレキサンダーと諸葛孔明でした。

 

 

「はい? ええ、見ての通り諸葛孔明は男性ですよ先輩。……諸葛凛先生? 知らない子ですね」

 

 先輩は諸葛孔明が男性であることに驚いていましたが、歴史で男性として伝わっている人たちが実は女性だったなんて……よくあることですね、はい。そういうこともあってもおかしくないです。

 

 が、それはそれとしてアレキサンダーがブーディカさんを捕らえたのは私たちの戦力を削ぐためではありませんでした。

 かつて大帝国を築き上げた王として、ローマ帝国の皇帝と言葉を交わすため。

 

 戦いは苛烈を極め、私たちは辛うじて勝利を収めました。

 ネロさんはアレクくん……ではなく、アレキサンダーさんとの戦いを通し、いまを生きる皇帝としてローマを守るために戦う覚悟をより一層固めたようでした。

 さあ、ついに決戦です。

 

 

 荊軻さんの偵察もあり、本格的にその存在が明らかとなった連合ローマ帝国の首都。まさにネロさんが治める本物のローマととてもよく似た街並みで、しかしただ一つ違うのは。

 

 

「よくぞ来た、当代のローマよ。……美しいな。それでこそ、ローマを愛し、ローマに愛される皇帝だ」

「な! ば、バカな……! そんな、そんなことがあるわけがない! ……あなたは!」

 

 連合ローマ帝国首都で待ち受けていた、この地を特異点とする人理焼却の下手人は。

 

「名乗るとしよう。(ローマ)が、ロムルス(ローマ)だ」

 

 ローマ帝国建国の伝説にその名を刻む、神祖ロムルス。全てのローマ帝国皇帝にとっての父とでも呼ぶべき、偉大なる祖先がランサーとして、ローマを侵略する皇帝として現れたのです。

 なんだか、バーサーカーの人たち以上になにをしゃべっているのかわかりづらいですが。でもネロさんたちは普通にわかっているみたいです。さすがローマの人。

 

「さあ、皇帝の威を示すのだ、我が愛しき皇帝よ。……ローマ!」

 

 この特異点の趨勢を決めるだろう、ロムルスとの戦闘です!

 

「ぶるああああああああああああああ!!!」

「太陽万歳!」

 

 ……なんだか、ロムルス自身と同じように足を揃えて両手を掲げるY字のポーズをした二人をお供にしてきてますが!

 

「おいそこの小娘ぇ! おっぱいが大きい小娘ぇ! これはYではない、華麗なる『V』だ! よぉく覚えておけぇ!」

「は、はいすみません!」

「太陽万歳!」

 

 訂正。V字のポーズだそうです。頭がVの字型をしている魔物に曰く、そういうことだそうです。

 もう一人はなんか太陽を賛美する言葉を叫んでばかりなので、こちらは訂正の必要がないのかもしれませんが。

 ……なぜこんなにも言葉の通じないサーヴァントばかりなのでしょうか。

 

 

◇◆◇

 

 

「やれやれ、ロムルスさえも倒してしまうとは。おとなしく滅ぶ程度のこともできないのかね、君たちは」

「その声は……キバさんのベルトについていたコウモリさん! ではなくてレフ教授!」

「一体どういう旅をしてきたんだ、マシュ・キリエライト」

 

 ロムルスさんを撃破して、聖杯の回収が完了……とはなりませんでした。

 この特異点を崩壊させようとしていた真の元凶、カルデアを裏切ったレフ教授が、ついにその姿を現したのです。

 

「多少はやるようだが、その程度は焼け石に水もいいところだ。なにせこちらには聖杯がある。我々には本当のサーヴァント召喚を行う方法がある。だからお前たちがどれだけサーヴァントを倒そうとも……そら」

 

 しかも、予想通り聖杯を携えて、英霊の召喚まで行ってきました。

 やはり、レフ教授は何としても倒さなければならないようです。しかしその前に立ちはだかるという英霊は……。

 

「……私は、大王である。私は、フンヌの大王である。私は……破壊である」

「さあ行け、アッティラ・ザ・フン! この特異点の全てを破壊しつくせ!」

「いいだろう。……ただし、お前も真っ二つだがな」

「は?」

 

「!? ドクター! レフ教授が、自身の召喚したサーヴァントに真っ二つにされました!」

『なんだって!? つまり制御できていない強力なサーヴァント……。しかもすさまじい魔力反応だ! これは、紛れもなく対軍宝具だぞ!?』

 

 レフ教授を殺害し、宝具の一撃でもって連合ローマ帝国の王宮を破壊。

 悠々とその場をあとにして……おそらく、ローマの首都へ向かっています。

 

 

◇◆◇

 

 

「私は破壊する……文明を……世界を……!」

 

 アルテラは行く。

 軍神の剣を携え、連鎖的に召喚されたワイバーンやその他の魔獣が自然と従ってくるのにさえ目を向けず、ただこの場で最も破壊するべきローマ首都へと向かって。

 その途中に立ちはだかる物は全て破壊する。家も、町も、人も石も木も動物も山も海も。彼女にはそれができる。星の全てを滅ぼすことすら可能な、破壊の化身。それこそが彼女、アルテラだ。

 サーヴァントとして召喚されたとはいえ、その性能は破格。カルデアの全戦力を彼女1騎に投入してさえ勝てるかどうかは五分と言えるかどうか。それがアルテラという戦士であり、アルテラと名付けられた破壊のための装置であり。

 

 

「ほう、そいつは聞き捨てならないな」

「!?」

 

 

 だからこそ、その声の主が尋常ならざるものであると、アルテラは直感することができたのであった。

 

 

「やれやれ、妙な世界だと思ったら、目の前にいるのは無愛想な女一人か。しかも破壊? やめておけ。破壊ってのは、お前みたいな顔をしてやってもロクなことにならないぞ」

 

 それは、一人の男であった。

 皮肉げにゆがめられた口元と、厭世的な半眼の瞳。斜に構えた態度が全身からにじみ出て、胸元に下げたマゼンタカラーの二眼レフカメラが印象的だった。

 

 ただそれだけなら、アルテラが注目することはない。

 彼女にとって人も文明も路傍の石と同じ。歩みを止めることも、意識を向けるに値することもない。触れる端から破壊する。そこに区別をつける意味などない。

 だがその男は違った。アルテラの中にある何かが警鐘を鳴らす。

 

 あれは、きっと破壊できない。

 あれは、自分の同類だ。

 

 あれもまた、破壊者であると。

 

「破壊はただ壊して終わるものじゃない。新しい何かを生み出すためにするものだ。……お前はどうだ? そうやって壊して、その先に何を見る。何を掴み、何を形作る」

「私、は……」

「わからないか。そうだろうな。……まあ、それもいい。俺だって昔はそうだった。だがそれなら、お前は見つけなければならない。自分の行くべき道、作り上げるべき未来。それを探すための、旅を通じて」

 

 もとより破壊の機械であり、その目的のためだけに召喚された今回の現界されたアルテラの胸の奥の霊基に、その言葉は深くしみ込んだ。

 

 ……それでも。

 

「それでも、私は全てを破壊する。この文明も、世界も……お前も! 答えろ。お前は何者だ!」

 

 軍神の剣を突きつけ、殺気を叩きつけ。それでも男は動じない。

 こうなることはわかっていたとばかりに落ち着いた仕草で、どこからともなく取り出したカードを答えとして。

 

「通りすがりの仮め……ライダーだ、覚えておけ! 変身!」

<KAMEN RIDE! DECADE!!>

 

 その真の姿を、現した。

 

 

◇◆◇

 

 

『アルテラの移動が止まった! なんだかよくわからないけど、追いつくチャンスだ! 急いでくれ、マシュ!』

「はい、ドクター!」

 

 連合ローマ帝国の首都をあとにしたアルテラの追撃。

 道中アルテラに続く形で召喚されたワイバーンやゴーレムの相手に手間取り一時は追いつけないかもしれないとさえ思われましたが、どういうわけかアルテラが進撃を止めたとドクターからの報告がありました。

 理由はわかりませんが、それでも私たちにとって運のいいことに変わりありません。カルデア一行とローマ軍は進軍速度を上げ、一気にアルテラとの距離を詰めることを選択。幸い、ローマの首都にアルテラの手が届く前に交戦可能となる見通しです。

 

『よし、もうすぐだ! その山の脇を抜ければ見えてくる!』

「はい、たった今アルテラを……視認! …………しま、し……たあああああああ!?」

『なんだ!? ど、どうしたんだいマシュ!?』

 

 進撃の足を止めたアルテラを視認、すると同時に思わず叫びをあげた私に驚くドクター。でも仕方ないと思います。そのとき私が見たものを知れば、誰もが納得してくれるはずです。

 

 連合ローマ帝国の宮廷を破壊したすさまじいサーヴァント、アルテラ。

 都市の一つ程度なら涼しい顔のまま破壊しかねない彼女が、そこにいました。

 

 

――オオオオオオオオオオ!

――ハアアアアアアアアア!

 

「あ、アルテラ……巨大化しています! 身長、目測で40m!」

『な、なんだってー!?』

 

 雲を突くような、巨人としか呼べないサイズになって!

 

「そして、胸に遺影のように姿が掛かれたカードを9枚つけた同サイズの巨人と戦っています! ……あれ、胸のカードに龍騎さんとキバさんがいるような?」

 

 しかも、同じくらいのサイズの巨人と戦っています!

 初めて見るサーヴァント(?)ですが、なんとなく雰囲気が第一特異点で出会ったウィザードさんたちに似ていました。

 

 ともあれ、大事件です。

 アルテラともう一人の巨人が戦っている一帯はすさまじい有様の荒野になり果てようとしています。風を巻き起こしてうなる拳と、それを受け止める際の衝撃がこちらの内臓まで響くほどに空気を揺らします。足を踏みしめるたびに地震が起きてローマ兵のみなさんがへたり込み、倒れ込んだ先にあった森は木々が根こそぎ吹き飛んで禿げ上がる始末。

 この戦場、いかにサーヴァントと言えども割って入れるものではありません。

 

 

「……え、なんですか先輩。『私にいい考えがある!』? 本当ですか!? 頼もしいです!」

 

 そして、そんな時こそ先輩の出番です!

 

「なんだ、私の力が必要なのか? 確かに、イガリマ辺りを投影すればあのサイズの敵にも効くだろうが、振り回せるものはいない……待てマスター! なぜ私の頭に手を伸ばす!? なぜ令呪が光っている!? ……ぐぅ!? 令呪から、光が逆流する! ぎゃああああああ!」

「え、エミヤさあああああん!?」

 

 すると先輩は、最近召喚に応じてくれたアーチャーのエミヤさんの頭をがっしと掴み、なにやら念じ始めました。エミヤさんの口ぶりからするに、何らかの情報を送り込んでいるのでしょうか。ものすっごい苦しんでるみたいなんですが。

 

「……ハッ! な、なんだこの剣の情報は? 『須彌天幻・劫荒劍』? 確かにこの剣の真名解放をすればアルテラを時空の彼方に飛ばすこともできるだろうが、私はそこまでは…………できるな。この剣はなぜか。どういうことなんだ、マスター……」

「エミヤさん、そこは気にしない方がいいと思います」

「……すまないが、その剣を使うのは勘弁してもらえないか。なぜか私まで巻き添え食らいそうな気がしてならん」

 

 そうまでして先輩が伝えたのは、アルテラを倒すことはできなくともこの場からはるか遠くへ転送できるという宝具だったようです。アーチャーさんなら宝具を投影することもできますから、なるほどさすが先輩です!

 まあ、荊軻さんが鉱物と生物の中間の生命体になるくらいならいっそ殺してくれ顔でガクガク震えていたので実際に使われることはなかったのですが。

 

 

「はぁっ……はぁっ……! 私が、破壊しきれないものがあるなんて……!」

「当然だ、俺を舐めるな。……と言いたいところだが、さすがにキツいか。あとは任せたぞ、お前たち」

「は、はい! なんだかよくわからないですけど、ありがとうございます!」

 

 その後、あーだこーだしているうちにアルテラは巨大なライダーさんとクロスカウンターを撃ち合って撃沈。元のサイズに戻り、大分消耗した様子になりました。

 ライダーさんの方もさすがに限界だったのか姿を消しましたが、そのときはサーヴァントが消滅したときのように光に還るのではなく、空間揺らめくカーテンに包まれるような様子だったのですが、あれはいったい……。

 

 

「なんかよくわからんが、今こそローマを救うとき! 奮い立て戦士たちよ! 余は、ローマは常にそなたたちとともにある! ゆえに、ローマは永遠である!!」

「はい、ネロさん!」

 

 人理修復も、グランドオーダーも、きっと今この時代と国を生きる人たちにとっては遠い出来事なのでしょう。

 ただ目の前に迫りくる脅威に抗い、日々を生きる。そのためにこそ、みなさんは戦っているのだと思います。

 でもだからこそ、そこには光と希望と、力と勇気がありました。

 隣を駆ける友のため、帰りを待つ家族のため、必ず勝って帰るという決意。

 

 

 ……それは、きっと今の私にはない強さ。

 この旅を通して私の中にもその輝きが宿ったら、そのときは、きっと……。

 

 

◇◆◇

 

 

「特異点で手に入れた聖杯はどこに行ったかと思ったら、私の盾の中に入っていたんですね」

「ああ、ダ・ヴィンチちゃんが改造してくれたのさ。そんなわけで、マシュの盾は聖杯入れになってまーす」

「はーい、いらっしゃいませー」

「私の宝具がー!?」

 

 特異点を修復し、カルデアへと帰還して。

 いつの間にか私の盾が聖杯回収ボックスとして謎の改造をされていたりもしましたが、まあ些細なことでしょう。

 それはそれで重大なことではありますが、私には少しだけ心残りがあります。それは、ネロさんとの別れ。

 

 

『なんだ!? そなたたち、体から光が……もしや、もう別れだというのか!? 待て、まだ褒美もとらせておらんというのに! 形のある島にいたエリザベートも連れてきてコンビを組み、祝勝記念ライブを開催するつもりだったのだぞ!』

 

 

 とまあこんな形で、アルテラを撃破して聖杯を回収した後、ネロさんとはまともに話す時間もありませんでした。

 ……ご褒美としてのライブも聞けなかったのは残念ですねー! いやあ本当に残念ですねー!

 

 ただそれでも、と思います。

 もう少しだけお話することができたら、それはきっと、とても素晴らしいことだったのに。

 

「え、『ネロに会いたいか』ですか? はい、もちろん。でも大丈夫です。ネロさんもきっとサーヴァントになっているはずですから、この旅を続ければいつかどこかで会うことが……先輩? ついて来てくれって、なんでお風呂に?」

 

 そんな私を慰めるためか、先輩はすたすたとお風呂に入っていきました。

 正直超ドキドキしたのですが、特に服を脱ぐ様子もなくぺたぺたと足音をさせて湯船に向かい、袖をまくってお湯の中に手を入れます。

 

「あの、先輩。一体何を……?」

 

 そのまま、ざぶざぶとお湯をかき回すことしばし。

 難しい顔をした先輩はまるで何かを探しているようでしたが、この湯船の中に一体何があるのでしょう。

 

 ……まさか。

 

「先輩、もしやまさかいえそんなことはと思うんですが、何をしているんです!? なんだかお風呂からまるでサーヴァント召喚の時のような光が漏れているんですが!」

 

 ざぶざぶ、びかびか。

 かき混ぜられたお湯が渦を巻き、まるで召喚円のように弧を描き。

 

「ぷっはーーーーーーー!? なんだなんだ!? ここは一体どこだ!? テルマエか? ……ハッ! もしやこれがルシウスの言っていた平たい顔族の住処!?」

「ネロさんがお風呂から引っ張り上げられましたーーーーーー!?」

 

 

 これは、数多の特異点を巡るカルデアの旅路。

 不肖マシュ・キリエライトが綴らせていただく出会いと別れの記憶。

 ……そして主に、いよいよサーヴァントの召喚に聖晶石すら使わなくなったマスターがせめて人間の境界を越えないようにどのくらい危なくなっているのかを把握するための、私なりの観察日記(マシュズ・リポート)です。

 

 

 

 

キャラクターマテリアル

 

 ローマのアヴェンジャー。

 

 レフが調子に乗ってぽこじゃかサーヴァントを召喚した結果、その反動で召喚されたサーヴァント。赤黒のニンジャ装束に「忍」「殺」と彫られた鋼鉄製メンポをつけ、主に徒手格闘で戦う。

 ニンジャ殺すべし、慈悲はないという行動原理のため、ローマに多数召喚された古代ローマカラテの使い手は軒並みスレイした。

 一足早くに真名隠しシステムを採用しているようで、しかもカルデアに合流せず単独行動をしていたため詳細は不明。ただし、宝具には対ニンジャ特攻があるらしい。

 一体何ンジャスレイヤーなんだ……。

 

 

 ローマのライダー

 

 自称、通りすがりのライダー。

 アルテラが強いシンパシーを覚えるほどの破壊者であるとかないとか。アルテラの召喚に合わせて連鎖召喚された……と見せかけてそもそもサーヴァントですらなく、ちょっと世界がヤバいということを嗅ぎつけて自力でやって来た、世界を越える旅人。

 今回の接触で存在を知ったカルデアの有り様に共感を覚えたのでこれからもちょくちょく気にしようと心に決めたらしい。

 

 

 須彌天幻・劫荒劍(すみてんげん・ごうこうけん)

 

 マスターがエミヤにアイアンクローして令呪経由で情報を流し込んだ宝具。どこかの地で世を騒がせた三十六振りの魔剣・妖剣・聖剣・邪剣の一振り。真名解放時は、この剣で傷をつけた対象を時空の彼方に吹き飛ばす力を持つ。

 こんなものの情報持ってるくらいなので、その気になれば持ち主も召喚できる気がするとは主人公の弁。

 傷さえつかなければセーフのはずなのだが、荊軻やメディアはなんか巻き添えくらいそうな気がして怖いらしい。


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