FGO マシュズ・リポート ~うちのマスターがこんなに変~   作:葉川柚介

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第6章の記録 神聖決闘盤キャメロット

「せ、せんぱーい! 視界がほぼゼロですが大丈夫ですかー!?」

「一応大丈夫らしいよ、マシュー! ついさっき出会ったキャプテンさんがいい感じの隙間を教えてくれたから、こっちに来てー!」

 

 激しさを増す特異点の冒険。

 でも、レイシフト直後から砂嵐ってどうなんでしょうか。マシュ・キリエライトです。

 

 今度の特異点は、十字軍遠征期のいわゆる「聖地」。

 どう考えても人類史上重要極まりないところで、この時点の歴史が揺らげばそれはもう人理はがっくんがっくん揺らぐことになるでしょう。

 

 そう意気込んでレイシフトした、私と先輩となぜかついてきたダ・ヴィンチちゃん。

 レイシフト先が砂嵐の真っただ中で、ジンネマンと名乗ったキャプテンと、バナージと名乗った少年と一緒に岩場の隙間にお邪魔させてもらってしのいだりなど、いきなりすごく大変でした。

 

 

 この時代、この場所に砂漠が広がっていたという事実はありません。控えめに言ってなんかもう全体的にトチ狂っているということははっきりしているので、まずは情報収集が重要。水場が近くにあるということなので、そこへ向かうことになったのですが……。

 

「待て、盗賊共! ニトクリスをHA☆NA☆SE!」

「待てと言われて待つバカがいるか、なんか髪がツンツン尖ったファラオめ!」

「ならこちらにも考えがある! ニトクリスのモンスターよ、力を貸してくれ! 召喚! ホルスの黒炎龍!」

「……なんだそれええええ!?」

 

 なんか、大騒ぎしてました。

 黒づくめの一団が人を簀巻きにして抱えて逃げて……追いかけているのは魔術師の人でしょうか。魔物を召喚してけしかけている、ヒトデのような髪型をした人に追いかけられていました。

 

 ……どうやら、今回の特異点も一筋縄ではいかないようです。

 

 

「ニトクリスを助けるのを手伝ってくれて助かったぜ。オレは……あー、ちょっとわけあって真名を言えなくてな。クラス名である<デュエリスト>と呼んでくれていいぜ!」

「アッハイ」

「どうやら、状況は落ち着いたようですね。では、私はこれで」

「えっ、もうですか? あの、せめてお名前を……」

「……ルキウス。そうお呼びください」

「わかりました、ルキウスさん。……その、さっきは先輩が名前を間違えて申し訳ありません。つい先日スカサハさんと会ったことがありまして、なんだか一瞬だけ声が似ているような気がしたもので、つい」

 

 その後。

 とりあえず捕まっているらしき人を助けるのを手伝ったり、そのときいかにも騎士っぽい人――ルキウスさん――が助力してくれたりしましたが、ひとまず落ち着きました。デュエリストさんはどうやらこの地が砂漠化している原因を知っているようで、捕まっていたニトクリスさんともお知り合いの様子。

 なんでも私達をこの地の都まで案内してくれるらしく、とても助かりました。

 

 道中、目を覚ましたニトクリスさんから力を示すように言われて戦う羽目になってスフィンクスをけしかけられたりもしましたが、特異点ではよくあることですね。

 

 

「ニトクリス……。貴重なスフィンクスを無駄遣いしおって」

「も、申し訳ありません、ファラオ・オジマンディアス!」

「この凡骨めが!」

「な、なぁ!? 神官に言われる筋合いはありません!」

 

 そうして案内されたのは、砂漠にそびえる光輝のピラミッド、オジマンディアスさんが治めるエジプト領でした。どうしてこんなところに……!

 あと、ニトクリスさんは神官の人に叱られてました。なんでしょう、あの堂に入った「凡骨」の言い方……。

 

「さて、貴様らはカルデアとやらだったか。人理修復のために力を尽くしているという。……遅かったな。この地における聖杯戦争は既に終わったぞ。聖杯も、この通り」

「なっ!? それは……聖杯!」

 

 そのカギとなる情報が、どうやら私達には決定的に欠けてしまっているようです。

 

「そういうわけだ。貴様らはまずこの地の有様を知らねばならぬ。そうでなければ本来は余と言葉を交わすにも足りんと知れ。……おおっと」

「あの、先輩。いまオジマンディアスさんの首がズレたような。……え? 目から高圧の体液を射出しそう? さすがに英霊でもそういう技は……」

 

 そんなわけで、私達は再び砂漠に、そしてその先の聖地へと向かうことになりました。この特異点で起きていることを、知るために。

 

 

◇◆◇

 

 

 砂漠を越え、燃える荒野を越え、途中半分グールのようになってしまうほどに追い詰められた人たちや……円卓の騎士トリスタンが、ハサン・サッバーハの1人に率いられていたこの地の人々を虐殺するのを目撃しました。

 何かが起きている、それは特異点なのだからある意味辺り前のことです。

 ですが、ただの異常で片づけてはいけない「何か」がここにはある。私たちは、そのことを思い知らされました。

 

 そして、ようやくたどり着いた聖地。

 そこに聳え立つ白亜の城。

 「聖抜」と呼ばれる選定の儀式。

 

 この地を「地獄」などと呼ぶべきではなかったんです。

 ……そこで行われていることを知るまでは。

 

 

◇◆◇

 

 

「あなた方の事情は問いません。しかし、我が王の行いを阻んだ。その一事をもって、円卓の騎士ガウェインがあなた方を討滅します」

「大変です、先輩! あの人は、ガウェイン卿は……日が出ている間はほとんど無敵なんです!」

 

 難民の人たちは言っていました。

 聖都に行けば助かる。中に入れるのは一握りだけど、可能性はある。選ばれれば、幸せに生きていける。

 その認識に間違いはなかったのかもしれません。荒れた大地にそびえる白亜の城壁の内側には、きっと理想の世界が広がっていることでしょう。

 

 ……その引き換えに、選ばれなかった全ての人々が粛清騎士によって虐殺されて。

 

 既に目撃したトリスタン卿はもちろんのこと、この地に召喚された円卓の騎士は異常です。戦えば勝ち目はない。そう思えるだけの脅威を確かに感じます。

 特に太陽が輝いているときのガウェイン卿はその筆頭ともいうべき存在で……でも、私達は座して見ていることができませんでした。

 

「だって、だって……こんなのひどすぎます!」

「……そうですか。そうでしょうね。ですが先ほども言った通り、今の私は我が王の剣。あなた方には、ここで燃え尽きていただきます。この聖剣をもって滅ぼすことが手向けと思ってください」

「そ、それは……!」

 

 避難民の中に紛れていて、私達とは別に戦っていたルキウスさん、と名乗っていたその人の正体が同じく円卓の騎士、ベディヴィエール卿だと判明して協力してくれたりもしましたが、それでも状況は不利です。

 ガウェイン卿が抜き放った聖剣、アーサー王が持つエクスカリバーの姉妹剣とも呼ばれる太陽の力を宿したそれは、今の私達にはとてもではありませんが対抗できるものではなく……。

 

「先輩、せめて私の後ろに! ……え、大丈夫? 助っ人……って、誰が!?」

 

 しかし、そんなときでも動じず頼りになるのが先輩です。

 ガウェイン卿が太陽に縁のある人だと知ってからは、なんかもうお茶でも淹れて一服しよう、と言い出しそうなほどの余裕を見せ。

 

 

「この剣は太陽の現身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎。転輪する勝利の(エクスカリバー・ガラティー)……!」

 

 宝具が発動するその瞬間も。

 

 

「とぁ!!」

 

 

 宝具発動中のエクスカリバー・ガラティーンを黒い影が押しとどめる様さえ、さも当たり前のように眺めているほどに。

 

「な……にぃ!? 私の宝具の発動を……抑え込んだ!?」

「えええええええええええ!?」

 

 爆風が砂塵を巻き上げ、視界を覆う。ですが、それだけです。周囲一帯を焼き尽くすほどの熱量を発するはずだったガウェイン卿の宝具は、強引に抑え込まれて発動しません。

 

「バカな、私の聖剣は柄に擬似太陽を納めた日輪の剣! 宝具発動さえしてしまえば、同等レベルの宝具でさえたやすく抑え込むことなどできないはず! ……貴様、何者だ!」

 

「俺に太陽は効かん! なぜならば……!」

 

 驚き、距離を取るガウェイン卿。気持ちはわかります。あまりのむちゃくちゃぶりに私も全力で下がりたいところですが、先輩の顔から緊張感が抜けて憧れの光が目に宿っているところからして、その必要はないと判断します。

 そんな目を向けられる黒のサーヴァントは、ガラティーンに負けないほどに光る剣――あとで先輩が教えてくれたところによると、正確には剣ではなく杖だそうです――を掲げ、雄々しく答えました。

 

 

「俺は太陽の子! かめ……ライダー、ブラァッ! ア゛ーッ、エ゛ッ!!!」

 

 

 気合が入り過ぎた発声でなんと言っているのかよくわからなかったですが、先輩の翻訳によるとライダーのサーヴァント、ブラックRXさんというらしいです。

 

 

◇◆◇

 

 

 その後、私たちはなんとか生き残った人たちとともに聖都を離れ、山で暮らす人たちの下へと向かうことになりました。ベディヴィエールさんの話術によって、現地の人たちの口から山の翁に渡りをつけてもらう報酬としての護衛という体裁を整えて。

 

 ですが、当然聖都からの追撃がありました。

 円卓の騎士、ランスロット。馬を使う騎士たちから逃げのびられるほどの速度は出せず、誰かが足止めをしなければなりませんでした。

 

「こんなこともあろうかと! オーニソプター・スピンクスには自爆装置を用意してあったのさ! まあ、自爆するのは私の魔術回路なんだけど」

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

 

 ……その役を勝手に担ったダ・ヴィンチちゃんには、一度文句を言わなければ気が済みません。ええ、必ず。

 

 そうしてたどり着いた山間に隠れた里で、私達は現地のサーヴァントである呪腕のハサンさんとアーラシュさんに会いました。力を示したりと紆余曲折の末に受け入れてもらうことができました。

 ……できました、が。

 

「若者たちよ、真剣に打ち込めるものがあるか!」

「……い、一応人理修復には真剣なつもりですが、あなたは一体? あ、また先輩は知ってる方なんですか? ……え、先輩だけじゃない?」

 

 なんか、柔道着を着た男の人もいたんですが! 村に襲い掛かる魔獣的なものを片っ端から投げ飛ばしてました!

 この人、どう考えてもこの時代この場所の人ではない、サーヴァントだと思われるものの。

 

「あっ、せがたさん!」

「むっ! ……桜さ~ん、桜さ~ん♪」

「うふふ。もう、私は桜セイバーですってばー」

 

 ……どういうわけか、沖田さんと知り合いのようです。

 二人とも満面の笑顔で追いかけっことか始めました。

 

「え、せがたさんですか? 新選組の屯所の近くに住んでいて、沖田さんたちに柔術を教えてくれたりしてたんですよ」

「へぇ、せがたのおっさんそんなこともしてたのか。オレのとこでは一緒にひよこ豆の料理作ったりしてたけどなあ」

「おや、私達のころは教団に食べ物を届けてくれていましたぞ」

「時々、円卓に座っていたりもしましたね」

「……」

 

 というか、この場にいる全ての英霊の人たちが生前からの知り合いだと判明しました。

 ……あの、みなさん場所どころか生きていた時代すら違う英霊の人たちなんですが?

 

「……せがた三四郎は、君たちの心に!」

「あ、気にしちゃいけないヤツですねこれ」

 

 とにかく、エジプト領のオジマンディアスさん、わずかに姿を垣間見ただけである聖都の獅子王、そしてこの地に元から生きていた山の人たち。

 私たちは、それぞれと触れ合うことができました。

 

 

◇◆◇

 

 

 その後、私達は基本的に山の民の村を拠点とすることになりました。

 円卓の一人であるモードレット卿に襲われた西の村を助けに行ったり。

 

「セガサターン……しろ……!」

「大変です先輩! せがたさんの霊基がなんか爆発しそうに……え、それでもなんだかんだ生きてるから平気? そうであったとしても、この状況では私達も巻き添えになる気しかしないんですが!?」

 

 その方法として、アーラシュさんの放った矢に引っ張られた土台に乗って空を飛ぶというのは予想外過ぎました。

 

 

 そして、西の村で長を務めていた百貌のハサンさんに認めてもらうため、獅子王の軍に捕らえられている他のハサンさんを助けるため砦に向かい、道中三蔵法師さんと合流したりなどなど、それはもういろいろありました。

 

「……いけません、私に触れては。この身は余すところなく毒の塊。死んでしまいます」

「えーと、そんな静謐さんに先輩からのプレゼントだそうです。ペットにどうぞ、と」

「ペ、ペット? ……! わ、わかります。フクロウさん、あなたも私と同じ……あらゆる者を殺してしまう、毒を……!」

 

 助け出した静謐のハサンさんは、先輩からもらった礼装(?)のフクロウさんと妙に意気投合していました。なんか興奮すると目から謎の黒いモノ(可視化された毒だそうです)を出すフクロウさんなのですが、静謐さんと一緒にいるとお互いの毒を打ち消しあって普通になるというよくわからない理屈で、いつも一緒にいるようになりました。喜んでもらえたなら何よりだと思います。さすが先輩。

 

「それと、百貌さんにはこのマスクをプレゼント、だそうです」

「なんだこれ……私の趣味じゃないけど、なんか被ったら霊基の出力が10倍くらいになりそうな気がする……」

「そうなったら<千の顔を持つ暗殺者>ですね」

 

 あと、百貌さんにもマスクをプレゼントしていました。このマスクを付けたら、華麗な空中殺法を繰り出してくれそうな気がするのはなぜでしょう。

 

 

◇◆◇

 

 

 その後。

 追撃に現れたアグラヴェイン卿を静謐のハサンさんとフクロウさん――邪眼ちゃんというらしいです――の毒が蹴散らして撤退させて、村に帰ることに成功。

 そこで、藤太さんが宝具を使ってくれました。

 

「おぉぉ!? これは、穀物ですかな!?」

「ええ、お米ね。じゃあさっそく炊いて、村の人たちに振る舞いましょう。おにぎりならできるわ、それも早く!」

「うむ、たんと食え。昔の賢者も言っていたぞ。美味い飯を食ってこその人生だとな!」

 

 そう、すさまじい量が湧き出る米俵。それが藤太さんの宝具でした。

 三蔵さんがその生成速度に匹敵する勢いでおにぎりを作る様を先輩はなぜか妙に警戒して監視していましたが、飢えに苦しんでいたこの村にとっては、きっとどんな英雄の存在よりも救いとなったことでしょう。

 

「まさに。藤太殿にはどれだけ感謝してもしたりませんな」

「呪腕さんは、あの宴会に参加しないんですか?」

「なに、十分堪能しましたとも。……それに、この体は人の食べ物をあまり受け付け……ん? 魔術師殿? ……そ、それは! 私がこの体になってからの大好物! 一体どこで!」

「……本当に、その変な果物、どこで取って来たんですか先輩」

「それは、俺が持ってきたんだよ。ちょっと、古い知り合いに頼まれてね。まさかこれを食べる人がこの星にいるなんてなあ。……あんたも、辛いんだな」

 

 ついでのように呪腕のハサンさんにも先輩が果物を振る舞っていましたが、それ絶対に普通の人が食べちゃダメなヤツですよね!

 いつの間にか、その果物をくれたという人――なんとなくセイバーのサーヴァントのような気がします。あと神性も少し――とも一緒にいましたし。呪腕さんを労わりながら一緒に果物を食べていましたが、先輩は本当にすぐサーヴァントの人と仲良くなります。

 

「頑張ってくれよ。獅子王ってやつをどうにかしてやってくれ。きっと悔いはないだろうけど、ああいうのって結構辛いからさ」

 

 でも決して悪いことではないのでしょう。

 セイバーっぽいこの人は、どこか寂しそうに、まるで獅子王の気持ちがわかるように、寂しく微笑んで、私達に託してくれたのですから。

 

 

◇◆◇

 

 

――晩鐘は未だ響かず。故にその首を繋いだ者にのみ我が剣を示そう

「なんです、これは……!? すさまじい圧力です!」

 

 村の生活基盤が安定して、私達もハサンさんたちに認められつつありますが、それでも状況の打開にはまだまだ遠いと言わざるを得ません。

 それを何とかする方法が、ハサンさんたちにはあるのだと言います。

 ただし、どこか悲壮な決意を感じさせて。

 

 そして招かれたのがこの廟。

 ベディヴィエールさんに曰く、マーリンからここを訪ねるように言われていたという重要施設。

 

 そこで私たちはこの世のものとも思えない、ハサンさんたちの初代という方に出会い……戦いを、挑まれました!

 

「~♪」

「く、口笛……? この曲は……『ニュルンベルクのマイスタージンガー』?」

 

 まだ姿を現さない初代山の翁。

 しかしその力は静謐さんを捉え、霊基を変化させました。

 

『なんだこれは……! 静謐のハサン、霊基数値が異常変動! これじゃあまるで、グラン……』

「ボクの正体なんてどうでもいいじゃないか。ただの通りすがり、山の翁とは似た者同士のよしみで手伝いに来ただけだから。……君たちが世界の敵でない限りは、だけどね」

 

 すくっと立ち上がった静謐さんは、雰囲気を一変させていました。

 口調も一人称も違い、いつの間に身に着けたのか帽子とマントがどことなく筒っぽいシルエットを形作り……異常なほど、恐ろしかったです。

 ……え、私達この人と戦うんですか!?

 先輩、「あの人の言う通り、世界の敵でない限り大丈夫。世界の敵になった瞬間終わらされるけど」とか不穏なことを言わないでください!

 

 

◇◆◇

 

 

「すまねえ、しくじった。その代わりってわけじゃねえが、獅子王の光は俺が何とかする。みんなは村の連中を避難させてくれ」

「アーラシュさん……!」

 

 その後、砂漠に存在する山の翁さんからは砂漠に眠るアトラス院へ向かい、この特異点について知るようにとのこと。確かに情報は必要で、そのためにアトラス院は最適です。

 ……が、そのために戻った東の村が、燃えていました。

 獅子王の軍勢による襲撃。アーラシュさんもランスロットによって倒されたらしく、蹂躙を許してしまいました……!

 そのことを嘆く間もなくなんとか互角にまで持ち込んだと思いきや、西の村に落ちる破滅の光。獅子王の、裁きの光です。

 さらにこの村へも落ちようとするその光を、アーラシュさんは止めると言います。霊基にまで致命傷を受け、もう立っているだけでも辛いはずなのに。

 

「アーラシュくん! 忘れてはならない。道を極めるということは、その道から逃げ出さないということ。どんな時でも、決して諦めてはならない……!」

「……あぁ、そうだったな、せがたのおっさん。あの時も、そう言ってくれたっけ。……大丈夫さ。今度も、上手くやる」

 

 

 獅子王の裁きの光から逃れるために村の人たちと一緒に洞窟の中に隠れて。

 宝具で入口の守りを固めながら、私は見ました。

 空から落ちるぞっとするほど真っ白な光を、地上から駆け上っていく流星が、かき消す様を。

 

 

◇◆◇

 

 

「フム。どうやらここまでくる間にも多大な苦労があったようだね。ようこそ、カルデアのマスターとそのサーヴァント諸君。私は君たちの案内役、シャーロック・ホームズだ!」

「……あの、なんでお顔が犬なんでしょう」

「失礼、変装のままだったね」

 

 その後、失意に沈んでばかりもいられない私たちは砂漠を目指し、アトラス院にたどり着きました。その直前にランスロット卿と遭遇したり、オジマンディアスさんお気に入りのこの場での騒動を諫めるためにニトクリスさんが巨大な幻影として現れたりもしましたが。

 先輩は、巨大ニトクリスさんに向かって「なんか人形を手に持ってほしい。あと戦う相手をブロンズ像に変えてほしい」と要求してニトクリスさんを困らせていました。いつものことですが、何か別のものと勘違いしている気がしてなりません。

 

 そんなこんなで砂に飲まれた地下で出会ったのが、なんとホームズさん。

 ロンドンでは遭遇しなかったのになぜこんなところで。しかも最初に遭遇したときは犬頭の状態で。エジプト仕様の変装とのことでしたが、先輩が「やっぱりね」みたいな顔をしているのでやめてください。

 

 話を聞くところによると、ホームズさんは私たちを導くためにここにいるのだそうです。

 というか、そもそもロンドンの魔術協会で資料を整理しておいてくれたのもホームズさんなのだとか。そういえばアンデルセンさんがそんなことを言っていました。資料の並びに作為を感じる、と。

 そして今、ここで再び私達をアトラス院の奥へと案内し、私達に必要な情報を授けるために姿を見せてくれたのだそうです。

 

「というわけで、ここが最深部だ。……やあフィリップ、お世話になるよ」

「あぁ、任せてくれたまえ。キーワードは?」

 

 アトラス院の地下探索は比較的安全でした。複雑な造りをしてこそいますが、その目的は中のものを外に「逃がさない」ためのものだそうなので。行きはよいよい帰りは怖い、とは先輩の弁。つまりこれからが本番です。

 道中、わけのわからない魔術の道具の残骸や、組み立てたら人型、あるいは逆間接、戦車状のキャタピラ、なんかよくわからない原理で浮かびそうなものなど、ロボットのパーツにしか見えないものがしこたま捨てられていて先輩が全部拾って帰りたいと言い出したりもしましたが、なんやかんやで最深部にたどり着きました。

 ……いえ、あの、それは別にイイんですが、その人は一体誰ですかホームズさん。

 え、司書さんのようなもの? アトラス院どころか地球の記憶を検索してくれる? ……なるほど、便利ですね!

 

 

 ◇◆◇

 

 

 アトラス院で知ったのは、かつて日本の冬木市で行われた聖杯戦争の結末。

 そう、私達が初めてレイシフトしたあの地で、正しく起こった聖杯戦争です。

 勝者はマリスビリー・アニムスフィア。カルデアの初代所長だったのだと私たちは知りました。

 つまり、カルデアの礎には既に万能の願望機の力があったんです。ホームズさんの推測によると、マリスビリー前所長は聖杯の効果を金銭的なものとして得たのだろうということですが、それは極めて重要な情報です。

 

 そしてもう一つ。ちょっとだけ私的なことで申し訳ありませんが、私に力を貸してくれた英霊の名も知ることができました。

 円卓の騎士、ギャラハッド。

 聖杯探索の旅の果て、ついに見つけ出した騎士です。

 

 ……そう言われてみると、納得できる気がします。

 あの日。燃え盛るカルデアスの前で意識を失いつつある私に語り掛けてきた声。

 

――ヘッヘッヘ、心配することはない。

 

 ……あれ、こんなでしたっけ?

 ま、まあいいです。なんかこう、ぼんやりした英霊の影がばたーんと私の方に倒れてきて、一体化して、デミサーヴァントになったあの日。その時からずっと抱いていた感謝の気持ちを、私はようやく正しい人に向けることができるのですから。

 

 

「……だからこそ! 怒り100倍です、ランスロット卿!!」

「な、なんだこのプレッシャー!? それにこう、すごく恥ずかしいような申し訳ないような感情は!?」

 

 なので、自分の意思と騎士道を曲げてまで獅子王に従っているランスロット卿は、ギャラハッド卿に変わっておしおきです。

 

 とはいえ、穀潰しの名を欲しいままにするランスロット卿ですが、それでも一つだけ感謝してもいいかもしれません。

 

「やあ、二人とも久しぶり。美しい私にまた会えて嬉しいだろう?」

「ダ、ダ・ヴィンチちゃん!? 生きていたんですか!?」

「ああ。生前せがた三四郎という男から教わっていた『なんか爆発するときに脱出する方法』を試してみたら、運よく生き延びられてね」

「ここでもせがたさんなんですね!?」

 

 なにせ、ダ・ヴィンチちゃんを助けてくれていたのですから。

 あと難民の人たちもこっそりかくまっているあたり、意外とやります。

 

 ともあれ、これで憂いはなくなりました。

 アトラス院の情報も得て、これで山の翁さんの力も借りられます。あとは何とかして戦力さえ整えば、獅子王の軍勢と戦うことも……え、先輩に宛てがあるんですか?

 ……あの、その腕に取り付けたボード的なものはなんでしょう。そしてそこにセットしているカードの束は一体!?

 

 

◇◆◇

 

 

「フハハハハハハ! 余に助力を求めると! そう言ったなカルデアのマスター! その不遜、今は許す! だがそのために必要な力を示してもらおうか! 当然、我らファラオの流儀……決闘(ディアハ)で! お前も参戦するが良い、ニトクリス!」

「は、はい! お供いたします、ファラオ・オジマンディアス!」

「名もなきファラオよ! 余とそなたのブラックマジシャンの力を示そうではないか!」

「ああ、決闘と聞いては黙っていられないぜ!」

 

「大丈夫なんですか先輩ー!?」

 

 なんか、先輩1人でファラオ3人と戦うことになったんですが!?

 いえ、直接戦闘ではなく、カードを使った決闘(デュエル)らしいですが。

 先輩と相対するのはオジマンディアスさん、ニトクリスさん、そして最初に砂漠で出会ったデュエリストさん。この3人ともファラオで、この方法での戦いに精通しているとか。

 確かに、ここで勝てればオジマンディアスさんの力を借りることもできると思いますが、大丈夫なんでしょうか。心配です。

 

 

 だって、先輩はここに来るまでの間、とても悩んでいましたから。

 

 「今は13世紀……つまり、時期的に考えても禁止制限は事実上存在しない……!」と呟きながら、「カラス」「三つ目の毛むくじゃら」「どこからどう見てもあからさまに極悪なドラゴン」の描かれたカードを見つめていたくらいですし。

 

 

◇◆◇

 

 

「先輩! 聖槍の塔に魔力砲撃の着弾を確認! オジマンディアスさんの宝具です!」

 

 あの後、先輩とファラオお三方との激しい決闘の末、先輩は力を認められて軍勢を貸してもらえることになりました。

 なんか「モンスターではない、神だ!」というセリフが乱舞するすさまじい戦いでした。ルールとかよくわかりませんでしたけど。

 

 ともあれそうして借りられた力も合わせての聖都攻略は激しくも順調に進み、私達は内部へと侵入。粛清騎士や立ちはだかる円卓の騎士を殴り倒したりやり過ごしたりしてここまでやってきました。ハサンさんたちがトリスタン卿を抑えていてくれる間に何とか……というところで、聖槍の光に行く手を阻まれるなんて、不運です。

 先ほどから聖都の入り口の辺りでは、山の翁さんと同じくガウェイン卿の相手を引き受けてくれた例のライダーさんの戦闘らしき轟音その他が轟いているので心配はしていませんが、足が止まってしまいます。

 しかしそんなとき頼りになるのが獅子王に匹敵するサーヴァントであるオジマンディアスさん。なんか砂漠の方からすさまじい威力の魔力砲撃が次々聖槍の塔に着弾しています。

 

 

「お任せください、ファラオ・オジマンディアス。獅子王の光は全て、この私の鏡で……!」

「俺も力を貸すぜ、ニトクリス! 罠発動! <聖なるバリア-ミラーフォース->!」

「獅子王の光が全てまとめて聖都の方へ跳ね返ったんですがー!?」

 

 

 ……あと、ピラミッドに向かっていったはずの獅子王の裁きの光がなんかこっちに跳ね返ってきて塔に直撃したり。何が起きてるんでしょう。

 

 

「――たどり着いたか、カルデアのマスターとサーヴァント」

「これが……獅子王! 先輩、私の後ろに! すさまじい威圧感です!」

 

 そしてたどり着いた最上階で、私達はついに獅子王と対面しました。

 聖槍ロンゴミニアドを使い続け、神の領域に足を踏み入れたアーサー王。冷酷ではありません。残忍でもありません。

 ただ、先輩に曰く、人間のことを「養豚場のブタでも見るかのように冷たい目」で見ています。「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね」って感じらしいです。ちょっとわかります。

 

 

「お前たちは、なぜ私の前に立ちはだかる。魔術王の計画は完璧だ。これよりほかに、人類を記録する(残す)術はない。人間の計る命の意味とは、なんなのだ」

 

 ともあれ、獅子王は問いかけてきました。

 第四特異点で垣間見た魔術王の圧倒的な力。その矛先を向けられて既に滅んだに等しい人の歴史。

 獅子王の判断は正しいのかもしれません。もはや生きて歴史を刻むことができない運命ならば、せめてその記録を。

 

 ……なのに、どうしても。

 

 偽りの、歪んだ歴史であったとしても巡って来た特異点。

 そこで出会った英雄の人たちと、ごく当たり前の人たち。

 素晴らしい人たちがいました。どうしようもない人たちがいました。

 助けたいと思った人も、救うべきかと問われて困る人もいました。

 

 そして、そんな人たちを私は、いつも先輩と一緒に見届けて。

 そのせいでしょうか。私の心が、叫ぶんです!

 

「意味なんてわかりません。正しいかどうかも知りません。でも私は、先輩のサーヴァントのマシュ・キリエライトは、ここから一歩も下がりません! ダメかもしれない。意味なんてないかもしれない。……でも、手が届くのに手を伸ばさなかったら、一生後悔します!」

 

 楯を掲げ、星のため、人のため。

 怖いけど、不安だけど、逃げたくなるけど。

 

「人の命は、地球の未来です!!」

 

 私は、戦います!

 

 

 

 

「――お見事です、サー・キリエライト。あなたが教えてくれた通りだ。勇気は受け継がれる。私も、確かにあなたの勇気を受け取った。……だから、王よ。いまこそお返しいたします」

「何を、お前は……何を……!」

 

「……あの、ベディヴィエールさん? 鎧がどことなく翼か弓のような形になった上に、剣が右腕に直結した形になっているのですが」

「おっと、気合が入り過ぎてしまったようです。これを使うのは2万年早いですね」

 

 

 その気持ちはきっと間違ったものではないし、誰かの力になるものだと、私は信じています。

 

 だって、この勇気の形は、先輩からもらったものですから。

 

 

◇◆◇

 

 

キャラクターマテリアル

 

エジプトのデュエリスト

 

 オジマンディアスによって召喚されたファラオ系サーヴァント。ヒトデのように尖った髪型と、針金でも入っているのか風がなくともなびく服の裾が特徴。モンスターの召喚、魔術の使用、罠の活用など多岐にわたる能力を、所持するカードを媒介とすることによって発現する。

 もしもこのサーヴァントを実際に味方として使うとなった場合、こいつのカードだけ60枚くらい突っ込まれるので「ずっと俺のターン!」になるという噂。

 わけあって真名は明かせないというか歴史にすら残っていないらしいが、当人は昔あれこれあってちゃんと生前の記憶ともども把握している。そのことを思い出すと、とてもやさしい顔になるらしい。

 ちなみに、このサーヴァントがよく言う「決闘(デュエル)」ないし「決闘(ディアハ)」はファラオの嗜みらしく、オジマンディアスはデュエリストと似た【ブラックマジシャン】デッキとそこはかとなくタロットカードっぽい【アルカナフォース】デッキ、ニトクリスは【ホルスの黒炎竜】デッキを使うとかなんとか。

 

 

太陽のライダー

 

 第六特異点に散見される太陽系サーヴァント。太陽の子を自称し、ガウェインの宝具を真正面から抑え込むほどのなんかもう全部あいつ1人でいいんじゃないかなというレベルの強さを見せる。名乗りに気合が入り過ぎてよく聞き取れない。

 スキルとして「直感EX」を持つ。どんなに些細な情報の断片からでも事態の黒幕に気付くことができる規格外っぷりで、具体的には「マグロ泥棒が頻発するというニュースから、その事件を引き起こしていた悪の秘密結社の存在に気付く」レベル。

 またもう一つのスキル「そのとき不思議なことが起こった」は太陽のライダーが窮地に陥ると発動する自動スキル。なんか不思議なことが起こって何とかなる。特盛のデバフを食らって身動き取れなくなったら、未来の世界からノーデバフ状態の自分が3人くらい駆けつけてくれるほど。

 

 

柔道着のバーサーカー

 

 ハサンたちが守護する村にいた、東洋人らしき男性サーヴァント。

 出自は不明ながら、生身の格闘で戦う男。遊びの道を極めたらしい。

 なぜかあらゆる時代、あらゆる場所の英霊と生前から知り合いだったらしく、特異点攻略後のカルデア聞き取り調査によると大体の英霊が知り合いだった。例外は明確な生前が存在しなかったナーサリー・ライムやジャック・ザ・リッパーのようなケースのみ。

 ガッツスキルを持ち、しがみついたミサイルが爆発してもなんか脱出することが可能。あと、なんか最近ミクロ化して病原菌と戦ったりできるようになったらしい。

 いくつか他のクラスで召喚されることもあり得て、メカになったり、ライダーとして召喚されることも可能だという。

 ちなみにライダーの場合はグランド並みらしい。

 

 

森のセイバー

 

 呪腕先生が食べられる果物を持ってきてくれた人。

 そのため戦う姿は見せなかったが、底知れない力を感じさせるサーヴァント。当人曰くセイバーらしい。

 カルデアの分析によると神性を有しているようだが、地球上のどんな神話を探しても該当する存在は見つけられなかった。

 獅子王の境遇に理解を示し、そのことを語るときは少し寂しそうだった。

 

 

筒っぽいグランドアサシン

 

 山の翁がマスターたちを試す際、山の翁に変わって静謐のハサンに憑依した人。

 グランドアサシン仲間のよしみで協力している、と言っていた。

 この存在に憑依されるとどこからともなく取りだした帽子とマントを身に着けて筒っぽいシルエットになり、登場時にはなぜか口笛で「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を吹く。

 当人曰く「自動的な存在」で、世界の敵が現れたときにそれを始末する役割を担っているという。


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