「……はぁ」
狭い牢屋のような部屋の中で、少年はため息をついた。部屋は足を伸ばして横になれる程度で、中には机とトイレしかない。少年は、生まれつき魔法が使えない落ちこぼれ体質だからという理由で囚人のような扱いを受けていた。ここに来る前は、地方の寒村にいたが、実験台が欲しいということで連れてこられたのだ。この国では、彼のような体質は迫害を受けていた
魔法の実験台にしたいと言われたが、何をされるか、彼は知らなかった。だが、同じようにここに連れてこられた人がその後村に帰ってこなかったことを考えると、想像するのは難しくはない。再びため息をつき、自分が実験台として呼ばれるのを待つ
ここに呼ばれて一時間くらい立っただろうか、彼のいる部屋の扉が開く。ついに来たか、と身構え扉の先を見ると、そこには小さな少女と、白衣に身を包んだ男が立っていた。少年がいた村では見たこともないような綺麗な服を着ていて、顔も整っており、目を奪われる
「この子が、実験体なんですか」
どこか震えた声で少女が呟く。彼女の後ろにいた男が「そうだ」と答えると、少女は少年に近づいた。少年は、彼女から目が離せないでいた少女は、悲しげな眼で少年を見つめる
「あなたの名前、聞かせてくれる?」
突然の問いに、少年は言葉を詰まらせる、どもりながら、ようやく名前を口にした
「アーデ……アーデ・トゥイン」
「わかりました。アーデ。わたしの名前はメモリア。メモリア・リィセ」
メモリアと名乗る少女は悲しそうに目を伏せる。顔を上げると、その目からは何か決意のような意思を感じられた。男の方に向き直ると、大きく息を吸って
「わたし、この子とお友達になりたいの。」
「……え?」
その予想外の言葉に、アーデは驚きを隠せない。それを聞いた男は眉根をひそめ、メモリアを連れて扉の向こうへと消える
「あ……待って!」
手を伸ばすアーデ、メモリアは振り向きアーデを見つめるが、それは閉じる扉に遮られた。アーデは手を伸ばしたまま、しばらく固まっていた。やがて、部屋に複数の白衣の男が入ってくる。その中に一人、混じっていた黒いローブを着た男がアーデに寄ってきた
「アーデ・トゥイン。君はこれから思い出の巫女の護衛に当たってもらう。その汚い恰好では外に出れんだろう?用意してやるからついてこい。拒否権はないぞ」
すぐに、白衣の男たちがアーデを囲む。ここに連れてこられたとき同様に抵抗しても無駄だろうとわかっていたアーデは、大人しくついていくことにした。その間、今起きていることを必死に整理する。思い出の巫女とはおそらくメモリアのことだろうが、なぜメモリアが自分と友達になろうと言い出したか、なぜ護衛を任されることになったのか、全くわかっていない。男たちに牢から出され、用意された衣服に着替える。そのまま、外へと連れられた。重い扉を開けると久しぶりの陽の光に当てられ、目を細める。外に出ると、すぐに男たちは去っていく
「アーデ!」
メモリアが駆け寄ってくる。「無事に出られたのね」と、一言。アーデはうんとだけ答える
――――なぜ、この子は僕を助けてくれたんだろう
アーデは、自分に価値がないことを誰より理解していた。いや、理解せざるを得なかった。すべてに虐げられる、暗い日々、今でも鮮明に思い出す。しかし、このメモリアという少女はなぜアーデに向き合い、助けてくれたのか、それが全く分からない
「じゃあ、行きましょうか」
「……行く?どこへ?」
「わたしの友達のところ。なにか魔法を使えるようになるきっかけが得られるかもしれないでしょ?」
メモリアに手をひかれ、長くいた牢屋を後にする
――――あれ、長くいた……?
アーデがいたのは数時間くらいのはず、だが、ここにはもう何日も、もしかしたら何年もいたかもしれないような錯覚を覚えた。だが、メモリアに強く手を引かれ、考えることをやめる。新たな世界に踏み出したアーデには、まだわからないことばかりだった。