――――メモリアと話していると、何かが頭の中で呼びかけてくる。
初めて聞くはずの声も、しぐさも、表情も、……どこかで見たことがあるような気がしてくる。
彼女と出会ったのはこれが初めてのはずだ。何より、僕がこんな才能のある魔導士と接点があるはずがない。
……それでも、僕は彼女と出会ったことがある。そう確信に近い何かを、僕は感じずにはいられなかった。
メモリアと魔法の練習を始めてから、一週間くらい経っただろうか。初めの三日くらいは寝ずに本を読み、必死に基礎を練習した。けれど、いざ魔法を使ってみるとなると、それはどれも本に書いてあるような力を発揮することは無く、どれも威力が劣化していた。メモリアから「使う魔法を絞ってみたら?」と言われ、唯一まともに扱えた――それでもまだ劣化はしているが――雷の魔法の練習に励むことにした。魔導書による威力の強化もあってか、幾分かは使えるようにはなってきている。今日も訓練を終え、棄民時代は食べたともないような暖かいスープとパンを食べながら、メモリアと話していた。
「どう?アーデ、少しは生活に慣れた?」
「うん。まだ少し大変だけどね」
元棄民であるアーデがこうして魔導士として生活しているのは異例の出来事である。同じ研究所のメンバーの何人かからは「落ちこぼれ」と見るたびに笑われることすらあった。しかし、棄民として、実験体として虐げられた生活を送ってきたアーデにとってはそれすらも天国のように感じていた。
――――あれ、ここで実験体扱いの生活ってそんなに過ごしたっけ……?
ここで過ごすようになってから、少し記憶が混濁している。棄民時代と実験体扱いの日々が重なっていると例えればいいのか、とにかくここに連れてこられてからの記憶があいまいなのだ。ぼーっとしていたが、メモリアに肩を叩かれ我に返る。
「アーデ、大丈夫?疲れてるなら早く寝た方がいいわ」
「ごめんメモリア。そうするよ。先に戻るね」
食べかけだったパンを押し込み、メモリアと別れを告げ自室に戻る。すぐに寝ようかとも思ったが、机の上の四かけの魔導書が目に留まったため、少し読み進めてから寝ようと机に座り、本を読む。そこに、一つ目を引く記述があった。
「古代都市シェムニール……?」
曰く、人類史上初めて誕生した最古の都市で、今は封印され入れないらしい。よくある考古学の記述だが、なぜか心を惹かれる。シェムニールについて少し本を読み進めた後、眠くなってきたのでそのまま眠ることにした。
「……はぁ、だめだ……」
ここに来て一か月ほどたったある日、いつものように魔法の練習をしていたアーデは、魔力を使い切り倒れこんでいた。ここに来た時よりは魔法の扱いはマシになっている。しかし、今でも魔導書を詠まないと魔法が使えず、使える魔力もあまり増えはしなかった。大の字になって倒れてると、頬に冷たい何かが当たる。
「お疲れ様。水持ってきたよ」
メモリアが水筒を持ってきてくれていた。受け取って、一息で飲み干す。この一か月間メモリアの近くにいてわかったことは、メモリアが記憶の巫女と呼ばれ、研究所からもかなり手厚い待遇をうけているということだ。アーデには、なぜそのメモリアが自分を助け、ここまで面倒を見てくれていたかわからないでいた。
「ど、どうしたのアーデ。わたしの顔に何かついてる?」
その言葉に我に戻ったアーデは、メモリアをずっと見つめていたことに気が付く。何か言い訳を、と考えて、
「メモリアのことを、考えてて」
え、と固まるメモリア。数秒遅れて、アーデも固まる。
――――やばい、つい適当に返したけど、これじゃ……
メモリアの顔が赤くなる。少し慌てて、別の話題を振る。
「えーと、そうじゃなくて……そう!メモリアは、何か将来の夢とかあるのかなって!」
その言葉に、再びメモリアが固まる。少し俯いた後、顔を上げて話し始めた。
「わたしは……今みたいに、アーデや、ゼドーさん、ティシカさんたちと、ずっと過ごしていたい。こんな夢みたいな日々が……続けばいいと思う」
メモリアからの告白は、それが叶わないと知っているような、重い空気を纏っていた。はっとした表情で、メモリアが「アーデは?」と聞き返す。メモリアの手が震えているのに気付いたアーデは、少し迷った後に続けた。
「……僕は、トレジャーハンターになりたかったな。貧しい生まれだったから、お宝を見つけてみんなを楽させたかったし、この広い世界を見て回りたかった。けど今は……違う、夢がある」
メモリアの手を握るアーデ。今までとは違い、まっすぐ、メモリアの目を見つめていた
「僕は……メモリアがこうして平和に過ごせるように、戦う。具体的なことは考えてないけど、メモリアが大好きな日常を、僕も守りたい」
言い切ったアーデの顔は、これまでとは違う決意に満ちた顔だった。メモリアも、アーデのを握り返す
「……ありがとう。アーデ」
少し、メモリアが涙を流した気がした。大丈夫、と言いかけ――――
「おーい、アーデ!いるか………………ぁ…………」
ゼドーが、後ろから寄ってきていた。二人の姿に気づいたゼドーは「すまん」というオーラを体中から出してアーデ達から猛スピードで去っていく
「ちょ、待って!誤解だよ!ゼドー!」
手を放し、ゼドーを追いかける。手に残った暖かさは、しばらく残り続けた。
ゼドーがアーデを探しに来たのは、ようやくアーデに研究所からの依頼が回ってきたかららしい。しかも、しばらくの間はメモリアのサポートも兼ねるようになった。アーデは、その日からいくつもの依頼をこなしていき、確実に魔法の練度が上がっているのも感じていた。仕事が回ってくるようになり毎日忙しくなっていたが、アーデはその毎日が楽しくて仕方がなかった。こんな夢のような日々が続けばいい。笑顔のメモリアと、ゼドーやティシカたちと、ずっと過ごしていたいと、より強く願うようになっていた