「……成程」
研究所から離れた、この国の王が住む城の一角、ある男が魔法で作られた受話器のようなものに耳を当てていた
「盗聴は成功だ。よくやったお前たち」
そういって部下を褒める。この男の名はムスティン。この国を支配する側の者だが、彼は今の地位に満足していなかった。そんな彼は、記憶を操る魔法を使う巫女の噂を聞き、その力を奪ってしまおうと考えたのだ。そのために、巫女が孤立する瞬間、この都市から離れた場所への遠征がねらい目であった。そのタイミングを知るために、魔導研究所に部下を忍ばせ、多くの盗聴魔法を仕掛けたのだ。予想以上にことがうまく進んでいっていることに、ムスティンは身震いする。
「ふむ……もし巫女の護衛が複数いるのであれば、我々も戦力を増やさねばならんな」
現在ムスティンの直属の部下が何十人かいるとはいえ、勝手に兵を動かせば当然国王たちは怪しむだろう。そうなれば、動き出すのは簡単ではない。どうしたものかと考えていると、外からやかましい女の声が聞こえてくる。窓から除くと、城門の外に何やら大勢の魔導士を連れた女がわめいている。少し、耳をすませてみた。
「……なによー!これだけ広い城で仕事が無いなんてないでしょ!だからあたし達にも何か仕事を……こら!無視するなー!」
どうやら、無職の連中らしい。ふむ、とムスティンは考え、外へ出た。
「カルロマ様……どうしましょうか」
「うるさいわね!考えてるわよ!」
カルロマの最も近くにいるローブの男がささやく。カルロマ達が独立し半年、未だ雑用程度の依頼しかこなせていないことにカルロマは焦っていた。このままでは資金も底を尽きてしまう。指を噛み、必死に考え……
「おい、貴様」
何やら男に声をかけられた。明らかに胡散臭いその男に、八つ当たりするように声を荒げる。
「なに!?今あたし達はピンチなの!あんたなんかに構ってる余裕は……」
「貴様らに仕事を依頼したい」
カルロマが硬直した、口をぽかんと開けたまま、目を点にしている。
「……なんだ?依頼が欲しいのではなかったのか」
「あ、はい!やる!やります!やらせてください!」
先ほどの態度とは180度変わり、急に下手に出て頭を深く下げるカルロマ。その姿をみて、ふむ、とムスティン。
「ここで立ち話することでもないだろう。近くにいい酒場がある。そこへ移動する。貴様の部下どもは目立つからどこかばらけさせておけ」
「はい!下僕たち!適当に小遣いやるから遊んできなさい!」
「わかりました!カルロマ様!」
散り散りになるカルロマの下僕たち。残された二人は、そのまま町の入り組んだ場所にある酒場へと入っていく。奥の小さな机の席に座り、ムスティンから話を切り出す。
「決行日はおおよそ一か月後。古代都市シャムニールへ向かい、貴様らにはある女の護衛の相手を頼みたい」
「ふーん。相手は誰なんですか?」
「未定だ。おそらく3人ほどと予想される」
具体的な内容の無い依頼に、カルロマは警戒する。しかし、未だ実績も何もないカルロマを嵌める理由も無いと、一人深く悩み始める。
「褒賞だが、この依頼が成功すれば私は国を取る。貴様らには私の直属の魔導士として依頼を回してやろう。もちろん、成功時に貴様ら全員に有り余るほどの金と前金もやろう」
「……え?」
その言葉に、カルロマの思考は吹き飛んだ。多くの金、そして成功時に様々な仕事を貰える、つまり今後仕事にもなにも困らないということ……
「や、やります!あたしの名前はカルロマです!」
「そうか。私の名はムスティン。一か月後、決行が近くなれば再び連絡しよう。魔導印を記した紙を渡しておく。これが反応すればすぐこの酒場に来い」
「はい!わかりましたムスティン様!」
敬礼のような姿勢をとるカルロマ。彼女はもう依頼が成功した時のことしか考えていなかった。カルロマと別れ部屋へ戻ったムスティンは、一人笑う。
待っていろ……記憶の巫女、と